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畜産技術講座

乳用仔牛育成法

明治笠岡工場 荒靴 訥

 いくらよい血をうけた仔牛であってもその育成の技術が上手でなければ将来立派な乳牛は望めない。仔牛育成の技能は真に一つの芸術とも言い得べく,その巧拙は往々酪農経営の得失の分岐点ともなるものである。
 併し地方によって気候がちがい又利用すべき餌もちがうからどの酪農家にも向くような決った仔牛育成法というものを推奨することは出来ないことである。まして一戸の農家で何十何百頭の乳牛を飼養し広い放牧地があり良質の乾草とサイレージを豊富に持ち搾乳機を使っているアメリカの仔牛の育て方と,凡そすべての点で対照的なこちらのそれとでは当然大いに異る筈であるが,3月号に引続いてホーズ・デーリーマン誌1月号所載の問答を妙訳して御参考に供したい。

第一問 分娩前数日間妊牛の管理はどうするか

 F氏(ワシントン州),いつも食わせている粗飼料は規則どおり給与するが濃厚飼料は一貫から500匁に減量する。ビートパルプは1日480匁から720匁に増やす。これは給与前約2時間水に漬す乾草と水とはいつも牛の前においておく。産室はきれいに掃除をし且つ消毒して約4日前に牛をここへ入れる。床はかんな屑を厚く敷きその上へ藁を充分敷いてやる。
 P・H氏(オクラホマ州),涸乳期の間初産の牛ならば分娩前2,3ヶ月は低蛋白で嵩の多い通じのよい配合飼料とその牛の肉と健康状態に応じた量を給与する。温暖乾燥期ならば牛と戸外の始終目に付くような草の上に分娩前2週間位出しておく。若し天候が悪ければ清潔な床の産室に入れておく,乳房は何かでちゃんとおさへておき毎日運動に出し度々様子を見る。犢に乳をのませる前に乳房をきれいにしておく。
 C・H氏(オハイオ州)水に潰した麩と燕麦を混ぜ非常に軽い通じのよい餌を与える。分娩前15日か20日位からすっかり掃除して消毒した産室に入れておく。
 M氏(ミゾーリー州)厳寒時にはきっちりした産室を使うがその他の時季には広い明けっぱした差し掛けへ分娩前1週間の牛をいれる。濃厚飼料は麩と燕麦の混合で水と乾草とはたっぷり給与する。この差し掛けの中で妊牛が充分運動の出来るようにし,又乾いた床を充分に作っておく。あまり妊牛が一人ぼっちで淋しがらないように1,2頭他の友達牛を入れておく。
 B氏(ニューヨーク州),良質の混合乾草に並行して極く軽い配合飼料を給与し,冬期は少量の糖蜜を与える。厚く敷いた床のある産室に産牛の状態によって2日から2週間前に入れておく。経産牛には分娩前に500tのグルコン酸カルシウムを与え,老牛には分娩10日前から隔日に半ポンドの湯利塩をとらせる。乳熱,アセトネミア,破傷風に対する予防をすべきである。
 B・H氏(アイオワ州),冬期には玉蜀黍サイレージと良い乾草に並行して麩を主とした非常に軽い配合飼料を食わせる。夏期はサイレージの代りにビートパルプを使う外は冬と同じである。秋期と冬期には分娩1週間前に産室に入れるが夏は天気さえ良ければ草の上で産ませる方がよいようである。分娩直前の1日は1時間毎に牛を見に行く。
 S氏(オレゴン州),濃厚飼料は極く少量にする外はふだんと同じ物を食わせる。分娩10日程前から産室に移し産前乳熱やその他の異状につき厳重に看視する。
 W氏(カンサス),一定量のサイレージ1,200匁の麩,多量の乾草と水とを給与。夏と秋には戸外で産ませるが寒い季節や雨季には分娩2日前に産室に移す。乳熱にかかった場合はグルコン酸カルシウムを注射する。

