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研究

多産鶏の作出に関する考察

岡山種畜場

一.多産鶏としての条件

(イ)性成熟が早くなければならない。
 これは体型,体重共に早く整い大きくなって初産日令が若くなることであって,この性成熟はワーレン氏の研究に依って遺伝性であることが決定されたが個体による変異即ち変わり方が著しいものであるから或る個体がそれ相当の体重を持ち体型が整備され孵化後140日で初産したからと言ってもこれが確に遺伝的なものであるとはいい得ないのである。即ち因子型であるとか因子型を表しているとは言い得ないのである。

(ロ)産卵速度が大でなければならぬ。
 産卵の状況を見ると或る期間連続して産卵して或る期間休産する。この連続して産卵する一組を一クラッチと言っているが連続産卵数が少く休産期間が長く頻繁なものが即ち産卵速度が小であると言う。この産卵速度はマサッチューセッツ農業試験場の研究によって或は米国中央農事研究所の試験によって遺伝的性質でしかも数ヶの遺伝因子が関係していることが明にされた。しかしこの性質も環境特に栄養生理的状体気候等に依って甚しく影響されるものである。

(ハ)産卵持続性が長くなければならぬ。
 これは産卵初年度に於て早く休産せず長く産卵を持続することと長年月間に亘り産卵を持続することの二つの意味を含んでいる。この産卵持続性は産卵速度と密接な関係があって確に遺伝的なものであるとの推察はつくが産卵速度と同様に環境によって著しい影響がある。

(ニ)就巣性が少しでもあってはいけない。
 この就巣性は1ヶの伴性因子と数ヶの常染色因子が関与した大変複雑な遺伝性のものである。

(ホ)総論
 以上多産鶏として持たなければならない条件を説明したがこれらの諸条件が果して遺伝的にはいくらの割合で又環境によってはどの位の割合に影響されるものであるかを表で示すと次のとおりである。

遺伝と環境の比重
対照となる
べき事項
環境 遺伝
年産卵箇数 50% 50%
産卵持続性 40 60
就巣性 10 90
産卵速度 10 90
初産日令 20 80

 以上を総括して横班プリマスロック種の多産についてパール氏の研究を見ると同氏は産卵性能と言うものは常染色体に座乗するLと言う因子と性染色体に座乗L2と言う因子が巧く組合わされた時に最も多産な鶏が出来る。即ち
 雄に於てはL11(L2X)(L2X)
 雌に於てはL11(L2X)Y
 と言うのが最も多産な因子の組合せであるこの交配によってのみ多産性に対して固定した因子型が得られる。
 これを見ますと♂にはX染色体が2ヶ♀は1ヶでこの中に何れもL2と言う因子が含まれ常染色体にL1と言う因子が含まれていることが多産鶏の因子型であらねばならない。今これを詳しく説明するとL1もL2も優性因子でありましてこれに対する寡産性即ちL12の対立因子をL12と致しますと,L11とL11とは産卵性の表現型に於ては同じでL22とL22に於ても同様でありますが,L1とL2の組合せの時こそ表現型と因子型が全く一致して始めて多産性を固定確立されることになります。
 以上説明した通り多産鶏と言うものは単に年産卵個数についてのみ申上げても遺伝的なものが50%でありまして如何に飼養管理が100%でありまして,遺伝的なものが100%であらねば多産鶏と言うものは期待が出来ない。優秀多産記録鶏を作っている種鶏家の人々が超多産鶏は血統5割飼料2.5割管理2.5割で産まれるものだと良く申しているのはこの事実に基いたことを申している。
 事実過去現在に於ける本邦多産鶏の血統を詳細に見ますと遺伝学的な基礎の下に倦まない改良に対する努力,後代検定,淘汰と言う3つの大きな仕事の跡が浮び出ている事を銘記せねばならない。

二.多産鶏を作る交配について

(イ)近親交配
 この交配は類似の因子型を持つ個体同志の交配であって同型接合体の増加を目的としたもので親−子,兄弟−姉妹,祖父母−孫の交配を最高度近親蕃殖と言い伯父母−甥姪孫同志の交配を高度近親蕃殖と言い其の他の近親交配を中度近親蕃殖と言う。

(ロ)近交の利点
 例えば?に優秀な多産鶏があって,しかも後代検定の結果遺伝的なものであると予想せられるならば近交によって多産性が速に固定されて多産系統の固定確率が出来る。

(ハ)近交の不利点
 近交で優秀な形質が固定されると同程度に致死因子不良形質が固定集合される。即ち致死因子について申上げると劣性致死因子に於てはヘテロの場合は優性の健康因子(抑制因子)の働で現出しないがホモになると致死の現象を生ずる。

