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わらと冬飼

 冬になると厩舎の敷藁の取り替え,日光浴,手入,運動等が兎角おろそかになる。このために家畜がいろいろの病気にかかり,農家は経済的にも,精神的にも思わぬ損失をまねくことがある。そこで之等の損失を未然に防止するにはどんな管理が必要であるかについて次に述べる。

稲藁のみの冬飼は何故悪いか

 日本の農家においては,大体冬の間は稲藁が主体となり,これに米糠,麦糠麩等を使用するが,この為に燐とカルシウムの釣合がとれなくなり,血液のアシドーシスを起し,牛乳が酸性乳になったり,慢性の下痢,骨軟症,腰痿になったり,又そのために栄養失調をまねき,翌年の春になってもなかなか発情の徴候が現れず,繁殖が遅れ,毎年1頭宛の家畜の生産が出来なくなり,3年に2頭か2年に1頭しか家畜がとれない事になる。この問題を解決する為にも是非冬飼いの改善をしなければならない。
 稲藁には硅酸が非常に多いが硅酸はその5分が燐酸2分の働きをする。従って稲藁を使用すると燐酸が多いことになりその上糠類を使用するとこれ又燐酸が多く,益々燐とカルシウムの釣合いがとれなくなる。之を補うためにはカルシウムを増加すればよいことになるが,カルシウムは一時に沢山使用しても,その全部は吸収されない。従って燐とカルシウムの比を0.7から1位にしようとすれば稲藁を少くして乾草やサイレージ,飼料作物を沢山使用しなければならないことになるのである。(第1表参照)

第1表 燐とカルシウムの比較
成 分 百   分   率千   分   率 摘  要
飼料名 水 分 粗蛋白 灰 分 石 灰 硅 酸 石灰
藁 稈 水稲 14.3 3.9 7.3 1.9 0.5 25.8 0.26 硅酸の過剰
陸稲 14.3 6.1 7.9 2.2 0.4 27.9 0.2
乾  草 小笹 14.5 10.7 13.8 2.2 1.1 53.8 0.5 一般に燐の不足が著しい石灰も不充分
青刈大豆 14 15.6 7.3 10.1 1.6 1.3 0.16
花中れんげ 16.7 14.1 4.4 7.6 1.8 1.6 0.23
生    草 上等牧草 78.2 4.5 2.1 1.9 0.8 1.9 0.45 燐、石灰共に不足
小笹 67 4.1 5.3 0.9 0.4 20.7 0.51
花後青刈大豆 80 3.6 1.7 2.4 0.4 0.3 0.15
れんげ 82 3 1 1.7 0.4 0.4 0.23
穀  粉 小麦麩 13.1 14 5.4 1.1 11.8 0.1 11.03 燐の著しい過剰
麦糠 12 11 5 1.4 4 11.4 2.95
米糠 11.3 13 12.5 0.6 16.5 25.8 29

貯蔵飼料は計画的に使用すること

 今までに貯蔵されたサイレージや乾草は冬期間の使用日数を計算して無駄のない,有効な使い方をしなければならない。例えば甘藷蔓のサイレージがあるとすれば,これを使用するには先ずサイレージの出来あがりの量を知らなければならない。サイロ内に充満したサイレージの内容量は次の計算法によって知ることができる。

 半径の二乗×円周率(3.14)×深さ………サイロの体積

 つまりサイロの半径を計り,それを二乗して円周率(3.14)を乗じ,それにサイレージの詰まっている処迄の深さを乗じるとサイロの体積が出る。甘藷蔓の場合は出来上りを1立方尺7貫匁として,これを体積に乗じると,サイレージの全体の目方が出る。この全量を1日の給与量で割れば給与出来る日数が出るし,給与希望日数で割れば1日の給与量が出るから,それ等をにらみ合わせて,何時頃からサイレージを使ったらよいかを決定すればよいことになる。このようにして乾草や飼料作物,サイレージの全量を概算し,計画的に給与し,家畜が栄養失調にならない様に注意しなければならない。

乳牛と燐,石灰の関係

 特に乳牛の場合は搾乳をするが,年30石搾るとすると,牛乳の中に出て来る燐とカルシウムの量は平均0.18%として約19sになる。体重500sの乳牛の骨格の中の燐とカルシウムは大体17sで骨格中のものと同量位のものが乳として体外に出ることになる。従ってこれを補うことが必要となる。普通の乳牛では保健用量として日量燐23g,石灰30gが必要であるが,若しこの牛が1日20sの牛乳を生産するとしたら,その所要総量は燐59gに対して石灰は66gになる。この数値は吸収されたものを一たん貯蔵して,それを分泌した数量であるから,実際に飼料中に含まれなければならない数量は条件のよい場合で,その倍量,即ち燐118g,石灰132gとなるから搾乳牛ではこの点を特に注意しなければならない。この問題は泌乳能力の高い乳牛程影響が大きく,粗飼料が不足して稲藁を主体にした搾乳業者の様な飼い方をしている処では知らず知らずの内に栄養の変調を来すおそれがあるから注意しなければならない。

