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岡山県酪農振興座談会

 去る2月15日岡山県会議事堂で岡山県及び岡山県酪農協会共催で盛大に岡山県酪農振興座談会が開催された,朝来雪を混えた悪天候ながら県下100名の酪農家代表が参集,午前10時より県乳質改善協励会の表彰があり昼食後直に座談会に移り中央から来会の農林省畜産局中村技官,全酪窯田副会長,日本乳製品協会下総主事の講演後,下記の如き極めて真剣な意見が各酪農家より吐露され,岡山酪農の明日の発展を力強く約束づけた。

酪農の将来

 戦後急速に進みつつある,我国の食生活の改善と,農業経営の改善の方向を見るとき,酪農業は将来益々進展の途上にあるものと言う事が出来る。然しながらその途は平坦な安易なものではなく苦難なる茨の途であるそれは飼料価格の高騰乳牛頭数の不足と価格の不廉外国産乳製品との関係等,幾多の難関を克服し解決して行かなければならぬ,この事は官民共にこの業に携るものの,1日も忽せに出来ない課題である。飼料問題を解決する途は飼料作物の増産,山林原野の野草の改良飼料化,安価なる飼料の輸入等によって行わねばならない,飼料作物の増産については,米麦の作付計画のはずされた今日,酪農民自らの創意と工夫によって解決することが出来る。山林原野の野草の改良飼料化は,一朝一夕にはなし遂げる事が出来ない大きな問題であるが官民協力一致,一大国民運動を興し,300余万町歩にも達する利用を可能とする山林原野を飼料化する事が出来れば,酪農の興隆は期して待つべきものがあろう。乳牛の不足と価格の高い事は,酪農の進展に大きな障害となっているが,現在急速に外国より輸入する事は,国の経済上種々の難問であり,又その価格は不廉である,これは改良に寄与する優良なる種畜の輸入にとどめ,現有の乳牛を合理的な飼養管理を行い,その生産年令を高め蕃殖障害の除去,人工受精の普及等によって,強力なる増殖計画を立てて遇進すべきである。これは酪農家自身の努力も必要であるがこれを指導助成するため為政者の強力なる施設を要望する。一方自給飼料の増産等凡ゆる努力によって良質安価なる原料牛乳を生産することは,酪農家の責務であるが,乳製品製造業者側においても,経営を合理化し,技術を高度化する事も重大なる要素である。経営の合理化を図る一端として,原料生乳を多量に集荷する事が必要であるから酪農業の集団地区を造成しなければならない,この事は為政者側において,その助成に考慮されなければならない。我国食糧の自給,国民の栄養改善,農業経営の改善等,幾多重大な鍵を握る酪農業も放任の儘では,仲々に所期の目的を達成する事は,不可能であると思う。酪農業に関係ある者の努力と精進を必要とする事は申す迄もない事であるが,なお国の各層の有識者の認識と協力をお願い致したいものである。
(岡山県酪農協会長 奥山吉備男)

有畜農家創設事業 枠の拡大を希望

【座長=奥山県酪農協会長】本県の酪農は歴史的に見ると非常に古いのであるが乳牛頭数は他県に比し遅々として増えない状況である,本日はこれらの隘路を克服して本県の酪農を飛躍的に振興させる具体的方策について,十二分に意見を出して頂きたい,議題の中心は「有畜農家創設対策」としそれに関連して金融,飼料,牛乳取引,消費,乳牛の改良増産,技術滲透,課税問題と進めていきたいと思う,先ず畜産課長さんから有畜農家創設の県の対策について御説明頂きたいと思います。

【惣津畜産課長】現在県の計画を立案中であるが,8万戸の無畜農家中38,000戸を有畜化する構想で,先ず第1期として15,000戸と考えている,問題は家畜特に乳牛の価格が高い点で果して国の割当で枠がきても予定通り買い切れるかどうか,又今度の融資が農林中金の自己資金の融資であるからその償還については相当慎重であらねばならないと思う,この点充分考えて出来るだけ安く乳牛を導入する方法を考え,更に予定通り償還出来るよう農協では真面目な計画を立てて欲しいと思う。

【近成=邑久郡酪農家】県にお願いしたいことであるが,酪農家啓発のための強力な指導機関,専任技術員の設置を更に酪農経営の模範町村の設置をお願いしたい。

【船橋=小田郡山陽酪農協前組合長現在顧問】日本の独立を契機として我国の酪農も国際酪農の一環としてたくましく延びていかれる画期的酪農振興施策をお願いしたいと思う,特に自給飼料面の拡充及び牛乳の消費普及について本腰を入れて欲しい,更に県下に模範的な酪農町村を作って欲しい,この村にいけば百聞一見にしかずで酪農について全てが分るようなモデル村を作って県酪農振興のセンターにして欲しい。

【大橋=邑久酪協参事】今度の有畜農家創設の導入資金はなるべく多額に借入したいから予算面の増額を期して欲しい,更に技術指導機関,模範酪農地帯の設置もお願いしたい。

【惣津畜産課長】技術指導については農業改良普及員に当らせたい,出来れば酪農専門普及員を養成したいと思っているが,人件費の点でそれも出来ないので普及員の再教育を実施している,本県の普及員中には70名の畜産専門家がいるがこれは他県に比して極めて多い,酪農模範地区,モデル地区についてはごもっともで従来奨励金なり補助金を極力支出してその線に副ってきたが,だんだん窮屈になる一方で県としては現在ある技術陣を動員して要望に副いたいと考えててる有畜農家創設の導入資金の増額の問題は国の問題なので現在なんとも言えない。