(ニ)近交に関する結論
 米国のヘィズ氏,リート氏の長期に亘る最高度近交の結果は産卵の減少を認めたと結論をつけているがこれは最初用いた親の因子型と子孫の淘汰と言うことについて充分に注意を払えば斯様な結果にならないだろう。勿論異型接合体(ヘテロ)の増加は活力を増進させ同型接合体(ホモ)は減退せしむると言うことは遺伝学上明かなものであるからと言って,この影響を恐れ近交なるべからざると言う人もあるが現在世界各国に於ける優秀な家畜種鶏は何れもこの近交によって造成されたものであること,後代検定と厳重な淘汰を励行すれば産卵性の固定造成には最も必要な交配であることを改めて認識せねばならない。即ち?に優秀な1羽の雄が得られれば其の雄に娘を配し出来た孫娘を再びこの雄に配し出来た仔鶏同志(兄弟×姉妹)の交配が最も速かに産卵性が固定される。但しこの交配の過程中には後代検定の実施不良形質を現わしたものは思い切った淘汰を実施することが絶対的な条体であらねばならない。
 然し乍ら前述の如く同型接合体の集積増加により活力の減退が必然的に生ずるので同品種間の異系を交配することによって活力の減退を防止する必要がある。
 即ちヘテローシスと言うことは同品種間の異系交配にも効果があることが立証されている。最近鶏の蕃殖法についてよく言われている。
 (一)インクロース(近親異系交配)
 (二)ハイライン
等も今申上げた理論を応用したものに過ぎないので現に各地に表われている超多産鶏と言うものは血統上では巧みな近交を現わしているし,これに立派な育雛技術を加味し淘汰を励行したものに優秀な飼養管理技術が与えられた結果であることを吾々関係者は深く考えねばなない。

三.淘汰と後代検定

 ハイラインについて御承知の通り単に産卵性能のみではなく強健性受精孵化育雛率等までを加えた19の条件に合致しないものはどしどし淘汰を励行し100羽の内淘汰するものが80−90%までに及ぶ程の徹底によって始めてハイラインのハイラインが有る訳であるがともあれ近交の前提は相当厳重な淘汰であることを常に考えておかねばならない。特に雄については既に申上げた如く伴性産卵因子に関しては雌の遺伝力は雄の半分しかない。今これを表示すると次の如く産卵因子がホモの雄は雌雄共この因子を伝えるが雌の場合は雄のみへ伝える。
 この意味からして多産鶏の改良には父系に重点をおき産卵因子については「ホモ」の雄を作ることが第一条件とならねばならない。
 次に後代検定の重要性であるが御判りの如く産卵性能は複雑な因子の組合せでしかも環境に依る影響力が強く支配するから個体の表現型のみで因子型を推定することが出来ないので,後代検定によって始めて因子型淘汰が出来るので,産卵能力検定事業と言うものの意味が特に強調せられねばならない。

四.多産鶏作出に関する考察

 以上の多産鶏作出について種々記述したがこれを結論づけると次の通りである。
(イ)優秀なる雄鶏の異系のものを少なくとも3−4羽確保すること。
(ロ)上の原雄鶏を基礎として近親蕃殖を実施すること。(親子蕃殖兄弟姉妹蕃殖祖父母孫蕃殖の結果出来た仔鶏には形質上憂慮すべきものが生じなかった)
(ハ)近親異系交配によって出来た雌鶏が優秀な多産性を発揮する。
(ニ)前2ヶ年に於ける全国の検定修了鶏中優秀な成果を挙げたものには(異父母兄弟姉妹蕃殖)(伯父母−甥姪蕃殖)が相当博く利用されている。

五.産卵能力検定出品鶏について

 産卵能力検定事業の意義は前述の様に鶏の改良蕃殖上最も重要なる事業の一であるが多産性の表現には環境の影響が多大に加味せられるので出品鶏の育雛個体調査選択には相当の努力干心を払わなければならないが特に育雛と言うことが最重要なものである。
 本県に於ては気候(特に寒,暑)の点を考慮しても孵化は3月下旬から4月上旬までを適当として飼料中の可消化粗蛋白含有量は飼付後1ヶ月間は20%第2ヶ月目18%第3ヶ月16%第4ヶ月以後は15%として飼料中の50%は穀物を使用すること。尚可及的に放飼をなし(条虫,廻虫の駆除の徹底を図る。)検定鶏舎へ搬入時に於ては体?は緊実で体重は1,600−1,700s程度(運動不足と穀物の多給は過肥となる)を目標として育成に万全を期すること今孵化月日初産時体重と冬季産卵との関係を具体的に掲げると次の通りである。

