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種鶏改良の方法

田中義磨 述

 まず私の今日のお話しの順序を申し上げます。
一.鶏と蚕とトウモロコシ
二.種鶏改良の目標
三.種鶏改良の方法
 A.親の年令
 B.集団淘汰
 C.後代検定
 D.実用鶏と基礎鶏
 E.種鶏遺伝研式
  a.総当り式
  b.短期検定
  c.周年検定

一.鶏と蚕とトウモロコシ

 岩手の橋本善太氏は蚕種製造家が本業でありますが養鶏では岩家氏と相並んで日本では双璧と言われて来た人であります。橋本氏御自身では蚕で儲けて鶏で損をしておると申しておられますが自分の気に入れば誰にでも種鶏を分つと言う風です。この方は視察に見えた方が気に入ればよく話し,又「失礼ですが遺伝のことおわかりですか」と尋ね,よく判らない人には「蚕の遺伝講話を読んでからお出で下さい」と申されると言うことを山中潔氏が書いておられました。この本(蚕の遺伝講話)は私の書いたもので10年位前に出したものですが蚕と鶏と一脈相通ずるものがあります。
 近頃アメリカや日本で鶏の事を書いたものの中にはトウモロコシの雑種のことが沢山出ております。ハイラインはトウモロコシ会社の研究結果出来たものであります。日本におきましてもハイラインと同様の研究をするような気運が台頭して参りました。このトウモロコシはヘテローシス(雑種強勢)を利用して作出されたものであります。しかし日本ではこの玉蜀黍の作出される─約10年前即ち今から40年位前の1910年頃にこのことが判っていまして,一代雑種が有利であると言うことから研究が起りました。御承知の様に数年の間に蚕は一代雑種の研究がなるに至りました。この事は毎年の統計がありますし,よく判ります。アメリカでのトウモロコシの雑種の研究は約10年後れて今から30年位前から行われ,日本の蚕を手本としてトウモロコシが研究されたと考えても無理な想像ではないと思います。
 遺伝の原理は同じでありましても動物と植物との間におきまして違う点を申しますと,トウモロコシでは自家授精ができますが動物つまり鶏では異ります。そこでハイラインを手本として鶏を改良することはまわりくどく,蚕を手本とすべきであります。蚕と鶏との間の関係はトウモロコシと鶏との間の関係より密接であります。私が現在の仕事に2年前から関係したのはこのためでもあります。

二.種鶏改良の目標

 目標があまり多いと,改良が困難になりますから出来るだけ減したらと言う考えです。そして種鶏改良の目標は多産にあります。多産と言うことについて次のことが考えられます。
@早熟性,A産卵速度,B休産,C就巣性,D持続性であります。これについて考察を試みます。

(1)早熟性(性成熟期)

 早熟であれば多産であるということは疑問であります。アメリカでは孵化500日間の産卵数をしらべた場合を出していますが,かかる場合は生産が高いと言う結果が現われ勝ちです。日本では初産後又は11月1日から1年或は350間と言う風に期限を切った検定をしておりますのでアメリカと異ります。この点から日本では早熟のものは卵小とかその他から考えて多産の条件に入れるのはあやまりであります。近頃は初産を押えて行くと言う傾向さえあります。勿論210日も220日もかかって産むというようにおそいのは別でありますが,140日とか145日と言う早いものは歓迎すべきものではありません。

(2)産卵速度

 3つのうちで連産性(産卵強度)が一番重要で,長く連産することが一番であります。この計り方については問題がありますが,つまり周期が長い場合やこれと逆の場合がありまして,どのようにして連産性を現したらよいかについては未だ研究の余地があると思います。

(3)冬期休産

 冬期休産性のないものを取ることが必要であります。多産系と休産系の遺伝因子が結合していますから,休産系の因子を分けて除去する必要があります。ですから,冬期休産のみできめることはできませんが,しかし一般に冬期休産のものは淘汰した方がよろしい。

(4)就巣性

 次に就巣性でありますが,白レグ,ロックは就巣性がないのが普通で取立てて就巣性を云々するのは時世おくれと申さねばなりません。就巣するような白レグは淘汰すべきであります。
 以上から考えてみまして,後に残るものは連産性,休産,持続性の3つであります。

(5)持続性

 翌年の秋早くから休産するのはよくありません。換羽と多産性は或程度の相関があります。橋本氏も早くから唱えておられます。農林省の大西技官も同様に言われております。おそく換羽するか換羽し乍ら産卵するのが能力が高くなっています。持続性と多産は関連があるものと考えている者が多く,これを多産鶏に取り入れなければなりません。ただこまったことには一年近くもたたなければ判らないことです。もっと早く知ることは不可能です。結局以上5つのうちで連産性であることに第一の重点をおくべきであります。もう一つ付け加えたいのは卵重であります。個数と重量は同様条件で取引されております。そこで目標としては連産性と卵重であります。

