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酪農経営と飼料自給計画

北部酪農 工藤恒三

 我等の北酪も誕生以来数年にして,集乳量20石を悠々突破し,組合関係乳牛頭数も昭和26年末に於て750頭を数えるに至り,漸く軌道に乗りつつありとは雖も未だ不安定な一輪車酪農の域を脱している酪農家少なく,山野草の自給飼料に恵まれた自然の中にありながら専業者をまね購入飼料依存の念去らず,購入飼料が高い高いとなげいても酪農経営は決して楽にならない。酪農経営の合理化は先ず自給飼料対策からである。採草地も栄養分の多いものに草生を改良し,不毛地,未利用資源を改良,活用し,田畑の許せる範囲の土地を最大限に活用し,飼料を栽培し,而も飼料価値の高いものを栽培することである。即ち反当養分収量の多いものを栽培するよう常に研究と努力が必要である。
 合理的自給飼料給与は生産費の逓減を期するばかりでなく,乳牛の健康保持上非常に良いのである。即ち牛は草食動物であるから良質の自給粗飼料を給与するのが自然であり,生理的にも良く随って乳牛は健康であり,寿命が長く,搾乳期間も長く,使用年限の延長を期し得るのである。濃厚飼料に依存する酪農は,酪農でなく専業者である。早く型はくずれ早く乳が出なくなり採算がとれず,牛一生の事を考えると,結局損になるのである。
 田畑に米麦を作るのと,自給飼料を栽培し乳牛に喰わせ搾乳するのとの比較は酪農4Hクラブ員の研究によっても明らかである。草生を改良し,自給飼料を栽培し乳牛を健康に,生産費を安くするように努力と研究を願いたい。而して購入飼料代は乳代の3分の1以下に止めるようにして頂きたい。
 "1年の計は元旦にあり"人生,社会すべからく計画を立てて進む事になっているようである。あらゆる事業に於ても相当の計画を立てて開始するのであるから酪農に於ても飼料の準備と自給の計画を立案し,養蚕に桑園がつきものの如く,酪農にも飼料圃を耕地の1〜2割位を乳牛の為に確保し,自給計画を立てて頂きたい。耕地の1〜2割飼料作物を栽培したとて,乳牛の厩肥が良く効くから,米麦の収量にはさしたる影響がない。酪農を経営するには無計画であってはならない。これからの農業は頭を使う農業でなくてはならない。計画のない所に成功なし,と言うても過言ではあるまい。それらは統計や記録の必要なことは勿論である。そこで或る農家を構想し,飼料作物栽培を主とした飼料自給の計画を樹ててみた。参考になる地区もあり,ならない地区もあり,なる農家もあり,ならない農家もあるであろうが,極力参考にして計画を立案し,この4月から早速実行に移して頂きたい。

一.或る農家の構想

 1.家族の構成

 主人33才,主婦30才,父58才,子供女6才,男3才,計5名

 2.農業経営の規模

 耕地 田5反,内一毛作1反,二毛作4反,畑1反,畔畦約8畝
 宅地 建物の外若干の蔬菜園あり
 採草地,山林,なし
 家畜頭数羽数 乳牛1頭,鶏20羽
 サイロ1基,5尺×10尺,1,965?

 3.乳牛の状態

 27.1.1導入,妊娠確実(2産),27.4.1分娩予定,労役可,体重約140貫

 4.現在飼料貯蔵量

 大麦約1石8斗,甘藷約130貫,サイレーヂ約500貫,干草約50貫,稲ワラ約800貫
 外に26年9月畦畔草生改良のため畦畔全部に対しレッドクローバー,オーチャードグラスの種子を播種しあり。

 5.搾乳予想量(4月1日分娩として)

 飼料給与上予想したのである。

月別 1日平均 月間
     斗 升       升
4 1.1 330
5 1.2 372
6 1.1 330
7 0.9 279
8 0.8 248
9 0.7 210
10 5.5 170
11    5 升 150
12 4 124
22石13.5

 この表によっても20石搾乳するのはわけないと思う。勿論搾乳量であって出荷量ではない,先ず飲んで自家の食生活の改善に供し残りを出荷すべきである。

二.飼料給与並栽培計画

1.維持,生産の養分必要量

 前記の乳牛と搾乳予想量により飼料給与の量を決定するのであるが,原則として維持飼料,生産資料としてどの位必要なものであるか,詳細に記してもわかりにくいと思うから可消化粗蛋白質と澱粉価のみについて書いてみると下表の通りである。

