ホーム岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和28年1月号 > 昭和28年 回顧と抱負 乳牛

昭和28年 回顧と抱負

乳牛

 夥しい昭和27年もすぎ,秋の収穫を終った農家においても,終戦以来永い間神棚に置き忘れられていた置物牛の塵を払い,新らしい七五三飾りをはり,戦争のない平和な昭和28年の新春を迎えられたことと思う。
 新らしい酪農計画を樹立して各位の指針と致したい。
 昭和28年の計画を樹立するに当り昭和27年の足跡を顧みれば,相変らず当面の雑事処理に忙殺されてしまったのであるが,3つ4つ大きい処を拾ってみると次のものがある。

 一.牛乳の消費量(飲用量)が著しく増大した。

 申すまでもなく牛乳は最高至上の栄養食品であって,平和を愛好する人種の平和食糧である。偉大な体躯も賢明な頭脳の働きを支配するものも健康からであり健康即幸福である。夏期6,7,8月の3ヶ月間における県下82ヶ所の市乳処理場より市乳として処理された飲用量を示すと次のとおりである。
 昭和25年度は 1,500石
 昭和26年度は 2,281石
 昭和27年度は 6,443石

 二.乳牛の頭数と牛乳の生産量とが増加した。

 有畜農家創設事業の普及徹底と岡山県酪農協会並びに単位農業協同組合の活動により優良乳牛の導入,保留家畜商の協力,人工授精技術の向上,第一線における関係指導網の活躍により予期以上の頭数増加と牛乳生産量の増加を示した。殊に乳牛の飼養管理,乳牛相牛眼,乳牛医学等著しく向上し,1頭当りの泌乳量が増加した。

 三.乳牛の利用面を拡大した。

 酪農家がややもするば搾乳専業者的飼養管理を行い,搾取飼養法であったが,牛乳もよく自家消費し,役利用も行い厩肥の利用を研究し,牛乳一升尿一升と言う位いまで排泄物の肥効に意を注ぎだした。殊に役利用によって乳牛の新生面を開拓,再認識し,経済的飼養年限の延長につとめ,乳役兼用牛を作出した。

 四.乳牛改良に懸命となった。

 よい牛はよい種雄牛から,牛の改良は人工授精から,人工授精は優秀なる技術から,と酪農家と言わず専業者と言わずこれらのことに対し活発なる批評と要求が高くなった。殊によい遺伝因子を有する優秀種雄牛の設置要望が溢出したことである。照会の主なるものを列記して見ると,種雄牛の系統調査,精液払下について,各個体別の長所短所について,配合選定相談,蕃殖成績等で聞合わせが多くなった。

 五.自給飼料の増産に目ざめ共同精神が昂揚した。

 購入飼料が暴騰しても一向乳価は上昇せず,かえって海外から安い乳製品が輸入するのではないか,将来は値下りかをほのめかされて心ある酪農家達は,よい牛乳を沢山誰れよりも安すく生産せねばならないとのスローガンの下に生産費の引下げに自から目ざめた。購入飼料に依存せず,自給飼料の増産確保に懸命となり,あくまで牛は草から作るものだと言う主義で飼料作物の栽培,飼料圃の輪作利用,草地の改良並びに共同利用,サイロの建設,乾草の調製等に力をそそぐようになった。

 六.酪農に政治力が反映された。

 農業経営の改善は食生活の改善が第一であって,如何に沢山の牛乳が生産されても,牛乳を飲まねば牛乳生産の要はない。米が如何に増産されても,米の需要がなければ生産のようはない。限りある国土の資源の綜合活用をはかっても,現在の国情では国内の自給確保は容易なことではない。日本の農業生産力を最も手早く拡大生産に移行さすものは家畜の生産力を利用することであって,家畜に人の食糧を生産さすことが最も有利な手段である。家畜の中でも最も生産力の偉大なものは乳牛であると言うことが再確認されて,為政者も学者も乳牛と牛乳に対する感心が多くなった。県議会における酪農問題も力強き歩みを示している。この外酪農講習所の設置計画,乳牛共進会,牛乳共励会,乳牛高等登録,乳牛審査講習会,乳質改善共励会等実施し,先ず大体において意義のあった年である。
 以上,昭和27年の大要を終り,昭和28年度の抱負を次に述べて見る。

