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畜産と養蚕の関連性について家畜飼養農家は養蚕に,養蚕農家は家畜にその経営上のプラスの面について再考をして見る必要があるのではなかろうか。抑々農家経営中における養蚕の経営過程は第1次生産物を対象とせず第2次生産物を換金の対象としているがこの事は畜産においても同じことで飼料とそれを食べる動物をもって1経営過程を型造っているのである,又畜産と養蚕の立地条件というものを考える場合畜産において採草地を離れて考えることが出来ぬであろうし採草地の多く求められるところが山間であり,この地帯に養蚕が立地条件の適地であることは論を待たずここにも亦畜産と養蚕の連繋する機会の多いことが言い得るのである。
ではこの様な根本的な類似や連繋えの機会の多いものが事実においてどの様な結果を現わしているかを見ると第1表のとおりであって,役牛,山羊においては減少を示しているが,乳牛と緬羊において断然著るしい増加を示している。これは全国的な酪農経営というものに刺激された乳牛の飼養或は長野県地方が緬羊飼育に適している点もあるが一面現在の畜産振興の隘路と思われる資金を養蚕においての現金収入が相当にその調達を容易にしていることも窺われると共に飼料面の優秀性をも立証しており各地の有畜養蚕地帯にて桑は家畜のために作り厩肥は蚕のために作るという考えにあることと考え合せると肯ける事柄である。
先ず蚕糞渣はその肥料価値より飼料価値に勝れているという事実である。このことは相対的のことで飼料とした場合に麩等と同程度の飼料価値を有する上に蚕糞沙は分解が速かとなり肥効を高めその3要素の回収率は大家畜の場合,窒素84%,燐酸91%,加里95%で殆んど成分的に失われる所がない状態で直接に肥料とするより一たん飼料として家畜に利用せしめて後に肥料とするのが合理的である。
蚕糞沙の飼料価値は第2表,第3表に見られるとおり主要飼料に比して勝るとも劣らぬ成分を示し飼料価値は相当なものである。即ち蚕糞は大豆粕に比して稍々劣るがその他のものよりは栄養価値が遙に高く蚕渣は蚕糞に較べると可成り劣るが甘藷蔓より幾分優っている。又この表で特に注意しなければならないのは桑葉或は残桑の飼料価値が高いことである。
次にこれらの保存法であるが勿論飼料価値からいってエンシレージが第一であるが春の蚕糞渣は乾燥して夏秋のものはエンシレージにするのが良い。第4表に示すとおり蚕糞渣をエンシレージにすると粗脂肪量が倍以上となり可溶性無窒素物が半減し,その他の成分は変化せず栄養価の高い消化し易いものに変る。乾燥の場合は蚕糞と蚕渣を区分して蚕糞で3−4日蚕渣で2−3日薄く拡げて充分に乾燥しないと黴を生じて家畜が嫌うから此の点に注意する必要があり2%セレサン撒布にて防腐の効を挙げた例もある。
蚕糞沙を家畜飼料とする場合大家畜では他の食餌と混食してこれのみの長期の飼養は行わない方が良いようである。但し小家畜の緬羊ではこの限りでなく蚕糞渣単用が最も良い成績を挙げている。
第5表は乳牛において飼料に蚕糞渣を入れて飼養した結果であるが,それによると麩と豆腐粕を減じたにも拘らず却って乳量は増加した結果を示している。尚この外脂肪濃度を高める事実もありより良い結果を生むことになる。又緬羊を例にとれば第6表のとおりの成績で発育に良い結果を及ぼしている。この外緬羊において双生児の分娩率が良くなる結果も示され産毛の量と質を良くする。鶏については蚕糞を与えると標準区に比し2.9%増の産卵率を示し1個当平均卵量も稍々大きく産卵1sに要する飼料費は16.1%減の経済的な結果を生み且つ卵黄の黄色の濃い優良卵が得られる。以上の事実は言い換えれば蚕糞渣が大小家畜家禽の嗜好に適しその結果健康度を向上させる所以に外ならないと考えられる。
