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畜産技術講座
人工育雛智識

人工育雛智識
初心者のために

 農家の方々が如何なる計画と構想をもって育雛に臨むべきかは,農家個々の経営実態により各々相違するのが当然である。通有的な面から考慮すると,その最終目的である鶏卵の生産を順調にし,経営を円滑に運行するよう計画すること。即ち(1)2年鶏の産卵が低下する時期迄に初産を開始するように若雌を仕立てること。換言すけば現金収入が杜絶えぬよう,卵価高騰の10月〜11月頃迄に産卵を開始するよう育雛を行うこと。(2)時季的に見た育雛の難易を考慮に入れること。(3)100羽の飼養羽数を維持しようとすれば,50羽の駄鶏や病鶏が出るから,その50羽を補充するため初生雛100羽を育雛すること。(4)少羽数の連続育雛よりも大羽数の育雛を1回に行い,労力,飼料,温源の節減を図ること。以上の諸点を考慮して計画をたてれば,自家で育雛すべき目標羽数も育雛時期(3月の彼岸から4月上旬迄)も自から明らかとなろう。
 育雛の理想である強健で多産なる鶏を育成するには,如何なる条件が具備されなければならぬかというと,(1)優秀な初生雛(2)完全な育雛器(3)完全育雛飼料の準備(配合調製)(4)管理衛生の完璧が挙げられ,これらの内どの1つも惣せに出来ないものであるから,育雛前迄に既にこれらのものが遺漏のないよう準備され,雛の到着と同時に完全な育雛作業がなされなければならない。
 兎角初心者は実質上の高価な雛の入手には奔走するが,他の面には案外怠り勝ちとなり,発育不良の雛を仕立て産卵鶏となってからの充分な能力発揮が望めないばかりか,往々大なる損耗を蒙る場合があるから,育雛に当っては常に苗半作ならぬ雛半作を念頭に置き,細心の計画と準備を怠ってはならない。以上育雛計画の概念を述べたが,次に育雛の基幹となる事項について順をおって説明しよう。

初生雛の選択及購入の注意

 初生雛は強健で多産大卵性因子を多分に先祖より受け継いだものが最良である。強健な雛は大略外貌と体重によって判別できる。即ち

 イ.餌付時に体重が9匁程度であること。
 ロ.眼は活々として運動活発であること。
 ハ.雛を握って見ると弾力があり,体は緊縮して腹部の臍緊り良好であること。臍の周囲が充分捲きこんでいなかったり,黒い紐のようなものが附着していたり,握ってフワフワしているものは弱雛である。
 ニ.足は比較的短く太いものが強い。

 それでは強健多産で,しかも雛ばかりであると保証される雛は如何にして入手したらよいかというと,信用のある孵化場で育雛適期に入手できるよう前もって申込むのが安全である。特に近年養鶏業の復興に伴い,中には悪質孵化業者やブローカー的な業者もあるから,なるべく県内の孵化場へ発注するものがよい。

育雛器の構造とその準備

 温源の種類によりその型式は多種多様であるが,初心者でも取扱が比較的容易で,しかも少数の育雛に好適なものに籍型給温育雛器がある。
 先ず6分板をもって長さ6尺,巾3尺高さ1尺の框を作り,これを2分し片方2尺に給温室,残り4尺を給餌兼運動場にする。給温室の底部はトタン張りとし運動場の底部は板張りにする。給温室トタン張りの下は,高さ1尺,長さ2尺,幅3尺の上板も底板もない周囲のみの箱を取付ける。そして幅3尺の板を自由にハネ上げ,火鉢を出入出来るよう2枚の蝶番で止め開閉自在の扉とする。給温室の上面は板囲いとし運動場上面は2尺づつのの4分目金網蓋を2枚載せる。なお検温装置として給温室の真上から雛の頭擦れ擦れに寒暖計を下げ,又上部或いは側面の板1部に硝子等にて覗窓を作ると雛の動静を知るのに都合がよい。
 トタン床の上には1寸位い厚みに砂を敷き,更にその上に1寸5分位の切藁を撒くと火鉢の火熱がトタンを通じて砂を暖め育雛器内を保温する。給温室と運動場の境界には,1寸おきに鋏を入れたカーテン又は雛の出入口を設けた仕切板で仕切ると,温度の調節が便である。運動場兼給餌場には切藁を敷き,更に南京袋か莚を敷く。愈々雛が到着する日時が決定すると入雛準備をしなければならない。
 入雛準備は大体雛到着1−2日前,火鉢を入れて保温試験をするわけである。……毎年その育雛器を使用する際は,必ず附属器具と共に完全消毒(消毒薬を熱湯で稀釈する)をすることを忘れてはならぬ。……温源は豆炭か良質の木炭を選び予め「コンロ」で赤くさせた上火鉢に取り,周囲を灰で掩いトタン床の下に入れる,育雛器の上面から毛布又は南京袋を覆い器内の温度の放散を防ぎ,器内の寒暖計が85−90度あれば入雛すれば雛の自温により適温となる。
 育雛器の設置場所は,光線の入る明るい暖かな温度の変化の少い部屋を選定し箱形育雛器1台で3坪程度の広さを要する。