一.酪農の第一目的を農業経営の改善合理化において適地に対し重点且つ集団的に普及する。
二.酪農技術の改善と中心指導者の養成を図るため酪農講習所を設置する。
三.優良種雄牛のけい養により個体の改良と共に優良種雌牛の保留を奨励し系統蕃殖を励行する。
四.生産物の消流の円滑化を図る。乳質の改善を図り牛乳の消費宣伝を行い学童給食用に協力する。

 以上が根本的方針であって,措置としては,

 一.根本酪農立地計画の樹立

 犢の育成地帯,市乳供給地帯,乳製品の原料乳供給地帯の如く地区を設定して乳牛の導入,生産物の消流等一切の施策を実施する。

 二.増殖目標

 乳幼児の必需食糧の確保並びに国民食生活の改善上牛乳及び乳製品の増産利用を図ると共に農業経営の合理化を期し,適地に集団的に酪農経営を普及促進するため飛躍的増殖を図るのであるが,過去の飼養実績と各製酪工場の能力,市乳の消費能力等を考慮し,増殖目標を6,000頭とし,有畜農家創設事業と睨み合わせて10年後にこの頭数に達成すると共に産乳量10万石を目標とする。

 三.改良増殖対策

 (1)増殖対策
  (イ)生産率の向上を図り,岡山,津山を中心に全面的人工授精,受胎率の向上
  (ロ)家畜保健衛生所の敏活なる活動により蕃殖障害の除去,検診,治療飼養管理の改善,知識の普及による生産増加
  (ハ)県有種雄牛の充実
   優良種雄牛の更新と精液の配布
  (ニ)優良種雌牛を積極的に導入し,系統蕃殖を行う。
 (2)改良対策
  (イ)乳牛共進会
  (ロ)乳牛登録事業,優良系統の保持利用
  (ハ)優良基礎牛の保留制度,蔓牛の造成
  (ニ)種畜生産地帯の設定,生産仔畜の計画配布
 (3)酪農指定町村の設定
  (イ)特殊地区の指定と集中指導
  (ロ)部落単位のグループ活動を活発にし,共同精神を発揚させる。
 (4)技術指導対策
  (イ)酪農講習所の設置
  (ロ)グループ活動の中心指導者を養成する。
  (ハ)酪農技術者,特に県,郡等の指導者を養成する。
  (ニ)乳牛医学の臨床講習会を開催して乳牛の疾病損耗を防止する。

 四.経営の合理化対策

  (イ)生産費の軽減を図るため自給飼料の増産利用,草地の造成,牧野の改良,サイロのの建設等経営の主体化を図る。
  (ロ)地力の維持向上
   堆肥者,畜舎の改善による厩肥の積極的活用,乳牛の役利用,労力の調製等図る。
  (ハ)原料乳と市乳との結合を図り,市乳消費の円滑化による乳価の維持を図る。
  (ニ)牛乳の利用面を拡大し,自家消費を多くする。

 五.牛乳の利用増進対策

  (イ)牛乳及び乳製品の消費宣伝,乳質改善共励会,牛乳祭等の開催
  (ロ)集乳所の設置
  (ハ)学校給食会を援助し(全乳,脱脂乳)学校を通じ,家庭消費の促進を図る。
  (ニ)牛乳料理の講習会を開催する。

 六.金融対策

 有畜農家維持創設事業の普及徹底,優良牛導入補助,家畜共済の活用になる損失補償等促進実施する。

 七.飼料対策

 自給飼料の増産をはかるため草地の造成改良,牧野改良,飼料圃の設置,飼料作物の栽培,サイロの建設,乾草の調製農場副産物の完全利用を図る。