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去る3月20日岡山市桑田町畜産記念館で岡山県畜産審議会の和牛部会が開催された。その際次のような極めて真剣な意見が出席者から吐露され,岡山畜産の明日の発展を力強く約束づけられた。
出席者名(順序不同)
備中 土 屋 源 市
備中 小 野 実 男
美作 川 西 達太郎
美作 山 本 友三郎
備前 遠 藤 純 三
県会議員 山 田 保
県会議員 川 上 光 市
県畜連会長 大 河 寅 蔵
県畜連副会長 中 塚 智 雄
和牛登録協会支部長 藤 井 英一郎
経済部長 本 城 寛
畜産課長 惣 津 律 士
岡山種畜場長 辛 島 忠
津山畜産農場 渡 辺 滋 樹
千屋種畜場長 梶 並 久 雄
畜産課技師 蔵 知 毅
〃 〃 井 谷 一 二
〃 〃 加 本 一 久
〃 主事 黒 住 清
農業改良課 佐々木 寿
議題
T 種蓄対策
1.種牡牛頭数の問題
2.種牡牛の選択の問題
3.種畜場並びに家畜保健衛生所の運営について
4.種付料金について
5.種畜検査,生産検査,登録検査等
U 消流販売方策
1.定期市場とせり市場の在り方
2.有畜農家創設に伴う移出対策
V 全国和牛共進会について
W 其の他
【惣津畜産課長】畜産審議会は其後久しく開かれなかったが,御承知のとおり畜産界においては,有畜農家創設という大きい問題がとり上げられ,之に伴って本県に於ては,特に和牛の移出ということが今後の畜産行政上重大な問題となって来ましたことと,先頃の県会に於てかなり畜産の問題が論議されたという実状でもありますし,尚本年度を以て一応完成を見る県下20ヶ所の家畜保健衛生所の運営,特に併設人工授精所に関して,先般各郡畜団体の要望もありましたので,今回畜産審議会和牛部会を開催することとし,公私御多忙の所皆さんのお集りを願ったのであります。
どうか忌憚のない意見を発表いただいて,本県畜産発展のため御協力を願いたいと存じます。
つきまして,只今お手もとに差上げた議題に基いて審議を願うこととし,会議の進行上どなたか議長をやっていただきたいと存じますが。
【大河】本日は我々の意見を取纏められるという立場から,課長に議長をやってもらうことが適当と考えるが。
【全員】賛成
【課長】それでは,順次議題について審議願います。先ず第一に種畜対策について。
【加本技師】種牡牛の頭数の問題ですが別表のように過去に於ける頭数の推移と所有者別の変化,及び人工授精の普及による頭数の減少等,御参考の上御意見をおききしたい。
【山本】現在全県下の可能牝牛に対する種牡牛の割合はどの位になっているか。
【加本】種牡牛1頭に対し可能牝牛170頭位の割です。
【大河】種牡牛の根本問題は県有の線で進むか,民有の線であるが,という点である。
国家的に大きな問題として,畜産がとり上げられて来た現在,民有種牡牛を助成して増産をはかるか,我は大きく地方予算へ組入れて公共団体でやるか,亦只単に競馬収入を利用するという方法でゆくか,何れにせよ線をはっきりする必要があるのではないか。
自分としては個人有のものを,漸次県有へ移すという事が本旨と思う。
【藤井】団体有か個人有かという問題は実に大きな問題で今直ちに決することは難しいが現在の所では,その絶対数を県有で確保するか,否かという点にあるのではないか。
【大河】県財政の問題になるが,競馬収入を全部種畜対策へ持って行くか。
【土屋】昭和26年度及び 27年度の種畜対策の予算はどの位か参考までにおききしたい。
【課長】26年度50頭27年度40頭であるが,単価の関係で実際には頭数は若干少い。現在150頭県有種牡牛の更新補充を目標としているが,人工授精の普及充実と相俟って頭数の関係と同時に,種牡牛の質の向上についても特に考慮を払い,優秀なものを配置する考えである。
【山本】自分の持論としては個人種牡牛論を主張するものですが,その理由は,自分のものだということになればそこに慾が出て牛を大切にし熱をもって飼育管理をすることである。県に於ては可能な範囲で個人有に対して助成し,個人でお互に競走させる方が成績の向上を来すと思う。即ち熱意と愛情で飼育するということが種牡牛の供用年限を延長させ蕃殖成績の向上によって改良増殖が促進し得る。
【藤井】種牡牛を全部県有とするか,或は民有を助長するかが問題であるが,種牡牛政策の本質からいって畜産団体の経営に委すのが良い。
【大河】団体有が最も望ましいが,現在の団体の状態では実行困難であるから,県予算を増加して漸次増頭することが和牛改良の上からも適切である。
【大河】この問題は人工授精と密接な関係があるから併せて審議してはどうか。この点について上房郡に例をとると,高梁町へ2−3頭の県有種牡牛を繁養してその精液を郡畜連へ無償で配布し,郡畜連で人工授精を実施すれば,郡内蕃殖に支障なくやれると思う,県に於て人工授精の急速な発展のためこうしたモデル地区を設けることが適切と思う。
【川西】種牡牛の需要の減少は一面優秀なものを求める傾向となるが,現在の物価からして種牡牛の育成は相当困難であると思う,今後尚こうした点が加わってゆけば,生産県として極めて重要なこの育成事業もゆきづまるのではないか,この点について県に於て助成その他検討する必要はないか。
