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牛の子宮内膜炎治療の薬品比較成績

岡山県草間家畜保健衛生所   
嘉壽頼榮・横山成美・黒田和昌

昭和25年4月以降当所で行った各種薬品による牛の子宮内膜炎治療の成績で,診療カルテにもとづいて集計されたものであって,診断及び治療方法に統一をかぐうらみをなしとしないが,大略の結果はこれによって判断しうると思われるのでここに参考に供して大方の御批判を仰ぐ次第である。

子宮内膜炎の臨床的区分

区別 頭数
急性子宮内膜炎 1 1.11
慢性子宮
内膜炎
潜在性 45 50.00
カタール性 17 18.89
カタール性化膿性 4 4.44
化膿性 23 25.56
90 100.00

現在に於いては化膿性子宮内膜炎(これはトリコモナス症に継発したものである),カタール性化膿子宮内膜炎は殆んど認められない。
 大体診断の基準としたものは

1 粘液の状態(白血球の出現状態による)
2 子宮の状態(収縮性,左右子宮角の大さ,町さの比較,壁の性状等)

である,当初はもっぱら粘液による診断がなされている。最近はPHの測定(6.4以下,7.4以上)をあわせ用いているが,決定には洗浄液の混濁度,絮状物も存否により決定しているのである。

 参考文献 1.黒沢亮助・家畜臨床診療医典外科編P.490−P.468
 2.真田良典・山腰幸男馬発情粘液のPH価について(日本獣医師会雑誌Vol.5bPP14)
 3.檜垣繁光・牛の子宮内膜炎の診断と治療に用いられる注入法について(日本獣医協会雑誌Vol.13bT.P139)

治療薬の種類及び治療方法

頭数
0.85%Nacl 44 48.89 急 性  0  カタール性化膿性 3
潜在性 30  化膿性 11  カタール性 9
リゴール氏液 21 23.33 化膿性 21
サルゾール
(スルファチアゾール)
15 16.67 潜 在 性 12
カタール性  3
サルゾールアクリフラビン 2 2.22 急 性 1
潜在性 1
リバロン 5 5.56 潜在性 1  カタール性 3
カタール性化膿性 1
ペニシリン 3 3.33 潜 在 性 1
カタール性 2
90 100.00

1.0.85%Nacl大体2,000t−8,000tを使い,液が透明になるまで洗浄した。期間は大体7日をおい反覆治療をした。子宮処置後0.2−0.5%リゾホリン,0.2%クレゾール石鹸液で1,000−2,000tで膣洗浄を行った。治癒の判定は大体粘液の性状により,白血球の出現状態,肉眼的所見等で行った。
 ただ器械的に炎症物質を洗い流すという他に薬理作用は考えられず,あとは自然治癒にまった。

2.ルゴール氏液(ヨード1,ヨードカリ2,水300)先ず0.85%Nacl液で2,000t−6,000t液が透明になるまで洗い,その後ルゴール氏液を200−400t用い約5−10分間子宮内瀦溜,その後完全排除をした。主としてトリコモナス原虫の殺虫に用い2−10回使用原虫が認められなくなって使用は中止した。トリコモナス原虫に対しては効果が認められたが,子宮粘膜に悪感作があり,原虫が認められなくなってからはもっぱら0.85%Nacl液により器質的な回復をはかった。期間は約7日をおいて反復し,膣洗浄を併用した。判定は粘液によりおこなった。

3.サルゾール(0.1−0.3%)化学療法の使用方法によって行い,最初0.85%Nacl液で2,000t−10,000tで液が清浄になるまで洗い,その後0.1−0.3%サルゾール液を500t子宮内注入(約100−300t)残余は頸管,膣に残溜せしめ膣洗浄にかえた。大体1回注入のみであと10日後に主として粘液により判定を行い,洗浄液による判定は感染のおそれがあるために主として行なっていない。
 なお最近1例において観察したのであるが注入後約2時間たつと子宮内に残留した液の大半は外口に漏出していた。

