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家畜寄生虫駆除運動に寄せて

 昨年より本年にかけて全国的に展開されている家畜寄生虫駆除運動に呼応して本県では3月中に家畜保健衛生所を中心とし,各畜産関係機関協力のもとに無料相談所,巡廻相談所を開設し,或は座談会等を開催し寄生虫に対する実態,被害損耗等の知識の啓蒙普及を図るためこの運動を展開することになった。その一環として2月9日から3日間,家畜寄生虫の権威である農林省家畜衛生試験場北陸支場の渡辺昇蔵技官を講師として招聘し家畜寄生虫講習会を開催した。(講習内容次号登載予定)
 翻って家畜寄生虫について考える前に吾々人間の寄生虫について考えて見よう。
 吾々人間においても特に日本人は殆んど大なり小なり寄生虫を持っているということは日常よく聞く話であり,全国的に見て本県はその屈指の寄生虫県という誠に有難くない名を頂戴している。『岡山県は天災は誠に少いが寄生虫が多い』とは或る方の御言葉であったと記憶する。又新聞に時々学童,工場等の職場,農村等の集団検便の結果がよく報道されているがそれとても仲々進んで検便を受けないし,ましてやそれ以外の機会には殆んど検便を受けない。たとえ自分の体に寄生虫が宿っていることを知っていても薬を飲まない。町の薬局に「よく効く虫下し」の広告も横眼で素通り,これが人間界の冷厳なる事実ではなかろうか。そして蒼白い顔をし四苦八苦生活に追われているのが現今の人間像の一面である。徒らに栄養分を寄生虫に「のし」をつけている。そして食生活の改善蛋白質の補給のお声がかり,甚だもって不可解と言わざるを得ない。
 しからば家畜像はどうか。御多聞に洩れず蒼白い人間像よりも尚更深刻である。家畜と寄生虫の闘争が自然界と共に四六時中繰返されている。それもその筈である。人間界がそうであるから家畜までがとは想像に難くない。人間対寄生虫,家畜対寄生虫,恰も「生あるものは必ず死す」の道理の如く宿命付けられている。誠に馬鹿気たことである。人間が勝手に理論付けたことである。
 吾々人間の周囲に蚊あり蝿あり蛔虫ありで如何にも宿命づけられていて余り手をつけないでいる。将しく寄生虫は天災であるが如く思わしめている。風水害,洪水等での被害は一時的にしてクローズアップされて多くの経費でその対策を立っているが寄生虫の被害は余りにも等閑視されているのではなかろうか。全人口,全家畜の寄生虫の被害たるや連めんとして続いている。その被害も洪水等の天災に優るとも劣らないのではなかろうか。
 或る人は言う。我が国の農業の零細化,1農家1家畜という最少単位の農家において農家経済に対する家畜の示す経済的位置を高く評価しているにもかかわらず,家畜寄生虫に対する被害損耗は何等評価していない。寄生虫が宿っている家畜がどうして健全なる発育と完全なる能力を発揮することができようか,経済的損失を考えるときその損失は莫大なるものがあるであろう。例えば肝蛭の寄生している乳牛の泌乳能力(乳量)と肝蛭の寄生していない乳牛の乳量は今までの成績では少くとも1日に1−2升は違うということである。家畜は物言わぬ為にその被害が人間様に解らないだけの話である。家畜は日夜寄生虫に苦しめられている。夏の家畜にたかるあの蝿や蚊牛につくダニ,シラミ,鶏の蛔虫等吾々は日常何時も実現しているところである。なお家畜の体の中にある寄生虫は尚一層多いのである。殆んど100%の寄生虫である。