育雛飼料配合の要点

 育雛飼料を配合調製する場合考慮すべき点は,栄養,消化,嗜好の3点であって,特に栄養について雛は急速な発育成長をなすものであるから。これを満足せしめせるに充分なものが調理されなくてはならぬ。中でも蛋白質の無機成分,ヴィタミンはその根幹をなしており,炭水化物,脂肪については養鶏及育雛飼料の特徴として,穀類に偏重しているので左程の考慮を払はなくても差支えないという特殊性があるので,育雛飼料配合に当っては下記事項に注意しなければならない。

 イ.育雛飼料の蛋白質は,18%以上20%を基準とすること。但し餌付より1週間迄は動物蛋白の給与を差控え,7日目頃より漸次増量する。又孵化後80−150日間は15%程度に減量してよい。
 ロ.雛の骨格完成上必要な無機成分を添加すること。
 ハ.ヴィタミンADに不足しないようにすること。

 それでは日常農家で自給も出来,又比較的容易に入手出来る飼料でどの程度蛋白質が含有されているかといえば
 品目 粗蛋白含有率

イ. 穀類(小米,粟,小麦,玉蜀黍,高梁)10%程度
ロ. 糠類(無砂米糖,?)12%程度
ハ. 動物質類(魚粉,胴?,鰌,鰯,蝗,蚕蛹)65%程度
ニ.大豆粕 45%程度

 大体上のようであるので,蛋白含量を18−20%程度にするには,穀類や糠類のみでは目的を達し得ないから,高価であっても魚粉類の添加を必要とするのである。即ち穀類,糠類,薯類を雛の消化と嗜好に合致するよう配合し,その内不足分の蛋白質量を動物蛋白(魚粉類)でもって補うようにするのであって,例えは是に小米4割,米糠3割,甘藷2割の配合割合と仮定すれば,前述の蛋白含有率から算定すると蛋白含有量は8%となり,1割の魚粉を追加すると総蛋白含量14.5%,2割増加すると約20%となるわけである。
 無機成分の配合については貝殻3,骨粉3,食塩1の割合で配合し,全飼料の3−5%は必ず添加し栄養の均衡を期するようにする。なお食塩は普通の家畜用食塩や料理用食塩は水分を吸収し固まり易く,その儘これを使用すると下痢を起すから,焼塩にして使用しなければならない。
 ヴィタミンに富む飼料としては,緑餌(青菜)と黄色玉蜀黍のヴィタミンAD米糠のヴィタミンBは優秀なものであるから,可及的多く配合することが肝要である。
 雛は消化機能が充分完成されたものでないから,飼料を予め消化吸収し易いよう調理しなくてはならない。穀類,動物質は粉末に薯類は煮沸細切の上,粉末にした穀類,糟糠類にバラバラになるようよく混じて給する。
 嗜好の点については穀類は最も嗜好に適したものであるが,薯類,糠類は全飼料の3割を越えると嗜好に適せず喰込みが悪いから3割以内に止め,動物質で全体の風味を向上させるようにすればよい。なお動物質は品質のよい風味のあるものを選び,徒らに価格に拘泥して悪質魚粉を買入れると,蛋白中毒等で思わぬ被害を被るから注意しなければならない。
 要するに嗜好については,可及的多種類の材料を使用することによって,栄養的にも均等化され喰込みも良くなるから自家の農場副産物を大いに工夫利用し,不足分だけを購入することにして配合の合理化を図るべきである。

孵化後餌付迄の管理

 雛が到着したら輸送中動揺等により疲労しているから,安静で温かな室に収容し,室内を少し暗くして休ませる,寒いようなら莚か毛布をかけ保温しなければならないが,蒸熱を醸さぬように注意することが必要である。雛がグッスリ一眠りした頃,予め準備された育雛器に収容する。

餌付

餌付の適期は,雛腹部の卵黄が消化されてから行うのであって,時間的にいうと孵化後24−40時間が適当である。これより早く行えば消化障害を起すし,晩ければ徒らに疲労衰弱せしめるから孵化場よりの伝票又は雛の腹部を触診の上卵黄が消化吸収された頃を見計って行うがよい。
 先ず餌付1時間前に給水する。この際出来得れば「ゲンノショウコ」煎汁希釈を飲水代用とすれば,健胃整腸剤として爾後の給水にも好適である。
 飲水後愈々餌付となるが,予め調製された飼料を青菜の青汁液(青菜を肉挽又は摺鉢で摺り潰した液)と,卵湯(卵黄卵白共に半熟となしお湯で攪拌したもの)バラバラになる程度の練餌とし要すればそれに適量のブオフェルミン(消化剤)を添加して餌付飼料とする。
 飼料の与え方は育雛器内を明るくし,給餌場に新聞紙を拡げてこの上に撒布してやり,大体給餌後15−20分に喰い終るよう切餌とする。標準給与量は初生雛100羽当り30匁程度が適当である。
 第1回給餌が午後2時になれば第2回目は4時に行い,その後は充分飲水せしめるのみで決して雛が欲する儘に給餌してはならない。給餌後10分もすれば飲水は終るから,温室内に収容し器内を薄暗くする。
 雛は給水後急に寒さを覚えるから,速みやかに適温となるよう調節することが肝要である。適温であれば,トタン床と板床の境を中心に一面拡がって頸を伸ばし安らかに休む。高温であれば,温源の中心部より遠ざかり開口呼吸を行う。寒ければ,温室の奥に集合鳴き止まぬから常に寝方には注意し,特に夜半には1−2回起きて雛の状態を観察することが肝要である。