【大河】極めて必要なことと思うが,過渡的な時期に於て致し方ない点もある。登録方策に於て因子型がはっきりして来れば高価であっても躊躇することなく金をかけうるという点で解決されて来るのではないか。
【土屋】別表で見ると頭数の推移,所有者別についても,年々相当変化してきていることが判るが当面の問題として県有の線を150頭にするか200頭の線に増加するかが差当って必要な決論ではないか。
将来は漸次団体へ移行することも考えられるが,郡畜連も現在の如く販売面のみならず生産面へ拡手して行き強化することが望ましい。
【課長】種牡牛の頭数については人工授精の普及と関連があり現在の普及率25%から将来どの辺までゆくか断定出来ないが,県有種牡牛は現在の150頭を維持しこの更新補充を目途として,特に配置を適切にする線で進みたいと思うが。
【全員】賛成
【課長】種牡牛の選択の問題について。
【加本】体型上に於いては本県は最上位にあるが登録改正により因子型に移されたので,血統上相当吟味されねばならぬし,尚本県として資質の改善,早熟性という点で考慮する必要があると思う。
尚亦,褐牛の問題が児島郡で一部考えられているので之に対する御意見を伺いたい。
【藤井】種牡牛の選択については,岡山県の特質(美点)が失われつつあるように感ぜられるので特に留意されたい,そういう点から購買予算単価も相当上げる必要があると思う。
また褐牛については現在南部使役地帯に,飼育されていて然も蕃殖するというのは極めて僅かのものだと思う。この点からその種牡牛その他について県が政策としてとり上げるのは今の所むつかしいのではないか。登録についても考えていない。
【佐々木】岡山県の早熟性については徳島県で実験済でただ飼養管理の改善により解決するのではないか。
【課長】次に種畜場と家畜保健衛生所の運営についてですが先ず種畜場については,御承知のとおり夫々立地的な特殊性を生かした家畜を繁養すると共に相互に連絡を蜜にしながら夫々の地帯の農業経営の改善に資する目的として運営している。
【大河】大きな問題は独立採算性で,これを早急に取除かねば,種畜場本来の使命はなくなる。
【藤井】種牡牛の保管転換をやめ,委託育成をやってはどうか。
【大河】適当な時期に3場を一本化す必要があると思うが。
【加本】将来人工授精のメインセンターの点から,3種畜場の存立は変則ではない。
【土屋】種畜場の運営については時代の要請により相当推移あるのは当然で,現在の千屋種畜場も最初は分場として設立されたものである。
要するに現在のままで予算が充分取れるか,又1本にした方が予算が多く取れるかが問題で,時期を見て制度の点も考えられることと思う。
只現在の種畜場に注文したいのは自給飼料の研究である。
将来の我が国畜産はこの問題が解決されねば発展は難しいので,特に津山,千屋で山野の改良,未利用資源の問題について大いに研究してもらいたいと思う。
【小野】種畜場と農事試験場との関連,特に飼料作物の点についてどういう連絡をとっているか。
【課長】農業試験場畜産部が主体となって特に飼料作物の研究について各種畜場と充分連絡を蜜にして行っている。
【大河】種畜場で種牡牛を育成するより民間に優秀なものがあるのだから民間に委したらどうか。
尚和牛を岡山種畜場でやって見てはどうか。
【梶並】鳥取牛を千屋で生産育成したが大体こちらのものと資質の異らないものが出来る,種畜の育成は将来研究程度に止めたいと思う。
【課長】次に保健所の運営ですが,本年度をもって県下20ヶ所が完成しますので,地域内との連絡を蜜にし運営に万全を期したいと思う。尚先程お話しがあった人工受精精液の無償払下は今の所考慮は出来ない。
和牛改良増殖の一貫性を計るには
年内種牡牛頭数の推移
種牡牛の所有者別割合比較
種畜場と家畜保健衛生所との関連
第一線畜産機関の主なる業務
生産検査数並成牝牛分布状態
【藤井】当面の問題で重要なものであるが,郡畜産団体と対抗して行くやり方ではまづいと思う。
【大河】あくまで精液を郡畜連へ無償払下し郡畜連を生かす方法に持ってゆく様考えてもらいたい。
【梶並】何れにせよ牛と技術の点で左右されることと思う。
【加本】人工授精は将来は民間がやるのが本旨と思う。
【井谷】人工授精については県下60ヶ所の授精所で理想的にいえばやれるのではないか。
【土屋】将来は人工授精を郡畜連へ委託の方向で進み,現在に於ては有償売価で払下するということでは。
尚現在人工授精師が相当出来ているがその選考の点並びに対策は
【井谷】他府県では管理者等を優先免許しているところもあるが,本県に於ては人工授精の健全な発展を期するため,初めから相当厳選している,現在試験合格者は44名である。
【大河】県の人工授精所は郡畜連と連絡を蜜にして運営して行くことにしたい。
【全員】同意。
【加本】種付料の問題について県の特殊性もあり一様に統一することは難しいが大体の線を把みたいと思うが,現在上房阿哲,川上500円吉備600円作州800円
