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明日の夢

岡山種畜場長 辛島 忠

 10有5年の長い現場生活を静に顧るとああもせねば,こうもせねばと焦燥の限りなき連なりであってただ大きく写されているのは何事をも残し得なかった自分自身のみじめな姿だけで,やって来た仕事はうたかたの跡すらをも留めていない。
 開戦前夜から終戦の夜明まで苦難の路を喘ぎ乍らここまで辿りついた地方種畜場の過去を振りかえって見ると,ともすれば本来の使命は否曲され逸脱されんとした種畜場であり,その存在すらをも忘れられんとした種畜場であった。私達はこの種畜場をより正しい歩みに向けることのみそれだけに終始身を心を削らなければならなかった自分等の力なさを,不甲斐なさをつくづく反省せられるが僅に一の慰めといえば朝には明日の希望に胸を膨らませ夕にはこよなく晴れた星空に感謝を捧げつつ愉快に働き得たことのみである。
 新しい路,それは棘の,苦難の路ではあるだろうが必然にこの路を辿らなければならない日本農業に大きな示唆を与えている農業岡山に,畜産先進地と呼ばれている岡山に着任して既に半歳を送ったこの6ヶ月間出来るだけ県内の農業実態を畜産の現況を見さして頂いて私達種畜場人に負わされている責任の大きさを痛感させられる。特に中南部地帯の複雑多岐な農業組織を,花崗岩を生成母岩とした有機質欠乏の加えるに保水力の乏しい土壌を,降水量少く有機質の消耗の甚だしい気象を,見せられ,知らされると畜産は如何なる型で他の農業組織部門に溶融せしめねばならぬかを掘り下げ知り尽さねばならない。
 温かい母なる土に抱かれ強く育まれる畜産こそ日本畜産の真の姿でなかろうか,この畜産と農業機械化の旗を高く振りかざして行く所に新生日本農業が胎動し高度化農業までに生長する。
 斯様な観点から種畜場は優秀な種畜の種鶏の供給機関として完全な仕事をなして行くと共にエクステンション,ワークの一環としてより高度の畜産技術の指導普及機関として懸命の努力を払わなければならない。
 夢を持ち得ない人は夢の一部すらをも実現し得ない。種畜場は終局的には農業高度化のため無くてはならない存在であるべきであると言う厳然たる本来の使命を思えば岡山種畜場を岡山県農業の進展上燦然たる金字塔として打ち建てたい夢を見つつ霜を踏み夕月を負い場員諸君と愉快に働いている。
 明27年度は国内国外の諸情勢は多難を予想せられ決して楽観は許されない。この年において私達の夢が読者諸志の御援助によって一部でも達成実現出来れば望外の喜びである。