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巻頭言

最近各地の肉牛所見
附・主要都市の消流状況

加本技師

はしがき

 最近食糧事情が好転するにつけ各地に牛の肥育が再興し共進会を開催して優劣を競う様になってきた。
 之は牛の最終利用面からして必然的傾向であって将来の重要な課題として等閑視出来ない事であり,各地の現況を調査検討して本県産牛なり,肥育事業なりの参考とする必要を痛感して若干の資料を得たので,紙上に掲載しておき度いと考える。
 又此種の事業は,最も消流部面に密接な関係をもつので,大きな消費都市の状況やらそれに対する出荷の検討も配慮しなければならないので東京市場,及び大阪市場の概況も附録しておき度い。
各地の肉牛

イ.四国連合共進会

 11月2日より3日間に亘って高知市で開催された共進会は大家畜より鶏に至る各家畜の出品があったが,中でも肉牛は時代の要請に応えて脚光を浴びていた。この肉牛の出品は香川の6頭を筆頭に愛媛5頭,徳島,高知各4頭で合計19頭であった。
 これらの測定結果を示すと第1表の通りである。
 概観して四国四県の中,卓越した肉牛は香川県と愛媛県であり香川は小豆島と三豊郡が肥育地帯でありその素牛は但馬系と岡山牛が主体となっている様である。
 愛媛は伊予郡が独占して居り所謂伊予牛としての声価に応じたものが出品されていた。
 この両県のものは夫々の特徴をもっているが,香川のものは素牛の点で資質も体型も肥育状態も良好であり,愛媛のものは一般に大貫もので骨量もあるが体高体重も抜きんでているものが多かった。特に2頭は過肥の状態に迄肥育されているものもあった。
 殊に年令より見ると,愛媛のものは大体4才が大部分で1頭丈5才が交って居るのに反し,香川は4才は1頭のみで,大部分が5−6才となっている点より考えても,伊予は若令のものを大きく作る傾向が伺われると思う。
 肉質は屠肉検査が行われなかった為,推測の範囲を出ないが,肉質は香川のものに若干歩があるのではないかと思われた。参考の為12月東京芝浦屠場で伊予牛のトビと,香川のトビ(中1頭は右共進会1等入賞牛)とを比較した場合,伊予牛は枝肉113貫で165円の相場であり,香川は枝肉103.4貫で170円となり若干の開きがあった点でも想像されると言えよう。而し之は1例であって全体的のものでない事を御断りしておく。

第1表
出品
番号
出品
県別
産地 年令 測定成績
体高 体重 胸囲 管囲
1 徳島県 徳島県 3 123.9 125.3 185.5 18.0
4 4 124.2 133.3 198.0 16.5
11 5 134.6 152.0 205.0 16.4
15 5 122.6 112.0 180.0 14.5
9 香川県 香川県 4 127.8 157.3 206.0 17.4
13 5 127.6 149.3 202.0 16.5
14 5 130.6 161.3 209.0 16.7
16 6 124.9 146.6 203.0 15.8
17 岡山県 6 128.0 168.0 215.5 16.8
18 香川県 6 129.0 170.6 214.0 16.5
5 愛媛県 愛媛県 4 132.7 168.0 219.0 17.0
6 4 128.2 157.3 202.5 17.0
7 4 127.1 141.3 199.5 16.8
8 4 130.6 170.6 210.0 17.6
10 5 128.8 176.0 228.0 16.3
2 高知県 高知県 3 124.8 125.3 184.0 16.5
3 4 128.5 152.0 202.5 17.3
19 7 124.9 141.3 192.0 16.5
20 不明 135.4 152.0 199.5 17.6
平均 128.1 150.5 202.9 16.2

