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乳牛の不受胎について

津山畜産農場

 元来乳牛は和牛に比べて受胎率は幾分低いのであるが,今年は特に夏以来目立って不受胎の牛が増えて来た事は事実で将来大いに飛躍せんとする本県酪農界の頭痛の種となった。特に県北部の新興地帯には,その打撃が非常に大きいのである。
 偶々11月21日津山市に於て美作地区13ヶ所の家畜保健衛生所,県畜産課,津山畜産農場の各係員が集り研究会が開催されたので,その席上,此の問題について種々研究討議されたので,其の要旨を記して参考に資したいと思う。

不受胎の原因について

 受胎現象は,精液,発情雌牛の状態,注入技術,此の三者がうまく行われて初めて受胎するもので,其の何れかに欠陥があっても,不受胎に終るのである。この三者についてそれぞれ検討した結果,不受胎牛の大半に蕃殖障害疾病が認められると言う事実である。
 特に

 一.子宮内膜炎(然も潜在性のものが多数発見される)
 二.卵巣嚢腫
 三.卵巣の機能減退
  イ.濾胞の発育の悪いもの
  ロ.発情が3日−4日続くもの(排卵期の非常に遅いもの)
  ハ.発情の非常に弱いもの
  ニ.発情週期のまちまちのもの

 こうした疾病が受胎率低下の主因をなしている事は確かである。
 何故こうした疾病が多いか,原因としては色々の事が考えられるが

 一.栄養の低下
 二.冬期間に於ける飼養管理の失宜
 三.運動の不足
 四.夏乳の過度搾乳と飼養管理の失宜

 こうした事が蕃殖障害疾病の誘因と成っている。特に昨年晩秋からの飼料価格の暴騰は自ら給与量の不足を来した反面自給飼料の充分なる給与も出来ず栄養状態が悪いまま分娩期を迎えたもの,又冬期の藁を主体にした飼育はビタミン,カルシウムの無機物の不足を来し,しかも晩春から初夏にかけての専業者的な夏乳をねらった搾乳が多かった事が一層母体を弱らして,その結果として発情が遅れるもの,或は微発情牛が増加した事等も考えられる。又卵巣嚢腫の原因についても従来色々と言われていたが,最近は生草類の不足,糠類の多給が主因をなしていると謂うことが言われておるので,吾々は一層自給飼料について再認識し,計画的な給与をしなければならない。

静岡県の丹那地方は昔から有名な酪農地帯で

 此処では一年中牧草或は根菜類,青刈類を上手に輪作して給与しているが,これは「コストを下げる為より寧ろ仔牛をとる為に喰わすのだ」と村の指導者は語っていたが味わうべき言葉だと思う。又一面他郡或は他県よりの導乳牛にこうした病牛が多いことも新興地帯の大きな悩みで,購入時の健康検査はゆるがせに出来ない問題である。

この対策について先ず考えられる事は

一.飼養管理の改善
二.生草類,乾草類の給与
三.運動の励行
四.疾病に対する完全なる治療

 等である。
 最近酪農家の牛舎をのぞいて見ると,単味の濃厚飼料の給与が多く見受けられる。これは飼料高から来た現象であるが栄養的に偏重を起し,決してよい結果はもたらさないから,少くとも2−3種類以上は配合して与える事が必要である。特にこれからの藁を主体とした冬期の飼育には充分気をつけねばビタミン,カルシウムの不足を走し易い。北部地方は折角草資源に恵まれているのであるから,しっかり乾草を作って冬喰わす事が最も良い方法である。

生草類,乾草類の給与は

 単に生産コストの引下丈でなく消化障害を起すこともなく,牛を痛めず長く搾乳することが出来るのである。吾々は上手に飼料作物の作付計画を樹てて年間,特に冬期の給与に,万全を期せねばならぬ。又子宮内膜炎特に潜在性の内膜炎が多いがこれは,発情末期になって粘液が幾分混濁して来る程度で,とかく見逃し易いのであるが,粘液が幾分でも濁っている場合は必ず獣医師の診療を受け,完全に治療をして置かねばならない。又微発情,不正発情,分娩後3ヶ月位にして尚発情せぬ場合は,一度獣医師の診療を受け適切な処置を望まねばならぬ。

結果として

 この問題についてはまだまだ研究せねばならぬ点もあるが,然し日常の飼育管理についても以上の様な諸点について大いに反省工夫せねばならないのと,人工授精施術者の技術についても益々研究向上を図らねばならない点もないではなかろう。将来一層努力して受胎率の向上を図り,本県酪農を伸して行くことが目下の急務であると思う。