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チチヤス牧場を訪ねて

 乳の流れる村「チチヤス牧場」を去る3月26日訪ねた。この牧場は山陽線宮島口駅を下車して徒歩で西へ約15分で行ける右手の小高い丘の上にある。
 「株式会社チチヤス」の始まりは明治19年にさかのぼる。当時野村保氏が広島市広瀬元町に自分の名前を取って,乳保(ちちやす)搾乳所を設けた。そして広島で初めて観光客に牛乳を飲むことを教えた。ついで明治36年に現在地「広島県佐伯郡大野町356の4」の土地を買収し,翌37年に現地に移り今日に及んでいる。現在の面積は30町(台帳面積16町)である。又分場として8里余り西に離れた山口県との境に約30町の栗谷分場がある。
 野村保氏の息子に清次郎,顕,観,真一の4人の兄弟があり。清次郎氏は他界し,清次郎氏の長男野村慶一氏が現在社長の職についている。兄弟4人によって株式会社を設け,家族11人と従業員31名,計42名が牧場に従事している。これらの従業員は総べて場内に住居を持ち,総家族員は106名である。
 牧場の小高い丘には保氏が50才から84才まで30年余りかかって極楽の姿を現わす意味で作りあげたと言われる仏段のある影現閣(ようげんかく)本堂がそびえている。この本堂が完成してから大正11年氏は他界した。

けい養家畜数

 当場の主要けい養家畜は乳牛であって内訳は次のとおりである。
 搾乳牛28頭,かん乳牛12頭,育成牛23頭,種牡牛1頭(21.1.1生,26年高84.5点)種牡候補牛1頭,計65頭(栗谷分場の育成牛15頭を含む)めん羊7頭,仔めん羊4頭,豚10頭

自給飼料の生産状況

 農場長野村観氏の案内で場内を見学する。点々とフサアカシヤの黄色い花が咲いているのが見られる。これは25年に植えられ現在2間位にのびている。自給飼料として栽培されている牧草及び飼肥料木は次のとおりである。

1.ケンタッキー31フェスキュー

 昭和25年から植えたが,27年1月砂防を兼ねて丘陵に車道を新設し,この側面にケンタッキーとアトランティクアルファルファーを一緒に移植した。これに足止めとしてイタチハギを上下間隔6尺にし,横間隔は1尺置位に同時に移植した。これらに対する元肥として厩肥を入れた。
 ケンタッキーは2月15日から刈り始めて年間種取の場合は4回,普通の場合は6回収穫した。1尺5寸位の高さのとき刈り取って1回の反収は800貫から1,200貫であった。
 この砂防事業を兼ねた移植に対する経費は町当10万円から12万円である。

2.アトランティクアルファルファー

 ケンタッキーと一緒に砂防用としてアトランティクアルファルファーを移植したが,他のアルファルファーより成績はよかった。しかし8月9月頃収穫したものは硬いために家畜が少し嫌い気味である。つまり春は梅雨時までと,秋に入ってからが一番好む。
 このアルファルファーは4月15日から刈り取ったが,年6回収穫でき1回の平均反収は750貫であった。
 以上のようにして昨年1月砂防工事した効果は充分現れ,土砂の流質を完全に防止しケンタッキー及びアルファルファーは青々と繁茂しケンタッキーにおいては昨年数本移植された株が平均直径5寸位に及んでいた。しかしここに一言つけ加えておきたいことは土質の点であるが,砂礫土で水を含まないものと考えられる。
 丁度この日も27年度中の完成をめざして砂防工事が行われていたが,本年はケンタッキーに加えてウインピーラブグラス,マウンテンブロームグラスが移植され,足止としてイタチハギの押木が行われていた。この工事が完成し,昨年と同様の効果が現れる場合は多いに学ぶべきところがあると思う。

3.ヘアリイペルビアンアルファルファ

 24年12月8日PH5.7の土地へ毎年粒の炭カルを反当50貫3回施肥した。これにより27年11月10日にはPHが表土で7.4,半m以下で6.2,1m以下で6.5となった。この土地にヘアリイペルビアンアルファルファを植え,27年に6回収穫した。1回の平均反収は150貫から180貫であった。

