ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和27年1月 > 作州の酪農業

作州の酪農業

津山畜産農場

第1回乳牛共進会を機に一層の進展を期待

△10月17日北部酪農業協同組合と美作酪農業協同組合との共同主催をもって第1回北部乳牛共進会が津山市において開催された。これは北部地方としては初めての催であること,北部酪農の中心団体である両組合の共催である事を考えると正に作州酪農のオールスターキャストであり北部酪農の将来への一大躍進を期する晴れの壮挙でもあったと思われる。初めての催であっただけにその成績が如何だろうかと一抹の懸念がないでもなかったが蓋をあけて見ると予期以上の出品牛が多数熱心な当業者の人々によって出品せられ又当日の来観者も極めて多数であって共進会としての成績を充分に挙げ得たことは今迄黙々として一路その途に精進して来た作州酪農の力を示したものであり洵に慶ばしいことであった。

△作州地方における酪農業の状況については畜産便り第1巻第10号及び12号に記述した通りであるが,当地方における酪農の発達は主として終戦後のことでここ数年間に驚くべき発展を遂げたのでありその発展の基礎には幾多先輩識者の涙ぐましい努力があることは勿論である。

△爾来酪農工場を中心として漸次先進地から乳牛の導入が行われたがその斡旋及び飼育管理等の指導も比較的順調に行われて今や飼頭数は800頭に垂んとしており更に又新に乳牛を導入して酪農を経営したいと熱望している農家が多数あることは作州酪農の将来性を示すものとして心強い極みであると思う。

△由来作州の地は中国山脈の南側に位し土地が広く豊富な粗飼料資源に恵まれていることは和牛と同様乳牛にも好適の地と申すべく将来乳牛導入の余地は極めて多い。過去において乳牛の奨励は何れの地においても相当の成績を挙げ発展したが牛乳の処理問題に行当って失敗したところが多い。酪農の奨励は必ずこれを受け入れる適当の工場が土台として存在していることが必要でこれでこそ柱であり屋根である酪農家は雨にも風にも揺らぐことがない。幸い当地方には中心地たる津山市にこの施設が厳然と完備していることが何よりの強みである。

△講和条約が締結せられてその発効の日も近い。然しその後における国民生活は我々の想像以上のものがあるかも知れないことを思うとき農家経営の基礎を強固にしてその生活の安定を図ることに努力しなければならない。このために農家の実情に照し酪農の経営は最も好適の事業であると思う。然し乳牛の導入には相当多額の資金を要し又その飼育も技術を要するので初心の人はよく先輩の指導を受けて万全を期し経験者の人は更に一層の研究に精進せられて経営を……がっちりしたもの……にしていただきたいと思う。特に最近の如き飼料高の時においては経営の安定を期するため飼料対策につき一段の関心を払うことが必要と思う。

△酪農とは単に乳牛を飼って乳を搾りこれを工場に販売して利益を得るという丈ではまだまだ不充分で産乳の一部を自家で利用し他から得られない栄養品を摂り生活及び体位の向上に資することは現在の農家にとり最も必要なことであり又この上なき楽みを味わうことができる。か様にすることによってやがて酪農と農村生活とが密着し酪農なくしては農家の生活はできないという域に迄到達したときこれが……ほんとうの酪農経営……というのではなかろうか。

△酪農家側において叙上の如く努力して貰うと共に酪農家の心臓である工場においてはよく農家の実情を把握し乳牛導入斡旋とその品質の向上,飼育技術の向上による産乳量の増加,集乳等に一層の努力を払われるならば酪農経営は作州農家に対し必ずや今迄より一層の恩恵をもたらすであろう。

△作州の乳牛共進会は今後毎年開催されるであろう。そしてその度に進歩していることであろう。我々酪農人はこの共進会を機に一層努力して作州酪農境の建設に向って進まねばならぬと思う。(26.11.3記)