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綿羊随筆

津山畜産農場

 ◎暑いも寒いも彼岸まで,これから日が長くなると共に漸次暖かくなって桜花の満開も後20日間だ。綿羊は目下分娩の時期であり月が変れば剪毛,薬浴と緬羊に関する行事の多い時期であり又最も楽みな時嬉しい時である。

 ◎養蚕家に綿羊を飼育させるため先年来県が積極的奨励に乗出してから本県の綿羊飼育は軌道に乗った様で毎年養蚕家は勿論一般農家から多数の希望があって県において毎年2回程東北地方から導入を斡旋しているし又郡畜連においても夫々努力している。この関係で本県の綿羊飼育頭数は飛躍的に増加し終戦前500−600頭位であったのもが既に3,000頭に到達する様になり今迄導入したものも比較的成績が良好であることは洵に喜ばしいことである。

 ◎前にも本誌で述べたことがあるが本県の緬羊は以前は極めて貧困で緬羊は本県には適しないもの………よく死ぬもの………という考えを農家は勿論指導者の中にも左様に思っている人が少なくない………又実際にそれ迄の本県の緬羊は左様であった………様に見受けられる。これが3,000頭にもなり又今後益々増加の趨勢にあることは何といっても嬉しいことである。

 ◎か様な状況であることは至極結構であるがこれには相当の技術指導が必要である。以前の貧弱な時と同じ様に飼育していたのでは又やがて元の木あみになってしまうかも知れない。導入した丈がプラスになるのではいけないので導入したものを基として県内でどしどし殖やす様にしなければならない。緬羊を健康に飼うこと………蕃殖を充分に行うこと………の2点に力を注ぐことが必要である。

 ◎先ず緬羊を健康に飼うことであるが本県は湿気が多いので緬羊は適しないという人もあるが決して左様なことはない。吾国で緬羊の最も盛なのは福島,山形等の諸県であるがこれ等の県と本県とはこの点では左程の差異はない。寧ろ本県には適していると申すべきであろう。緬羊を健康に飼うには色々実行すべきことがあろうが先づ粗飼料本位で飼育することである。牛,山羊と共に反芻獣であり草を主体に飼えば成績が挙り又経済的であることは申す迄もないがよい草さえあれば緬羊は殆んど草のみで飼うことが必要であり又か様にすることが農家の緬羊の本当の姿であると思う。徒に濃厚飼料を与えることは事故を誘発し又非経済的でもある。従来緬羊に対して濃厚飼料を与え過ぎた傾向があるので注意すべきである。飼料費が安くて然も健康でこれ程よいことはない。

 ◎緬羊によく発生する疾病に腰麻痺がある。これが従来緬羊を斃した最も多い病気で効果のある予防法はないとされていた。先ず羊舎を風通しのよいところに作る事が一番だ。次に蚊の予防をすることである。毎日夕刻液状DDTを少量宛羊舎の柱及び壁等に,噴霧すればよろしい。而して概ね腰麻痺の発生は8月下旬から10月頃迄であるから7月末頃から1ヶ月隔にヨーマチンの注射を3−4回行えば結構である。これは成羊なれば10t仔羊にはその半量を頚静脈に注射するもので価格も高いものでないから獣医に頼んで実行するがよい。

 ◎緬羊に対する寄生虫の害は中々大である。中でも胃虫だ。これの駆除は一般農家においては未だ励行されていない様だがこれ程緬羊の健康を損ねるものはない。余程飼料をよくやっている積りでも太らない。毛の伸び方が悪いといった疑問がおきることと思う。か様な場合は大抵寄生虫である。羊毛を手でかき分けて見て肌の色が桃色をしていなければいけない。これがうすい………甚だしいものになると毛の色と同様の色をしているのがいるが,か様なものは必ず寄生虫が相当居るものと見てよい。駆除の方法は煙草と硫酸銅の各1%溶液を等量に混合したものを成羊には100t,仔羊にはその半量をサイダー瓶又は竹の筒に入れて飲ませる。投薬する時には朝の餌を中止してやる。而してこの場合は注意しないと薬液が気管の方には入り肺炎起すことがあるので注意を要する。羊舎が古くなるとこれ等の寄生虫が蔓延するから毎月日を決めて1ヵ月毎又は隔月に必ず実施すべきである。

 ◎以上の3点を確実に実行して貰えば死ぬことは少ない。緬羊飼育3原則(筆者の決めた)を守られよ。そうすれば緬羊は………必ずよい………ということが判るであろう。

 ◎次に緬羊飼育上大切なことは毎年仔を産ませることである。これは経済上からいって極めて大切なことである。これは経済上からいって極めて大切なことであるし又増殖上からも必要である。これには先づ種付の励行である。緬羊は生来発情徴候の微弱な動物であるから種付が比較的困難である。牛・豚・山羊であれば発情的には鳴声その他で素人でもよく判るが緬羊は容易に判り難い。従って種付を逸しやすい。自家に飼っていて発情したものを種雄羊の居るところに連れて行くことは出来難いから将来は是非共,共同種付所の設置が必要である。出来得れば町村農協等で共同種付所を設けて種付時期にはここに適当期間雌を収容し種付をしてから農家に帰す様にしないと種付の励行は行われないと思う。出来得れば県から適当額の助成をすることが出来ればこの上ないと思う。緬羊は毛が採れるので仔を産ませなくても収入はあるのであるが蕃殖が励行されないと漸次頭数が減少して今迄の折角の努力も効果がないことになってしまう。本県も相当頭数が殖えたので今にしてこの施策を講ずべきだと思う。将来の緬羊奨励の大きな課題としてこのことを探り上げたい。関係者の御考慮を切望して,やまない次第である。 (27.3.21)