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自給飼料と酪農

落合西河内青年研究会
岡田潤一

 私が酪農を始めました動機,それは山野到る処に生い繁る雑草を,乳牛は一度腹の中を通すだけで,最も完全で栄養の高いミルクとして呉れる事です。神が存在するならば「神」以外は別として,現代の科学する絶対にと言っていい位不可能な事を,乳牛は簡単にわけなくやって呉れる事であります。此処に私の大きなる魅力があったと言えるのであります。更に考えてみると,今後の農業経営はどうしても一方的な片よった耕種農業では成立たぬと言う事は今更述べる迄もありません。此の狭い国土に多数の農業者人口を収容して,食糧の自給を考えるならば,耕地に肥沃化はもとより,酪農を(畜産)取り入れて利用されない資源を最高度に活用してのみ可能と言える。農村の食生活改善にしろ同じ事が言えるのであります。更に進んで畜力の利用,畜産物の現金収入,労力配分,厩肥生産に伴う肥料費の節減等,その利点は限りないと思われます。以上の観点からして酪農経営こそ私達農村の青年に掛けられた大きな使命であり,課題ではなかろうかと信ずるのであります。
 ではもう少し掘り下げて,酪農が何故我我に与えられた使命なり,課題かと申しますと,
(一)乳牛は他の家畜に比しカロリー生産が大であると言う事です。言い換えるならば,同質の飼料で畜産物に換えて呉れる力が最も高いと言う事であります。(第1図参照)

(第1図)

家 畜 名 カロリー生産量
乳牛 4,500カロリー
和牛  990  〃
1,500  〃
1,900  〃

(二)次に厩肥の生産量はどうか,と見ますと,(第2図参照)

(第2図)

畜牛種類別厩肥生産比較表 (25年度調)
種類 体重 糞尿計 敷わら 新鮮厩肥 腐熟堆肥
乳牛 120 3,650 500 4,150   2,000〜3,000
和牛 90 1,825 300 2,125 1,300〜1,600
仔牛 40 903 150 1,053 600〜 700

(注)腐熟堆肥は約7割の歩留りと見ました。

以上見ましても和牛の倍以上の厩肥を生産しているのであります。その結果は必然的に田畑の生産高に差が生じて来て居ります。(第3,4図)

米作反当収量並施肥量比較表 (25年度調)
事例 収量比較 施肥比較
有畜農家 無畜農家 増 収 量 有畜農家 無畜農家
石 斗 石 斗 斗 升
      2,3.0       2,0.0        3,0 400 200
2,4.0 2,1.0 3,0 400 200
2,6.0 1,6.1 10,0 500
2,2.0 1,6.0 6,0 200 緑肥 200
平均 2,3.8 1,8.0 5,5

平均,反当5斗5升の増収となって来て居ります。(米作)
更に麦についてみますとその差は一層大きくなって居ります。

(第4図)

麦作反当収量並施肥量比較表 (25年度調)
事例 収量比較 施肥比較
有畜農家 無畜農家 増 収 量 有畜農家 無畜農家
石斗升 石斗升 石斗升
      2,5.0       2,1.0 4 200 200
2,1.9 2,0.6 1.3
2,8.0 1,9.3 8.7 300 150
4,1.1 2,0.0 2,1.1 400 150
平均 2,4.0 2,0.2 8.9    

(反当8斗9升の増収)

以上米麦にのみついて調査比較致しましたが,それのみに限らず他の農作物に於ても酪農家と無畜農家の差は明かに表われているのです。更に畜力使用の問題なのでありますが,此の畜力の利用こそ経営合理化の大きい物である事は言を俟たぬ。特に乳牛の役利用なのでありますが,兎角乳牛は農耕なり役利用出来ないものと思われ考えられているのですが,これは大きな間違いで役使用してこそ真の酪農の意義が有るのではないでしょうか。全国的に見ましても(25年8月1日農業サンセス)乳用牛約18万頭中3万頭が使用されて居ります。役利用と泌乳量に就ての調査は後表の通り。

乳牛役利用と泌乳量 (26年度調)
1日5時間使用の場合 1日2〜3時間使用の場合
1斗泌乳 5升となる 1斗泌乳 変らず
5升泌乳 3升となる 5斗泌乳 変らず

以上から見まして,適当時の使役は何ら泌乳に影響はないのみか,牛の健康上からもいいのではないかと思いました。
 以上大要述べて参りましたが酪農に限らず,飼料の問題を解決しなければとうてい将来の発展性はないものと思わなければなりません。日本は相当長期間毎年多量の食糧を輸入しなければならぬ宿命的実情にあるのであれば,輸入資金を稼ぐ為の輸出額の約6〜7割が,生糸,紡績品,或は農水産加工缶詰に依存している現状から考えて,煉乳と飼料のリラ輸出の特別貿易が許されない限り,飼料の多量輸入は到底期待出来ないものと考えられます。そうした見方ばかりでなく,自家生産飼料を活用して購入飼料依存の考え方を改めぬ限り,真の酪農業は成立せぬと思われます。酪農,即ち農業と密接に結びついて,どちらを切り離しても役に立たぬ車の両輪の関係にありたいものである。つまり厩肥を増施する。農作物飼料作の増産,家畜に与える。畜産物を提供して呉れると言ったリング経営に持って行く事でありましょう。
 自給飼料の栽培が此処に上って来るわけです。然し乍ら耕地の狭い集約農業の現在では「主食の生産で手一杯であるから飼料やなんぞ作れるもんか」と言われるかも知れません。一応尤もな説だと思われます。日本の耕地600万町歩,農家戸数550万戸,平均戸当り1町余となりますが,それは北海道も入れての事で実際は6〜7反位であろうかと考えられます。此等農家が8,000万の国民を養う為に6,600万石程度の米を生産して居りますが,1人1年,1石を必要としましても1,400万石の不足を来たす訳でありますから,水田をつぶして飼料作物を栽培すると言う事は一寸考えられないかも知れません。が必ずしもそうする事が不利でないと言う事を申上げてみます。(第5図参照)

