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乳牛のお産と搾乳(四)

岡山県酪農協会 松田主事

10.仔牛を母牛から離す時期

 仔牛を母牛から離す時期は,人によってまちまちであるが,筆者の経験では仔牛が産れて後母牛が仔牛を舐めて,仔牛の体が乾いたならば,母牛に麩汁を飲ましている間に別室に分離するのが一番よい様である。そうすれば搾乳するのも楽であるし,仔牛にバケツから哺乳を覚えさすのも楽で,一度でも親の乳房から直ぐに飲むことを覚えると,互に愛情が出て慕い合い,牛によっては人が搾ってなかなか乳を出さず,仔牛もバケツから乳を飲むことを教えるのが難しくなる。

11.搾乳を始める時期

 分娩後2−4時間経って牛が落付いたならば,第1回目の搾乳をする。第1回目の搾乳は全部搾りきらずに大体乳房内に溜っている乳の3分の1位搾り,次回は半分,3回目は3分の2を搾り,4回目から全部搾りきるようにする。なお能力優秀な軽産牛は2,3日は全部搾りきらない方がよい。これは乳熱の予防に必要なことで,乳牛を飼育する者の必ず心得て居るべき常識である。

12.哺乳

 仔牛が産れて30分もすると起き上って,母の乳房をさがすようになる。第1回の搾乳がすんだならば直ぐに第1回の哺乳をする。
 分娩当初に出る乳は初乳と言って,帯黄色の粘稠な乳汁で,胎児便を排出させる効果があり,又母牛の持っている種々の病気を防ぐ抗体が含れて居って,これによって仔牛にも同一の抗病素が附与されるのであるから,初乳は是非飲さねばならない。
 哺乳の量は1日量,仔牛の体重の10分の1で,4回か5回に分与する。時間は成るべく平均に割って,定めた時刻は厳守する。哺乳の容器は2,3升はいる,口のあまり開いていないバケツが使いよい,そのバケツは成る可く丈夫な錫鍍金のものがよく,亜鉛鍍金のものはよくない。乳の温度は手の体温と同一が望ましいが,哺乳中に温度が下がるから摂氏40度位に温めて,1回量(大体5合位)をバケツに入れて,手に乳をつけ人指ゆびと中ゆびの2本を揃えて仔牛の口に入れる,仔牛は口を上に向けて吸い初める,始めは少し宛乳を指の間から流しこんでやると,指を吸って乳を飲むことを覚える。次に頭をおさえてバケツの牛乳の中へ手と一緒に仔牛の口を浸すと,乳は指の間を通って吸い上げられる。3回か4回で覚えるから,始めは2人掛りでやると楽である。大きくなるに従って牛乳の分量を増すのであるが,哺乳量は子牛の育成の項で述べる。

13.産後の飼養管理

 お産直後の母牛に与える飼料は産前の注意と同様である。即ち粗飼料は良質の乾草又は青草を食うだけ与える。濃厚飼料は麦類,大豆粕等の養分の濃厚なものはさけ,麩,糠等軽い飼料を,初日は日に3s位,その後乳房のしこりの取れ工合とにらみ合わせ,少し宛増量して行き完全にしこりが取れたならば,泌乳量に応じて,濃厚な飼料も混合して給与する。しこりの取り方については搾乳の項にゆずるが,10日位おそくも20日以内に取る必要がある。水分を多く含んだ青草,青刈飼料,根菜類や新鮮な豆腐粕,飴粕,ビール粕等は乳量を増すもので乳牛には好しい飼料である。普通産後の恢復は20日乃至1ヶ月位で平常にもどる。牛体の手入は必ず1日1回は励行する。新陳代謝を高め,血行を良くし産後の日立に好影響がある。産後の運動は3,4日休養さした後は,過激の使役や走らすことは避けねばならないが,軽い運動と日光浴は手入と共に必ず励行する。これは産後の恢復を早め,泌乳量も増すものである。
 給水は牛の欲するだけ充分に与える。温度は摂氏15度以上ならば結構である。常時牛の欲する時自由に飲める設備をすれば,乳量は5%以上,増えると言われている。飲水量は乳量の3乃至4倍,又は摂取飲料の乾物量の3,4倍は必要である。

14.産後かかり易い病気

1.娩膸停滞

 後産(娩膸)は産後2乃至6時間で娩出される。それが7時間以上経っても娩出されないものは,娩膸停滞と言って病的な故障が起きているのだから,その手当をしなければならない。牛はこの娩膸停滞に対して抵抗力が強く,人や馬のように直ぐに命にかかわるようなことはないが,色々と悪い影響がある。そのまま放置すると娩膸が子宮内で腐って,長い時間かかって(5,6日以上)自然に排出されるが,非常に悪臭を放ち,その腐敗液は子宮壁から自家吸収されて,泌乳量は半減し栄養は悪くなり,毛はそそけ立って非常に見すぼらしくなる。その上子宮内膜炎等の余病を併発して,向後の発情,受胎が困難となって,大損を招く。これを治療するには子宮の収縮,陣痛を促す薬や,生理的に排出さす様にホルモン剤等種々あるが,筆者の経験では人工排除の手術をするのが,一番確実で余後もよろしい。但し術者はよく熟練した獣医師に依頼しないと,母体胎盤をちぎったり,娩膸の一部を残したり殊に消毒が不完全の時は前述したような余病を併発する。その手術の時期が暑い時は分娩後1日半か2日後,寒い時は3日後位がよろしい。昔は後産の先に石や古草履を重しとして結びつけたそうであるが,何等の効果がないばかりか,不潔となり又子宮脱を引起す原因になることがある。

