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巻頭言

初秋の願い

惣津律士

 秋の声を聞くと毎年のことながら,畜産の祭典が花々しく各地に開かれる。そこでは畜産人が久し振りに再会して,お互に笑顔で,時には出品家畜を撫でながら,楽しそうに語り合っているほほえましい光景が繰りかえされる。
 私は県の畜産共進会では審査長と言う重苦しい役目を毎年せおわされて,つるし台に立つ苦痛を味う反面に,一寸のひまを見つけては参観者の群の中にこっそり入って,失礼とは思い乍らもかざり気のない話を立聞きして,畜産人のかもすなごやかな空気の中に,心静かにしたりながら,しみじみと反省の機会を持ち得る事を心からうれしく思っている。げに,秋は畜産人の1ヶ年を通じての総決算であり,将来の飛躍への修練道場でもある。我々はこの好機を利用して,明日の輝かしい畜産の姿を造成すべく,お互に研鑽の資としたいものである。
 農林省は本年度の高度集約酪農地区制定に伴うジャージー種600頭の購買に係官を米国,濠洲,ニュージーランドへ派遣され,現畜の到着は10月の由と聞いている。ジャージー種がこの様に大量に輸入された事は我国畜産史上未だかつてない事であり,時代の脚光をあびた酪農界にとって,たしかに朗報である。畜産局のこの英断に対してはただただ感激の外はない。
 随って来年度の高度集約酪農地区の選定をめぐって全国各地を通じて中央に猛運動が展開されているようである。健全なる酪農の発達を企図せられる畜産局としては,世は強引なる陳情の時代であるかも知れないが,当該地方の実情について充分なる技術上の調査と検討を加えられて,政治的に利用せられないように,断固たる態度を以って真に将来性のある地区を選定せられん事を切望して止まない次第である。