【吉岡=久米郡酪農家】今迄の畜産は草を作らないでやる畜産が主体であったと思うので,草を主体とした畜産を推進して欲しいと思う,草が作物であるという観念をはっきりしてほしい,草の改良については団体を作って,草質改良促進運動を展開して欲しい。

【座長=奥山県酪会長】有畜農家創設計画で償還期限は乳牛の場合和牛に比し1年短く4年となっているが,成牛を買い入れていけば問題ないが,実際は犢を買い入れる場合が多く,その場合4年償還では無理ということになる。

【中村技官】予算を編成する時予算の単価を増やすため,乳牛は成牛を対象として和牛は仔牛となっている,今回の創設事業は法律ではないので,具体的には運用面で治すように努力したいと思う。

【窪田全酪副会長】予算編成中に団体としても意見を徴されたが,乳牛は生産性が高いという点及び余り償還期限が長いと返却にダルミが出てきて本人の為にならない,頑張って早く返すべきであるという線に副って納得したわけである。

飼料問題 草は作物なり
       草生改良の一大運動を

【船橋】牛乳生産費を安くするためには飼料費を極力安くしなければならないと思うが,現在再統制の話が出ており,飼料業者がこれに反対していると聞いているが。

【中村技官】飼料課の話によると冬分高いもの等は極力中国等から輸入してその需給調節に努力しているようで,巷間にいわれている需給調整法案は現在国会の方と相談しているようであるが,その骨子は政府が内外の安い時期に買い入れて保管しておいて適宜調節しようという行き方で,再統制にはならないと思う。

【吉岡】草を改良する場合,現在本県に生えているものを再認識して,これを助長することが大切と思う,先程お話した如く一大県民運動を展開して欲しい。植物学者も多いがいわゆる植物学者で終って了う,村々の草生を調べて地に付いた指導をお願いしたい,クズネム等其他その土地に自生しているものを改良するのが先決と思う。

【坂本=小田郡酪農家】農林省においての飼料配給方針は

【中村技官】維持飼料は自給飼料,生産飼料は乳牛飼料と養鶏飼料がその中心となっている。

【工藤=北部酪農技師】生産費の切下げに最も大切な自給飼料の栽培,草生改良に努力しているが県及び国のこの面に対する施策は

【惣津畜産課長】自給飼料は最も大切なことと思い,その予算対策に腐心しており,草生改良には優良種子の無償交付を実施中で,又サイロの施設助成も実施している,山林,牧野の改良が非常に重要で国においても相当の予算を組んでいる,以上なような予算措置も大切であるが,酪農家自身も草の改良,愛護等に努力して頂きたく県としても必要な講習会の開催等も考えている。

【中村技師】自給飼料は畜産局においては酪農振興の基本問題と考え牧野改良に5,000万円,飼料作物の種子の交付に3,000万円更に種子購入のためにドルの優先貸付を認め,牧野改良に融資する考えである。

【工藤】県で自給飼料のモデル的なものを作ったらどうか。

【惣津課長】先程申し上げた予算の実施の場合その村なり地域なりが指定地域となりモデル的なものになるし又そうしていきたいと思っている,有畜農家創設指定村についても同様な考えをもっている。

【大橋】有畜農家創設の指定村とはどういうわけか,指定を受けなければならないのか。

【惣津畜産課長】有畜農家創設計画を各町村で立案しそれを県に提出するわけで県に於てはその計画をいろいろの角度から検討して適当と認めた場合その町村を有畜農家創設指定町村とするわけである。

【中村技官】今度の場合利子補給についていろいろとむずかしい条件がついてくるわけで相当フルキにかけられるわけである。

【松岡=久米郡酪農家】私の村にはクルマカズラが多く好適な飼料として使われているが,更に奥に入ると相当に生えているにかかわらず酪農がのびていないこのように天然資源の多い地域に酪農を延ばす方法なり助成の途はないものであろうか,牧野改良とはどの程度のことか。

【惣津畜産課長】農林省では5ヶ年計画で牧野の改良を企図しており,主に土地改良(炭酸カルシウム利用)と飼料木の改良でこれに費用の1/2の国庫補助があり,更に県費が補助していくわけである。

【森=勝田郡酪農家】自給飼料面で適地適作的な技術指導の機関が欲しい。

【惣津畜産課長】農業改良局が中心になって指導しているが,畜産課でも吉岡さんや津山の試験場で大いに研究して頂く方針である。

【中村技官】農業改良普及員は現在1町村1名という割合になっており,下から上に質問を出す,それに普及員が答えるという方針であるから,普及員に農家からどんどん質問を活発に出すようにして欲しいと思う。

【座長=奥山県酪会長】牛乳生産費の低減は先ず自給飼料からであるこの意味に於て牧野の改良に合わして国に於ても県に於ても草生の改良の一大運動を展開して頂きたいと思う,これを強く要望する。