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畜産技術講座

乳牛の審査(1)

日本ホルスタイン登録協会
加藤純之輔述

一.乳牛の審査の問題

 外貌によって牛の良し悪しを決定する能力は常に必要である。その外乳を搾ったり薬品によってしらべることもできる。牛の審査には解剖学,生理学,統計学,遺伝学……等の力を備えていなければならない。乳牛の審査の問題を取扱うとこれは次の事柄を目標としなければならない。
 大さ(Size)
 形(型)(Type,Form)
 資質(Quality,Character)

1.大さ

 大さとは,単に測定以上に現われる容積,重量,長短,高低等によって示される数値である。測定,測尺,目方などにより測定される。飼養管理の影響によって大さは変って来る。形と結びついている場合は大さに重大な関係がある。

2.形

 形とは直線をもって結ばれた映像又は輪廓である。形は色と線によっているものは遺伝する。乳牛の体型は雌牛の形は側面からみると楔形であり,又上面からみても楔形でなければならない。背部がでて腹部の張っている楔形の横断面を描き,胸部(第6肋骨)と腹部との横断面の差は大きい方がよい。
 非乳牛的な乳牛は側面,上面よりみて楔形でなく短形を示し,又胸部と腹部の横断面は円形であり,その差は小さい。

3.資質

 乳牛の資質は次のように列挙することができる。
(1)晩熟性であること。(ホ種は5−6才で完熟期に入る)
(2)頸は比較的うすく又長い。それが肩と前胸とに移行する状態が滑かで,胸垂が清明でブラブラしていないこと。
(3)?甲部は比較的鋭くよくしまっていて肩後が充実していること。
(4)肋は左右に開張し胴張がよく肋骨と肋骨との前後の間が広く,長く深いこと。
(5)?部は深くふっくらして,饑凹も亦深く広いこと。
(6)腿は外側は能く充実しているが,内腿(乳房の所在する所)は比較的うすく,後方から見るに左右の腿間は広くて,附着の広い乳房をいっぱいに納められる広さを有すること。
(7)皮膚は柔軟弾力に富み滑かであること。(これは腹側,頸側でしらべる)
(8)毛は密生し,細く短く,光沢があって軟かであること。
(9)品位のあること。顔が美しくよいこと。尾根部も中等の太さで粗大でないこと。
(10)骨がよくしまって,角も蹄も堅くその質が密であり,骨が乾燥していること。又角は粗大でなく太さ中等であること。
(11)体表面特に両頬,胸,腹部,四肢等に静脈が緊張してよく見え活気あること。
(12)経産牛において,泌乳最盛時は乳房面上に静?分布緊張し,又は乾乳期でもかつて多量の泌乳を見たと認められる静?が隆起してこん跡が残っているもの。乳房面上に絹糸上の毛生あること。又乳房は皮膚と関連して柔軟弾力あること。

二.頭部の審査

 頭部は次の3つの形体に分類することができる。まず額の広狭と顔の長短とを見ることである。
(1)乳牛は晩熟性で顔は長い。顔の短いものは早熟性であり,非乳牛的である。
(2)晩熟性であるが額がせまい。つまり角間線が狭い。
(3)顔が短く早熟性であり非乳牛的である。
 以上3つの形に分類することができるが,(1)のような晩熟性のものは頸椎(7個)が長く,又脊椎(13個),腰椎(6個),薦骨(6−7個),尾骨(18個,多いのは23)も長いという特長をもっている。飛節か或はそれ以下まで尾のしんが達している。(2)のような牛は額が狭いため,巾が狭く,体質的に弱い。又持続力が悪い。(3)のような牛は額,顔とも広く,早熟性で,頸椎,脊椎,腰椎,薦骨,尾骨ともに短い。尾状の末端を握ってしらべると多くはその先端が飛節頭に達しないものが多い。
 以上の異る点があるが,一般に仔牛の時には他の部分に比較して顔は短いものである。

三.肩と?甲部の審査

 ?甲部の横断面により3つの形体に分類することができる。
(1)楔形をあらわすもの。左右の肩甲骨と第2,第3脊椎骨の刺状突起との接着の状態はかなり鋭く充実し緊密である。この形の牛は頭部の(1)の場合の顔をしている。
(2)楔形で(1)と同様緊密な鋭い状態を示しているが板胸である。これは頭の(2)の場合の顔をしている牛に多い。このようにするどきに過ぎる扁平な肩を有する前躯においては狭少な胸部を成し,中躯,後躯も巾に乏しく,或は体積の貧弱な個体に伴うもので,生産能力を要求することは至難である。
(3)肩と接着の状態が緩く弱く,又は離れ勝ちな厚く丸形の状態を表わしている。つまり肉牛的な傾向を示し,胸部腹部の横断面も円形の輪郭線を描き,頭部の場合の(3)の形をした頭をしている。
 しかし仔牛の時代は?甲部の横断面は厚いが,経産牛になると(1)のようになって来るから,(3)と間違えてはならない。肩付きはしまっていなければならない。又雄はいく分ゆるんでいるが,全般から見れば,しまっている。

四.尻部の審査

 乳牛の後躯は側面と上方面との二楔形の底部に相当し,その何れの巾も広大で,その両者の包む容積は充実していなければならない。
 尻部の側面から見て次の4つの形に分類することができる。

 aは腰角,bは坐骨端,cは?の位置を夫々示す記号であり,これらを結ぶ虚線は(1)では二等辺,(2)(3)(4)では不等辺三角形を夫々描いている。
(1)図の尻部はabが水平でac,bcの長さが殆んど等しい二等辺三角形で最良のものである。この場合c点の位置は上方にある。理想型であるが,これに属する牛の頭数は少ない。
(2)図の尻部のabも水平であるが,そのac,bcの三角形の各辺は等しくない。即ちcの位置後方に位置し,acがbcより大きい。80%までの牛はこれに属する。
(3)abは水平でなく,aからbに向って上昇し所謂聳尻を呈する後躯である。座骨端は上り,後肢の踏み方に注意を要し,直飛又は直飛的な後肢のものに多くこのような形をともない,好ましいものではない。
(4)?甲部よりも尻部の低い斜尻である。乳牛には斜尻のものが多くみいだされるが,この斜尻は未経産に多いが,経産牛就中産次を重ねるに従って斜尻の後躯を有つようになる。であるから,後天的なものか,先天的なものであるかしらべる必要がある。この場合後肢の折込みの状態をしらべる運動を荷して,水平になるものは後天的である。これはつなぎの弱い牛に多い。乳房の懸垂の状態は後乳房がだれてくる。又は後乳房が発達している。飛節線(左右飛節端を結んだ線)より乳房低面が下った場合は能力は悪くなる。(4)の場合の乳房にはかかる傾向にある。
 以上の外腰角巾(58p位)が?巾(50−53p)より広くなるのは18ヶ月以後の成熟期からである。尻長は55−57p位,体長は初産で150−158p,成牛(青年型)で170−175pである。(以下次号)