4.サルゾール,アクリフラビン混合液(サルゾール0.1−0.3%アクリフラビン0.1−0.2%)前者と同様である。

5.リバロン0.85%Nacl液に於ける反覆子宮洗浄法をとったため治療方法に齟齬をきたした点が認められる。なお洗浄方法はサルゾールに於けると同様である。50−150tを0.85%Nacl液で2−3倍に稀釈子宮内注入を行った。判定は粘液によった。

6.ペニシリン,リバロンと同様方法であったため,前記同様結果であった。100,000−200,000単位を使用した,ただペニシリン使用で考えられねばならぬことはグラム陰性菌等感受性のない菌に対して効果がないことである。判定は粘液によった。

各薬品の治療比較

薬品区分 臨床的区分 頭数 治療
日数
治療
回数
薬液注入
回数
治癒
頭数
不治癒
頭数
不明
頭数
治癒後授精成績
受胎 不受胎 受胎
見込
  頭   頭
0.85%Nacl液 潜在性 30 11.43  3.26( 2.3)     25( 83.3%)   5( 16.6%)   15 2 8
カタール性 9 22 3.66( 3.66) 8( 88.8%) 1( 11.1%)   6   2
カタール性化膿性 3 104 12.33(12.33) 1( 33.3%) 2( 66.6%)       1
化膿性 2 32.5 6.5(  65) 1( 50.0%) 1( 50.0%)       1
ルゴール氏液 化膿性 21 80 11.8( 11.8) 3.3 14( 66.6%) 7( 33.3%)       12
0.1−0.3% サ ル ゾ ー ル 潜在性 12 7.17 1.92( 1.3) 1.08 12(100.0%) 0   8   4
カタール性 3 4 1.33(  1) 1 3(100.0%) 0   1   2
サルゾール(0.1−0.3%) 混合液 急性 1 10 2(  2) 2 1(100.0%) 0       1
アクリフラビン(0.1−0.2%) 潜在性 1 4 2(  2) 1 1(100.0%) 0       1
リバロン 潜在性 1 27 7(  2) 1 1( 100%) 0   1 0  
カタール性 3 64.3 9.6(  6) 2 3( 100%) 0   3 0  
カタール性化膿性 1 386 31(  29) 1 0 1( 100%)   0 0  
ペニシリン 潜在性 1 8 2 1 1( 100%) 0   1 0   
カタール性 2 8 2(  1) 1 1( 50.0%) 1( 50.0%)   1 0   

註 1.治療回数の( )内子宮処置回数 2.受胎頭数は当所授精のもので,受胎見込は村外種付のものである。

 前記の表の如き結果であるが,治療方法の不手際によりリバロンの如き効果を上げえなかったものあり且頭数の比率が不均等なためここに結論するのは早きのうらみなしとしないが一応考察すると

1.潜在性慢性子宮内膜炎に於いては治癒率に於いては大差を認めないが治療所要日数、回数,受胎成績から比較するときサルゾールが簡単且経済的で良好と認められる。リバロン,ペニシリンも治療方法の不手際が手伝って,すなわち従来の反覆子宮洗浄法に併用して行ったため治療日数,回数等で非常におとるがにわかに推論は出来ないと思う。
 サルゾール,アクリフラビン混合液も成績は良好であったが,頭数が少ないため結論はさけるが,理論上サルゾール単用にまさると思う。

2.カタール性慢性子宮内膜炎に於いても前記に同様のことをいいうる。

3.カタール性化膿性慢性子宮内膜炎に於いては0.85%Naclリバロンだけこれに用いたのであるがいずれも成績は思わしくなく,他薬品は未だ用いていない。ただサルゾール,アクリフラビン混合液が娩髄摘出後に継発した急性子宮内膜炎に示した効果から考えあわせて有効でないかと思考されるのである。

4.化膿性慢性子宮内膜炎に於いては,トリコモナス症から継発したものであるためルゴール氏液が使用されたのではあるが,かなりの効果が見られるが,子宮粘膜に対する作用から考えて化学療法の方が一般的な場合よいのではないかと思う。