2.乳熱(産褥麻痺)

 この病気にかかるのは,初産のときには極く稀であるが,終産牛の安産の後で発病する例が多い,殊に高能力の乳牛に多発する。普通の発病の経過は,産後3,4日中に突然意識が不明瞭になって,食欲もなくなり,眼はどんよりと活気がなくなり,眼のそばで手を振っても目ばたきをせず,鼻鏡は乾燥し角,耳,蹄は冷くなり,体温は下り病状が進めば35度位となる。特異の症状は周囲の刺戟に不感症であって,遂には四肢はふらふらとして臥れ起立不能となる。牛にかかる徴候があらわれた時は,その手当の早い程恢復が早いから,直ぐに獣医師を招き手当をして貰わねばならない。獣医師が来るまでは,牛体を藁束で充分摩擦して血行をよくし,少しでも長く失神しないように看護する。但し注意しなければならないことは,絶対に口から薬を飲してはならないことである。この病気にかかっている間は,咽喉の神経も麻痺しているから,薬を飲すと誤って気管に吸込み誤飲性肺炎を起す。
 万一獣医師の来るのが遅れる時は,手遅れとなって牛が死んでしまうから,取敢えず乳房送風術を実施する。その方法は乳をすっかり搾り切って空にし,乳房の下には消毒した風呂敷大の布をしき,乳頭及びその周囲をよく消毒して,次に自転車の空気入れを利用して乳房内に空気を入れる,先ずゴム管内にはアルコールをしました脱脂綿を,軽くつめ空気を漏過し消毒する装置をする,ゴム管の先には乳頭の孔に入る位の細い管を装着してよく消毒し,準備が終ったならば,下の方の乳房から,極く静に軽くポンプを押し,乳房に空気が充満しかんかんする程空気を詰込む,下部2つの乳房が終ってから,上側の乳房に空気を同じように入れる。そうして静かに待って居ると,大体30分程経過すると意識をとりもどして,起立する様になる。もし,30−40分経っても起立しない時は,もう一度繰り返えし送風する。不思議な位よく療るものであるが余後が大切であるから,獣医師の手当が望ましい。

3.子宮脱

 産後子宮が反転して膣口から,外部に出てしまう病気である。原因は後産が未だ娩出されない前に,横臥している時他の牛に踏れていて,起立した時など,器械的に引張り出されたり,又難産の後や体の組織が弛緩して居り,分娩後も猶怒責が強く子宮を押し出す場合等がある。療法は元へ押込んで整復する以外方法がないので,気が付いたら一刻も早く獣医師を招いて手当して貰う。手術が早ければ早い程整復し易く,時間が経つと出た子宮は充血して大きく固くなってしまって仲々整復し難く,遂には折角の乳牛も廃用となってしまう。

4.産褥熱

 産褥熱は産後産道の傷より,又は後産の停滞したことから,細菌が体内に進入して起る熱性病である。牛がこの病気にかかると41度以上の高熱を発し,悪寒戦慄して,被毛はそそけ立ち,一見して異状のあることが判る。勿論食欲はなくなり,泌乳は激減する。けれども牛は他の動物に比較して,産褥熱に対して抵抗力が強く仲々死なないが,癒っても産後の肥立は著しく遅れ,乳量も著しく少い。猶子宮内膜炎を継発して,次の発情妊娠も難しく大損を招くから,速に適切な治療をして徹底的に治さねばならないが,素人療治は出来ないから獣医師に一任する。

5.乳房炎

 産後の病気としては一番多いが,搾乳の技術と関連するところが多いから,搾乳の項で詳述する。

15.産前産後の病気の予防について

 種付に影響する発情の不調和,産前産後にかかり易い病気の大部分は,牛の栄養の良否に帰着する要因が多い,殊に鉱物質の給与が不足することが原因である。鉱物質とはカルシウム,ナトリウム,マグネシウム,マンガン,硅素,鉄,銅,沃度,硫黄等であるが,これら等は微量であって,牛の健康を維持し,生活機能を活発にしているものである。濃厚飼料を多給し,粗飼料は殆んど稲藁を給与しているものは,これ等の鉱物質の含量が殆んど無いか,ごく少量であるので,他の栄養素が充分でよく太って居っても,所謂肥満の栄養不良であって,体組織は弛緩し,各機関の機能はおとろえ,病気に対しての抵抗力が衰退しているので,お産の様な大きな変化があると,平常の欠陥が出て来る,殊に多量に泌乳した経産牛は,乳の中へ多量の鉱物質を出しているので尚更この欠陥が大きい。乳牛を健康に長く多くの仔を産まし,多量の乳を生産さすためには,鉱物質の給与を絶対に忘れてはならない,鉱物質は良好な土壌から生産される草や作物(青刈)の中に多い。酸性土壌に生長した植物は鉱物質も少い,よい乳牛を育てるこつは土壌の改良と深耕によると考える,その上カルシウムと食塩は別に給与し,充分な運動と日光浴を欠かさず行えば,真の酪農経営の醍醐味があると信ずる。(つづく)