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畜産ニュース

人間が馬鼻疽で死亡?

 馬の法定伝染病である鼻そに人間が罹ったという珍らしい病例が岡山医大で発見され学界の話題となっている。
 この患者は倉敷市内で理髪業を営む某女(51)が昨年10月ごろから鼻粘膜に腫物が出来,以来高熱が続き日が経つにつれて鼻の中隔に潰瘍を生じ,また右頬の内側にも腫物が出来,痛みが烈しくなったので同市内某医師に診てもらったところ梅毒性護膜腫と診断,その治療をつづけたが一向はかばかしくなく,同年11月,岡山医大附属病院長の根岸博士(皮膚科担当)の診断をうけたところ,鼻硬疾か,あるいは馬鼻疽として病状の経過ならびに病原体について検診を続けていたところ,鼻腔分泌物から鼻疽菌らしきものが発見された。しかしこの病気には治療方法がいまだ発見されておらず,治療の甲斐なく某女は昨年暮死亡した。
 同大学病理学教室で死体解剖した結果,鼻の内外の組織が完全に破壊されており,顎下部,頸部の淋巴腺も化膿,組織学的にも鼻疽であると確認,4月初めに行われる日本病理学会に報告することになった。
 鼻疽は馬のような単蹄獣に限られた伝染病で,アジア大陸にもっとも多く,日本には古来発生がなく,ただ大陸から数次にわたり病馬の移入があったが,その度に処置が徹底したため大事にいたっていない。
 人類でも直接感染するが,日本では昭和8年栃木県で同患者を一人見ているだけで非常に珍らしいが,この病原体には予防薬,あるいは特効薬が発見されず,この病気は特殊増殖性炎症といって極めて死亡率が高く,殆んど不治の病とされている。