【山本】県及び団体が安くすることは従来の業者を圧迫することになる。種付料の範囲について私案を申上げると,昭和5年種付料は5円で現在800円,160倍に対し,生産した仔牛は630倍である,尚麩1俵の価格は,693倍である。此の点からして種付料は3,100円でも妥当と思う,亦飼養管理の面も相当の負担である,此の点で種付料をおさえることは,種牡牛の経営不振を来すことになる。業者の反対があっては畜産の発展は期し得ない,協調してやっていくことが,改良発展を期す上に必要なことだ。
【大河】個人経営は地方で非常に異るため料金を一定にする事は無理である。
【川西】何か外の方法で個人経営に対して助成する方法をとっては如何。
【加本】種畜検査,生産検査,登録検査についてですが,只生産検査について県営で実施するということを考えているのですが之について御意見を承り度い。
【大河】生産検査も郡畜連技術者に委嘱する方法でやる以外に協調出来ない。
【川西】普及所,地方事務所,畜産課が無駄があるが之を運営改善する意志が県にあるか?
【土屋】料金をとる場合は議会を通過するか,否かが問題だ。畜連会長,経済部委員へ具申する必要がある。
【大河】よいことに意見はないが方法について充分検討を要する。
せり売月別入場予定数表 (昭和27年)
郡別 | 御津 | 小田 | 後月 | 吉備 | 上房 | 川上 | 阿哲 | 真庭 | 苫田 | 勝田 | 英田 | 久米 | 計 |
月別 | 場所数2 | 2 | 2 | 2 | 4 | 4 | 7 | 12 | 6 | 4 | 2 | 4 | 55 |
1 | 70 | ― | 100 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | 360 | ― | ― | 530 |
2 | ― | 250 | 100 | ― | ― | 280 | ― | ― | 750 | ― | ― | 320 | 1,700 |
3 | 120 | ― | 100 | 100 | 460 | ― | ― | 200 | ― | 300 | 300 | ― | 1,580 |
4 | ― | ― | 100 | ― | ― | 320 | ― | ― | 700 | ― | ― | ― | 1,120 |
5 | ― | 150 | 100 | ― | ― | ― | 780 | ― | ― | 50 | ― | 270 | 1,350 |
6 | ― | ― | 100 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | 100 |
7 | 120 | ― | 100 | 100 | 580 | ― | ― | 650 | 1,250 | 360 | 280 | 130 | 3,570 |
8 | ― | 250 | 100 | ― | ― | 380 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | 730 |
9 | ― | ― | 100 | ― | ― | ― | ― | 500 | ― | 360 | 280 | 200 | 1,440 |
10 | ― | ― | 100 | 100 | 460 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | 660 |
11 | 120 | 300 | 100 | ― | ― | 450 | 1,450 | 2,300 | 1,700 | 350 | ― | 320 | 7,090 |
12 | ― | ― | 100 | ― | 460 | ― | 1,000 | ― | 250 | ― | 600 | 100 | 2,510 |
計 | 430 | 950 | 1,200 | 300 | 1,960 | 1,430 | 3,230 | 3,650 | 4,650 | 1,780 | 1,460 | 1,340 | 22,380 |
【加本】消流販売方策について市場関係で定期市場21ヶ所は一応現状で行くとしてもせり市場は現在55ヶ所で濫立している点もあり之を統制改善する必要があると思う。
【大河】家畜市場法の制定があればはっきりするのではないか。
【土屋】岡山県では永年せり売りについて苦心したが仲々成果はなかった,然し時代はせり売を要求して来ているから真けんに考えなくてはいけない。市場を少なくし日割を毎年同じでやることが必要と思う。
【課長】有畜農家創設に伴う和牛の移出に対する御意見は
【佐々木】徳島での経験では家畜商当業者の協力を必要とする。
【大河】せり売りの出場頭数のみならず定期市場との関係も考慮して実施して行く。
【加本】全国和牛共進会について明28年広島で開催されることになっているが来る3月23日京都で会議があるので岡山県として特別な意見があればおききしたい。
【大河】純研究的なやり方であってはいけない。
【土屋】此の度登録協会副会長となったがこの点充分考えて臨むつもりだ,和牛を中国だけでなく中央へ充分認識させるようなやり方が望ましい。
和牛年間屠殺及斃死頭数
減頭数 | 屠殺数 | 斃死数 | |
年次 | |||
23 | 6,045 | 253 | |
24 | 6,062 | 208 | |
25 | 11,607 | 207 | 流感死 183 |
26 | 9,398 | 384 | 流感死 202 |