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めん羊の分娩

 めん羊の在胎日数は種類や個体によって多少の相違はあるが,普通約150日であって秋10,11月頃に種付したものは翌春3,4月頃分娩する。分娩期は種付の日から起算すれば大体予定が出来るから分娩の迫った姙羊は他のめん羊と分離して特に注意して飼育しなければならない。分娩期が近ずくと姙羊の腹部は著しく膨大になると共に下垂し分娩の直前になるとなんとなく不安の状態を呈して前肢で寝藁を掻いたり,鳴き声を発したり起臥しながら頻りに産所を求める様子をする。更に進めば陰部から青黄色或は黒色の水襄を下ろし横臥して時々呶責し約20〜30分の後胎児を娩出するものである。めん羊の分娩は一般に安産で,正規分娩では仔めん羊は両前肢を揃え,其の先端に鼻先を載せて産道から現われて来るもので,斯様な場合は人手を加えず自然に分娩させるのがよい。然し胎児が大きすぎたり,その位置が不正の場合は難産が起ることがあるから,その状態をよく調べて助産し分娩させることが必要である。分娩が終ると同時に母めん羊は起き上って,仔を慕う様な声を出し子めん羊の鼻孔部から舐め初め,その後体全体を舐め乾す。仔めん羊は分娩後20〜30分も経つと体も乾き,元気づいてヨロヨロと起き上って母めん羊の乳房を探し求めて乳を飲み始める。然し時としては胎膜を被ったまま生れたり,母めん羊が舐めないばかりか,其の授乳迄嫌う場合があるから,分娩時又は分娩後は母めん羊及び仔めん羊の様子を細心の注意を以ってそれに必要な手当を加えねばならぬ。即ち胎膜の破れないものは直ちに是を破り鼻孔部の粘液を綺麗に拭い,空気を強く吹き込んで最初の呼吸を促し,又母めん羊の仔羊を嫌うものには仔めん羊に附着して居る粘液を鼻先に擦りつけたり,或は仔めん羊の体に麩や米糠を振りかけ母めん羊をして仔めん羊を舐め愛情を生せしめる様に促す。然しその効果のないときは乾いた布片で仔めん羊の体を充分に拭いて乾かしてやらなければならない。
 仔めん羊に乳を飲せぬ母めん羊は1日数回母めん羊を保定し強制的に飲せる様に馴すことも大切である。母めん羊がその仔を可愛がっても仔めん羊が生時虚弱のため起居出来ず,又乳の飲み方が分らぬ場合はやはり人手で母乳を飲ませることが肝要である。
 分娩後は母乳の有無を調べ,乳附近の羊毛を剪り,仔めん羊の哺乳を便にしてやることを忘れてはならない。分娩後凡そ1週間位は母,仔めん羊とも分娩柵を以って囲いながら飼育し,よく健康状態に注意する様に努めたい。分娩後母めん羊が死んだ場合とか,双仔,三仔,又一仔でも母乳の不足する様なときは他の母めん羊に「ツケ仔」することがある。是れは強制的にやれば漸次に馴れ実の仔と同じに授乳する様になる。山羊に「ツケ仔」することもよい方法である。以上の様な方法の取れぬ場合は牛乳や山羊乳を人工的に哺乳することで,この場合は人間の人工哺乳と同様の注意を以って哺乳する。
 なお分娩後は母めん羊は相当の乳量を分泌し仔めん羊に与えるのであるから,濃厚飼料や多汁飼料を順次増量することを忘れぬ様にしたい。乳が不足すれば随って仔めん羊は発育が出来なくなるのである。仔めん羊は生後しばらく抵抗力も少いのであるから賊風や雪雨の入り込まぬ様に羊舎の防護施設をせねばならぬ。