ロ.近畿連合共進会

 去る12月8日より11日迄,奈良市に於て各家畜の共進会が開催されたが,中でも肉牛は古くより有名な産地であるので,他の出品家畜に比べて一段と光彩を放っていた。出品頭数は滋賀県の10頭を筆頭として,三重県9頭,兵庫県7頭,京都府6頭,大阪府3頭,奈良県2頭,和歌山県1頭で合計38頭であった。
 この出品牛の測定成績を示せば第2表の通りである。
 第2表でみると産地は殆んど兵庫県であり少数が京都となっているが,この京都産も系統は兵庫県産のものであり,岡山県産は僅に1頭のみであった。年令は第3表の様になっている。
 即ち五才が最も多く次で4才,6才となっている。測定成績で特に目立つ点は管囲であって非常に骨締りが良いことを物語っている。
 概観して出品牛の全部が非常に均一な資質,体型,肥育状態にあり優劣の差が僅少であることは流石に肉牛の産地たることを物語るものと感心した。
 このうち特に1,2等に入賞予定牛5頭について屠殺解体し屠肉歩止り,肉質の審査がされたが,屠肉歩止りは最高69.49%,最低63.77%であり肉質は全部サシが細かく入り肉質はよく締り,極めて立派なものであった。体表脂肪でも最も著しいものは約3pもあった。 
 これらは,生前せり売りにより20万円より最高26万1,000円に迄売買されたことでもっても想像されよう。
 特に各産地で選抜された最も優秀なものであり,高級な牛肉として特殊な消費階層をねらったものである為強ち盲従する要はないと思うが,その卓越した肥育技術,素牛の選定等については学ぶべきものがあると言えよう。

第2表
審査
番号
産地 出品
年令 測   定   成   績 等級 価 格 及 備 考
体高 体重 胸囲 管囲
p p p
1 兵庫 兵庫 4 130.2 150 212.5 16 4
2 京都 京都 4 127 141.4 208 15.6 3
3 兵庫 京都 4 127.8 141.4 207 16 4
4 大阪 4 126.6 150 219 15.2 3
5 三重 4 129 162.4 221 15.9 2
6 4 123.2 138 209.5 15.2 4
7 大阪 4 128.8 167.9 223 16.8 3
8 三重 4 131.7 150.8 208 15.8 4
9 4 128.8 144 210.5 15.3 4
10 4 130.1 154.4 210.5 15.8 枝肉歩止り 63.77%
11 奈良 4 130.4 146.6 205.5 16 4
12 岡山 5 129.4 158 211.2 16.7 4
13 兵庫 滋賀 5 126.8 149 215 15.8 3
14 兵庫 5 128 158.4 225.5 16 2
15 京都 滋賀 5 131 156 216.5 16.3 4
16 兵庫 5 127.4 156.2 214 15.7 歩止り 66.57%
17 和歌山 5 134.6 167.4 226.5 15.7 4
18 兵庫 5 127 151 229 15.3 3
19 5 129.2 159.8 226 15.5 3
20 三重 5 130.2 158.2 220 15.7 3
21 滋賀 5 129 150.9 212 15.9 4
22 京都 三重 5 130.4 160 216.5 16.4 2
23 滋賀 5 128.6 137.2 214.5 15 3
24 兵庫 兵庫 5 127.6 160 223 15.8 4
25 京都 滋賀 5 130.6 145.8 212.5 15.6 3
26 兵庫 三重 5 130.4 144 212 15 4
27 滋賀 5 128 140.8 205 15.8 4
28 5 128 150.6 212 15.8 4
29 兵庫 5 129.4 164.2 216 15.6 2
30 三重 6 127.2 144.4 215 15.6 4
31 滋賀 6 128.6 143.4 215.5 15.8 4
32 京都 6 126.6 162.4 225.5 15.7
33 京都 6 127.4 149 213.5 15.9 4
34 兵庫 6 130 161.6 224.5 16.2
35 6 131.2 164.4 223 16.3 2
36 滋賀 6 130.6 157.9 216 16.3 2
37 大阪 7 131.2 151.6 222.5 16 4
38 兵庫 8 129.4 168.2 224 16.2 歩止り 66.34%
平均 129 153 216 15.8
第3表
年令 頭数
4才 11頭
5 18
6 7
7 1
8 1

