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酪農家の心得ておきたい
酪農経営の1年間

 知事は科学に立脚した楽しい農村を建設するために,農業経営と食生活の改善を図り,農村に酪農を取り入れる計画を樹立しました。これが前号に登載した「岡山県酪農振興計画」です。この計画によれば県下の乳牛を1万頭に増殖することになります。しかしこれが計画のみであってはなりません。この計画を推進する上には乳牛導入資金の問題,購入飼料の価格問題,生産牛乳の販路の問題,自給飼料生産の問題等々いろいろな困難が予想されています。したがって私たち酪農にたずさわるものは一層真剣にこれらの問題にとり組んで,障害の打開に努めなくてはなりません。特に直接農家に最も関係の深い乳牛飼養管理の問題については,十分な検討をこらし経営の内部的な節約をはかるとともに,適切な飼養を行って積極的に酪農の収益をふやすよう努力しなければなりません。これがためには自分の飼っている乳牛の能力や性状をよく知って,健康で利用の高い乳牛を飼うとともに,良質な,しかも割安な飼料の入手をはかって,これを合理的に給与し,また種付計画を工夫して,牛乳消費の多い時期(一般に夏は牛乳の需要が大きく従って乳価も,高いのが常です)に最大乳量を示し得るよう分べんを調節することや,搾乳技術を一層向上して乳量を高め,また牛体や牛舎をきれいにして大事な牛を病気にかからせないようにするなど,直接,間接に経営の合理化をはかることが大切です。更には,一般農作物の間にたくみに折込んで行く飼料輪作の問題,エンシレージ・石灰わらの調整,野草の積極的利用と採草地の肥培妊娠牛,仔牛の栄養や管理に注意して健全な後継牛の育成を計画するなど,酪農家の仕事はいよいよいそがしいのです。また最近は,乳牛の人工授精事業の急速な普及や,科学的新飼料の登場など,その活用には,高い技術と,新しい知識とが要求されておりますので,時代におくれないよう常に研究的な態度を持ちたいものです。
 次に酪農経営の1年間の主な注意事項を申し上げることにいたしましょう。

1月

飼養
(1)一般にこの月は粗飼料に乏しく濃厚飼料に傾きやすいため良質な乾草,エンシレージ,根菜類などを与え給与飼料を工夫して下さい。
(2)特に濃厚飼料をやりすぎると,いろんな病気を起しやすいので注意を要します。
(3)石灰わらは必ず作って与えたいし,カルシウムや水の不足しないよう気をつけて下さい。
管理
(1)寒さのために牛の手入を怠り勝になりますので,牛体のまさつは励行して下さい。
(2)晴れた日にはつとめて牛を舎外にひき出して日光浴をさせて下さい。また仔牛の運動を欠かしてはなりません。
(3)ひづめの手入れは今月中にしておきたいものです。
衛生
(1)感冒,鼓張症の多発する時期ですから,日頃から牛の健康に注意して下さい。
(2)手入の不足と冬毛の発生でしらみが寄生しますから牛体にD・D・Tなどの駆虫剤をまいてやって下さい。
(3)厳寒期の分べんは特に注意しないと犢の凍死することがあります。
その他
(1)今年1年間の経営計画,即ち飼料作物の栽培,牛舎の改造,補修,器具機械の購入,濃厚飼料の購入,種付,共進会出品等なるべく具体的な計画を念頭に当って立てておきたいものです。
(2)搾乳日記,飼料給与量,支出,収入などの記帳は必ず実行しましょう。

2月

飼養
(1)エンシレージ,根菜類などの粗飼料をつとめて多く与えましょう。
(2)ときわぎの葉,でん粉粕などの利用は,乳牛の食欲を増進します。
(3)犢の哺乳牛乳は必ず体温程度に温めて与えて下さい。
管理
(1)畜舎,牛体が不潔になりやすいので搾乳のときは必ず乳房をきれいにふいて下さい。
(2)牛体の手入は水洗をさけて根ブラシでまさつをするのが冬の手入のこつです。
衛生
(1)換気や採光を工夫して,感冒にかからせないようにして下さい。
(2)かびた乾草,変敗したエンシレージの給与は思わぬ中毒症の原因となります。
その他
(1)落葉かきを励行し厩肥を増産しましょう。
(2)春播飼料作物の種子の準備,春作飼料作物の肥培管理を忘れないようにして下さい。
(3)農閑期の夜ながを利用して有志の酪農研究会乳うし講などを開くことも一策です。