三.種鶏改良の方法

 どうしたなら一日でも早くよい鶏ができるかを考えてみたいと思います。

 A.親の年令

 若雌から種卵を採れば小さくなり又死ぬる率も多いと言われていますが,だんだん年令が老いた鶏でも,どんなに若くても遺伝学から考えればおとっていません。しかし初産後の1ヵ月や2ヵ月の卵の結果は一応悪いと認めなければなりません。この若雌が翌年大卵から採ったものが2−3年たった卵に劣るかどうかについて考える場合,若い鶏から採った鶏は能力が低いとか,年をとった鶏中年のものの能力は高く叉老年からとったものは悪いというようなことはないと私は信じております。初産後満1年から採った卵は悪いとするならばそれはその人の技術の悪い問題であろうと思います。
 今まで私の知っている点については証明されていません。親の年令は仔に関係しないと思います。このことについては人間も同様であります。25才−35才の一番健康な状態時の子供が一般に良いと言われていますが,これは俗論であり,根拠のないものであります。これは25才−35才に産まれる子供の数と比較してこの年令以上か又は老年になってからよりは25才−35才に産れる子供の数が多く,数を無視したものでありまして,比率においては関係ありません。所謂遺伝的に変りのないのと同じで,健康年令には関係ありません。このことについては鶏も同様であります。

 B.集団淘汰

 鶏を優,良,可,否と分けた場合,否を棄てるのが集団淘汰であります。これは古い旧式なやり方であります。近頃集団遺伝学がでてきて,この立場からみますと集団淘汰もよい意味をもっています。この方法で行きますと何代も続けて,10代も15代も行いますと4つの段階が変って来て否の割合が少くなり,優が増えて来るという調査から又この問題が目下アメリカで研究されています。しかし何羽かの問題を考えなければならないことで,数の多いときはよろしいが,少いときは次の後代検定によらなければなりません。

 C.後代検定(系統淘汰)

 優,良,可,否に分けたとき,否は無論捨て,優,良,可の仔の能力を判断すると,優の親の仔でも仔が悪い場合は淘汰します。増井博士も実例を報告され,優が悪るく,可がよい場合もを報告しておられます。2位の良の仔が良ければこれを残し,代々これを行い仔の結果によって親を残すか捨てるかします。雄の場合は仔の能率等をみてから親雄を淘汰するか残すか定めることとなります。そこで雄の淘汰については一代おくれるわけでありますが,理屈は同じであります。
 しかし親雌に交配した雄がどんなであったかが問題であります。大西技官の言われる方法では,新しいのではありませんが,今この雌にどんな雄を交配したらよいかといいますと,これに劣性の雄をかけると雌の優性因子が仔に現れて来ます。この仔が悪い場合は仔を捨てなければなりません。この方法で遺伝構成が判断できる訳ですが,しかしこの方法は利用率が少い欠点をもっています。このため経済的に損失であります。そこでこの欠点を止めるために一つの無選択の集団から雄を取って行うのであります。しかしこの場合少数の場合は誤差が少くなります。又雌の場合も無選択のものから採って雄に配することを大西技官は推奨しておるのでありますが,相当多数の鶏がある場合はよろしいが,利用率は悪いのであります。そこで私は理想的ではありませんが優良系から雄を採って雌に配すればよいと思います。

 D.実用鶏と基礎鶏

 産卵度が高いが小卵であると言う欠点をもつ場合が多く,大卵で多産であるということがよろしいが思う様には行きません。そこで卵重のある多産鶏であれば基礎鶏とし,又健康で早く太るもの等も基礎鶏とし,実用鶏を作って材料として持っておくとよい。この基礎鶏を試験機関或は個人研究者等で作って持っておき,これを原種又は材料とします。

 E.種鶏遺伝研式
  a.総当り式

 現在私の処で各地から十系統集めましたが,これを雄雌とも掛け合わせて,親の真価を確めて見るのであります。つまり全部の雌に一つの雄を組みあわせるわけであります。この形式が一番よいと考えます。このことについて私が行いました蚕におきましては世界新記録をもっておりますし,鶏もこの総当り式がよい結果を現すものと確信しております。これは大学リーグ野球試合と同じでありまして少くとも1回は誰とも試合をすると同じで中学野球試合とは異りまして,誤差を少くすることができます。

  b.短期検定

 現在の一年かかるのでは日数がかかるから,3−4月位に能力を知るにはどうしたらよいかであります。産卵後4月−5月の成績を適当に取り,全部の総計ではなく一部2,3ヵ月をもって能力の判定をする方法をとっています。

  c.周年検定

 比較材料がないので私の処の結果を土台として構成を如何にしたら周年検定できるかについて研究しています。

  質疑応答

〔問一〕雄の性質は子の雌に伝わり,雌の性質は子の雄に伝わると言いますが,どうですか
〔答〕産卵性が伴性遺伝するという証がありません。雄に重きを置くことは私は関係がないと思います。しかし雌ロックと雄白レグと交配した場合を考えますと毛色については伴性遺伝して白色が強く出て来ます。

〔問二〕正交配と逆交配による産卵性との関係について
〔答〕今のところ判っきりした根拠がありませんから産卵性には影響しないと思います。

〔問三〕早熟性に付いては
〔答〕150日−160日の間が性成熟としてもっとも好ましいと考えます。

(27.12.9 岡山種畜場における講演要旨,文責在記者)