ハ.岡山県肉牛共進会

  12月20,21日の両日に亘り,倉敷市で開催した第2回岡山県肉牛共進会は出品頭数48頭であった。之には若干の去勢牛や他県産があったので,之を除き岡山県産雌牛のみについての測定成績を示せば第4表の通りである。
 之等の年令を表示すると第5表の通りである。
 つまり大部分が6歳で,4才,5才が次いで居る。出品地域は都窪郡が大部分であって,近接各郡に少数宛の出品があった。
 産地は殆んど県内産のものであった。之を概観するに,先ず肉牛としての体型は可なり揃ってきていると思われたが,肥育の状態は未だ良いものと未熟のものとの差は可なり差が認められた。資質については皮膚,被毛の状態にまだ検討の余地があり骨量にも少し太過ぎるものと認められるのが少くなかった。
 従来岡山牛の肥育地帯は立地的関係や県民性等からして利にさといので,短期肥育でなければ成立しないと言われている。今回の出品も大部分が短期肥育による肉牛であった事は明らかである。
これらのうち,1等賞より4等賞に入賞したもの7頭を,県畜連が購買し東京市場に出荷したのであるが,その成績は色々な点より示唆を与えると思い,屠体について現地で検討した結果を表示すると第6表の通りである。
 つまり輸送による減量は,最大22貫のものもあり,枝肉の歩止りは,61.1%を最高とし,少いものは55.8%となっている。
 肉質は7頭中,上位の3頭迄は可なり良質でサシもあったが下位のものは余り良質とは認められなかった。脂肪も全部黄味が強かった。恰年度の暮れであり,各地より牛が殺到して過乗となり又,各地の共進会のトビが集った為,相場を下押した関係もあるが,この岡山牛は香しからぬ相場であった事は肉質の点にあると言えよう。
この成績は東京と言う仕向先の趣向の問題,時期,輸送,品物としての条件等将来色々参考となる結果を得たので斯界関係者の検討資料とされたいと思う。

第4表

番号 出品郡 年令 体高 体重 胸囲 管囲 等級 備考
p p p
1 岡山 6 131 164 209 17.5 2月5日 東京積
2 御津 3 124.8 118 188 15.5
3 5 129.2 145 195 16.5
4 赤磐 5 125.6 141 201 17 3月3日
7 邑久 6 131.4 148 197.5 17 2月12日 東京積み
8 児島 6 125.2 131 188 16 3月11日 東京積
9 5 133.8 163 210 17.2 2月3日 東京積
10 6 129.6 150 206 16 2月6日
11 浅口 9 126.2 152 194 16.8
13 吉備 3 133.8 135 191.5 16.5
14 都窪 4 128 129 188.5 15.4 3月10日
15 4 127 127 193.5 16.6
16 4 128 139 201.5 16.3
17 4 125 125 187 15.7
18 5 131 150 204 16.4 3月7日
19 5 125.6 126 181 16.8
20 6 129.6 151 204 17 3月5日
21 4 130.2 150 207 15.7 2月1日
22 6 134 164 204.5 17.5 2月2日
23 6 128.6 145 200.5 16.2 3月1日
24 6 125.6 126 192 14.8
25 6 132.4 152 198 15.8 3月6日
p p p
27 都窪 6 125.2 140 188 16.6
28 6 125.4 122 194 15.2
30 3 123.2 124 180.5 16.4
31 6 121.8 134 190 15.4
32 6 127.8 149 190 17.8
33 6 135.4 192 209 19
34 6 124.8 126 185 15.8
35 6 132.4 144 193.5 16.6
36 6 134.8 161 210 17
37 6 128 144 197 16.4 3月8日
38 6 135.8 171 215 17.5 3月2日
39 6 125.4 131 183 15.7
40 6 127.4 136 197 16 4 東京積
41 6 129.2 137 197 15.8
42 6 125.6 131 185.5 16.2
43 6 132.6 154 205 17.4 1月2日
44 6 123.6 130 185 16
45 6 127.4 146 210 15.5 3月9日
46 6 132 164 211.5 15.2 2月4日 東京積
47 6 125.4 129 183 16.4
49 6 130.4 156 201 17 1月1日 東京積
平均 128.5 196 143.2 16.4

