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岡山県第5回産業青年研究発表会が去る2月16日,17日の両日,御津郡白石村小学校において開催された。その席上,1等賞は広野村の吉原輝夫氏に受与された。その後全国産業青年研究発表会においては3等賞を獲得され,畜産岡山の青年研究ら一段の輝をもたらした。研究発表の要旨は次のとおりである。
中国山脈那岐の連峰を遥に望み,姫新線を目前にひかえて,長く屈曲した広戸川にそった緑豊かな平和郷が私の生まれました広野村であります。私はこの地において可動人員4名で,1町9反を耕作し,乳牛3頭,育成和牛1頭を飼育して酪農をいとなんでおります。
今や農村の恐慌は山間北地にも,押しせまっております。私達農民の農業経営を今一歩改善することにより,今後の農業経営をより一層合理的なものとすることができます。
そこで私は合理的酪農経営20年計画を立てて,以来8年の年月を経たのでありますが,中途で何度か苦難に直面し,私の夢もこわれんとしたことも度々でありました。
飼料の統制廃止により,濃厚飼料は高騰しましたが,その反面乳製品は値下げをみ,加えるに外国からの安価な乳製品輸入のニュースなど悪い条件ばかりでありました。
これらの悪条付を解消しますには,何んといっても,まず自給飼料の増産を考えなければなません。限られた飼料圃を高度に利用し,安い自給飼料を生産することにより,生産コストの低い牛乳を得ることが必要であります。
そこで私は次のような方法によって自給飼料を生産し,酪農経営をより一層合理化すべく努力いたしております。
(第1図,酪農経営概要,第2図飼料の年間輪作省略)
先ず10月下旬に栽培中の「紫かぶ」の溝巾3尺の中間に燕麦,ザートウィッケンを混播します。種子は発芽を促進する目的で風呂場に10時間浸したのち,播種する溝に牛尿を施し,反当燕麦6升,ザートウィッケン2升を混播(条播)します。中耕は2回,土寄を1回行い,追肥として第1回刈取までに2回200貫の牛尿を施し,後は刈取直後6回にわたり約1,000貫の追肥を施しています。刈取は地上1.5寸から2寸の部分で行い,刈取直後の追肥は刈口にかからぬよう十分注意いします。
第1回刈取は3月中旬,第2回刈取は4月上旬,第3回刈取は4月下旬,第4回刈取は5月上中旬にそれぞれ行います。第3回刈取後4月下旬に飼料用黄色玉蜀黍を同一の目的で,風呂湯浸を行い5升から6升を燕麦,ザートウィッケンの混播した溝巾の中間に条播します。これを三段刈玉蜀黍と自称しております。
次に5月上,中旬に第4回目の燕麦ザートウィッケンの混作を収穫するのでありますが,このとき,玉蜀黍の株間が7寸から9寸になるように間刈を行い,飼料として与えます。
燕麦の最後の刈取直後に牛尿200貫を切り口の上部から施肥すれば窒素の作用により枯死致します。
第3図は玉蜀黍三段刈の育成状況を示したものであります。4月中旬に播種した玉蜀黍を5月上,中旬の降雨前2日から5日に牛尿約200貫を追肥とし,堆肥400貫を株間に施肥し,1寸位の土寄を行えば5月中,下旬には分けつを始め6月中,下旬に第1回の刈取を行い,直後に牛尿150貫の追肥を施します。刈取は地上2,3寸のところで行い,刈口に牛尿のかからないよう十分注意します。
第1回の刈取全収量の60%24年には径高11尺,1貫20匁のものもできました。7月中旬に第2回の刈取を行い,全収量の15%で,刈取直後に玉蜀黍と黒目千石1升を同一の目的で風呂湯浸を行った上,混播し,8月中旬第3回の刈取を行い,全収量の25%,この最後刈取直後に牛尿200貫を上部切口より施すと,玉蜀黍は1週間か10日位で枯死し,容易に後作の玉蜀黍,黒目千石に土寄をすることができます。混播した玉蜀黍,黒目千石は7月以降9月までの栽培期間であるため玉蜀黍の軟化を千石によってはかり,禾本科と,豆科の混合により栄養分上からみても,有利であります。
第3図 玉蜀黍三段刈
これらを混作したものは,9月中旬に収穫し,切り口から牛尿200貫を施し,ここで年1回の牛耕を行い,飼料用紫かぶを溝巾3尺とし2合から2.5合を播種します。
紫かぶは,冬期の貯蔵が容易であり,又冬期飼料としても与えることができます。紫かぶの栽培前半期は葉のみ繁り,後半期にはかぶのみが増大します。
10月下旬に燕麦,ザートウィッケンを紫かぶの溝巾の中間に混播し,紫かぶは12月末に収穫します。
このようにして年9回の収穫をすることができましたが,年間輪作栽培及び収穫は第4図の示すとおりであります。
第4図 (昭和24年 〃25年)年間輪作の栽培収穫
輪作品種 | 播種期 | 畦巾 | 株間 | 収穫期 | 収穫量 | 備 考 |
尺 | 貫 | |||||
燕麦ザートウィッケン | 10下 | 3 | ― | 3上〜5中 | 500 | 混作4回刈 |
青刈玉蜀黍 | 4中 | 3 | 1尺 | 6下〜8下 | 3,000 | 3段刈 |
青刈玉蜀黍大豆 | 7下 | 3 | 0.8 | 9下 | 1,200 | 玉蜀黍軟化のため混作 |
