ホーム岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和27年11・12月号 > 飼料作物の栽培 年間反収4千貫

飼料作物の栽培
年間反収4千貫

勝田郡河辺村 松永仁志

一.研究の動機

 農業従事員2名(内女子1名)で耕作反別1町3畝を耕し乳牛2頭を飼育して計画性のある酪農経営を志して,5ヶ年を経たのでありますが特に濃厚飼料の昂騰と乳価の下落傾向は私の酪農に対する考え方を一変させなければ到底農業経営そのものが成立されないと考えられましたので大約次の様な計画を立てました。

二.研究過程

 1.飼料費の節約を計り,しかも飼料総養分量を維持する。
 2.飼養に要する労力の節減を図る。
 3.主穀作物を収量しできる限り現状維持させたい。
 以上の要点の内特に(1)を具体的な実行手段にうつすためまず乳牛飼育費出費の調査を実施しました処,次表のような結果が得られました。

(第1表)平均乳価1升45円(自昭和25年12月1日至昭和26年11月30日) 1ヶ年の乳牛飼育費割合表

金   額
自給飼料  37,822円 29
購入飼料 38,445 30
自家労賃 18,540 14.5
牛等償却費 18,000 14
診療種付費 2,870 2.5
その他 12,945 10
総支出額 128,629  

 第1表により検討しますと乳牛飼育費の59%が飼料費であるとともにその購入飼料費も又30%の多額にのぼっておりますため,次の様な方法をとりました。

(第2表)圃場見取図

三.目的達成のためにとりあげた手段方法

 それは耕地の一部で有利な青刈飼料を栽培して家畜を飼育する緑餌法を採用しこれを最も能率的に給餌して養畜生産をあげると共に野草の刈取(草生を改良してない)に要した労力を節減し併せて飼料総養分量の低下を来さない様にするため,下の様な一連の輪作様式を実行した。

輪作表

 第2表のイの圃場は面積6畝の排水良好な埴壌土の水田でありますが用水に多大の不便を感じておりますため,畑状態におかれており,これを試作輪栽圃場にしてイの輪栽様式を実行しました。この要点及び栽培方法は第3表のとおりで,反当の養分総量の向上を図る事と,地力維持を考え必ず荳科の作物を混作しております。特に第2回目の青刈大豆,青刈玉蜀黍の収量が減じておりますのは昨年夏期の乾燥過度が原因しておると思います。又全般的に見て玉蜀黍と大豆の混播における大豆発育不良の原因は玉蜀黍の株間の短か過ぎる点と,大豆の播種量が少ないためと思われるので,私は玉蜀黍の株間を7−8寸になるように本葉4,5枚の頃間引いたことと,大豆の播種量を反当6升位にしてその欠点を補っております。又玉蜀黍と大豆を混播し,播種期を同一にしておるのは労力の省略と玉蜀黍の生育大なるための大豆初期の日照不足を防ぐためです。

(第3表)飼料作物栽培収穫及成分表

種別 播種期 反当
播種量
播種量反当施肥量 管理 収穫期 反当収量 固形物 可消化
粗蛋白 質
澱粉価 備考
畦巾 株間 厩肥 牛尿
青刈大豆 混作 4月17日 6升 3尺 7〜8寸 300貫 117貫 中耕・間引・土寄
各1回施肥3回
7月2日 660貫 1,620 316.9 27.84 142.68 エンシレージ
玉蜀黍 3升 960貫
7月1日 100貫 120貫 中耕,土寄1回
施肥   3回
9月8日 230貫 780 147.5 11.21 64.45
550貫
燕麦 混作 9月11日 4升 3尺 200貫 150貫 中耕   1回
施肥   1回
第1回
11月4日
200貫 220 50.4 4 23.8 冬期飼料
ザードウィッケン 2升 20貫
切藁50 288貫 中耕   2回
施肥   3回
第2回
4月3日
310貫 390 87.92 6.74 38.6 端境期飼料
80貫
192貫 中耕   1回
施肥   2回
5月11日 350貫 435 98.2 7.45 43.07 エンジレージ
85貫
燕麦 間作 9月8日 2.5合       100貫 中耕   1回
間引   2回
12月5日 680 74.12 6.8 44.88 冬期飼料
青大
                4.125貫 775.04 64.04 357.48  

(第4表)飼料価値表 養分計算の基礎参考までに

種     別 固  形  物 可消化粗蛋白質 澱  粉  価
青刈玉蜀黍 17.2 0.7 7.3
青刈燕麦 23.2 1.4 10
青刈大豆 23 3.2 11
ザードウィッケン 20 3 9.5
カブ 10.9 1 6.6

