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鶏卵共販体制の典型
愛知県碧海養鶏農協を訪ねて

FO生

 日本のデンマーク農業と迄謳われた愛知県碧海郡は田園都市安城市を中心として広漠とひらけた肥沃地帯で養鶏においては日本一の実績を戦前戦後を通じ確保していることは余りにも有名なことである。その伝統を誇る底力は農業及び交通条件,東西両市場を近接してもつなど好条件に恵まれていることは否めない事実であるが唯一,重要な問題として見逃すことのできないのは養鶏家の大同団結による組織活動が碧海郡の養鶏を今日あらしめた大きな要因であろう。以下は碧海養鶏農協の事業活動の概要である。

 碧海郡養鶏農協の構成とその環境

 安城市,狩谷市,碧海郡及び西加茂郡の一部(2市2郡)の養鶏家約1,000名をもって組織し部落単位に任意養鶏組合を組織し部落単位に任意養鶏組合を組織し連絡,指導及び経済活動の基盤としている。飼養羽数は碧海郡のみで30万羽を算しそのうち種鶏が3万羽であるがその大半は30−50羽の所謂,農家養鶏で占め第三者が愛知県といえばすぐ想像するような専業的経営者は殆んどない。事実上の競業関係としては終戦後相当数の鶏卵商がいたが現在では養鶏農協の進出により日本一を誇る養鶏地帯に鶏卵商と称する者が一人もいないということは驚異的なことである。
 なお養鶏農協事務所は安城市に置かれている。

鶏卵共同集出荷の実情

(1)鶏卵出荷機構 部落単位に構成された60ヶ所の小組合に養鶏家が卵を持寄り郡農協指定の荷造士(養鶏家の中から選抜養成される)によって所定の荷造りがなされ各小組合毎に省線安城駅に集荷,鶏卵検査員の検査を受け郡農協の計画出荷のルートに乗るわけである。
(2)集荷日 傘下の小組合を2地区に分割しA地区は1−6の日,B地区は4−9日につまり5日目集卵を原則としているが夏期は3日目集卵を厳守している。集荷量は両地区共,1集荷3貫500匁詰350−400箱といわれる。
(3)販売方法 東西両市場を近接してもつ地理的好条件と集荷量の量的強味と相俟って産地入札を実施し好成績を収めている。入札資格荷受機関として東京では第一鶏卵KK,東洋鶏卵KK,丸果KK,京浜鶏卵KK,飯田鶏卵KKの5社を横浜は神奈川鶏卵KK,阪神市場では大阪鶏卵KK,鶴橋鶏卵KK,兵庫畜産KKの3社をそれぞれ指定し各出荷日の午前8時迄に各荷受機関より電報入札,落札者には午前9時迄に電報をもって連絡している。落札価格は大体,日本経済新聞の鶏卵市況欄,仲間取引の中間値若しくは最高値という成績を示している。
(4)出荷方法 貨車輸送を原則とし15トン車を利用する。運賃は1車貸切で安城−大阪積込料含めて1,000−2,000円1箱当40円程度であるがこれを大型トラックにすれば積載量200箱として80円は充分かかるそうである。
(5)農家に対する代金決済 決済時期は出荷後10日目に行い決済価格は郡農協に対する荷受機関の落札価格より貫当60円引きが生産農家の手取である。
(6)出荷に要する諸経費 出荷に要する経費は下表の通りになっている。

食鶏処理と飼料斡旋事業

 鶏卵の共同出荷に次いで注目すべきは食鶏処理事業であろう。養鶏農協事務所の隣接に恐らくこれも日本一であろうと思われる堂々たる食鶏処理所がある。放血,毛抜処理室と料理室,それから冷凍冷蔵室の3室からなり総坪数20坪,特に冷蔵室は冷蔵能力2,000貫という大施設である。現在の処,毎日70−100羽を処理し名古屋市の県養鶏連直売場へ出荷されたり学童給食用に廉売し名古屋市民に喜ばれている。
 飼料は現在の処,中央及び県段階の系統機関の利用よりは寧ろ地方的な割安飼料を狙って大量の品物を確保組合員に配布している。

品     目 金     額 摘          要
輸送箱 70円 妻板電気焼マーク付,1箱
籾殻 20円 1箱充填用
10円  
12円  
荷造費 25円 荷造士に支払れる
運賃 40円 1箱分 安城−大阪
マージン 10円 郡農協手数料
その他 23円 小組合積立金,安城駅迄の積出料
210円 3貫500匁詰 1箱分 貫換算60円

事業実績とその目標

 一郡の養鶏農協としては勿論のこと県養鶏団体としても年間取扱金額1億7,000万円に及ぶ養鶏団体は恐らく現在の養鶏団体としては珍らしいことであろう。参考迄に農協の事業実績を無断で登載させて頂く。(昭26,実績)

取 扱 品 目 数     量 同 上 金 額 昭 27 目 標
鶏卵 54,120箱 144,476,027円 70,000箱
飼料 18,684俵 15,781,888円 20,000俵
食鶏 14,960羽 3,446,117円 35,000羽
必要資材   680,000円 1,000,000円
その他   1,120,505円  
合     計   165,504,537円  

奨励事業の内容

 経済行為と附帯した奨励事業こそ碧海郡の養鶏を今日あらしめた原動力であり又(碧)卵の声価を東西両市場において昂揚した蔭の力であろうと推察できる。
 他府県に見られない事業として荷造士協会の設立,鶏卵自治検査,長期荷造競技会或いは荷造講習,競技会等が施行されている。
(1)荷造士協会 碧海養鶏農協内に設けられ約100名の荷造士が会員となっている。荷造士は農協傘下の養鶏家の希望者を講習の上,一定の規格の技術を習得したものに荷造士として協会に登録する。荷造士は小組合の荷造りに当り給与として1箱につき25円が支給される。なおこのうち2円は協会費として積立てる。
(2)鶏卵自治検査 荷造士のうち特に技術優秀なもの5名が鶏卵検査員に委嘱され積出駅において自治検査が行われ内容及び荷造りその他規格の統一と品質向上に不断の努力が払われ,又各出荷日の荷造り成績が評点され長期荷造競技の成績となる。
(3)荷造競技会 年1回,郡内荷造士の荷造競技会が行われる。100名に及ぶ大天狗,小天狗の荷造士が一堂に会し覇権を競うわけで手先器用に10分何秒という快速度で荷造する壮観は流石養鶏王国ならではの感を強くすることであろう。

事業予算の大綱

 事業分量の拡大に従って積極予算が編成されていることは言う迄もないがそれは飽迄も堅実的な含みを持たせ安定性を確保している。その大綱は鶏卵販売事業,飼料購買事業,廃鶏処理事業,利用事業の4部門に独立せしめ各部門の必要度に応じ最少限度の人員を配置(確かに事業実績に比し職員の少いのに驚く)し部門別に独立採算制を負荷していることは能率向上に一段の効果を 齎らしているようである。
 ……兎も角,戦後全国各地に雨後の筍のように養鶏農協が設立され,その多くが経営難が伝えられたり或いは農協本来の使命である事業活動にとかくの批判を受けている折柄,碧海養鶏農協では鶏卵,飼料,食鶏等の重点的なしかも強力な共販購体制を確立し農協幹部も養鶏家も大同団結して新分野の開拓に一路邁進していることは蓋し養鶏王国の貫禄充分であり養鶏団体の進路に曙光を与えるものと期待されるのである。