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千屋牛を語る県談会(其の3)
阿哲畜産の縦横記

阿哲農改室 牛誕生

飼育と繁殖の関係

〔土屋〕冬飼をするのに夏の間から気をつけてコウカイ木(ネムの木)の葉とか萩の葉を乾燥して貯蔵する。こうしたことは農家は常日頃から心がけ関心をもつべきで,将来の畜産を左右するものは実に飼料問題である。穀物を与えて余り肥え過ぎると不妊症になるおそれがある。
 阿哲郡の牛の生産率を見ると生産率は向上しているというものの大体5割5分の生産率を示しているが,これを8割位産せる可能性はある。今仮りに7割としても親牛7,000頭に対し年間4,900頭位は生産出来る。
 千屋,上刑部,新郷村等は「フスマ」などを喰わせ飼料代を多くかけているにもかかわらず,仮りに千屋村の例を見ても親牛500〜600頭で250〜260頭しか生産されていない。
 農家が稲を2反作って収穫が何かの災害で少なかった場合は大変騒ぐが1年に1頭も産まない親牛の飼い方を問題にしないというところが畜産農家の経済的観念が稀薄な証拠ともなる。毎年産すことが普通で,飼育管理を充分にすることが肝要である。
〔梶並〕牛には草をやることがよい。
〔土屋〕エンシレージが特によく,それは醗酵しているからだ。
〔梶並〕それには乳酸菌もある。
〔土屋〕経済的によいことになる。要は頭の切換えと畜連の指導力の問題ですね。
〔梶並〕飼料が高いので草生改良に力を入れなければならないね。
〔土屋〕山に出すにしても親牛ばかり入れる放牧場を作り,受胎確認後本牧場に放牧するように。
〔梶並〕上刑部村では2−3反歩の草で1頭1年間の飼料が出来るのでそれをたくわえる。また焼山をしてそれに牧草の種を播き「コマザラ」位のもので覆土しておく。杉檜なら2間に1本,特種樹苗をそれぞれ適当に植えておく。牧草はオーチャードやレッドクローバーなどを播いて居る。
〔土屋〕ハラマなければ山へ出さないように兔に角田地の荒れたのと同じですからね。

 エンシレージ鑑別法(牛誕生追記)

 エンシレージは緑褐色をしている程良品である。又良質のものは芳香を有し甘酸っぱい味と塩味がある。
 悪質のものは香りなく又黴臭く不快の味がする。色は煤煙色に変じ内容著しく軟化して悪臭のあるものは空気が残存して酸敗,ぞくに敗ったものである。

毎年産すには

〔梶並〕種畜場では種付後3ヶ月目に妊娠鑑定をしている。又ホルモンの注射をして発情させたりしている。5ヶ月を過ぎての再発情は料金をとることにしたが前者の鑑定は無料にしている。
〔土屋〕農家は1年中飼っても産まないことを少しも不思議に思わない,実に無関心だ。
 但馬などは8割は産まず,これには学ぶべき点がある。
〔梶並〕但馬の小代(こじろ)は農家といっても2反歩位しか耕作していないから一生懸命に畜産に力をいれている。放牧しないから蹄は見られない,同じく神石の牛も。
 蹄のことを申しましたが,次ぎに角は略上方を向いているのが役牛として便利である。手網が辷り落ちないし人に当らない。つまり使役に便利だということになる。又削蹄は必要である。歩行にむずかしくないようにし姿勢を崩さないようにする為である。

矯角削蹄は必要

〔土屋〕冬期間馬屋飼いをするから蹄が伸びるので春先に手入をしてやって姿勢を崩さないようにしてやることが必要だね。
〔梶並〕蹄の長いまま出すと折れる心配があるから削蹄せなければならない。農耕牛は扱いよいように,又使いよいように調教する。使役牛としても矯角,削蹄は必要ですね。又よくつく牛が偶には居るが,それは小心な牛で人を恐れるからつくのです。
〔土屋〕肝の太い牛は人間に親しむ。人畜親和のないものがついたら恐れたりする。放牧は人間社会でいう社会性を高めることで,牛の社会教育を施すことになる。崖ぎわの草でも仔牛に親牛が身をもって喰べることを教える。牛体が通る位しか道がない崖ぎわの草を親牛は仔牛に上手に教えて喰わすが,放牧になれない牛が喰うとすると怪我をする。実に牛の社会性は放牧によって養われ又高められて社会教育と性教育が行われる。

家畜商の存在

〔土屋〕家畜商の存在の可否についていうと,良否両面がある。流通経済は家畜商によって円滑にされている。悪用すれば痩せていても肥えていても何れでも家畜商の思う様にバンゾウをする。畜産業の発達と経済面には家畜商は必要である。悪質商は次第に淘汰され近来は質の向上を見ている。
〔宮崎〕飼育管理を巧みに体型など或程度よくすることはさして不可能ではないが,家畜売買の経済は非常にむずかしい。

牛の鑑識眼をもって

〔土屋〕日頃から共進会や品評会で鑑識眼を養うことは大切だ。時価を知らして啓蒙し,悪い家畜商にかからないようにする。以前は法律で決めていた仲立人というものがあったが今はない。併し相談相手としての仲立人があればよい。バンゾウ人の公的存在は必要である。農民は市場にあまり行かないから家族が相談する。ところが婆さんが難しい。そこで其の難しい婆さんを落して牛の売買をする商道徳を無視することは結局従来家畜商が卑下された原因にもなった。また馬屋先で全責任をもって取引をし,信用を得て長く出入する家畜商もある。不正をすると出入出来ないから自然無理をしない。
〔宮崎〕千屋牛も全国的に普及しましたね。

千屋牛の全国普及

〔土屋〕種牛は全国的である九州,四国,近畿方面に多くいって居る。関東,東北にも少々は行って居る。一般牛は東へ,西は産地である。四国には多く行って居る。近畿には岡山,高梁,倉敷,和気の市場を経て又尾道の市場からは四国に普及している。九州へは種牡牛として福岡,大分,鹿児島等へ種畜として行って居る。千屋牛は東北のような処女地には余り入っていないが,千屋牛を実際飼育して味を占めた者にはよくすかれる。この点鳥取牛と千屋牛は対照的である。鳥取牛は見場がよいが,備中牛は其の反対である。岡山のノレンは古いが鳥取は売るのに巧妙である。販売宣伝を積極的にやる備中はその点市場の運用特にセリ市は下手である。セリに適しないし,見場が悪いからだ。だから備中ではセリ市には素人が行く。百姓は玄人が買いに来ることを知っているからセリには出さない。
 此の辺で打切ります。長時間有難うございました。
 本年秋広島市で中国6県連合畜産共進会や全国和牛の畜産共進会が同所で引続き開催される由承って居るのですが一昨年倉吉町で得た名声を落さないように今から皆様方の万全の御指導を願い再び全国に千屋牛の声価を発揚して戴きたいと思います。(終り)