(一)新潟県種鶏場の本年検定鶏

依頼者氏名 検定鶏名号 孵化月日 検定開始
時体重
1月末日迄の
累計産卵数
市村 桂吾 s
51-11 4.15 1,660 65
12 3.11 1,700 72
13 4.1 1,520 76
14 4.1 1,620 61
15 4.15 1,600 91
16 4.15 1,550 45
17 3.11 1,900 73
18 4.1 1,700 90
19 4.1 1,650 86
20 4.15 1,640 70
計及平均 1,650 (73)
大沼 藤雄 51− 51 3.3 1,700 52
52 3.23 1,580 92
53 3.3 1,700 66
54 3.3 1,800 92
55 3.3 1,860 89
56 4.8 1,870 87
57 3.3 1,670 72
58 3.3 1,840 92
59 3.3 1,590 90
60 3.3 1,700 37
計及平均 1,780 (77)
山田忠兵衛 51−161 4.15 1,660 87
162 4.8 1,500 89
163 4.1 1,800 92
164 4.8 1,680 84
165 4.15 1,500 84
166 3.25 1,380 66
167 4.15 1,800 81
168 4.1 2,130 72
169 4.8 1,570 73
170 4.29 1,390 66
計及平均 1,580 (79)

(二)愛知種鶏場の本年度検定鶏

依頼者氏名 検定鶏名号 孵化月日 検定開始
時体重
1月末日迄の
累計産卵数
村上 治平 s
AK6−151  4.29 1,290 58
152 1,330 71
153 1,410 76
154 1,430 78
155 1,380 81
156 1,500 58
157 1,430 78
158 1,540 69
159 1,380 65
160 1,840 61
計及平均 1,512 (69)
岩月 牛松 AK6−161 5.5 1,700 63
162 1,700 60
163 1,480 70
164 1,420 76
165 1,440 62
166 1,420 58
167 1,500 81
168 1,420 79
169 1,420 64
170 1,550 52
計及平均 1,500 (66)
間P 良平 AK6− 21 4.21 1,630 83
22 1,540 85
23 1,760 74
24 1,910 83
25 1,650 90
26 1,420 87
27 1,750 90
28 1,550 88
29 1,780 87
30 1,570 69
計及平均 1,617 (83)

 本表を見ると六氏の出品鶏は何れも相当優秀なもので産卵性能についての因子型は略々同一ではないかと想像せられる。今これを同一として産卵成績を検討すると愛知県出品鶏は孵化月日が遅延し岩月,村上氏分は検定開始時体重が比較的に少い。間瀬氏出品鶏は育雛に成功した関係か体重1,600s程度を保持している。産卵成績を見ると岩月,村上両氏のものは間瀬氏出品鶏に比して相当劣っている事実は育雛と産卵との関係を表わしているのではなかろうか。尚新潟県出品鶏について見ると特に注目すべきことは出品鶏の体重が比較的揃って個体間に於ける変化が割合少いことでこれは育雛出品鶏の選択に留意したことが覗われる。今体重と産卵成績の関係を見ると次のとおりである。
 9割以上の産卵鶏(22羽)1,670s
 7−8割の産卵鶏(24羽)1,560s
 6割以下の産卵鶏(15羽)1,560s
 本表のみでは簡単に結論づけられないが初産時体重と1ヶ年産卵個数は相関関係があることは事実である。(但し白レグ種でしかも過肥のものは除外する)

(附記)

術語の説明

(一)染色体

染色体は細胞分裂の時に核から出来る棒状,糸状,点状の小体で遺伝因子は染色体内に所在している。鶏の染色は雄が78個雌が77個でこの内雄では2ヶ雌では1ヶの特殊な染色体がある。これが性染色体と呼ばれ其の他のものが常染色体と言われる。特にX染色体(Z染色体)と呼ぶ。

(二)表現型,因子型,固型(ホモ),接合体異型(ヘテロ)接合体

 (イ)単冠であると言う遺伝因子がγ薔薇冠である遺伝子をRで表わすこのRγを配偶子と呼ぶ。
 (ロ)一代雑種に於て遺伝因子はRγであるが外観は全部薔薇冠である。即ち遺伝因子に関せず外観に表われる形質を表現型と呼ぶ。

 (ハ)二代交配の4分の2と一代雑種は全て薔薇冠であるが遺伝因子の組合せはRRでなくRγである。この様に因子の組合せを因子型と呼ぶ。
 (ニ)配偶子が合一して個体が出来る之を接合体と呼び或る因子を純粋に持つ個体,即ちRRとγγを同型接合体Rγの様に異となった優劣対立因子が組合わさった個体を異型接合体と呼ばれている。
これが実例を示すと次の通りである。

(三)伴性遺伝

鶏の性別は性染色体に依って決定されているが性染色体には常染色体と全く同様に種々の形質の遺伝因子が座乗している。この遺伝因子は性に伴って遺伝するから伴性遺伝と呼ぶ。(尚性は如何にして決定されるかと言うと)
精子には必ず1箇のX染色体を持っている。卵には1箇のX染色体を持つものと全然X染色体を持たない2種類の卵がある。前者の卵と合一すれば雄となり後者の場合に雌が生ずる。