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岡山県における自給飼料の生産の現況と将来

農業改良課 黒住技師

まえがき

 緑肥,飼料作物は多種多様であってこれが栽培の現況と将来の見透しについて論ずるには相当の基礎を必要とするが,筆者が知見する範囲で,筆者が夢みつつある緑肥,飼料作物の諸問題について大いに叱咤を頂戴せんものと,敢て本稿を草するものである。

一.本県における緑肥,飼料作物栽培の現況

(一)統計上に現われた緑肥,飼料作物

 昭和25年度に行われた岡山県における1950年世界農業センサスによると,緑肥兼飼料作物3,118町64,飼料作物7町53,牧草類16町20である。緑肥飼料作物中,最大なものである紫雲英について,観察すると,その総面積は3,004町28で,その中緑肥用18.88%,飼料用81.12%となっている。又筆者が行った24年度の集計によると,総面積2,992町9でその中緑肥用42.47%,飼料用57.53%となっている。而して我々技術者は,実際飼料用としては35−40%と看ている。このような統計と実際の喰い違いは外国から食糧,肥料の輸入を仰がねばならぬ我国としては自給肥料の増産面をある程度伏せなくてはならないであろう。又一方,飼料はこのようにして確保しているかを宣伝する必要もあったであろうと考えられる。紫雲英等緑肥兼飼料作物を除く飼料作物及び牧草類においては,恰も化学実験における痕跡程度に近い貧弱さであることはなげかわしい。紫雲英において昭和25年度3,004町27は,昭和5−9年の5ヶ年平均3,373町3に近く復元したものと直ちに喜んではならない。
 それは例えていえば本センサスにおいて藺草は972町0に過ぎないが同年次において実際は2,400町を超過するといわれている。これはもちろん麦類の作付面積に喰い込んでいるのであろうがこのように飼料作物の統計上の面積は実際問題として,藺草や囁ロの栽培に侵蝕されているということが出来よう。

(二)利用の概況と栽培の現況

 第1次世界大戦の経済恐慌は内地において満州大豆粕と稲藁を主体とする日本独自に有畜農を大系づけ,一時乳製品は世界市場への華々しい進出を遂げたのであった。然るに第2次世界大戦後期から今日にかけて満州大豆粕は輸入杜絶状態となり日本の酪農の成立は危ぶまれたのであったが,戦後直ちに自給飼料の標語を翳して立ったのは北海道酪農であった内地の酪農はクーポン制にあまりに安んじていたが,昭和25年3月之が撤廃に漸く動揺を来し,又飼料統制の解除されるに及んで始めて自給飼料生産の熱は頓に昂りつつあるとはいえ,青刈飼料生産の研究は未だ欠いでいて殊に青刈飼料の加工,貯蔵法の研究意慾に欠いでいる。
 紫雲英は徳川時代(今より200年前)から内海地方の安定した作物であって,自給肥料,自給飼料中最良のものであった。その施用は自ら秋落地対策となって内海沿岸の砂質土に多くその栽培を見たのである。明治時代,自給肥料面で全国的に研究され,本県として不適な地方はないといってよいが,昭和年間の有畜農の奨励には紫雲英の利用は今一歩という嫌がないでもなかった。現在本県においては北部地帯の一毛作田跡作利用で,勝田,英田,苫田,久米,真庭郡に栽培が落着いているが,増収技術については深い関心が払われていないようである。特に南部においては,一毛作田の捨作としての現状で,真に増産技術を発揮し得るのはこの地帯であるにもかかわらず関心が薄いようである。(北部には対寒性品種を南部には晩生種による増産技術の発揮が期待される)
 本県においては農産加工残渣によらんとする専業畜産家的傾向が多く,未だ青刈生産の多毛作に体系づけられているものが殆んどないといってよい現状である。飼料作物栽培の優良事例について筆者は未だ親しく調査を行う暇がないが,紫雲英の麦間作に牧野勉氏があり,葛栽培に吉岡隆二氏があり,飼料木栽培に赤木樟一氏があり,これ等の人々が先ず健闘されている程度である。
 草生改良の必要性は少くとも畜産人には耳に蛸の現状である。草生改良の施業も助成金を得て各地で行われたこと?々である。本県畜産課においては昭和24−7年度において草生改良の一方法としてレッドクローバーの導入を行っている。岡山県岡山種畜場は昭和24年度より旧御津郡牧石村三軒屋に移転し,その74町歩の敷地において,堤塘の草生改良2町歩を実施中で注目されている。昭和25年8月斯界の権威,川瀬勇氏,三井計夫技官,倉田益二郎博士等を聘して,県畜産課が自給飼料講習会を開催したことは,恰も牧野法の改正にともなった時宜を得たものであって,その後の牧野保全補助,牧野改善補助政策実施に望ましい下地をなすものであった。