4.ハンノ木,ヤシャブシ

 25年3月ヤマハンノ木,ハンノ木,ヤシャブシ,ヒメヤシャ,オオバヤシャを植えた。当時1間に5尺の間隔で1町歩当7,500本植えた。昨年末の庇蔭は90%であった。3年目には2間間隔にし,昨年10月5尺の高さで切りおとした。この切り落した枝から昨年はヤマハンノ木において,木の高さ16尺もので1本当2.1貫の葉を収穫し,18尺ものの場合は2.3貫を収穫した。6年目にヤマハンノ木類を500本にし,下草としてルーサン,オーチャードを植える予定である。その場合の庇蔭は30%となる。
 これらの飼肥料木に対して25年3月植樹の際,1本当元肥として過燐酸10匁硫安10匁を施肥した。
植樹後3年にして殆んど下草野草は飼料的価値の多いものに取りかえる準備ができた。又雑木も自然におとろえカラスノエンドウなどが生え始めた。
 ヒメヤシャは乳牛は嫌い,山羊が食べる程度であり,チチヤスの家畜は食べない。乳牛にはヤマハンノ木が一番よい。
 雑木を下刈りして飼肥料木の苗を7,000本から8,000本植える場合の経費は1町歩当3万円を必要とした。

5.イタチハギ

 ヤマハンノ木と同様25年3月雑木を下刈した後へ1町歩当1万2,000本のイタチハギを植樹した。1本当の元肥施肥量は過燐酸10匁,硫安10匁,厩肥300匁である。昨年イタチハギを地上5寸から刈り取ったが,1本当1.3貫から1.6貫の葉を収穫した。
 イタチハギの葉を乾燥して1日に乳牛1頭当200匁位餌に混ぜて与えると仔牛が丈夫になり,この乾燥葉がなくなると仔牛が下痢をしやすくなる。

6.飼料作物

 傾斜地を開墾して飼料作物の作付が行われている。1町歩当の開墾費は21万円で,7年で草が出来るようになった。春に1,000貫,秋に1,000貫,計2,000貫の厩費を毎年施肥している。昨年夏植えたカブの間作にエンバクを播き1月末までにカブを収穫する。2月以降にカブを収穫する場合はカブの後へトウモロコシを植える。

7.クズ

 チガヤの多い傾斜地にクズを植えると,チガヤがおとろえてくる。クズを植えることにより,チガヤ反収600貫のものがクズ植付後1年目に1回の反収1,600貫のクズを収穫することができ,年4回刈り取ることができた。クズには反当牛尿(約2倍稀釈液)を30石,過燐酸6貫,炭カル50貫を年4回各刈取後施肥した。刈取りは地上八寸で行った。これ以下に低刈りすると枯死してたえるおそれがある。

ヤマハン,イタチハギ,英国トゲナシが乳牛に一番よい
 チチヤスで生産されている飼肥料木の中で乳牛が一番好むものは,ヤマハンの木,イタチハギ,英国トゲナシニセアカシヤである。あとのものは乳牛飼料としては不向であるように考えると農場長は語った。

1日牛乳生産量2石5斗

 チチヤスにおける搾乳牛28頭で1日の牛乳生産量は2石5斗である。これは全量広島市へ市乳として販売される。
 乳牛舎の従事員は28頭に6名である。うち4名が搾乳を担当している。仔牛に対しては1日に2回哺乳を実施している。
 チチヤス牧場を中心とする附近に38頭の搾乳牛が飼育されており,これらが生産する牛乳は1日に8斗から10斗であって,これを牧場が1合6円で買い取り,バターを年間生産している。脱脂乳は場内仔牛の哺乳に用いている,又場内生産牛乳が市乳として不足する場合は,場内配給にも一部を廻している。場内配給は重役(4戸)に対しては無償,その他場内家族に対しては1合1円で配給される。
 広島市における市乳で特別牛乳は卸が16円50銭,小売が20円であり,普通牛乳は小売で12円である。
 以上がチチヤス牧場の大要であるが,設備については紙面の都合で省略した。しかし普通の牧場と異る点を1つだけつけ加えておく。つまり,当場では機械製作工場を持ち,牛乳処理に適合した場特有の機械を場員自ら考案製作されていることである。これにより家畜から市乳生産に対する一環作業が合理的に行われている。(多田技師記)