蚕糞渣の生産量は4令に15%5令に79%で蚕の壮蚕期に一度に生産される状態でその産出量は飼育法,蚕作,その他の事情によって異るが総給桑量に対して蚕糞は概ね25%蚕渣33%計58%程度の産出量であり,収繭量から見ると春蚕上繭1貫に対し8貫198,秋蚕9貫801の試験結果もあり一般養蚕家の場合は比較的給桑量が多いので概ね上繭1貫につき10貫程度の産出と見て大差なかろう。
以上は生蚕沙の産出量でこれを保存するため風乾した場合は春において36%,秋において40%に減じ一般に半量以内でないと保存に不完全であるから概ね生蚕糞渣量の40%程度に考えれば良い。
エンシレージにした場合は1割減と見て9割の製品と見て差支えない。
であるから今反当上繭20貫収繭農家の飼料としての養蚕副生産量は次の通りである。
桑園 一反 |
桑条200貫―渋皮10貫(飼料となる) | |
桑葉360貫―蚕糞沙200貫 | 風乾して80貫 | |
エンシレージで180貫 | ||
残桑 40貫(飼料となる) |
家畜への施与量はこれを一概に延べることは難しく他の飼料との関連において決定されねばならないが特に蚕糞渣を家畜が嗜好することから何れの家畜にも飼料として与えうるが量を過すことは避けたいし他の食餌と混食するのが望ましい。一般に認められている蚕糞渣の給与日量は次の通りである。(生又はエンシレージ量)
乳牛,肉牛 3−4貫
種 牛 2−3貫
仔 牛 1−2貫
役 牛 1.5−2.5貫
豚 0.3−0.4貫
緬 羊 0.2−0.3貫
成 兎 40−80匁
成 鶏 10−15匁
養蚕の副産物の飼料化は上述した通りであるがこれは冬期間の飼料を確保する程度で完全自給とまで行き得ないがここに飼料圃として桑園が存在しうることである。桑園においては間作物を考慮しての栽培方式があり寄畦式とよばれるもの等が代表的なものでありこれが飼料圃として完全に機能を果しうることは第7表にて示すとおりである。この外山林,採草地への桑の立木仕立等(殊に賀川豊彦氏が米国から持ち帰られたヒックス・マルベリーは極めて発育旺盛で山間地における立木仕立に適し桑葉は勿論春期における桑実−桑椹は家畜の飼料に適していて米国においては利用が旺んである。)をもって尚飼料に充足しうること等において飼料自給化への主体としたい。
(第1表)養蚕地帯における家畜増加指数(長野)
役 牛 | 乳 牛 | 山 羊 | 緬 羊 | |
昭 23 年 | 100 | 100 | 100 | 100 |
24 | 97.6 | 128.3 | 88.5 | 117 |
25 | 92.8 | 287.3 | 74.4 | 244.1 |
(第2表)桑葉,蚕糞渣と主要飼料の成分(T)
有 機 物 | 粗蛋白質 | 粗 脂 肪 | 粗 繊 維 | 可 溶 性 無窒素物 |
N | P | K | ||
% | % | % | % | % | % | % | % | ||
新鮮 物 |
桑葉 | 26.5 | 7.1 | 1.1 | 3.4 | 12.3 | |||
青刈大豆 | 16.5 | 2.3 | 0.2 | 2.4 | 4.8 | ||||
蚕渣 | 87.2 | 22 | 3.9 | 16 | 45.3 | 2.6 | 0.3 | 0.2 | |
蚕糞 | 84.4 | 16.1 | 3.7 | 19 | 45 | 2.6 | 0.8 | 3.1 | |
残桑 | 88.9 | 25.1 | 4 | 14.3 | 45.5 | ||||
乾草 | 84.2 | 3.1 | 1.2 | 22 | 14.7 | ||||
甘藷蔓 | 92.9 | 4.6 | 1.7 | 4.4 | 23 | ||||
米糠 | 88.5 | 11.7 | 17.9 | 4.9 | 37.6 | 2.0 | 3.5 | 1.4 |
(第3表)桑葉,蚕糞渣と主要飼料の成分(U)
