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赤黴病被害麦の家畜給与上の注意

 今年は長雨のため麦の赤カビ病が県下各地に発生している。殊に去る5月28日以来旬日に亘った降雨により,その蔓延は予想以上に多いようである。赤カビ病は各種の麦類に発生して,家畜には何れも有害であるとの報告もあり,今後被害麦を家畜に与える場合は特に注意が必要である。次に赤カビ病について大要を記してみる。

赤黴病とは

 赤黴病を分類すると次の2種類に分けることができ,北欧常在のものが毒力がはげしいといわれている。
 Fsalum Nivele……北欧に常在
 Fsalum Saubenitck……米国,日本,ソ連等
形態は凸版のとおりである。

 子嚢殻は麦及び稈に形成され肉眼的には黒色に見える部分である。
 子嚢は子嚢殻内にあって子嚢内に8個の胞子を包蔵している。胞子は子嚢内にあって胞子は3つの隔膜で4区割され熟すると子嚢殻は開き胞子が飛散する。
 培養 馬鈴薯煎汁寒天培養基で摂氏24−27度で発育し,赤色は菌から生産される色素である。
 抵抗性 常温では3カ年(米国)迄は変化しない。摂氏60度位で菌は破壊されるが,毒力は摂氏100度で幾時間煮沸しても変化が認められない。
馬鈴薯煎汁寒天培養基の作り方
 馬鈴薯200gに水1,000ccを加え,30分から1時間煮沸する。この液1,000ccに砂糖20g,寒天20gを加え,試験管に分注して蒸気消毒する。

 被害麦の状態

 赤カビ病にかかった麦の穂は桃色又は黒色を帯び,上部が枯れている。粒は桃色又は黒色点のあるもの又は不透明なもので殆んど充実していない。

 中毒家畜の症状

 被害麦を家畜に与えると中毒症状を起す場合があるが,中でも豚,馬,中雛が罹病率が高く,牛,成鶏はかかる率が低いと言われている。症状は外国の例によると消化器系統に著明なカタール性炎症をおこし,食欲は減退し,体重はだんだん軽くなると報告されている。
 岡山県下における被害も軽度のものは相当あるらしく,重症としては勝田郡下において和牛4頭が死流産したといわれている。これは被害麦の麦糠を与えたためである。そのほか各地で鶏がへい死又は下痢をともなっている。

 被害麦の給与上の取扱

 麦類を家畜に与える場合は充分注意すると同時に次のようにして与えると効果がある。
 まず精撰することであるが,唐箕,塩水,乾燥の3つの方法がある。
 唐箕撰においては2回くりかえして精撰し,2番ヒは極力さけた方がよいが,もし給与する場合は健康な成牛,成鶏に対し良質の飼料の中に一部混じて与える程度がよい。
 1.2%−1.25%の食塩水(1斗の水に216−225g)に麦を入れ沈下した麦のみを給与する塩水撰の方法も効果がある。又麦を数日天日で十分乾燥してから給与するのが望ましい。
 家畜はむし暑くなると兎角健康もそこないやすくなるが,特に過労時,栄養の悪い家畜,幼若家畜にこのような被害麦を与えることは極力さけるようにしなければならない。

 発病家畜に対する注意

 家畜の種類,性別,年令,栄養状態,疲労の程度等によって前記症状は夫々異なるが,麦の給与後であれば一応赤カビ病による中毒を疑うことが妥当であって直ぐに獣医師の診断を求めることが必要である。
 応急処置 過酸化水素水(500−1,000倍)500cc(約2号5勺)又は過マンガン酸加里水溶液(300−1,000倍)500cc(約2号5勺)を直ちに飲ませる。
 この量は大家畜を対象としての量であって仔牛,仔馬等は半量にし,鶏には給水器で自由に飲ませるとよい。
 又大家畜に対しては人工カルルス泉塩又は硫酸マグネシヤ等を200−300g投薬するのもよい。