 汗と油で刈取って来た草を与え,飼桶をのぞき1日無事に草を喰ってくれれば事足りているのが遺憾乍ら今日の事実である。家畜は一生懸命喰っているが栄養の一部分は寄生虫に文句なしにやっているのである。誠に不経済な話である。家畜は経済動物であるから少い飼料を無駄なく家畜に利用せしめたいものである。家畜肥れば家肥り国肥るのである。駆除剤も優秀なものができている現在,子供にチョコレート虫下しを与えているように家畜にも与えてもらいたいものである。
「搾るだけ搾り使えるだけ使え」が家畜の境遇である。家畜の身になって見れば同情せざるを得ない。家畜に味方し私から有畜農家の皆様に斯く訴えたい。「一度だけでもよいから駆除剤を飲まして寄生虫を退治して下さい。」と。
 所で私が見た家畜寄生虫の被害,症状を2−3書いて見よう。
 寄生虫病は一般に共通の症状を現すが虫体の大きさ及び数,寄生部位,虫体の食物及び運動宿主(家畜の年令,環境等により病気の軽い重いの差があるが,何んと言っても栄養障害と貧血である。牛に肝蛭が寄生した場合は一言にして言えば「岩に濡れ紙をはった」如くであり1頭,2頭と呼ぶのが勿体なくて1枚2枚と呼んだ方がピンと来るようになる。貧血は虫体の吸血と虫体から出す溶血性の毒素のため口の中や眼の粘膜が蒼白くなり,めん羊に胃虫が寄生した場合は毛の伸びが悪く所謂毛についているラノリンが白っポク(普通黄色)なる。幼豚の所謂ブレも多くは糞杆虫(慢性下痢)或は蛔虫が寄生によって起ると見て差支えない。
 次に機械的刺激や臓器の圧迫である。肝蛭の肝臓に寄生している状況を見ると牛については肝臓の殆んど半分位が肝蛭のために破壊されて硬くなり,肝臓胆嚢の働をしていないでと場で全部或は一部が廃棄されることがある。動物蛋白質の確保上誠におしい極みであるが大体本県では約10%の牛の肝臓が一部廃棄か全部廃棄の運命にある。この被害は見た者でないと解らないと言った方がよい。実に凄くやられている。ようも生きていたなと思う程不思議な位被害を受けている。勿論この様な牛は栄養不良を起し歩行もふらふらである。
 又吾々がよく見る所でめん羊,山羊の腰麻痺がある。本県ではめん羊,山羊のへい死中腰麻痺でへい死するものが35%ある。これの原因は牛本来の寄生虫(糸状虫)が蚊の伝播により,めん羊山羊に寄生して中枢神系統(脳脊髄)に迷入し刺激をして起すといわれている。仲々治りにくい病気で腰麻痺に罹っためん山羊の鳴き声たるや又一入哀れを催す。又鶏の条虫がある。所謂真田虫であって全長20p前後大きいもので30p位ある。これが1匹でも寄生すると産卵の休止,後程はへい死の運命にある。これ等の中にアリを中間宿主として媒介するものがある。アリの体内にいる幼虫をアリと共に鶏が喰って罹るので被害は最も甚大である。鶏のコクシヂウム,蛔虫も又よく人に知られている所で,中雛に多く飛行機病,風船病という名のように実に軽くなるものである。その被害たるや今更喋々を要しない所であろう。又中豚で腸にそれこそ一杯に蛔虫が詰り恰もソーセージ様になり発育が非常に悪くへい死するということは屡々実現したことである。
 外部寄生虫では御承知の蝿,蚊,シラミ,ダニ等があるが中でもめん羊に寄生するヒツジララミバエで通称めん羊のダニと言われているが,これは本当は羽根のない蝿の成虫で体表に一杯に寄生している。
 めん羊の外部寄生虫で被害の最も多いもので体を物に擦り付けるため羊毛が切れて品質を低下せしめるのである。
 以上思いついたことを書いて貴重な誌上を汚した訳であるが要するに寄生虫の被害を考えるとき経済的な損失は莫大なものであって,家畜が1日無事に草を喰って生きていてくれれば事足りているという観念を払拭して戴き今一度我が愛する家畜を振り返り,もの言わぬ平和の産業戦士に愛の手をさしのべて家畜を寄生虫から守る義務がある訳である。

  もの言わぬ家畜へ愛の駆除剤
  家畜にも吾が子と一緒に虫下し
  可愛いと言われ乍らも儂の蛔虫2年越し