5.急性子宮内膜炎に於いては先に書いたようにサルゾール,アクリフラビン混合液が成書記載の如き煩雑さを要せずして治癒する点卓効があったと思われるが,ただ1例であるのでまだ断定するにはいたらない。

以上簡単に各薬品の治療比較を報告するが,なお2,3気のついたことは

1.粘液による診断に於いて考えねばならぬことは膣に出される粘液のほとんどは頸管からであるということであって,白血球の出現によって子宮内膜炎か膣及び頸管の炎症によるかがはっきり区別しえないことである。
 勿論粘液が膿汁若しくは膿球をまじえる場合には殆んど子宮内膜炎とうたがうに足るが最後的な決定はあとにのべる如く洗浄液によるのが正当と思う。(例えば白血球の出現がこの程度であっても子宮内注入などによって受胎を見うるものである)またPHの測定においても同様にいいえられ結局は補助的診断に他ならない。
 以上の場合をもって診断するときは直腸検査により子宮の状態をよく把握して綜合的に診断を下すべきである。なお潜在性慢性子宮内膜炎はやはり不受胎がその主たる判定基準と考えられる。結局洗浄液による判定がその炎症の程度及び判定づけにもっとも確実な方法であるが,この際子宮洗浄液操作によると考えられるので診断のためとはいえやはり薬液の注入が最後になされるべきと思う。(なお操作の上から感染を防止するという意味からいって頸管鉗子の使用がよいようである)
 以上診断のことを縷々のべたが,要は診断の適格さによって不必要な治療は出来るだけさけるべきである。

2.化学療法剤による治療にあっては0.85%Nacl液による徹底的洗浄のもっとも必要なことは申すまでもないが,当所においては0.85%Nacl液が子宮充満後その注入をやめ液を完全排除後再び注入,排除を反覆し混濁度絮状片のなくなるのをまって薬液を注入している。

3.化学療法においては1回でその治癒化をはかるべきで,2回以上にわたるときは濃度を上げるか又は他にかえるべきである。

附記

1.サルゾールの濃度別治療比較(潜在性又はカタール性のみであるので病気の区別をしなかった)

頭数 治療日数 治療回数 薬液注
入回数
治癒
頭数
不治癒
頭数
治癒後授精頭数
受胎 不受胎 不明
   回
0.1 10 7.9 2( 1.2) 1 10 0 9   1
0.2 4 3.25 1.25(1.25) 1.25 4 0      
0.3 1 1 1(  1) 1 1 0      

2.リバロンとサルゾールの薬価の比較

単  位 価  格 1t又は
1g当り価格
各1回使用量 各1回使用当価格
リバロン 200t 250 1.25 50t−150t 62.50−187.50
サルゾール 100g 670 6.7 0.1−0.8%液 500t
(0.5g−1.5g)
3.35− 10.05

3.サルゾールの溶媒
 サルゾールは上記の如く治療効果は非常にいいのではあるが,溶解に非常にくるしむところであって,当所に於ける方法を具して御批判を乞う次第である。
 現在行っている方法はサルゾールはアルカリ性の溶媒にとけること及び加温しても変化がないというところから0.85%Nacl液(PH7.0)にサルゾールを所要濃度でまぜ水から100℃に加温しつつ強振盪する,溶解しないときはまたそのまま温め強振盪してとかしている。これで大体溶解するが濃度が高いほど難溶で,時間は約30分。なお薬物を溶媒としての成績は次の通りであるが現在は用いていない。温度は炭火用煮沸消毒槽で約80℃前後である。いずれも強振盪する。

溶   媒 PH 所要時間
1%重 曹   約2−3時間
2%重 曹   約1時間
4%葡萄糖   約1−2時間
5%葡萄糖   約2−4時間
2%重 曹   約1時間
4%葡萄糖    
3.6%チトラート 8.2 約30分−1時間

 いずれも1−2回行ったのみであるので結果はにわかに断定出来ない。追試験をのぞむ次第である。
 なお一度溶解しても15−20℃位にさがると折出するが,注入時には未だ折出を見ないので溶解のまま使いうる。(使用時温度40−42℃)
(27.5.24)