第二問 分娩時の母牛と仔牛の取り扱い方は如何

 K・S氏(ニューヨーク州),我々は普通仔牛を母牛の右側に放っておくが初産の牛の中にはこうすると興奮するものがある。そんな場合は仔牛を産室から運び出し,よくこすり,すっかり乾かせる。数時間の内に母牛を繋ぎ仔牛に乳をつける。大抵のものはそれからは仔牛を大事にするようである。
 F氏 仔牛が産れ母牛がきれいに仔牛をなめてしまった後で臍の緒を沃度で消毒する。母牛と助産人は共にきれいに消毒する。分娩したら直ぐのむだけの温湯を与える。
 P・H氏 臍は仔牛が産れたらすぐ消毒して乾いてから仔牛を助け起し母牛の乳を吸うのを手伝ってやる。1,2日はほんの少ししか乳を搾らない。正常ならば分娩後2日目のおそくなって搾り切る。
 C・H氏 仔牛が産れたらすぐ臍を沃度で消毒する。若し仔牛が母牛の乳をよう吸わぬ場合は乳首のある瓶に母牛の乳を入れてのませる。分娩したら直ぐ母牛が呑みたい丈けの温湯をのませる。産室へはきれいな藁を敷き加え良い乾草を少し食わせる。各乳頭は開いているかどうか,病毒に感染していないかどうかをよく見る。
 M氏 最初の2日間は完全には搾り切らない。熱湯でどろどろにかいた麩を食わせて母牛の消化機能をととのえさせる。冬期は冷たい水を与えないようにする。日に数回乳熱になるおそれがないかをしらべる。濃厚飼料は極めて徐々に食わせはじめる。
 B氏 寒い季節には分娩直後に糖蜜と食塩とを入れた湯を呑ませる。乳熱にかかった経歴のあるものには500tから1,000tのグルコン酸カルシウムをあたえる。胎盤の剥離を促進するため50−100tの粘液分泌エキスを与える。仔牛の臍は沃度溶液で消毒する。母牛は完全に体が回復する迄産室におき,そのあとは必ず掃除をして消毒する。
 B・H氏 仔牛が出たらすぐ口の内や鼻の上に呼吸をさまたげる粘液がないかどうかをたしかめる。母牛には温湯をのませる。(普通2斗2升位のむ)その後へ潰した麩を1斗位与える。後産がすむまで母牛をつないでおきそれから産室を出す。

第三問 仔牛を何日位親牛につけておくか

 約2日間というのが大体の回答であったがF氏は24時間を越えないと言いB・H氏は季節により又仔牛の状態によって3日から5日間と答えた。

第四問 仔牛置場の模様はどうか

 S氏 動かすことの出来る仕切りのついた4フィート×4フィートの囲いで,完全に消毒が出来るようになっている。床は固くて毎日洗える方がよい。
W氏 4フィート×4フィートのもので,仔牛が生まれて数日たったら太陽光線の当る外へ追い出しておく。2週間後4,5頭の仔牛を一緒にこの囲いの中へ入れスタンチオン式に餌をやる。
 K・S氏 置き場はコンクリート床の5フィート×5フィートのもので厚い敷藁をする。空気の流通のよいようにすき間のある板門をつける。
 F氏 囲いはベニア板の仕切り(高さ4フィート)のある6フィート×6フィートのもので前部は鏡板張りにする。床はセメント張りで中央の排水口に向ってゆるい傾斜をつける。仔牛を暖かく乾燥状態におくためかんなくずを厚く敷く。
 P・H氏 3フィート×6フィートの大きさで三方はすき間のない板囲いにし,一方だけ上半分は南に向ってあけておく。こうすると通風を防ぐが上部は太陽に当たることになる。上半部は戸をつけておき寒い時期には戸をおろしよい天気の時はあけておく。床は藁で覆い必要なだけ補充して乾いた状態におく。
 C・H氏 小屋は板仕切りの4フィート×6フィートのもの。仔牛はセメント床から8インチはなした金属製の下敷きの上におく。そうすると仔牛はいつも乾いた床におれ通風が充分となる。

第五問 生れた仔牛には何を食べさすか

 S氏 2,3ヶ月は乳母牛につけて育てる。
 W氏 毎食母牛の乳を500匁飲ませる。
 K・S氏 1升から1升3合の全乳と1合3勺の水とを1日2回。
 F氏 最初は1日2回,毎食母牛の乳を7合から1升宛のませる。10日たってから脂肪の低い乳をのませる。
 P・H氏 最初の数日は母牛の乳を6合宛日に2回のませる。
 B氏 仔牛は母牛と3,4日一緒におき1日1升2合の全乳を手でのませる。全乳は一定量を3,4ヶ月与える。併し3週間たてば代用乳と水とを全乳にまぜる。