第2回目より10日間の管理

 給餌は朝8時,10時,正午,2時,4時の5回に行い,20分の切餌とする。給与量は午前中に日量の3分の2を給し(青菜は3−4日頃より細切したもので差支えない)早朝第1回の給餌の際は,給水の後必ず素襄検査を行い,前後給餌の消化状態を確認してから始めて給餌するものとする。素襄に飼料停滞(前夜分)を認めたなら充分飲水せしめ,給飼の時間を遅らすようにする。
 給飼後は必ず寒さを覚えるから,給飼前に予め温度を高目にして急冷を防ぎ,又成長につれて仕切板若しくはカーテンを拡張した温室内を適度に広めるようにする。

10日目より20日迄の管理

 5回給飼中朝は粉飼とする。10日−15日目より浅い箱形給器に取代え,又温室内に小箱を作り,腐植土,赤土を入れ自由に啄食せしめる。雛の成長につれて育雛器が狭くなり,運動不足や蒸熱を醸し易くなるから,育雛器の側面又は前面に同様の箱を作り接続する。なお10日目頃より日中1時間程度日光浴をさせ,抵抗力を養うように努めると共に,コクシヂユームの発生期となるから,舎内の清潔や,ヨード牛乳,梅酢稀釈液或いは過マンガン酸加里稀釈液等を飲水代用として与え予防措置を講じなくてはならない。

20日以後の管理

 20日以後は青菜を原形の儘,吊菜として与えると,運動を促進し頑健な体躯を作る上に効果がある。飼料は5回給与とするが,この頃になると欲するだけ与えても差支はない25日−30日目より給温昼間のみとし,夜間は給温を中止するよう馴らす。
 夕方籾殻,敷藁を取代え床を暖くし,器内を適当の広さに仕切り,育雛器上面を毛布又は南京袋で掩うと,当初の内は集団しているが漸次自温により適温となり就寝する。なお蒸熱を醸さぬよう被覆物を適当に開き換気に注意することが必要である。翌朝雛を器内に急に放すと寒さにあうから,開放前予め給温して器内を温めて置く。昼間給温も漸次外気温に馴らし寒期では50日目,暖期では40日目位で完全に廃温する。

衛生

 雛は外界の感作に極めて弱く,従って一度病魔に冒されるとその治療は困難となるから特に予防衛生に重点を置き,日常の飼養管理の完璧を期さねばならない。育雛期間の主要疾病とその予防及治療については次の通りである。

(1)白痢病

 白痢菌の感染により発生し,孵化後1週間以内に発病するのが常である。病状はクリーム様白色下痢を主徴とし,排泄物は肛門に膠着し往々糞詰りを起す。食欲体力共に衰え終に斃死するが,時には耐過し保菌鶏として生存し本菌を蔓延するから注意を要する。
 このような雛を発見したら速かに淘汰焼却する。予防及治療としては現在の処完全な方法がなく,唯,種鶏の静脈血を採血の上,急速診断液により判定の上,病鶏を淘汰し無菌鶏から種卵を供用する外有効な方法がない。

(2)コクシヂューム症

 本症は孵化後2週頃より2ヶ月雛程度のものが罹病率高く,季節的には梅雨期の高温多湿な時期に多発し易い。
 本症の主徴は初期水様下痢を伴い,ついで血液を排するようになって翼を垂れ食慾,元気頓に衰え,舎内の一隅に佇立するようになり終には斃死するが,成鶏は比較的抵抗力強く保菌鶏として本菌を蔓延する。予防及治療としては

 イ.乳酸菌或いは沃度丁幾を水に滴らし淡く色付く程度のものを飲水代用に給する。
 ロ.過マンガン酸加里の1,000倍液或いは梅酢70−100倍液を飲用せしめる。
 ハ.整腸剤としてゲンノショウコウ煎汁を与え,飼料は消化し易いよう調整して与え。
 ニ.ズルファダイヤヂン或いはメラヂンを7−8羽当1錠宛1週間程連用する。なお動物用モナフラシンの新薬が発売されている。
 ホ.ニラ,ニンニクの緑餌代用は強壮剤として効力がある。

 上疾病の外,育雛失宜により尻つつき食羽食血癖等の悪癖を生ずる場合がある。この原因は(1)高温多湿換気不十分の場合(2)密集飼育を行う場合(3)動物質及び無機成分の不足等があげられるので,これらの要因をそれぞれ解決の上,矯正するよう取計らうことが肝要である。