紫かぶら | 9下 | 3 | 0.5〜0.7 | 11中 | 1,900 | 冬期中給興 |
計 | ― | ― | ― | ― | 6,600 | ― |
三段刈 | 4中 | 3 | 1 | 6下〜8下 | 3,000 | 差引 |
二回播種刈 | 4中 | 3 | 0.8 | 6下 | 2,200 | 1,800貫 |
6下 | 8下 | ― |
昭和24年,25年はかかる驚異的な6,600貫の収穫を得ましたが,26年は不幸にして40数年来ともいわれる天候により,玉蜀黍三段刈も空しく減少に終ったのであります。
その原因としては第5図(省略)の示す年間月別総降雨量(24年,25年に比し26年の降雨量は7,8月の夏期において最も少い。)と第6図(省略)の示す月別平均気温(24年,25年に比し7,8月の夏期において高い気温を示している。)をあげることができます。
しかし乍ら26年の年間輪作栽培収穫及びその成分は第7図の示すとおりであります。反当より収穫しました総成分を第8図の示す乳牛飼養標準により計算すると生体量120貫の乳牛に与え,1日1斗,脂肪率3.25%の乳を搾乳するとすれば54石1斗を生産し,その代価は237,000円となるのであります。
第7図 年間輪作の栽培収穫及び其の成分表 (昭和26年)(反当)
輪作品種 | 播種期 | 畦巾 | 株 間 | 収穫期 | 収穫量 | 固形物 | 可消化 粗蛋白 |
澱粉価 | 備考 |
尺 | 尺 | 貫 | |||||||
紫かぶ | 9月上 | 3 | 0.5〜0.7 | 12月下 | 1,800 | 204,200 | 18,000 | 11,880 | 冬期中飼料 |
燕麦ザートウィッケン | 10下 | 3 | ― | 3上〜5下 | 520 | 108,450 | 52,500 | 46,840 | 混播四回刈 |
玉黍蜀三段刈 | 4中 | 3 | 0.7〜1 | 6下〜8上 | 2,350 | 181,920 | 15,450 | 17,150 | 三段刈 |
玉蜀黍黒目千石 | 7中 | 3 | ― | 8下 | 1,200 | 220,200 | 14,300 | 17,760 | 玉蜀黍軟化 |
計 | ― | ― | ― | ― | 5,870 | 714,270 | 100,250 | 93,630 | ― |
第8図 乳牛飼養標準 維持飼料
固形分 | 可消化粗蛋白 | 澱粉価 | |
体重450s(120貫)以上のものは生体重100sにつき | 50g | 480g | |
体重450s(120貫)以下のものは生体重100sにつき | 50g | 500g | |
故に375s(100貫)のものは生体重100sにつき | 1.6〜2.2貫 | 50匁 187.5g | 500匁 1,875g |
450s(120貫)のものは生体重100sにつき | 1.9〜2.6 | 60匁 225g | 576匁 2,160g |
525s(140貫)のものは生体重100sにつき | 2.2〜3.0 | 70匁 262.5g | 672匁 2,520g |
生産飼料(牛乳1貫(2升)に対し)
脂肪率 | 3.00% | 3.25% | 3.50% | 4.00% |
栄養分 | ||||
可消化粗蛋白質 | 40〜48匁 | 42〜51匁 | 43〜52匁 | 45〜54匁 |
澱粉価 | 220匁 | 230匁 | 240匁 | 260匁 |
故に体重120貫牛乳日量1斗(5貫)生産し脂肪率3.25%の乳牛には
固形物 | 可消化粗蛋白 | 澱粉価 | |
維持飼料 | 1.9〜2.6貫 | 60匁 | 576匁 |
生産飼料 | ― | 210〜225匁 | 1,150匁 |
計 | 1.9〜2.6貫 | 270〜315匁 | 1,726匁 |
かりにこれが,甘藷や麦を栽培するとしますと,反当甘藷550貫,1貫35円として19,250円,裸麦6俵,1俵1,700円として10,200円,計29,450円が反当収入でありまして,いかに飼料圃の高度利用が有利であるかがうかがわれ,年間輪作については遠く鳥取,兵庫県からも御視察を得たのであります。
以上申しましたほか,自給飼料としましては山野にくず,いたちはぎ,ねむを植えていますが,未だ収穫の域に達しておりません。畦畔,空地を利用してレッドクローバー,ラディノクローバー,アルサイククローバー,オーチャードグラス,チモシーグラス,ケンタッキー31フェスキュー,タンチャッピーなどを植付ております。かかる自給飼料と経営の合理化により26年2月末日分娩しました乳牛は,1日最高2斗8升7合の乳を得,従来の岡山県最高2斗7升5合を1升2合のカバーをもちまして,本県最高のレコードを樹立しました。
昭和21年12月には津山酪農工場へ1日2斗から2斗5升が集乳され,当時私は6升から9升を出荷しました。その当時私の村ではただ1人の乳牛飼育でありましたが,現在は村内に37頭の飼育があり,1日平均1石4斗の乳が酪農工場へ出荷されております。