 大体この2つに依り,飼料給与の計算をするのであるが,忘れてならないものは食塩,カルシウム剤,ビタミン等である。食塩は濃厚飼料の1%,カルシウム剤,即ちコロイカルは濃厚飼料の2%を給与(濃厚飼料1貫匁に対し,食塩10匁,コロイカル20匁)するのが原則であるが,分娩を重ねるに従って其の量を増さなければならない。ビタミンは良質の青草や農場の副産物を給与することにより補えるが,濃厚飼料依存であると大分不足するのである。
 上表により搾乳だけしている場合は維持を乳量により必要なる養分を加えたものを給与せねばならず,尚使役する場合に於ては,それに労働に要する必要養分を加えなければならない。妊娠末期に於ても相当の養分が必要なものであるが,乾乳中特に末期に於ては充分給与し,栄養を良くして置かなければならない。
 2.搾乳に必要な養分量
 前記搾乳予想量に対する可消化粗蛋白質と澱粉価の必要量は別表第2の・印迄の如く,4月に於て可消化粗蛋白質は323匁,澱粉価は1,937匁,5月に於て蛋白質が346匁,澱粉価2,052匁等であるから,この必要養分は絶対給与しなければ予想乳量が出ないので,その必要養分を成る可く自給によって補い,土地を最高度に利用し,養分が多く収量の多いものを栽培給与し,少くも年間維持飼料の線以上は自給し,夏期は自給し易い時期であるので最高度に自給を計り購入飼料を最小限に喰止め生産費の低減を計画したのである。

 3.飼料給与計画

 前記搾乳に必要なる養分量と,維持,生産に必要なる養分量とにより,耕地,労力,栽培方法等を勘案し,土地を最高度に利用し,収穫された自給飼料と,それのみにては必要量が如何にしても不足であるから購入飼料にて補い,冬月毎日の1日給与量を計画したのが別表第1の通りである。この表によると購入飼料は麩,大豆粕,麦ヌカ,のみを上げて居るが,他の購入飼料も,一応考えて頂きたい。自給飼料も亦地区地区によって異なるが,代表的なものを栽培給与することとしたので,各自の土地に合うよう栽培して頂きたい。中にも着目して戴きたいのは,前にも述べたように反当養分収量を多くするため自給飼料として栽培するもの,即ち青刈●麦,青刈トウモロコシに対しては必ず荳科の作物を混作することであり,又年間,殊に夏期に於て毎日自給の青物を給与し,自給養分を増給する計画を立てたことである。この1日給与量の表により可消化粗蛋白質と澱粉価を図表にて示すと別表第2の如くであり,よく見て頂けばわかる様に,斜線印が自給であり,必要なる養分量を成可く自給し,購入飼料を最小限にして生産費の逓減を図るようにしたのである。自給が多い程生産費が安くつくのであるからよく研究し,養分の多いものを栽培するようにして頂きたい。又前にも延べたように少なくも維持飼料の線以上は自給するように計画を立て給与することが必要である。
 参考のために乳量8升出る乳牛に対し稲ワラと購入飼料を主とした給与量を別表第1の最後に記し,その養分を別表第2の各最後の線に図示したのであるが,蛋白質,澱粉価共に維持の線以下であり蛋白質に於て45匁も不足し,麩に換算し400匁以上,価格にして45円〜50円は毎日体の維持に取られ,濃厚飼料を給与した割合に乳が出ないわけであり又乳牛の健康を害しているわけである。
 尚,別表第1の購入飼料の総額は1月〜12月迄,搾乳前の飼料を含め,時価に計算し約3万円であって,乳代と比較し3分の1以内,搾乳期間中の4月〜12月迄の総額は2万2千円にして乳代の4分の1以内である。良く熟考して頂きたい。

別表第1 飼料給与計画(1日給与量)

月 別 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 従来
飼料名
200 400 500 500 500 500 500 500 300 400 400 300 500 1.1
大豆粕 100 200 350 150 50 100 50 50 50 50 200 200
麦ヌカ 200 500 700 700 700 700 400 500 500 500 200 400 500 1
大麦   300 300 300 300 300 300 300 500  
甘藷 1,000 1,000 1,000 1,000                    
馬鈴薯             1,000 1,000            
蕪菁                         2,000  
大根葉                       3,000    
甘藷蔓               1,000 1,000 2,000         
紫雲英       3,000 7,000                   
青刈燕麦
ザード混
      5,000 6,000 8,000         2,500       
青刈トーモロコシ
〃 大 豆 混
          3,000 9,000 11,000 13,000 8,000 3,000       
畦青草           2,000 3,000     2,000         
サイレーヂ(紫) 4,000 4,000 6,000               4,000 6,000 6,000   
干草 500 500 500                   500   
稲ワラ 1,500 1,500 1,000 500             500 500 500 2,500
コロイカル                             
食塩                             