(三)試験研究の現況

 本県における研究というべきものは少い。農林省大阪林業試験場高島分場において倉田益二郎博士が飼料木とあわせてクズ,ツルマメの試験研究を残されているほか,岡山県立農事試験場津山分場において畑作の高度利用面で飼料作物の試験を行った外,先ずないという現状であったが,昭和26年3月県条例で農事試験場は農業試験場となり,畜産に関する試験研究の分野は開かれたのであったが未だ専任の研究陳容が出来ていない現状である。自給飼料の確保を合理的に行いつつあるものに県立機関として岡山種畜場,津山畜産農場,千屋種畜場と国機関として岡大農学部がある。岡山種畜場は建設途上にあり,その自給飼料生産と草生改良は場の浮沈に関する重大問題となっている。岡大農学部は昭和24年度より48連隊跡の農場で青刈生産に主力を注いでいるが試験研究の陣容が出来ていない現況である。

二.本県における緑肥,飼料作物栽培の将来の対策

(一)岡山県立農業試験場畜産部の使命

 愈々岡山県立農業試験場にも懸案の畜産に関する試験研究の分野が出来て,本県畜産の盲点である飼料作物研究とその価値の問題が追求研究される段階に入ったのであるが,将来は畜産物の生産及び質的向上はもちろん,排泄物による地力増強の問題,さては畜力利用の問題の根本的解決に関与し,而して農畜一体の渾然たる融合を招来し,本県農業の健全化を使命とするものである。
 即ち,本県の南と北では自然的立地条件を甚だ異にするので緑肥飼料作物の適否試験を広く総合的に行わねばならぬと同時に各飼料作物の播種期,収獲期並びに生産力,再生力の基礎試験と採種増殖法の研究及び余剰青刈生産の加工,貯蔵の普及が徹底されねばならない。健全な畜産の発達のためには自給飼料の確保が前提とされなければばらばい。
 本県の飼料作物試験研究の構想は次の如くである。

 T 水田裏作における積極的青刈飼料生産の研究
 U 畑における飼料作物の多毛作,混作の研究
 V 果樹園における被覆肥飼料作物の研究
 W 干拓地における田畑輪換と飼料作物の研究
 X 開墾地における牧草地造成及び牧草畑との輪換の研究
 Y 牧野の保全,肥培,草生改良と利用に関する研究

等について研究を進めたいが現段階においては将来これ等の研究の対象となる肥飼料作物の適応性に関する試験研究とTについては本場において行い,Uについては津山分場,Vについては果樹分場と服部オリーブ園,Wについては6区試験地,Xについては高冷地試験,Yについては阿哲郡刑部牧野試験地において夫々本試験及び予備試験を行いつつ実用化について検討中である。

 岡山県立農業試験場本場における試験研究

T 水稲跡地に適する肥飼料作物の研究

 A 燕麦に関する試験
 目的の所在
  秋冬作の禾本科の中で青刈生産上最も有利な1つである燕麦について之が水田裏作期間に織込んで可能な品種を見出し,その青刈生産性と収実生産を調べよう。
  1 燕麦品種の特性調査と撰抜並びに淘汰
  2 燕麦青刈検定試験と燕麦収実検定試験
  3 水稲裏作燕麦の催芽播種に関する試験
  4 青刈燕麦収穫期試験 

 B 荳科作物に関する試験
 目的の所在
  秋播荳科の通例として,播種期の早いことが望ましい。従って水田裏作においては稲間中播となる。この場合種子や幼植物の湿害及び幼植物の寒害や雑草による抑圧の害が挙られる。前者に対しては播種位置の高低が問題となり,後者では立毛に制約される幼植物の生育程度が問題となる。
  1 播種位置の高低に関する試験
  2 水稲栽培密度と稲間中播試験
  3 稲間中播単播試験

