ホーム岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和28年6月号 > 緬羊の審査について

緬羊の審査について

緬羊の登録に於ける審査の目的と心得

 家畜は経済動物であるから,吾々の利用目的物を重点的に改良増進して行かなければならない。
 緬羊の場合その主要な目的物は羊毛,羊肉,羊乳,毛皮等であるが,現在日本に多数飼育されているコリデール種は所謂毛肉兼用種と称するもので,優良な羊毛と美味優秀な羊肉を多量に生産することが望ましいのであり,改良の目標も亦当然ここに置かなければならない。
 而して審査はこれらの優劣を判定する改良の手段であり,その目的とするところは血統能力外貌を整理して優良資質の遺伝因子を把握すると共に,これを活用して環境に適応するように形質を改良固定し,更にこれを系統的に保存普及することにあるのである。
 従って個々にその目標が違っていては広くその品種の改良を達成することは出来ないので改良の共同目標がなければならない。この共同目標として決められたものが審査標準であるから,審査に当ってはその品種の審査標準に照らして,あくまで冷静に且つ客観的に観察しなければならない。自己の好みや少数意見や又は感情等に支配された主観的な観方は,個人的又は一地方的なものとなり,広く一般に通用するものではなく,ひいては共同の改良目標を誤るものであるから深く戒めなければならない。
 従って登録の審査に従事するものは審査標準を熟読玩味し,吾々の理想とするものに実物をよく対比して忠実に採点するべきである。

緬羊の審査方法及び審査上の注意

 審査の方法としては一定の形式があるわけではないが,概観審査と細密審査に分けて実施するのが普通である。
 先ず概観審査であるが,緬羊を自然の正しい姿勢で保定し,審査委員は緬羊から概ね2m位離れて位置し,眼を緬羊の高さに保って正面から順次側面後面を眺め,主として一般外貌すなわち均称,体積,品質を観察し,更に次の細密審査の際に於ける各部位の状況を判断する。例えば正面を見る場合は頭部,顎,前肢の肢勢肋張り等,側面を見る場合は胸張り,背腰の線,尻の傾斜,体下線,前後肢の肢勢,特に繋の状況等,後面の場合は臀,腿後肢の肢勢等を観察して各部位の概要を判断し,次の細密審査に移る補助手段とする。
 次に細密審査は頭,顎,前躯,中躯,後躯,生殖器及び乳器,肢蹄,羊毛の順に触審すると共に,予め測定した数値を参考として審査標準の説明事項により観察して各部位の附点率を決め,最後に一般外貌を観察して概観審査と細密審査によって各部位を審査した総合結果とを対比し乍ら説明事項に従って一般外貌の附点率を決め,その緬羊の総評点を算出して更に減点のあるものはその程度により総評点より減点する。
 採点の方法は前述のように各部位に与えられた評点に対しその程度によりパーセントを以って附点して行くのであるが,大体の附点の基準は日本コリデール種緬羊審査心得の二,又総評点からの減点基準は同三によるものとする。尚この附点の場合50%以下の部位が1ヶ所でもあれば合計点数の如何にかかわらず失格とする。
 次に審査に当っては現状を審査すべきであって,将来を見越して審査すべきでない。但し毛長については例外とし,その羊毛の1ヶ年間に成長する長さを各種の条件から勘案し予想して審査することは止むを得ない。
 従って登録の審査はその緬羊の最良のコンデションの時に受けるよう指導すべきである。
 又緬羊は他の家畜と異なり全身羊毛で覆われ体表が露出していない場合が多いので,審査に当っては各部をよく触審し判断を誤らないよう注意すべきである。特に羊毛の繊度,密度,均一度,状態等は所謂千差万別であるから,審査委員は常にこれが審査に習熟する努力を払わなければならない。
 又往々外観を整えるために羊毛を化粧剪りしたものが出て来ることもあるが,これらは審査の際よく判別し正確に審査しなければならない。尚審査委員の目をごまかす為の極端に過ぎた化粧剪りは毛長の均一等の審査を不可能にするから避けるように指導すべきである。

各部の測定並に測定上の注意

 測定部位は体高,十字部高,体長,胸深,胸幅,胸前幅,腰角幅,肋幅,尻長,菅囲
とし,この外体重を秤量する。
(一)体高
 甲頂点から地上に至る垂直距離を尺杖で測る。
(二)十字部高
 十字部中点から地上に至る垂直距離で体高と同様の方法で測る。
(三)体長
 肩端から坐骨端に至る直線距離で,肢勢により誤差が多くなるから肢勢に注意して測ること。
(四)胸深
 左右肩胛肩骨の後端を通る垂直面上の背線と胸底との垂直距離で,キャリバーで測る。
(五)胸幅
 左右肩胛骨後端を通る垂直面上の左右肋間最広部の水平距離で,キャリバーで測る。
(六)胸前幅
 左右肩端間の直線距離で,キャリバーで測る。
(七)腰角幅
 左右腰角外縁間の直線距離をキャリバーで測る。
(八)肋幅
 左右肋関節間の直線距離をキャリバーで測る。
(九)尻長
 腰角前端から坐骨端に至る直線距離をキャリバーで測る。
(十)菅囲
 前肢菅最細部の周尺を巻尺で測る。
 体重は台秤又は稈秤により秤量する。
 各部の測定に当っては常に緬羊を正常且つ自然の姿勢に保って行うことが肝要であり,特に緬羊は体表が羊毛に被われていて測定部位の識別に困難な場合が多いので,測定部位を容易に識別出来るよう習熟すると共に,少なくとも同一部位を2回以上測定して測尺の正確を期することが肝要である。