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霧酔病について

阿哲地方事務所
農業改良室 赤木廸郎

 今年は例年に比して非常に暖いようで山野の草木も既に芽をふくらませかけた。田畑の表も青々と農家は豊穣を祈りつつこれが手入に専念している。県北山間地帯の農家は苗代ごしらえに取りかかり保温苗代も一応普及し八十八夜を中心に籾播も終るわけです。頂度此の頃から山間部牛飼育農家は放牧を始めるので,毎年相当の被害を受けている。
 此の霧酔病について極簡単に自分の体験を記して関係各位の参考に供すると共に注意を申しあげたい。
 昨年学会の権威者が鳥取県日野郡に駐在して鳥取,岡山両県にまたがり原因を調査研究せられたのであるが,其の結果は私の知る由もありませんが参考となるか反対の意見となるかは別として,私の体験を簡単に記して見たい。

原因

 最近ネジキ(地方言では「カシホシ」と言う木で赤い芽の出る木)の食中毒だと言われているが実際放牧して見ると牛は絶対に喰わない。無理に喰わすと中毒死する。それも量の問題である。
 本病は昔から霜の多い年即ち八十八夜後までも降霜のある年に多発するといわれている。実際其のように考えられる。
 発病時期は凡そ春から初夏の候に発生し極夏(6月中旬)以後は絶対に発生しない。年令的には生後3,4ヵ月以上12,13ヵ月のものに最も多く発病し,それ以上の年令のものにはほとんど発病しない。極めて希れに生後24,25ヵ月のものに発病することがある。
 尚放牧しない牛即ち舎飼のものにも発病することがある。

徴候

 病牛は横臥したり,四肢を屈したり,又は伸脹し,あるいは開眼即ち眼を大きく開いたり又閉じたりし,角膜は充血する場合と,白濁して視覚は全々なくなることが多い。
 鼻端,耳,四肢は冷え呼吸脈膊は共に微弱となり体温は下降し,中には仮死の(重症)状態を呈するものがあるので時に回復の見込みなしと断定することも度々ある。
註,仮死の状態即ち重病のもの程治療がしやすく回復が早い。
以上のような状態であるから,そこで春早々放牧する場合は充分注意し当分は毎日山へ牛を見に行くか,毎夜連れ帰るかさもなくば部落で交る交る山へ見に行くことが必要である。
 放牧の始めから2,3週間注意すれば牛も山になれ気候になれ発病することが少い,又発病しても早期発見が出来て治療等損害をふせぐことが出来る。
 放牧地帯の牛飼育農家よ,よろしく注意せられたい。注意をおこたることによりとんでもない損害を受けることがある。
 不幸にして病牛を発見した時は早急に獣医師の診断を受けそれぞれの処置を必要とする。