ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和27年1月 > 編集室から

編集室から

◎新年の御慶びを申上げます。
 出版界の苦難を同じ様に嘗めながらも牛の歩みを続けて第3年目を迎えた。本年も更に産みの苦しみを続けなくてはならないと思うが,本誌の持つ特殊な味と使命を生かして畜産人の間に親しまれるものを産み出して行きたいと思う。

◎無畜農家解消の動きはどうやら本調子になって来た。食糧問題と関連して畜産の重要性がやっと認識された。「有畜農業」という言葉が生れて20年になる,無畜農家解消の言葉は何回聞かされたか判らない。然し何時も打上げ煙火の様にパット出るだけで暗室に消えて行くばかりである。国会解散の声に脅えた職員諸公帰郷手土産だけで後が続かないでは法が泣くことになる。一応計画を達成する迄は継続して予算的措置を考えて貰いたいものである。

◎スエーデンミッションの宣教師セルド氏に正月の感想を聞いたら。『これだけ山が坊主になっているのに何故門松を樹てるのか』と不思議がっていた。木材の生産国として知られているスエーデンもこんな無駄はしないと言って居る「クリスマスを迎えるにしてもクリスマスツリーを樹てる外国の習慣をそのまま受け入れる処に無理がある。新しい祝い方を考えるべきだ」とのことである。門松が年々大きくなって来る傾向と山が坊主になる比率とは同じらしい。門松代りに紙をはって正月を迎えた過去を考え,木の保存と育成に力を入れたいものである。

◎賀川豊彦氏は肥料問題解決の為めにバクテリヤ農業と蚯蚓耕法を提唱して居られる。バクテリヤの作用により24時間で下肥が処理されるとすれば日本農業は一大躍進をするであろうし,上水道源としての河水の問題も解決されることであるし,別の面では寄生虫による被害も無くなり,日本人の健康は一段とよくなる筈である。下肥を利用しないアメリカでこんな問題が研究され,肥料の大半下肥に依存している日本では便所の改良は考えても下肥の処理については研究されてないのである。三木知事は27年度に於ては試験研究機関を整備拡充してこうした問題も研究させる由である。農業に関する県営の試験研究機関を高度に活用すると共に生きた機関にしたいものである。

◎邑久地区農業経営改善計画が進められ用排水路の改修が行われるので裏作の出来る地帯が増加すると共に表作に於ても一部畑作への転換も出来るようになるので飼料作物の作付も可能になるらしい。農林省岡山農地事務局では邑久地区の酪農を復興させるために努力して居られるが,酪農邑久の名声を再び掲げる日の早からんことを祈る。

◎大山地区綜合開発計画の中に真庭郡北部12ヶ町村が含まれた。蒜山地区の開発については種々な問題が起ると思うが畜産の持つ使命は重大である。標高1千mの山地へ伸びるには畜産が主体にならなければならない。それだけに畜産に対する地元の要望も大きなものがある。草生改良に一段の研究を進め,家畜の受入態勢を作り,何時でも必要な家畜を導入して行けるようにしたい。特殊地区の草生改良に対しては県も思い切って県費を出してほしい。

◎今年も細々乍ら編集を続行する。印刷費と郵送費の騰貴は本誌の経営をますます困難にして来たので不本意乍ら誌代の値上げを行うことにした,悪しからず御諒承願うと共に引続き御愛読をお願いします。