 C 禾本科と荳科との混作及び混播試験
 目的の所在
  直立性荳科であれば麦間の空間を利用して収実及び青刈生産をあげ得られよう。中耕除草の労力節約になるか試験しよう。
  1 稲間中播禾本科に荳科を混作する試験
  2 稲間中播荳科に麦類を混播する試験

 D 水稲直播に関する試験
 目的の所在
  水稲跡の飼料作物に多毛作を計らんため水田湛水期をある程度遅延せしめる方法として,水稲直播法,仮植苗移植法,晩化苗移植法とがある。本年は直播法のみ採用する。直播法により労働生産性をあげるばかりでなく土地占有期間をせばめることによって裏作における青刈飼料作物の多毛作付を有利ならしめ,飼料生産をミめることになる。本試験は青刈燕麦,青刈大豆,直播水稲の作付体系確立を目的とする。
  1 栽植様式,直播(点播,条播)千鳥植
  2 無効分抑制様式,土寄反転,2・4−D施用

(二)本県における緑肥,飼料作物地帯別とその適作々物に対する知見

 飼料作物を導入増殖せんとするに当り岡山県を気象的に分って南,中,北の3地帯別に分つことが妥当と考える。水稲栽培においては最北部地帯と特殊地帯としているが,水稲における最北部及び北部地帯は飼料作物の適作地帯で将来の酪農地帯というべきものと考える。
 紫雲英について地帯別に観ると,現在の作付は北部に多く,青刈大豆は中部に多くなっているが,統計をもって直ちにその動向を論じる事は危険である。それは南部は農業経営に甚だ進歩的であって飼料作物の導入は南部に始まり次第に中北部に移行して適地適作の理によって飼料作物地帯別を生じその飼料作物に立脚した家畜地帯別を生ずるべきであろう。

1 南部地帯

 酪農事業から観察すると南部はいわゆる専業的酪農家多く,内海沿岸の湿暖な気象を充分に利用した飼料作物多毛作付体系が樹立され,緑飼舎飼法はこの地帯において先ず普及されるべきである。この地帯の水田稲作跡には単に一毛作田に緑肥兼飼料作物を消極的に作付けるようなことではいけない。積極的に麦類を犠牲にして,燕麦とベッチの混播の青刈で2番刈を行う外,水稲直播の間に青刈大豆を播種収穫するが如き方法又は青刈燕麦後にデントコーン及び青刈大豆を混作して水稲仮植苗移植するが如き方策を立てるべきである。
 緑肥兼飼料作物を一毛田に捨作的放任消極的栽培ではなく,排水溝設置や水稲の畦栽培不整地移植栽培の畦跡利用や,石灰,過石,畜尿の施用等の栽培上の増産技術を充分に発揮すると同時に,紫雲英に限らずクローバー類,蚕豆類,青刈囁ロ等を考えなくてはならない。紫雲英の品種については晩生で増収性の岐阜大晩生を導入するとよい。紫雲英については本県農務課において,種子の搬入を確保し,単位農協の配付している。クローバー類は乾田で雑草の少い土地では大いに研究の価値が存在する。蚕豆については農務課において採種自給計画を立て,収実用のみでなく緑肥,青刈飼料用の奨励を行っているが数的には明らかでない。青刈蚕豆は内海の気湿に大いに多収は発揮出来るものと考えられる。湿田利用に搾油囁ロが奨励されているが,この青刈は青刈蚕豆同様乳牛や豚の飼料として好適である。将来は青刈用のレープが望ましい。
 一方,畑の飼料作物の青刈作付体系に未だ好適なものがないが,甘藷を飼料化にする一方,馬鈴薯の増産性も大いに関心を持たれるべきである。夏季はデントコーンに冬期は燕麦に青刈生産の主体を置いて,纏繞作物被覆作物として,夏作には青刈大豆,カウピー(飼料用?豆)マングビーン(ヤエナリ,ブンズ)ドジョウインゲン等の混作を,冬作にはコモンベッチの混播が栄養価値上からも重大である。夏と冬とのつなぎに飼料用蕪菁の如き多汁根菜は乳牛泌乳上重大である。内海の砂地にはデントコーンよりソルゴ(ナツキビ)が好適であるとも考えられので検討を要する、この地帯において甘藷澱粉粕や芋蔓の利用は行われているが芋蔓のサイレージが徹底されていない。この地帯の特殊地帯である児島湾干拓地はその用水不足の解決と土地利用上,労力配分上,地力増産上から,用排水施設の完備の下に将来田畑輪換農法で酪農が考えられるべきと知見する。又本県の特態である藺草地帯における水田酪農は藺田と蚊の問題,重粘土のための乳牛の畜力能力の問題,粗飼料自給の問題が隘路となっている。河川敷地の利用は自給粗飼料の確保面でこの地帯で重要なポイントをなしている。草生改良として自生荳科としてカラスノエンドウ,メドハギ,ヤハズソウ等の増殖を計ると共に誘入荳科牧草としてラジノクローバー,ホップクローバー,バークローバー(苜蓿)の増殖を筆者は期待する。自生禾本科としてイヌムギ(プレリーグラス)誘入禾本科牧草としてはメドーフエスキュー類は注目に値すると考える。なおこの地帯は草地の肥培,管理を十二分にしてその生産を発揮せしめるべきものと思料される。