(第5図)

飼料作甘藷と米作カロリー生産比較表
         区分 生産量 カロリー 備考
作物名
甘藷 藷       1,000貫 4,162,000 甘藷作4,516,000カロリーを
水田から得れば米7石8斗,
ワラ1,500貫を要する。反収
3石1斗とすれば水田3反4
畝歩が必要となる。
蔓乳牛に与える 1,300貫 牛乳3石   399,000
2,300貫 4,516,000
米作 2石1斗 126,000
ワラ        500
126,000

即ち甘藷を作って乳牛を飼った方が遥かに有利である。次に収入関係はどうかと見ますと(第6図参照)

(第6図)

米作と飼料作の収入比較表
作別 生産物 収穫量 単価 価格
2反歩水田作 4石2斗 7,500 31,500
馬鈴薯 300貫 30 24,500
55,500
飼料作(2反歩) 大麦 160貫 澱 粉 価  285.8貫
ルーサン 1,500貫 可消化蛋白
デントコン 1,400貫 57貫,600匁
計 (牛乳) 24石 42 108,000円

 更に山野草の利用こそ大きな問題でありましょう。古来家畜は殆ど野生の動物であって山野の雑草を食って生きている事から考えて,此の山野草の利用は飼育の面に於て最も栄養的に生理的にも優れていると私は考えるのであります。2,3の草を拾い上げてそれではどの位の栄養価値があるか調べて見ましょう。先ず最も大事な蛋白質含量から,米糠,?等平均約12〜15%に比べて

豆科の萩類(乾燥)
やはずえんどう(〃)20〜24%
くず(〃)
菊科のよもぎ(乾)19%
禾本科のちがや(乾)7%

の様に決して米糠,?に優るとも劣るものでないのであります。更に野草には濃厚飼料に不足勝なビタミン,カルシウム分を多く含んで居るという事であります。ビタミン,カルシウムが家畜飼育上どれ程大切であるかは述べる迄もありませんが,ビタミンAの不足は発育不全,繁殖障害等種々の栄養障害を起して参ります。肝油1g中,国際単位で2,625になって居ります。それに対し白萩150,その他の豆科50〜100位含まれ,多いとされる玉蜀黎で8位であります。ビタミンAに於ても如何に多く含まれているか解ります。カルシウムに就ては普通の草で0.6〜1.5%含まれ,?や糠類で野草の4分の1程度しか有りません。カルシウムの不足は,骨軟症,クル病,食欲不振になり最も大きい障害である繁殖に響いて参ります。つまりカルシウムは骨成の組織と余剰な燐の排出をやる(燐酸カルシウム)のであります。此処で申上たい事は如何に多くのカルシウムを与えても,ビタミンDが欠乏していますと利用出来ないと言う事であります。然し此のビタミンDは又与えなくとも太陽の紫外線(午前9〜10時最多)に当てる事によって成生されると言う事です。皮下の物質(エルゴストローズ)の働きでビタミンDが出来て来るのであります。
 以上栄養的に考えて見て,山野草を利用する事が経済的であるばかりでなく,牛自体にとっても如何に合理的であるか解るのであります。然し問題にされるは利用するにして労働力の点でありましょう。私はその問題を,耕種の形態を変える事,即ち2・4−D除草薬を施用,並木植に依る畜力除草機の使用,或は動力の導入に依る脱穀調製,更に畜力の高度利用,甘藷,壟立,掘取り,中耕(カルチ),飼料作物の定植播に当っての耕起整地等,色々工夫して余剰の労力を作り出して居ります関係で,夏分の草刈はどうやらやって居ります。
 以上,私の未熟な研究の概略を申述べましたのですが,今後に残された問題として,170万町歩に及ぶ牧野と,2,500万町歩に及ぶ森林面積であります。此の面積の1割,250万町歩を有効飼料源としても此処に天恵的な新天地があるという事であります。今仮りにこの土地の25%66万町歩を酪農に割愛して国費50億の予算で開拓し,耕地の1.5割100万町歩に飼料作物を作付して酪農をやるならば優に100万頭の乳牛が飼養出来ると思われるのです。そうなると産乳能力を現在程度といて,年に1,200万石は楽に出産出来る事に成るのであります。その結果は国民も廉い牛乳が相当に飲め,進んでは海外に輸出し酪農日本,第2のデンマークの夢も実現すると思われます。石ころ以外何一つ資源を持たない而も寒冷地帯の丁株国民が,敗戦後僅か100年間で今日偉大な農業立国たらしめ,英国始め欧州各国に対しバター,チーズ,ベーコンの如き栄養食品をふんだんに供給している現状を見る時,吾々は大いになる感銘と反省を持つ必要があるのではないか。賀川豊彦先生の言われました「乳の蜜の流れる里」それはどんなにか豊かな協調性に富んだ郷でありましょう。それこそ私達農村へ課せられた最も大きい使命と期待であってなんでありましょう。情熱と若さの正義感に於て私達の我々のユートピヤを建設致しましょう。