第六問 いつ乾草を食わせ始めるか,そしてどんなのをどれだけ

 B・H氏 食っても食わなくてもすぐアルファルファー乾草を与える。
 S氏 仔牛が食い出せばすぐ草や細かい荳科乾草を自由により食い出来るように与える。
 W氏 最初から野乾草を仔牛の前においておき仔牛の好きなだけ食わせる。
 K・S氏 2週間たったら軟い緑色の混合乾草を自由に食わせる。

第七問 濃厚飼料の配合状態と給与量は如何

 F氏 燕麦の粉にしたものを12貫,おしつぶしたものを24貫,玉蜀黍をこなしたもの6貫,ビートパルプ6貫2%の鉱物質,それに1%の食塩という配合である。仔牛が生れて2週間目,この配合を1つまみからはじめだんだんその量を増して,8週目には120匁にする。
 S氏 仔牛は乳母牛につけるから乳離れするまでは濃厚飼料はとらない若しやるとすれば丸つぶの燕麦を自由にとらせる。

第八問 脱脂粉乳を与えた結果はどうだったか

 F氏 非常に好成績であった。併し生後90日迄はいくらか全乳を欲しい。

第九問 脱脂乳をのませる場合,その量と期間

 C・H氏 脱脂粉乳を使って良結果を得た。
 G・H氏 仔牛にもより又脱脂乳の手にはいる量にもよる。期間は6ヶ月給与して少しも悪い結果はなかった。
 B氏 極く少量使い,しかも全乳にまぜてのませる。

第十問 吸口バケツを使うか,その良い理由

 M氏 この方が自然に近いから。バケツは搾乳器具と同様清潔に保つべきである。
 S氏 仔牛はなるべくゆっくり呑むべきだから。
 W氏 仔牛が乳をがぶのみしないよいに。これでやると消化不良になる心配がない。
 K・S氏 之を使うと仔牛が最初のみやすい。そして消化器をこわすおそれが少ない。乳首バケツを使わない時はバケツを床からおよそ18インチのところに置き仔牛の頭がその体とほとんど水平の位置にくるようにする。こうすると殆んど乳首バケツと同じ効果があって乳が第1胃にはいる危険が少ない。
 C・H氏 我々は乳首バケツを使うか手で呑ませるか,若しくは親につけておくのか3方法でいづれも良結果を収めておる。その時の周囲の事情でこの内のどれがよいかが決められる。

第十一問 乳から穀類への切りかえを如何にするか

 F氏 全乳は生後90日で止める。それからの90日は代用乳を与え次第にその量を減らして穀類を次第に増す。6ヶ月で仔牛はこれらの幼児食から完全に穀類に切りかわり1日約500匁位食うようになる。
 P・H氏 生後1ヶ月か35日で仔牛は1日市販仔牛飼料を360匁位食うようになっているが,この時突然乳を止める。そして温水を1升宛1日に2回バケツからのませ次第に1升5合位に増やして1ヵ月半位続ける。
 B氏 生後90日から120日位迄,流動食を次第に減じ代用食を次第に増してゆく。それから10日位後に流動食を完全に固形食に切りかえる。
 B・H氏 仔牛が濃厚飼料をよく食うようになったら乳母牛から離して新鮮な水を充分に代りに与える。

第十二問 仔牛にサイレージを与えるとしたらいつ頃始め如何程食わせるか

 W氏 生後6乃至8週間で毎食200匁前後。
 S氏 冬期間喰いたければ喰わせる。
 K・S氏 生後6ヶ月までは全然与えない。
 M氏 生後6ヶ月でサイレージを与えるがサイレージが穀類の代りになるとは期待はしない。