第5表

年令 頭数
 3才  3頭
4 5
5 5
6 29
9 1

第6表

牛番号 岡山
体重
東京
体重
枝肉量 歩 止 り 肉質
順位
枝肉
価格
備考
49 136 79.1 58.1 3 130
9 141.6 86.3 60.9 4 130
8 114 88.9 60 6 130
46 148.4 90.7 61.1 1 145
7 129.6 63.7 55.8 7 120
40 133.7 77.1 58.5 2 140
1 148 76.2 58 5 130

第7表

      都市別
区分
大 阪 東 京
27,559 30,929
452 5,988
17,447 246,101

消費都市の流通状況

 大阪市場と東京市場に於ける肉畜の状況を参考に記しておく。(但し25年度)
 第7表によれば牛では東京,大阪に余り差がない様であるが東京は周辺の屠場より此と略々同数の牛が入荷されているので牛は約6万頭となる。
 極端に違うのは馬と豚であり,馬は大阪は東京の1割にも達しないし,豚は東京の7%と言う程度である。之は東北,関東の馬産地や養豚地帯を控えていることと東京の消費層の関係から示される傾向と言えよう。逆に大阪は比較的牛が多いことは関西地帯の牛生産地をもっている関係もある。
 大阪と東京の異る点は又取引,趣向等の点も挙げられる。取引は大阪は生体取引であり,問屋の買い方は仲々きつい。集荷を待っていて来たものを叩いて叩いて買おうとするきつい取引である。ところが東京では荷扱いは問屋がするが,値ぎめは屠体で行い,それによって歩合を引かれるのである。相場によって値はきまるとは言え,割っての勝負だから割に納得のいくこともある訳である。
 肉の趣向は,東京では一定量の極トビがよく出るし又,下物も相当の需要がある。ところが大阪では,雄とかヌキとかの大衆物が絶体に多い。之は肉の面から言えば,大阪の「食い倒れ」は大衆的なものの消費量を言い,極上ものを示すのではないと言える。
 次に岡山牛の出荷状態をみると,戦後東京へは肉牛として出したものは殆んどない。大阪は相当出ているかと思うと之も割に少ない。
 昭和25年度の大阪市場の牛では,総数の6.4%しかない。多いのは徳島県20%,兵庫県16%,鹿児島県及び愛媛県が各13%,広島7.8%,岡山が次いでいるのである。
 尤も岡山牛は四国,或いは阪神各地を通じて出荷されるものも相当あるのでこの率を上廻ることは想像されるが,割合少いと言う事実が認められる。
 参考 「岡山牛の県外移出の状態は,25年度調査では仔牛が8,674頭で,成牛が7,766頭となって居り,約16,500頭が移出されているのである。この外県内で肉として消費されているのは成牛,仔牛合計約12,000頭となっている。」

むすび

 近年近畿を初めとして山陽,四国の各地が所謂瀬戸内海を中心とした周辺に,肥育地帯としての発展する傾向が認められる。従ってこの競争場裡に交って必然的に如何に有利な態勢に指向してゆくかが当面する問題である。
 立地的にみて,岡山の南部の地帯は肥育地として伸びてゆくのであるが,畜産県として岡山牛の最終利用の価値を広く求める意味からしても素牛は岡山産のものであることは当然として,又肥育方法をどうしてゆくか,販路はどこに求めるが有利か等懸案となる方針を検討してみたいと考えている。
 徒らに古い先進地ののれんに盲従することは決して有利ではないが,少くとも低い生産コストを以て,良い肉質と良い歩止りをもつ肉牛を求めようとすれば,先ず素牛の資質に帰納しなければならないし,次いで肥育方法について研究を進めなくてはならないだろう。
(27.1.18記)