 次に試作的に調査しました玉蜀黍単作の場合と大豆混播の比較は第5表のとおりで,その全収量に大差は認められないが飼料価値そのものに非常に大差があることが分ると思います。

(第5表)玉蜀黍単作と大豆混作の収量及飼料価値

種     別 播 種 収 穫 反当収量 固 形 物 可消化粗
蛋 白 質
澱 粉 価
玉 蜀 黍   混 作 6月17日 8月12日 玉840 (1,140貫) 103.4 15.48 94.32
大  豆 大300
玉蜀黍単作   1,160貫 198.36 8.12 84.68

 次に飼料用のカブでこれは青刈燕麦とザードウィッケンの混播したものの間作として栽培しました。畦間を3尺に広くしておりますのでこの間作はかなりの成績を上げられましたが,施肥量を多くし厩肥400貫牛尿200貫位施用したかったと思います。
 燕麦とザードウィッケンの混播栽培における私の改良点は施肥と刈取りにあります。施肥止の要点は冬期の刈取後の窒素質肥料(速効性)の控えめな施肥による草丈徒長による寒害防止と防寒のための堆厩肥(切藁)散布であります。多くの人が刈取後の早急な丈伸長を希望するあまり速効性窒素の過施を行いかえって寒害による減収を来たしておるのを私はこうして防いでおります。
 次に刈取の方法でこれは常に地上3−4寸の処を刈って居ります。特に生育良好なものはこれ以上の高い処を刈る様にしてその切口の状態には特に注意し刈取後の発芽を完全ならしめて居ります。
 ロの圃場は畑土性,埴壌土,面積8畝,輪栽の様式はロの方法であります。昨年の小麦跡地を二分し半分は甘藷と麦の輪作を行い,残りを青刈玉蜀黍,飼料用蕪青,青刈大麦,ホーレン草と次第に蔬菜園に変更して行く予定です。現在ホーレン草を作付けしています。之はイの飼料圃がほぼ初期の目的を達し飼料自給態勢が確立出来た為であります。
 青刈大麦は4月上旬から逐次刈取ったので収量は確定出来ないが反当400貫前後であった。
 ハの圃場は排水中等の埴壌土の田で面積6畝22歩あり10月中旬に麦の間作となすべく青刈蚕豆を播種し4月中旬に刈取り反収480貫を得た。
 ニ,ホの圃場は交互に紫雲英と麦を裏作とし紫雲英反牧800貫程度の収穫を得た。
 其の他畦畔,山野にクズレッドクローバーを植付けて居りますが,未だ発表する程の収量は挙げて居りません。
 以上をまとめて見ますと次の様になります。

圃場別年間青草収穫量

圃場の種類 圃場面積 年間青刈飼料総量
 6畝  2,475貫
 8畝  1,320〃
 6畝22歩   330〃
3反7畝  2,160〃
4反7畝22歩  6,215〃

 以上の外に畦畔,山野草を併せますとほぼ2頭の乳牛に給する青草量は満足させてはくれますが,前表の通りイの輪栽圃場が如何に重要なる意義を有しているかが明白であります,又前輪作に要した経費は第6表の通りであります。
 毎年購入飼料(濃厚飼料)は昂騰する。11月より翌4月までの乳牛1頭当りの飼料費を緑餌法(Green Soiling)の合理的実施前後に分類して表に現わして見ました。

(第6表)飼料作物栽培費

種     別 数     量 単     価 価     格
厩肥 600貫       5円   3,000円
牛尿 775貫 3 2,325
(種 子) 玉 蜀 黍   6升 90 540
大豆 1斗2升 95 1,140
燕麦   4升 75 300
ザードウィッケン   2升 250 500
カブ 2.5合 30 75
自己労賃 203時間 10時間 250 5,075
牛労賃 17時間 10時間 300 510
合     計       13,465円

(第7表)乳牛飼養標準(維持飼料)

体     重 固  形  物 可消化粗蛋白質 澱  粉  価
 120貫 1.9−2.6  60匁  576匁
140 2.2−3.0 70 572

(第8表)

  実 施 前
25年11月〜26年4月
実 施 後
26年11月〜27年4月
備     考
金 額 同左% 金 額 同左%
自給飼料額 23,065円 32% 19,900円 37%
購入飼料額 20,886 29 11,790 21
用畜栽培労賃 8,940 12 8,215 15
其の他 9,915 14 4,880 9 種付費共済組合掛金,器具償却光熱費敷ワラ
牛の償却費 9,000 13 9,000 18 牛舎を含む
71,804 100 53,785 100 各年の合計を100として計算
産乳量 13,710石 91.8 14,926 100 実施後を100として計算
乳価 61,713円 85.1 72,464 100
脂肪率 3.5 110 3.16 100
産乳1升当生産費 53円40銭 144 36円610銭 100