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巻頭言

今日この頃のことども

惣津律士

 今般の有畜農家創設事業が新聞紙上を賑やかすようになってから,乳牛飼育熱は一段と拍車がかけられた感がある。凡そ酪農を論ずる人達はこれこそ本日の農村を振興さす唯一の鍵であるとさえ極言し,その上に学者さては酪農経験者達は時代の脚光をあびてその独特の論法で地方農民に呼びかけて居る。
 熱をふきこまれた農村では所謂酪農熱に沸騰し,その勢の行く所,乳牛導入資金の獲得に陳情又陳情が昨今の状況である。
 私は健実な酪農経営はたしかに農家をも農村をも豊かにし,延いては国家の福祉をも向上せしめるものと確信している。
 併しながら現実の様相を見るとき,果して酪農経営が健実であり,将来に対して安定性を有しているであろうか。
 乳牛共進会を見せて戴く度毎にあまりに濃厚飼料に依存して乳牛の本質を軽視した飼養形態が審査員から指摘せられながら,その改善が遅々として進んで居らず,其他種雄牛の選択,搾乳技術さては運動の励行が,と角等閑視されている事は事実であるが,上記にも増して大切な事は度々本誌上でも申上げている如く飼料自給度の向上が欠けている事である。
 この点は特に今後の酪農経営上最も重要な事項である関係から,有畜農家創設に伴う乳牛の導入地帯の条件として農林省は乳製品原料乳供給地帯としては飼料自給率が60−80%以上(澱粉価換算),市乳用原料乳供給地帯としては50%以上と規定しているし,更に乳製品工場とか市乳消費地の集乳圏内に於て集団飼育を必要とし,人工授精施設,共同購買販売組織の確立の必要があげられている。
 これ等の条件は現在までに指導者達に依って再三,再四,強調されて来た事であるが,現在の酪農熱を見ると,導入さえすればとの皮相な考え方がこれから酪農を行わんとする地帯の人達の間にと角支配的に見受けられるのは甚だ遺憾である。
 熱意のみでは酪農の将来性は確立せられない。過般の本県酪農大座談会で吉岡隆二氏が唯一人草資源の確保が酪農振興上如何に必要であるかを力調されたのに対し,その後どれ丈けの人達が実行しているであろうか。
 私は酪農人が真剣に再考されて,安定性のある経営に一日も早く移行しながら増殖に力をそそがれん事を特に要望するものである。