石灰藁のの給与は何故よいか

 稲藁は出来ればそのまま使用せず,面倒でも石灰藁にして与えれば栄養の変調を幾分でも補うことができる。藁類を石灰で処理すれば,その中にある硬い消化の悪い物質が一部やわらかくなって,消化がよくなり,栄養価値も増加する。
 石灰藁のうちで最も簡易にできるのは簡易石灰藁であって,稲藁1貫匁に対して消石灰なら100匁,生石灰なら80匁,木灰なら100匁で,どれを使ってもよいが,これを2斗の水に溶かして,石灰水を作り,その上澄液をとり,この上澄液に稲藁を漬けて,軽い重石を置き2昼夜そのままにしておいてから,これを取り出し,よく水洗をしてから給与する。この場合2昼夜浸漬するかわりに,石灰水で3−4時間煮てから水洗して与える。これは煮沸石灰藁である。
 消石灰が古くて風化したものは効果が少いから使用量を増すか,消石灰のかわりに生石灰を用いる方がよい。
 石灰藁は(第2表)の示したように,成分特に粗繊維の消化がよくなり,消化が高くなって,飼料価値が高くなっているが,蛋白質やビタミンが欠乏しているから,濃厚率飼料殊に蛋白質の多いものを配合し,また良質の草類やサイレージを与えてビタミンを補うとよい。
 石灰藁は充分よく水洗して,湿ったまま与えてもよいが,乾燥すれば長く貯蔵できる。乾燥する場合には洗い方が不充分で,消石灰がついていても,乾燥中に風化して炭酸石灰になり無害となるから,そのまま与えてもよい。

第2表 飼料成分表
成 分 組     成 (%) 可消化成分 (%) 澱粉価
(%)
養分総量
(%)
飼料名 水分 粗蛋
白質
粗脂肪 可溶無
窒素物
粗繊維 粗灰分 粗蛋
白質
粗脂肪 可溶無
窒素物
粗繊維 純蛋
白質
稲藁 13.5 4.1 1.3 36.9 28.9 15.3 1 0.5 17.2 17.8 0.6 20.1 37.1
石灰藁 13.4 2.9 1.1 36.5 26.8 19.3 0 0.6 23.6 21.5 0 41 46.5
野 乾 草(あ ぜ) 13.5 8.4 1.7 38.4 24.5 13.5 4.1 0.7 22.4 14 3.4 26.7 42.1
  〃  (ど て) 13.5 7.9 2.2 40 27.8 10 3.6 0.9 21.9 15.6 2.8 25.6 43.1
甘   藷( 生 ) 69.8 1.8 0.6 26.4 1.3 1.1 0.9 0.3 24.2 0 0.4 25.2 25.8
  〃  ( 乾 ) 9.3 5.2 1.7 76.8 3.8 3.2 2.6 0.9 70.3 0 1.2 71.6 14.9
甘 藷 蔓( 生 ) 88.5 1.4 0.4 5 3.3 1.4 0.6 0.2 3 1.9 0.5 4.8 6
  〃  ( 乾 ) 12 16.3 2.9 43.7 16.1 9 12.6 2.2 37.6 9.5 10.8 52.1 64.8
サイレージ類 青刈大豆 72.8 4.2 1.5 10.1 7.9 3.5 2.8 0.9 10.8 1.3 10.7 15.6
青刈トウモロコシ 79.1 2.3 1.1 11.3 4.9 1.3 1.5 1.6 7.5 3.4 0.3 12.7 16
甘藷蔓 87 1.6 0.4 5.6 3.4 1.6 0.7 0.4 2.4 3.4 0.4 5.7 7.5
レンゲ 87.2 2.1 0.7 4.6 4.3 1.1 1.2 0.5 2.3 2.2 6.8

甘藷と甘藷蔓の価値

 以上述べたように冬飼の主な飼料は稲藁,糠類,乾草,サイレージ,石灰藁等であるが,この外に多く用いられるものは甘藷と甘藷蔓(乳)である。甘藷は乾燥して使用するかサイロに詰めて利用する方が腐敗を防止でき有利である。蔓は三脚乾燥法等により葉部のなるべく落ちない様にして利用するのがよい。これらの成分が(第2表)のとおりである。しかし葉部を少しでも多く失うことにより成分はおとり,全然葉の無い甘藷蔓の澱粉価は25%である。
 食塩は牛の保健上どうしても必要なものであり,特に使役する時は,新陳代謝がはげしくなり,塩分の消費量も増加するから充分補給する必要がある。大体375s(100貫)の牛で1日110g(30匁)位与えればよい。

その他

 次に水であるが,これは欲しいだけ充分与えるとよい。出来得れば冬期間は暖めて与えることがのぞましいが汲みたての井戸水ならばその必要はない。
 体の手入は充分に行い,汗やほこりを取り,皮膚を刺激して,血液の循環をよくして,シラミ等の外部寄生虫を防ぐとともに,肢蹄の手入もよく行わなければならない。
 このほか畜舎には敷藁を充分に入れ,暖かくしてやり,特にすき間風が入らない様に畜舎の北側等にはムシロなどを下げたり,藁で囲いをしたりして冷い風を防ぐとよい。又冬は特に運動不足になり勝ちであるから,天気のよい日は毎日外に出して,日光浴をさせ,手入もよく行い,健康な家畜を飼養しなければならない。