ホーム岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和28年5月号 > 県民の叫び

県民の叫び

吉備 栢 菅生

 桜の花も散り果て四囲の山々は緑滴る初夏の感を深くする。私共の愛好する黒牛,白黒模様の乳牛は漸く寒さを凌いで暖かそうに各々門先で日光浴をしている姿を見るにつれ,彼等も今にして,あの山奥深く更に一望見渡す限りの田圃こそ人畜共に苦楽を同じくし瞬く青田と化する大役を偲ぶとき牛なくして何んの己れが桜かなではないでしょうか。
 私は田舎者で視野の狭い事も極めて識見の乏しい小商人の存在で,可成り永い間牛に親しみ常に主観的に牛を考えて見たが一向解らない。否解らないのが本当かも知らないと言う結論に到達した。なぜ判らないかと言えば何辺一様な体型の牛を育成してみても結果に於て同一な答が出ないと,それは不思議はない。牛は生物である以上飼料の利用性の如何,今一つ重大な事は遺伝因子の問題即ち血統によって質,能力等所謂形質を支配する。
 斯様に複雑多岐に亘る変化があってこそ研究の妙味があり登録事業,共進会等の重要性があるのではないでしょうか。
 以上は和牛の大家羽部博士,上坂,石原両博士の専門的研究を重ねて居られる事実に徴しても容易ならぬ業であろうことを察すると同時に肝に銘じて前進すべきであろう。
 古来桜の花が咲いてから妊娠牛の売買は殆んど無いといった状態が昭和26年以来今日まで毎市高梁市場への「ハラミ牛」入場は年毎に激増し毎年11月末頃より翌年3月中旬迄は毎市,160−170頭という驚くべき入場を数え前代未聞の様相を呈するも其の殆んどが取引されてゆく現状は喜ぶべき現象であり且つ注目すべきであろう。
 何んとなれば売買の60パーセントは他府県への取引であり残る40パーセントが県内への取引ではあるが,其内広島県へ接する商人は同県へ牽付の上売買交換をしている現状から見れば県内へ保留される頭数は微々たるものといわざるを得ない。
 特に広島県へ取引されている牛は粒揃いで優秀なハラミ牛である洵に同慶の至りとはいえ将来注目に価いするところ大なり。
 斯る本県産牛の盛況をみるに至った理由は何か,政府の無畜農家に対する融資もあろう,朝鮮動乱による特需もあろう,更に本県産牛を基礎種牝牛として改良を意図している顧客もあろうが兎角本県産牛の魅力を有する所以であって,その魅力は自然に発芽した訳ではない。過ぎる昭和25年10月鳥取県倉吉市に於て官民一致,汗と油の結晶が今日物を謂っていることを忘れてはならない。
 慶びの後を襲い来るものは何か悲しみである,今や本県は原種をドンドン売って実に安泰な路を歩んでいる。他県の人々は険阻な山野を開拓し高価な種子を黙々と蒔いて居る。月日の経つのは早いもの数年を出でずして質に於て量にいたっても本県産牛を凌駕する大市場の開設する日も敢て過言ではなかろう。
 本県畜産家諸君よ,過去の実績に眩目せず,醒めて本県産牛の前途を観察し官民団結,局面打開の秋ではなかろうか。押し寄せる世界経済恐慌は浅い日本経済を風靡し種牛は売れない,食肉は巷に氾濫すれども捌けない。
 勢い農家経済は破綻する○○主義は雨後の筍の如く,各地に跳躍する。況やここに於て,どうして日本一の名牛を生産さすか,如何にしたら肉畜の消化が合理的に出来るかが重要な問題であろう。勿論我々が事,新らしく申すまでもなく県は既に目的に前進しつつあるものの県費不足の折柄足踏み状態である。
 寧ろ予算縮小の余波を受け事業面においては後退の現状かも知れない真に嘆息せざるを得ない。
 私は西岡前知事当時牛馬税の復活を提案したことを想い浮べ時の県会議員諸公は全面的に反対し遂に否決してしまった。又県民も反対に呼応したではないか。実に愚な考え方であり笑止の沙汰と謂わざるを居ない。
 でも当時の議員諸公に於ても我々の想像の出来ない,イデオロギーに立脚しての否決であったかも知れないが兎角議論せんがための議論に終始し,徒らに県民の福祉を阻止するが如き権力の行使であってはならぬ。
 今更臍をおさえて考える余地もなく速かに県民の総意を結集し牛馬税の復活と併せて新規事業の促進を要求するものである。将に全国畜産共進会を控え舞台の幕は切って落された。太鼓の音は高らかに,なり響いている。
 第一次選抜牛は決った,育成者諸君よ,曽ての戦績に陶酔せず奮然として頑張り抜かねばならぬ運命だ。泣くも笑うも今諸君の双肩にあり,誰か知らん出品者諸君よ,翻々と輝く日章旗は我等を励ます。あの広島目がけて驀進するのだ。覇を競うこと5ヶ月の近きにあり,天下関ヶ原の闘いだ。県為政者並びに県官諸賢の絶大なる御高援と出品者諸君の御健闘をお祈りすると共に歴史的栄誉を荷い畜産岡山を永遠に謳歌されることこそ160万県民の誇りではなかろうか。

第1,四半期導入家畜割当決る

 有畜農家創設事業も第1年度は和牛1,256頭,乳牛370頭,馬10頭,めん羊670頭を導入したが,28年度は引続き第1,四半期において和牛160頭,乳牛80頭,めん羊80頭の割当が暫定的に決定し,年間の枠については近く決定の見込みである。
 1,四半期の暫定枠については,さきに各市町村農協別に割当し,逐次導入が実施されつつある。
 本年度の融資額は昨年と異なり乳牛については5万2,500円,和牛2万6,600円,馬2万4,500円,緬羊5,200円と改正されている。なおこれら家畜の予定購買価格は乳牛7万5,000円(初産雑15ヶ月もの)和牛3万8,000円,馬3万5,000円,緬羊5,250円である。