3月

飼養
(1)エンシレージ,根菜類がへるので石灰わらを十分作って下さい。
(2)冬はカルシウム・食塩の給与を忘れ勝です。
(3)春蚕の蚕さの飼料化も考えてみたいものです。
(4)給水量は自然増えますが雪どけの水は下痢を起しやすいからご注意下さい。
管理
(1)そろそろ換毛期に向うので手入を十分に行って,冬毛が残らないようにしましょう。
(2)暖かい日はつとめて舎外にひき出して日光浴をさせて下さい。
(3)春の共進会準備は今から心掛けて下さい。
衛生
(1)くさった甘藷や馬鈴薯を与えますと中毒を起しますから絶対与えてはなりません。
(2)昼夜の温差がはげしいので感冒,肺などに注意し,運動後のあとは完全にぬぐってやらなければなりません。
(3)冬の舎飼はひづめの質を悪化させるので運動の場合は注意を要します。
その他
(1)暖地では早播飼料作物の作付準備にとりかかりましょう。
(2)冬ごしのライ麦,菜種,ルーサンなどの手入を怠らないで下さい。
(3)牧草地,飼料圃へ厩肥を運ぱんしましょう。

4月

飼養
(1)貯蔵粗飼料の欠乏時期ですから濃厚飼料の量が増えますが,飼料費をへらすためにも牛の健康上からも粗飼料の給与を工夫しましょう。
(2)特に妊娠牛には少しばかりのあぜ草でも刈取って与え,ビタミンの不足を補いましょう。
(3)紫雲英(水田緑肥)の利用も合理的に行うことです。
管理
(1)農繁期に向って牛の管理も怠り勝になりますが,換毛期であり気候の変り目でもあるので,手入や運動は十分行って下さい。
(2)分べんの多い季節ですから,畜舎をきれいにして,通風換気を完全にしましょう。
(3)乳牛は分べん前少なくとも1ヵ月程度の乾乳期間を与えることが,牛乳生産の上にも胎児の発育のためにも重要です。
(4)乾乳の困難な場合は濃厚飼料や多汁質飼料の給与を中止して良質の乾草を与えて下さい。
(5)運動場や牧さくなどの修理は農繁期に入らぬうちにしておきたいものです。
衛生
(1)分べん後の早期栄養かいふくはび乳量に大きく影響しますので,良質飼料の給与が必要ですが,乳房の『シコリ』がもとのようになるまでは(分べん後10−15日程度)濃厚飼料の過給をさけ搾乳を十分行うことが乳房炎防止のこつです。
(2)雨やつゆでしめった緑飼を与えることは鼓張症を起す原因となるのでご注意下さい。
その他
(1)気温も次第に上昇するので牛乳の取扱いをきれいにするとともに,牛乳冷却用水桶の修理,冷却用水流のそこざらいなど牛乳缶の冷却施設を工夫したいものです。