2 中部地帯

 この地帯は果樹,特用作物の多いい特異性を有する。林業,畜産も盛んで今日の経済情勢にあって最も自給度高く,一方農家の現金収入も昔日に比し案外豊かな地帯である。畑の一部又は畑作の間作において飼料生産が考えられるが,耕地内で飼育される家畜は僅少であるため,積極的多毛飼料生産体系の樹立とサイロの活用が行われていない。飼料生産は前述地帯と大差ないから省略する。甘藷,養鶏,養豚も大いに熟考されるべき地帯である。
 果樹,特用作物のためには多量の堆厩肥の生産を必要とする。果樹園は自給肥料飼料面から又水蝕防止上被覆作物を奨励して差支えないと筆者は考える。病虫害の問題は別として,内海の夏季の降水頻度,降水量においては被覆作物は保水的に(+)の役割の顕著であると知見する。昭和26年の夏,46日間の無降水に明白となったが,将来の研究に待ちたい。その研究作物として冬作にはヘヤリーベッチ,コモンべッチ,クリムソンクローバー,スポッテッドバークローバー等があり夏作にはヤハズソウ以外にはないようである。永年用にはレッド,アルサイク,ラジノクローバーがよく,オーチャードグラス,メドウフエスキューとの混播が期待される。この地帯には耕地の傾斜度甚だしく水蝕の恐ある耕地や,形成母岩の風化状態により瘠薄な土質の耕地が農家所有地内に必ず存在するものである。これ等を思い切って牧草地として。飼料生産と地力増進を兼ね行うとよい。耕土を培養して後に畑に輪換することが望ましく知見される。水蝕防止としては本邦ではシバを第一とする。米国ではクズを利用する。本剤ではメドウフエスキュー類はテレスに,リードキャナリーグラスは排水渠に利用が期待出来よう。この地帯の夏の畑作キビ,アワの下作として水蝕防止にはマングビーンが適当であり,思い切りヤハズサウの利用も考慮の価値があるようである。
 又この地帯は畦畔歩合も多く,道路,堤塘の斜面も多く最も手近に草生改良の出来得る地帯であり,又利用度も高い。自生野草としてカラスノエンドウ,ツルマメ,ヤハズソウ,ヤマハギ等が挙げられる。誘入牧草としてはレッド,アルサイク,ラジノクローバー,バーズフットレフオイルが考えられ,筆者はこの地帯の草生向上に1年生又は2年生のホワイトスイートクローバーの誘入を提案する。葛について一言すると,葛は林地においては手強い雑草であり,放牧地では牛馬の脚からみとなりあまり感心出来ないが,この地帯の堤塘畦畔利用には好適である。葛の吉岡隆二氏がこの地帯に存在されるのは蓋し故あることである。