 4.自給飼料栽培計画

 飼料給与計画及必要養分量に述べた農業経営の規模より見て,自給飼料の栽培計画を,別表第3の如く立案したのである。表をよく見て頂けばわかると思うが年間稲ワラを最小限として,夏期は青物,冬期は干草,サイレーヂ,根菜類を主として稲ワラを少々給与して,良いように栽培する計画である。
 先ず水田について見れば,今冬作は例年の如くであるが,水稲に於て耕種の改善をなし,一毛作田及二毛作田の一部5畝に対し,水稲畦立栽培を採用し,次期冬作に於て一毛作田より紫雲英を採り,二毛作田の一部5セより馬鈴薯の前作として飼料作物を採ろうとするのである。而して麦類,紫雲英は前年と変ることなく,ナタネ,馬鈴薯,飼料を余分に採ろうとするものである。畦草は殆ど干草にする計画である。
 畑作については飼料給与計画にもある通り4月より11月迄毎日栽培したるものを給与するように栽培の計画を立てたので,畑を高度に利用するようにしてあり図表によると面倒のようでもあるが,熟視し実際的に考えてみると,2畝内外を耕作するので,それ程面倒なものではない。見方を説明すると,上欄,11月上旬に蒸麦,ザードウィッケンの混播を3.5セ播種し,4月に2セ刈取り,6月末迄に残り1.5セを刈取る。前の2セは刈取りと同時にデントコンと青刈大豆の混播をなし,7月中旬迄に刈取り,刈取り数日前に次のデントコンと青刈大豆を混播し,9月末頃刈取る。後の残り1.5セは6月末甘藷を植付し,10月末収穫する計画である。括弧内は収穫予想量である。
 上記の要領で見て頂けば大体わかると思いますが,注意して置きたいのは9月上旬播種する蒸麦,ザード混は10月上旬迄に第1回刈取りをして頂かなければ後の発芽が良くないから注意して頂きたい。
 尚,詳細の説明は研究会のときに譲ることにする。

別表第3 飼料作物栽培計画

 5.飼料作物栽培方法

 栽培方法については酪農4Hクラブ員の発表にもあるので大体おわかりの事と思うから良く見て頂きたい。
 以上自給計画の大要を申述べましたが細部については紙面の関係その他により記する事が出来兼ねるので研究会其の他の機会に質問して頂きたい。
 世界に連る日本乳製品界の現況よりして,酪農家は勉めて生産費の低下を速急に具現し,安定酪農へと邁進せねばならぬのは必須である。
 濃厚飼料の給与についても原価を計算し割安な飼料を給与するように頭を使い考えて行くことが必要である。今牛乳1升(脂肪率3.25%)を生産するのに濃厚飼料を,飼料成分を基礎に簡単に配合して給与するものとして,時価相場にて飼料費を比較して見ると,次の通りである。

牛乳1升・生産費の比較
飼料名 給与量 飼料成分 単価 金額 合計金額
粗蛋白 澱粉価
1例 230 23 108.1 110 25.3 25.3
2例 大豆粕 33 13.2 23.1 156 5.15 23.09
麦ヌカ 230 9.2 92 78 17.94
3例 大豆粕 9 3.6 6.3 156 1.4 22.4
210 21 98.7 110 21
4例 大豆粕 25 10 17.5 156 3.9 18.18
大麦 140 12.3 95.2 102 14.28
5例 大豆粕 25 10 17.5 156 3.9 19.16
小麦 140 12.2 103.6 109 15.26
6例 大豆粕 30 12 21 156 4.68 18.85
小麦 130 11.3 96 109 14.17

 以上簡単な例でおわかりの通り,1例の麩のみの場合が一番高く,4例の大豆粕,大麦の場合が最も安く,1,2,3例は購入であり,4,5,6例は自給であるだけ尚強味である。これはわかり易いように例示したもので,実際給与にあたっては多種飼料を給与したり,限度があったりして注意を要する点があるが,考えようによって生産費逓減の途は多々あることを知って頂きたい。