第十三問 仔牛をいつ放牧に出すか,何か外の餌を食わせるか

 M氏 生後1ヵ年以内では出さない。1年経ってからは初産の分娩迄濃厚飼料は全然与えない。
 B氏 仔牛は生後8ヶ月から12ヶ月迄は季節に応じ,限られた牧草を食わせる。14ヶ月迄はこれに穀類と混合乾草を補ってやる。それから後は牧草のみで穀類も乾草も与えない。
 B・H氏 春なら仔牛を生後2ヶ月できれいな地面へ出し日除けにポータブルの家をおいてやる。この外に自由に喰えるように乾草と新しい水と配合飼料と沃度で処理した食塩とを与える。
 W氏 生後6乃至10ヶ月で出す。この外1日2,300匁の穀類と欲しいだけの乾草を与える。

第十四問 水はいつでも仔牛がのめるようにしてあるかいつのまし始めるか

 S氏 してある。仔牛が呑みたくなったらすぐ。
 K・S氏 してない。生後3ヶ月迄は仔牛は乳に加えた水をのむ。それからは牛舎に備えてあるバケツの水をのませる。
 C・H氏 してある生後1週間から。
 F氏 約6ヶ月になる迄は与えない。
 P・H氏 してない。5ヶ月迄は限られた量しか与えない。生後1ヶ月で穀類を与える前に日に2回水をのませる。その量は下痢を起さない程度で1升から1升5合である。3,4ヶ月になれば2升5合位にふやす。5,6ヶ月になればいつでも水がのめるようにする。
 M氏 生後2,3日で仔牛が水を自由にのめるようにする。
 B氏 生後7日から3週間迄は1日1回極く少量に与えそれからはいつでものめるようにする。
 B・H氏 生まれたときからいつでも飲めるようにしておく。
 W氏 生後1週間目から。

第十五問 仔牛を母牛から離した後畜乳を与えた経験に就て

 P・H氏 通常給与する牛乳の20%位を初乳で代えてのませたことはある。
 F氏 外に分娩した牛があった場合はどの仔牛にも初乳を少しのませる。
 B氏 一定限度の初乳は全乳に混合して与える。少し通じがよい位で他には殆んど影響はない。
 B・H氏 我々は初乳はすべてのませる。少しも捨ててしまはない。年のいった仔牛にはこれが不思議な強壮剤になることがわかった。
 W氏 他に乳をのんでいる仔牛が居る場合はその生後の日数には関係なく初乳をのませる。

第十六問 下痢の最大原因は何と思うか

 S氏 食わし過ぎ,冷たい乳。
 C・H氏 注意の欠如ときまった日課を堅持することを怠ること。
 M氏 不潔な哺乳バケツ。びしょ濡れの敷藁,すきま風のはいる牛舎。
 B氏 不衛生な環境,不規則な給餌,のませるものの温度の不足。食わし過ぎ。
 B・H氏 すき間風,湿った牛舎,不規則な給餌。
 W氏 乳ののませ過ぎ,湿った牛舎。

第十七問 諸君の仔牛における他の重要な項目は

 S氏 仔牛には気種疽の予防注射をする。生後2週間か1ヶ月で苛性ソーダで除角する。
 P・H氏 生後9乃至11ヶ月で気腫疽及びブルセラ流産症の予防注射をする若し仔牛が下痢を起したらスルメットを20t皮下注射をする。我々は仔牛の粗暴をとり除くことにつとめる。又仔牛をくくって歩く調教をやる。
 K・S氏 敗血症の予防注射をする。
 C・H氏 仔牛下痢症の血清を注射する生後5,6ヶ月でブルセラの注射をするとき,補助乳頭は取り去ってしまう。
 F氏 生後6乃至8ヶ月でブルセラの予防注射をする。ビタミン増強飼料を与えると仔牛下痢症を起しにくい。生後30日で電気除角機で除角する。この結果は非常に良好である。
 成長期の仔牛の足をよく観察することは非常に重要である。我々は仔牛が生後60日になる迄に必ず爪を直す。もう少し大きくなってから再び直してやる。これは一人前の牛になった時よい脚と足を持つ大きな助けになる。
 B氏 運動と日光浴。糞の固さをしさいに見る。仔牛をしばしば手なずけてブラッシをかけてやる。普通でないところをよく注意する。仔牛を大人牛の近くにおく方が一人ぼっちでおくよりもより早く粗飼料を食うようになる。高蛋白の飼料を仔牛にやることは生長を速やかにしより良き固体をつくる。若い中に調教をよくすること。