5月

飼養
(1)新緑期に入り青草の給与が増えますが,乾草から青草への転換は徐々に行い,飼料の急変はさけなければなりません。
(2)菜種,ライ麦,紫雲英,青草など自給緑肥の給与に重点をおき,栄養価とにらみ合せて濃厚飼料の節減につとめることです。
(3)盛夏に青草の不足する地方(水田地帯等)では紫雲英などのエンシレージを作っておくことが良策です。
(4)気温の上昇とともに十分給水して下さい。
管理
(1)牛体,乳房をきれいにし,一方牛舎は夏期にそなえて通風採光を良くするよう工夫しましょう。
(2)蚊の発生を防ぐため,どぶ川,みぞなどにはてってい的に駆除剤をまいて下さい。これは牛の安息を守るだけでなく恐るべき伝染病を未然に防ぐ上にも重要なことです。
(3)飼槽,牛乳缶などは良く洗い,日乾しておくことが必要です。
衛生
(1)飼料の転換による消化器疾患が多いので特に牛の状態にご注意下さい。
(2)牛舎は特に敷わらをきれいにし,搾乳の完璧をはかって乳房炎を防ぎましょう。
(3)搾乳容器の十分な消毒,無菌的搾乳かくはん冷却など乳質の改善につとめましょう。
その他
(1)夏期の牛乳需要増加に伴って飼料,搾乳等を吟味して優良牛乳を増やしましょう。これがために分べん時期も種付期の合理化によってこの季節に最高乳量を示すよう,調整しておくことが必要です。
(2)青刈とうもろこし(8,9月収穫)青刈大豆(8月収穫)ロシアヒマワリ(7,8月収穫)等を播種しましょう。

6月

飼養
(1)麦秋に当ってこれら自家農産物の残りものの利用を工夫しましょう。
(2)若い青草はたん白質に富み牛乳生産量の引上に大いに役立ちます。すすき,ちがや,かもぢぐさ,れんげ,くさふじ,よもぎ,あざみ,たんぽぽ,きくいも,みやこぐさ,ささ,秋はぎ,くずなどは優良な野草です。
(3)飼料は湿熱のためくさりやすいので一時に多量調製しておかずに,給与の都度調製するようにしたいものです。
管理
(1)農繁期と梅雨期のため牛は最も不潔になりやすく,又湿熱のため抵抗力がへってくるので牛体の手入と畜舎の清掃は特に励行しましょう。
(2)運動も不足勝ですから田畑に出掛ける時にはつとめてひき出して近くのあぜみちや堤防などにつないで,青草を食べさせながら紫外線に当てましょう。
衛生
(1)牛舎にDDTやBHCなどをまいて吸血昆虫を駆除するとともに,朝夕必ず牛舎を見廻って牛の健康にご注意下さい。
(2)流行性感冒に対処するため,予防液の注射を行っておきたいものです。
(3)牛乳が変敗しやすい時期ですから犢の哺乳には特別の注意を必要とします。
その他
(1)ふすまや米ぬかなどの濃厚飼料は時々乾し,風通しをしてかびの発生と変敗を防ぎましょう。
(2)日よけ柵の取付け,日よけ樹の手入などをお忘れなく。

7月

飼養
(1)良質な青質,早播の緑飼の刈取時期ですから濃厚飼料の節減を工夫して飼料経済の合理化をはかりましょう。
(2)梅雨期のかびや腐敗などにご注意下さい。
(3)気温の上昇に伴って水の給与を増やして下さい。
管理
(1)日中はつとめて木かげにつないで早朝か夕刻の涼しい時間に運動をさせましょう。
(2)戸扉の開放,じゃま物をとり除いて通風をよくしなければなりません。
(3)吸血昆虫の駆除をはかって牛に安息を与えなければなりません。
衛生
(1)牛体をきれいにし,器具の消毒,牛乳の冷却処理に注意して優良乳の増産をはかりましょう。
(2)流感の侵入には今から警戒し,人の出のはげしい牛舎などにはふみ込式消毒箱をそなえることが必要です。
その他
(1)初秋の濃厚飼料不足を考えて自給飼料の播付をしておきましょう。
(2)サイロの清掃や補修もしておきましょう。

8月

飼養
(1)青刈とうもろこし,青刈大豆など良質の自給肥料は合理的に利用し,かたくなって低下する青草の栄養不足を補うとともに,粗飼料品質と濃厚飼料の給与量を工夫しましょう。
(2)出来る限り多量の野草を刈り,生草の利用をはかり残余は乾草にして貯蔵しましょう。
(3)最も良質な乾草を得るためには,開花直前後に牧草を収穫して,短時間に乾上げるとよいのです。
管理
(1)濃厚飼料の腐敗を防ぐため飼槽をきれいにし日乾を励行しましょう。
(2)牛舎の通風と清潔は,暑気の緩和に役立つことを忘れてはなりません。
(3)運動,種付場へのひきつけなどは,早朝日没後などを選び,日中はなるべく涼しい木かげにつないでおきましょう。
衛生
(1)給水の不足とはげしい暑さは日射病,熱射病の原因となりますから十分ご注意下さい。
(2)吸血昆虫の駆除と相俟って,流産の発生には特別の注意を払って下さい。
その他
(1)とうもろこし,牧草サイロの詰込時期です。
(2)秋の共進会の準備はいま頃からこつこつと行っておかなければなりません。

