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これからの酪農経営

松尾技師

 本誌編集係から原稿の提出を求められる毎に年はとってもこればかりは無上の苦手で生来の無智恵を読者諸賢に公開せねばならないかと思えば赤面冷汗だくだくです。
 今後の酪農の在り方については新年号に登載した通りであり又酪農については新しい内容の豊富な刊行機関誌が沢山あって今更愚生が申上げる要はないのでありますが日常椅子に座ってあちらこちらからの声を耳にして感づいている点を申上げて心ある酪農家の反省と共鳴を戴くならば至上の幸福と菲才も顧みず誌上を借用した次第であります。
 先ず酪農家は冷静な気持ちになって何のために自分は乳牛を飼養し酪農に志したかと言うことを反省してみようではありませんか。
 そこに諸賢の良心は何物を発見するでしょうか?乳価は安い,飼料は高い,算用通りに行かない。365日雨の日も風の日も盆も正月もない。自分で自分の体が自由に行かない,棚ぼた式や濡手に粟の式のような甘いことはない,やりかけたものの厄介なものだと不精無精にやっているとこぼされる方とまあどうにか乳牛のお蔭で僅か5反歩の田畑を耕作しているが一家健康朗かに生活出来,まだまだやり方ではいくらでもやりがいがあり余裕が残されていると感謝して居られる方もあると推察致します。
 何卒不平不満をぬぎ捨て創意工夫をこらし初期の目的を貫徹して戴きたい。酪農家はあくまで経営の合理化を目ざし無駄と無理の経営を脱却してより健実な経営に最善を尽すことであります。

一.先ず生産費の低下を図ること

イ.自給飼料の増産に努め購入飼料に依存しないこと。
ロ.濃厚飼料を節約して粗飼料の高度利用に努めること。
ハ.購入飼料は共同購入により安価に入手すること。
ニ.飼料は単味給与をさけ多種類のものを配合して給与すること。
ホ.飼料の調理を合理的に行うため習慣的無駄をさけること。
ヘ.新しい使い慣れない飼料を使用する場合はよく研究調査して自信なきものは使用せず事故発生を未然に防止すること。
 殊に水田地帯にあっては石灰藁の利用,飼料圃の設置,裏作の紫雲英栽培,麦間の青刈大豆栽培,倒伏麦,徒長麦の青刈飼料利用。
 果樹園及び畑作地帯にあっては果樹園に飼料作物の栽培,(燕麦,飼料用青刈菜種の早期採種)蔬菜,農場副産物の完全利用,野草,畦草の刈取励行及び施肥。
 山岳地帯では放牧地は採草地として集約利用草生の改良(多汁質草,蛋白質草,発育旺盛にして適応性強化草,多収穫草)飼肥料木の保護殖栽造林化等の実施。

二.よい然も親しみのある牛乳を沢山安く生産すること

イ.清潔に衛生的にすべてを取扱うこと。
 牛舎,牛体,搾乳者,搾乳用器,乳の取扱等一切牛乳生産に関係あるものは清潔衛生を第一主義として二等乳(酸高乳,比重の軽いもの,乳脂の不足するもの)変敗乳を生産しないこと。
ロ.消費者から疑惑をうけるような牛乳を生産出荷しないこと。
 新鮮と純粋が牛乳の生命であるので良心的な取扱いをして愛される牛乳であることは勿論,薬用牛乳であるとか加工牛乳であるとか言われる汚名をつけられることなく安価に供給して主婦に魅力される大衆牛乳たらしめること。
ハ.牛乳の消費宣伝に積極的活動すること。
 乳幼児,病弱者,学童給食は勿論一般大衆の必需食料品たらしめること。
 夏期のラムネ,アップル,サイダーの上位消費食品化すること。

三.厩肥の生産利用を合理化すこと

 酪農家が牛乳一升尿一升と言って尿を尊重することは厩肥の効果を遺憾なくたたえたさん辞であってかくあるべきであります。
 改良牛舎に乳牛を繁養すれば日々の投下労力が節減出来るばかりでなく乳牛も健康清潔となり糞尿の分離,利用も合理的となり一石三鳥の利得があるのです。
 乳牛生体量100貫のものは1ヶ年間に糞2.610貫,尿1.138貫計3.748貫を生産するのでこれが肥効を全肥に換算すると硫安86貫,硫酸加里24貫,過燐酸石灰50貫が得られるのである。厩肥は地力の増進維持改良食糧増産上唯一無上の要素であると共に日本の如く人の内部寄生虫の多い国では清浄野菜を生産するためにも必要なものであります。

四.乳牛の役利用を率先励行すること

 世間では乳牛の役利用は等閑視されるがこれとても調教馴致すれば充分利用可能なことであります。又乾涸牛や育成中のものを使役することを乳牛の役利用と言う方もあるようでありますがこれではなくて泌乳中のもので能力を落とさないように使役さすことを意味するものであります。勿論馬の如く速度を要求したり酷使するのでなく経済的,能率的に有利に行うことであります。
「芸は身を助ける」と言う諺のある如く乳牛も役利用によって乳,役,肉三兼用のものが出来て寿命用途が拡大されるのであります。
 このためには装具の改良,調教馴致,護蹄等親切をモットーとして育成中に躾けて置くことが肝要であります。

五.乳牛資源を尊重すること

 乳牛は酪農経営の主幹でありますが資源が少ないのであります。鶏の如く僅か150日で出来るものでなく乳を生産する様になるまでにはどんなに早くても30ヶ月を要するのであります。
イ.蕃殖適令牛は時期を失することのないように確実に種付を実施して毎年分娩さすこと。
ロ.空腹解消のため如何に泌乳能力が優秀なものであっても分娩後100日以内に種付を実施すること。
ハ.仔牛の育成に細心の注意を払うこと。
 苗代半作と言う如く仔牛の育成良否がその牛一代の能力を左右する鍵であるので哺乳量,哺乳期間,離乳期,栄養,疾病等に細心の注意を払い将来乳牛らしい資質と個有の美点を保有する乳牛を育成すること。
 例えば牛乳を多給して下痢させたり,異状発育を促進させて不必要な過肥素質に陥らして将来泌乳性を欠除させないこと,反面牛乳,搾取販売に腐心して給与不良から発育不良や栄養失調に陥らさぬこと。
ニ.乳牛の経済年限は5−8年であるが飼養年限を10ヶ年以上に延長すること。
 そのためには飼養管理の合理化適正をはかり乳牛に無理をかけないこと。
 殊に濃厚飼料の多給をさけ常に健康正常に留意し日光浴,後躯の手入,蹄の手入を励行すること。
ホ.良い牛は良い種雄牛から産まれることは御承知の通りでありますが妄りに外国産の輸入牛や直系牛,或は先進地産のものであるとかに盲目的魅力をかけられずに系統蕃殖を行い立地条件に適応したものを作出し保留に努めること。
 以上大要を述べたのでありまして酪農家は牛乳をさげて高く売ることばかりに奔走せず落ちついた健実な経営に精進しましょう。