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酪農放談(二)

胖 生

◎昔から政治家には大風呂敷はつき物の様である。大風呂敷の大風呂敷たる由縁は拡げるだけ拡げて後は野となれ山となれで,責任者を持たないところにあるらしい。大きい程宣伝効果はあるし,知らない者は真に受けて有難がるし,知っている者は狼の例え話ではないが又かと笑っている。結論的には決してプラスにはならないことは先刻御承知である。酪農も時代の波に乗っては居るが,政治家の風呂敷の中には入れて貰いたくないものである。真に受けた農家こそいい面の皮である。農家を踏み台にする者はあく迄農民の力で排斥しなければならない。
◎エビ,タイと言うことがある。夏乳の頃になると甘言を以って酪農家を釣りに来る御連中が殖えて来る。承知で食いついて利用する酪農家と,眼先のみで食いつく者とある。釣り手は決して損はしない算段である。一歩退いて熟慮するゆとりがほしい。
◎自己宣伝も一度は効くが度重なると鼻につく。更に進むと人が馬鹿にし出す。宣伝する人間に限って人の災いが判らない者が多い。他人をくさすことは自分の悪口を言っていると同じことになる。自己宣伝も程々にしたいものである。
◎「馬鹿の鶏飼い」と言う言葉がある。誰が言い出したか物知り博士にでも聞かなければ判らないが,然し卵を産ませるように飼うことはむつかしいことである。牛乳の生産も同じことであって,良い乳を安く,沢山搾るためには相当の頭がいる。その為めかどうか知らないが,何処の町村へ行っても酪農家と養鶏家は一応その村の先進者であり,知識人が多いようである。それだけに文句も多く,反面村を動かす力も持っている。乳の流れる郷を造るために酪農人の力を善用したいものである。
◎酪農視察に来た某県の青年があった。差し出した名刺の肩書は大したものであったが,県庁へ来てろくに話も聞かないで,日程を無理しているので寝むい寝むいと言っていた。そのくせ言うことだけは御多聞に洩れず大言壮語である。日程を考えて視察地を紹介してやった処ろくに礼も言わずに帰ってしまった。近頃はこの種の視察者が多くて困る。来る方は勝手だが,受ける方は大変である。その迷惑を考えるとめったな人間は紹介も出来ない。視察する価値のある様な人程自分の仕事を犠牲にして迄真面目に案内をしてくれるのである。何処某処へ行きたいから紹介してくれと言われると,相手によっては頭をかかえて逃げ出したい思いがすることがある。見学する方もされる身になってほしいものである。酪農の視察ではよく先進地へ行って良い話ばかり聞かされて帰って来る人が多いが酪農に関する限りではうまい話はそう役立つものではない。むしろ失敗談を聞いて参考にしてほしい。失敗は貴重な失敗であり,高価な失敗でもある。高価な失敗を二度と繰り返す必要は無い。失敗談こそ視察の貴重な土産でなければならない。