3 北部地帯

 元来畜産は土地利用度の低い地方に,又交通及び経済行為の不便な地帯において,生活に必要な乳,肉,卵を生産する一方,日々現金収入のある最も安定した産業である。故に必然的に冷凉な単作地帯か,又は人口稀薄な山間地帯となる。本県においてはこの地帯では畜産と林業が対蹠的に相関するもののようである。県北一体は和牛犢の生産に有名である。就中千屋牛は主として牧野で生産されるので骨格強健で天下にその名声を知られている。県立千屋種畜場はその圃場において飼料作物を主体とし,特に青刈デント,青刈大豆,ライとコモンベッチの混播の青刈にレッドクローバー,オーチヤードグラスの牧草生産を挙げ,緑肥以外はサイレージとし又乾草とし,又一方野草も乾草又は褥草として利用し,和牛種畜の育成生産をあげている。この地方は水田以外は採草地,放牧地であって畑地は頗る寡少であるから種畜場の体系はこの地方には何等貢献していない憾がある。これに反し,津山畜産農場はこの地方の有畜経営の啓蒙に乗出してその効が謳れつつある。扨てこの地帯の青刈としては玉蜀黍,大豆が従来行われパールミレット,ヒマハリの新導入が期待され,レッドクローバー,オーチヤードグラス等の牧草の最適地である。レッドトップについても一考を要する。
 真庭郡蒜山原について知見を述べる。この地は岡山の北海道と称され雄大な地域である。元陸軍々馬補充所があり,戦時中陸軍演習地として有名であった。此処の数千町歩の原野には戦後開拓計画によって開拓団の入植が数ヶ所存在する。此処では反当600貫の堆肥を施用すれば,開墾初年において畑草が出来ると称せられ,一般農家は畑草と水稲と山林によって経済を立てている。従って堆厩肥の生産には限度がある現状である。未墾地は黒ボコ1尺余あり,石灰の施用,過石の施用なくしては作物は満足に生育しない。而して厩肥の施用は緊急な問題である。即ち長い間無機的休眠状態である腐植を有機的に覚醒せしめる大役があるからである。
 この地の草生改良は全面の開墾や堆厩肥施用は不可能であるから,数坪に幾つかというようにその個所の草木根を除き厩肥,石灰,過石を施用して,丸く土盛して土まんじゅうを作り,之に牧草種子を播種し,種子や地下茎,葡萄茎によって次第に群落を形成せしめ,これを中心に草生を改良する方法を筆者は提案する。
 このようにして牧草畑,畑の輪換農法をこの地域の開墾の一方途と考える。
 北部地帯の草生改良は畦畔,道路バリの消極的なことで満足すべきではない。思い切った方策即ち,放牧地の嶺線近く適当な傾斜面を選び之に少くとも数反歩の木柵を結い,家畜の侵入を防ぎ,この中に草生改良の目的に応じ施業し,成功すれば結実頃之を刈取り裁断して馬上から之を撤布すること又は家畜を柵内に入れて嗜好性を検定する一方,家畜の糞を通じ種子の伝播を計るのも一便法であると筆者は信ずる。草生改良は川下でなく上流で,嶺山近くで行えば,自然に風水の力によって伝播するものと信ずる次第である。放牧地の草生改良の不成績は施業の不適当な事以外に,その生育過途期に直ちに家畜の過食や蹂躪にあう為である。又畦畔における草生改良は心ない人人によって,無慙にもその初年において刈取られ,種子を結ぶ暇のないことである。少くとも採種計画をした個所は,大衆の道義心に訴えてこれを保護したいものである。

結び

 飼料確保は単に牛馬,種豚,種鶏に対して米石で何升という保有の貧弱さで満足の出来るものではない。芋類,麦類が次第に統制からはずされるに及んでは,これ等の積極的増産とその利用や,ある程度食糧生産を犠牲にして,青刈多毛作の実施によって良好な粗飼料の確保を計画すべきである。換金作物であれば喜んで,それが実行されるのであるが,飼料作物に対しては一般に冷淡な動向がうかがわれるのは遺憾である。家畜の生産や労働力や,自給肥料の面から考えると現在以上の総合飼料確保に関心が払われて当然と考えられる。
 その意味において少くとも10%〜20%程度の耕地を割いて飼料生産を計りその生産に応じた家畜の飼育を考慮すべきである。此処に豊富な野草があって利用が計れても,その刈取や運搬の労力や栄養価値から考える時,やはり栽培はそれだけ価値のあることを銘記すべきであろうと筆者は考える。(昭和27.5.31)