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乳牛のお産と搾乳

岡山県酪農協会

 有畜農家創設要綱によって新しく乳牛を飼育されるようになった農家や,又今後の農業経営は乳中を取入れた酪農でないと,経営の合理化も食生活の改善も出来ず,又我国の農業に課せられた,重大使命である食糧自給体制の確立も到底出来難いと悟り,乳牛を飼うことにした方達等等,吾々の同志は日増しに増加して居ることは御同慶の至りである。
 ところが乳牛の飼育は,他の家畜を飼うよりも多くの知識と高度の技術が要るもので,中でも初心者にとって,乳牛のお産と搾乳が何よりの頭痛の種であることは,筆者も30年間に経験して具にその味を嗜めたので,少しでも皆様の御参考になればと思い,拙文も省みず筆をとった次第である。
 乳牛のお産は,高い代価を払い,長い月日可愛がって育てた牛が,愈々子を産み乳を出して呉れ収入を上げるか,今迄の資本と苦労とを棒に振るかの境目であり,牛にとっても生き死にの一生の大事であるから,充分な知識と注意が必要である。

  一.妊娠日数

 乳牛の妊娠日数は普通275日から280日位である。初産のものや双児の場合は稍々短く,胎児が雄の時は雌より1,2日程長いようである。
 分娩予定日を知る簡便法は,種付をした月に9を加えるか3を引いた月,種付日に5を加えた日が,種付をしてから280日目の分娩予定日である。たとえば4月5日種付して受胎したと仮定すると,4より3を引いて1月,5日に5を加えて10日即ち1月10日が予定日となる。1,2,3月に種付したものは9を加えるとよい。

  二.分娩前の飼養管理

 乳牛の泌乳能力は分娩前の栄養状態に重大なる関係がある。分娩前には可成り栄養を保つ様に飼うことが必要で,その肉付は8合半か9合肉が理想である。能力の優秀な乳牛は分娩後から泌乳の最盛期には,摂取した養分だけでは,乳を生産するのに不足で分娩前身体に貯えていた養分までも,乳にして出してしまうものであるから,分娩前にしっかり身体に栄養をつけて置く必要がある。分娩後少しも痩せず,2,3ヶ月の内に肥えるような牛は能力の低いあまり儲けにならない乳牛である。
 飲水は牛の欲するだけ一日3回位充分に飲ます。冬期は汲置きの水や河水は冷たすぎて流早産のおそれがあるが汲立ての井戸水(摂氏15度以上)ならば温める必要はない。飲水の温度や味付等も習慣のもので,今迄糠や塩等で味付した温い水を給与して居ったのを,急に清水に変えると飲みが悪くなったり,乳量にも影響するが暑い時分から慣らせば,能力その他に影響がなく結局温めることは燃料と手間が損になると思う。
 妊娠も7,8ヶ月になると胎児も非常に大きくなり(約8,9貫)腹部の大部分を占めて,胃腸を圧迫するようになるから,粗飼料は良質の青草,乾草,エンシレージ等を与え,粗剛な藁稈類のみを与えるのは感心しない。濃質飼料は新鮮な糠類や穀菽類を消化しやすい様に調理して,体重に準じ又栄養状態に応じて,日量3s乃至6sを与える。尚飼料にかびが生じたり醗酵したりしたものは,流早産の原因になるし又消化不良をおこしたり鼓張症をおこしたりするから給与しない方がよい。
 経産牛で泌乳しているものは,妊娠が確定する3ヶ月目位となると,胎児も相当養分を必要とするし,次の産次に能力一杯泌乳さす為に,養分を貯蓄させる必要からも給与する飼料は,身体の維持に要する養分と,乳の生産に要する養分とに,1,2割は加給することが肝要である。分娩前6,70日は搾乳を休止して,休養させ保健と次回の泌乳力を最高度に発揮さす準備をしなければならない。いつまでも出るからと言って搾乳することは,牛の体質を弛緩し産後の回復が遅れ,乳量も著しく減ずるものである。
 産前2ヶ月間位の運動は1日午前午後2回2時間位宛,運動場で自由に運動さすか,30分宛位牽運動をし,充分戸外の新鮮な空気を呼吸さし,日光浴もさせることによって,新陳代謝をうながし,牛の皮下脂肪中に含まれているエルゴステリンを,ヴィタミンDに変化せしめ,カルシウムの沈着を良好ならしめる必要がある。又夏は樹蔭のある所,冬は暖い場所に運動場を設ける位の愛畜心が望ましい。労役に使う習慣のあるものは,軽い仕事なれば1日3,4時間位までは差支えないが,過激な労役や運動は害がある。又長らく労役に使わない乳牛を,急に3時間以上も激しく使うと流早産をすることがある。
 牛体の手入は1日1回は必ず行い,牛の体を清潔にしてやり,血行を良くし健康を保つよう留意する。初産の姙牛は手入の度毎に乳房を手で撫で,きらわないように習慣づける。こうして慣しておけば産後温和しく搾乳させるようになる。
 牛舎は夏は通風をよくし,敷藁を度々交換してやり,冬はすきまかぜの入らないよう又乾草した敷藁を充分に入れて清潔に暖かくして,風邪を引かないように注意してやる。取わけ夏は乳牛にとって一番いやな季節であるから,飼養管理に気をつけ病気にかからせないように注意をなし,殊に蚊や蠅や虻が発生して,昼夜を分かたず牛を攻めるから,その駆除は徹底して行わねばならない。
 尚平素牛がどんなことをしても,打ったり蹴ったり,その他粗暴な取扱いは絶対しないように,人を信頼させることが,牛に最大の能力を発揮させることになり,充分利益を得る素となる。妊娠中打ちどころが悪いと流早産の原因ともなり,注意すべきである。(以下次号)