9月

飼養
(1)飼養飼料の不足する時期ですから青刈大豆,レープ,青刈とうもろこし,落花生等良質の自給飼料が豊富に得られる様,ふだんから計画的な作付を心掛けておきたいものです。
管理
(1)台風季節に前後して畜舎の補修を怠らないこと,一寸した不注意が思わぬ大過をまねくものです。
衛生
(1)流感の最盛期ですから朝夕牛の観察を怠らず,食欲の不振,発熱,び乳激減などの徴候があったら,なるべく早く専門家の指示をうけることが大切です。
その他
(1)青刈大豆,とうもろこしのサイロ詰こみ,乾草調製の時期です。
(2)暖地ではれんげ,青刈ライ麦,曇苔(以上4−5月)しょうごいん大根,丸かぶ(2月収穫)等の播種準備にとりかかりましょう。

10月

飼養
(1)大根,にんじん,甘藷などの収穫に伴ってその給与が多くなり,食道へいさなどを誘発する機会が多いので根菜類は細切にして与えて下さい。
(2)いもずるの収穫は降霜前に行わなければなりません。
管理
(1)涼風とともに犢の運動を増し,健全な肢をつくり上げるようにつとめましょう。
(2)畜舎の乾燥,採光には出来るだけ工夫をはらい日よけだなの取はずし,畜舎の修理等を行って向寒への準備をしましょう。
衛生
(1)気温の急変によるいろんな病気が増えますから牛の健康には最新の注意を要します。
(2)いもずるをやりすぎると鼓張症をおこします。
その他
(1)共進会の季節です。自分の牛が出なくても努めて見に出掛けましょう。
(2)いもずるのエンシレージは過湿になりがちですから詰込みの際つる3に対して1の割合で細断した稲わらをつめあわせますと,わらが水分を吸いとるばかりでなく,良質のエンシレージが出来上がります。
(3)れんげ,ザートウィッケン(4,5月収穫)青刈ライ麦,青刈えん麦,青刈大麦など播種しましょう。青刈麦類と豆科の混播はよい成績を収めています。

11月

飼養
(1)青草がなくなってきますが,出来るだけ農場の副産物を利用して,購買飼料の節減をはかりましょう。
管理
(1)秋の陽光は紫外線に富みますから,努めて舎外にひき出して日光浴をさせましょう。
衛生
(1)飼料の急変による消化器病。
(2)甘藷やいもずるなどのやりすぎは鼓張症のもとです。
その他
(1)わらの積込み,乾草,甘藷の貯蔵などは手ぎわよく処理しましょう。
(2)乳牛の運動を兼ねて軽い農耕や運ぱんなどに使うのも良いでしょう。

12月

飼養
(1)いもずるやかぶなどの給与とともに,濃厚飼料も主として自家生産物を与えて購入飼料は補助的に配合したいものです。
(2)寒気が厳しくなると,水の給与も怠り勝ですが,食塩とともに十分に与えることが必要です。
管理
(1)農繁期の手入不足をとりもどす意味で牛体の手入をしましょう。
(2)敷わらの増加や畜舎の補修など保温につとめましょう。
衛生
(1)犢の下痢や肺炎が発生し易いので,飼料の給与,すきま風の侵入防止などにご注意下さい。
その他
(1)1年間を反省し,飼養管理に欠陥はなかったか,飼料の需給はうまく行ったか,牛乳処理の状態は良かったか等を再確認し,明年の参考に供したいものです。
(2)支出,収入のしめくくりをし,合理的経営が出来たかどうか,まだ節約出来るところは無かったかを十分検討してみましょう。