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昭和28年 回顧と抱負

回顧と抱負

 昨年を振り返ってみても,意気込んでいたことも大したこともなく,平々凡々裡に暮れてしもうたことを思うと,誠に「昭和27年の抱負」なるものが汗顔の至りと相なる。
 而し元来が畜産奨励と言う分野は地道な部類であり派手な実績を期待することもちょっと無理な話ではある。
 ところでこの一年間を通じて極く大ざっぱな所産や変化を御知らせし,そして本年の夢を少し述べて見たい。

回顧

 先ず大家畜の方で27年度は普通言われている「改良増殖」を「増殖改良」の看板で呼びかけたが,増殖の方ははっきり現れてきた。和牛の例でも確か一割の生産増を見込んでいる。改良はどうかと言えば,乳牛,和牛共郡単位,県単位の共進会を通じてみて上位のものと下位のものとの著差がなくなってきた。つまり均等化して全体的レベルの向上してきたことである。之は誠に良い傾向で,改良の実績を立証したと言うことが出来る。
 販売,消流はどうかと言うと,之は有畜農家創設の事業の波に乗って誠に活発な動きを示したと言える。和牛の県外移出は約3,000頭,乳牛の導入が300頭,緬羊が約700頭と大巾に動いて居り,和牛では生産地に県外より入った金は1億数千万円に達している。
 販売面の「せり市場」も秩序とか方法に改善の跡があるが,未だ古いところがないでもない。商品市場として体面なり顧客の便宜を考えた進歩的な方向に刷新して貰い度いものである。畜産物の取引関係で最も問題となるものに,牛乳がある。牛乳も特に原料牛乳の取引である。輸入バター問題が国内生産の不安定性をゆるがし,酪農家をおどかして以来,乳製品の売行不振と原料高とかに伴って,そのシワヨセを生産者にかけようとする傾向が強くなった。そして乳価の値下を既に実施している地方もあるが,岡山では一部を除いて未だ全国的な最高価格をつ張っている。然し之は客観状勢より永続性はあるまいと思われる。むしろこの原料乳の取引価格が企業資本家間の弱肉強食的な手段にろうせられない中に,生産者側との間に適当な安定価格を協定する要がある。
 肉類でも,下半期以降所謂需給関係と価格はアンバランスの状態を露呈してきた。小売値の傾向と生産者価格では相当の開きも見られている。
 消費層と購買力に限度があると言うがまだまだ消費量の拡張はもってゆけるしその手段にも問題は残されている。
 中家畜の方では取り立ててみるべき実績はなかったが,改良の為の種牡畜の配置と優良種畜の導入は相当実施された。山羊と緬羊に登録事業実施の緒についたことも収穫の一つである。前回にも述べたように中家畜には発展途上にあるが,どうも積極的にリードする人が少く,従って組織力にも乏しいことが推進を低めていると思う。
 小家畜は昨年の鶏卵出荷量210万貫に及び季節的価格の変動をみて集計した金額は約15億円に達するが,この他の洩れや自家用を計算に入れると約20億円に推算される。県下農産物中米麦を除いては20億円の産額を示すものは殆んどない。
 この養鶏界では民間の要望に応じて種畜場の検定舎や種鶏舎の整備をした。そして一面販売面では一円の鶏卵業者が統合し,協同組合化した共同出荷の態勢が生れて着々と軌道に乗り,市場価格を高めて来た事は同慶の至りである。
 カナリヤは畜産界でのドルかせぎの王者としてアメリカに空輸されているが,昨秋池田牧場に御降嫁になった順宮様を慶祝して全国カナリヤ共進会を催されたことも特筆に値する。
 牧野関係は幸,国庫補助により県下9,000余町歩が改良の対象となり,逐次整備を着手されんとしてきた。
 自給飼料にはとりあげて目立つ施策も実施されなかったが,全般に飼料の自給認識が強まり,草生改良やサイロの利用飼料作物の栽培等が浸潤してきたことは否めない。
 有畜農家創設事業は昨年中最も手数と金と時間を要した仕事であった。この効果には色々あろうが,先ず挙げられるものに家畜の価格をつり上げて生産者側を潤したことであろう。そして次に畜産行政の中にも一応脚光を浴びた施策として認識され,そしていざやろうとなると如何に煩雑でその割程の恩恵に乏しかったと認識された程度であろう。
 県外移出は順調であったが,県内消化は余り香しくなく,たらふくほほばったが下剤を飲まねばならないような始末である。

抱負

 さて,来るべき年には色々な課題が山積している。
 国際,国内の諸状勢が如何に展開するかは余談を許さないが,来年の産業部門には何らかの傾斜的傾向が現われるのではないだろうか?そうした風の吹きようではどんな夢もうたかたの泡と消えなければならないだろうけど……世上「大砲かバターか」とおどしをかけているが我々の使命はひたすら「バター」への道にこそ邁進しなくてはならない。
 ここで国の農林政策で一応不変の大綱は「食糧増産」であろう。この線に沿うて最も貴重な動物性蛋白と脂肪とを受けもっているのが畜産である。
 家畜の増殖には常に飼料問題が先決課題であることは説く迄もないが,その飼料は現状の儘では絶対に不足している。
 これを幾分でも克服することが家畜増殖のキイポイントであり,此を解決するのは飼育農家自体でなければならない。
 つまり自給飼料の計画的増産,草の改良等が本年の最も大切な課題として考えねばならない。
 次に家畜の改良増殖になる。先にも述べた様に之は逐年実績の向上があるが,未だ未だ目標には程遠い坂道を登りつつあるとみなければならず,手を緩めればたちどころに元へ戻ると言うことになる。
 そこで依然として種畜対策を維持し,種畜の検査を一段と厳にすることも必要だろう。そして更らにこの種畜対策によって生じた仔畜の検査について合理的な施策を講じていくならば,画龍点晴と言うことになると考えている。
 こうした基本的な方針のもとに,家畜別な重点指向は酪農振興と中家畜の改良増殖に負重することになろう。而し之にはあくまでも立地条件や経営の基礎条件等を配慮した健全計画によらなければならないことに変りはない。
 本年秋は和牛の全国共進会,又和牛以外の家畜は中国府県連合共進会を夫々広島市で開催される予定になっている。
 こうした大きな共進会の成果は直接,間接に本県畜産界の志気を支配するし,又生産,販売等の経済的関係に大きな影響があるので,関係方面一致した努力を期待したい。
 次に家畜及び畜産物の消流である。
 家畜の取引には市場があり,商人がある。この取引方法には全国的な政善の機運がないではないので,その線に沿うて一段と合理的な方向を見出したい。畜産物には協同組織化による組織活動の態勢強化を推進したいと思っている。
 畜産加工の部門でも農村工業的より企業的な部類に迄未だ発展の余地がある。
 こうした盛沢山な問題の外に畜産推進の実行機関たる畜産団体の強化充実は最も切望したいものの一つである。若し仮りに各家畜別の系統団体が大同団結して夫々長短相補い運営の妙を発揮するならば,経費の節約と事業内容の充実が出来て全力も生れてくるのではなかろうかとも夢みている。
 時代の波が行改部門,民間団体,又生産企業其他凡ゆる業態に如何なる圧力で当っているかを思い併せて,早晩何とかならないものかとツラツラ考えさせられる。