蛋 白 | 脂 肪 | 炭水化物 | 澱 粉 価 | N | P | K | |
% | % | % | % | % | % | % | |
乾草蚕糞 | 18.6 | 2.2 | 56 | 78.3 | |||
〃 蚕渣 | 12.5 | 4 | 14 | 34.3 | |||
大豆粕 | 46 | 7.2 | 23 | 81.6 | 7 | 1.6 | 2 |
小麦 | 11.7 | 1.2 | 64.3 | 77.3 | |||
米糠 | 12.5 | 14 | 30 | 72.5 | |||
大麦 | 7.8 | 19.8 | 57.4 | 69.1 | |||
麩 | 12.6 | 3.1 | 40.6 | 66.1 | |||
乾草甘藷蔓 | 4.6 | 1.7 | 13 | 31 |
(第4表)エンシレージとその原料の成分
水 分 | 粗 蛋 白 | 粗 脂 肪 | 可 溶 性 無窒素物 |
粗 繊 維 | 粗 灰 分 | 分 析 者 | |
% | % | % | % | % | % | ||
春蚕沙エンシレージ | 80.94 | 3.5 | 0.87 | 9.19 | 3.62 | 1.85 | 北大 |
秋 〃 | 68.02 | 6.03 | 2.25 | 13 | 5.64 | 5.06 | 〃 |
同上 | 77.08 | 4.57 | 1.9 | 6.34 | 4.77 | 5.34 | 〃 |
玉蜀黍エンシレージ | 80.1 | 1.1 | 0.8 | 10.1 | 6.6 | 1.4 | 畜産試験場 |
甘藷蔓エンシレージ | 77.7 | 3.2 | 0.8 | 10.3 | 5.5 | 2.5 | 〃 |
秋蚕五令期桑葉 | 73.5 | 7.13 | 1.06 | 12.27 | 3.55 | 2.29 | 北大 |
甘藷蔓 | 87 | 0.7 | 0.4 | 12.4 | 3.4 | 片山 | |
青刈玉蜀黍 | 72.9 | 0.2 | 0.3 | 9.4 | 6 | 〃 | |
禾本科牧草 | 80.6 | 1.4 | 0.4 | 4.7 | 3.8 | 農芸宝典 |
(第5表)乳牛における例(愛知県種畜場)
麩 | 大 豆 粕 | 豆 腐 粕 | 蚕 糞 | 青 草 | 1日平均泌乳量 | |
A | 1斗2升 | 1升5合 | 2ヶ | − | 多 量 | 3升 |
B | 9升 | 1升5合 | 1ヶ | 1貫500 | 多 量 | 3升6合 |
(飼料量は体重120貫1頭1日量)
(第6表)緬羊における例
1日平均給与量 | 1日1頭平均摂取量 | 体重増加量(2頭分) | |
野乾草 | 1,000g | 681g | 13.5 |
麩 | 300 | 300 | |
ワラ | 750 | 361 | 13.8 |
落葉 | 750 | 745 | |
ワラ | 500 | 174 | 17.5 |
蚕糞 | 1,000 | 978 |
(1日給与粗蛋白量を同一として1区2頭)
(第7表)桑園間作の種類と収量(寄畦式 畦間10尺4尺株間 2.5尺)
播 種 期 | 収 穫 期 | 反 当 収 量 | 用 法 | |
大麦 | 10 月 下 旬 | 6 月 中 旬 | 35.6貫 | 子実 |
小麦 | 〃 | 〃 | 28.4貫 | 〃 |
玉蜀黍 | 4 月 中 旬 5 月 上 旬 |
9 月 上 旬 10 月 中 旬 |
25.7貫 | 〃 |
馬鈴薯 | 3 月 上 旬 | 6 月 下 旬 | 226貫 | 塊根 |
ザートウィッケン | 10 月 中 旬 | 5 月 中 旬 | 530貫 | 青刈 |
青刈燕麦 | 10 月 下 旬 | 5 月 中 旬 | 570貫 | 〃 |
青刈大豆 | 5 月 中 旬 | 7 月 上 旬 | 290貫 | 〃 |
青刈玉蜀黍 | 4 月 中 旬 5 月 下 旬 |
8 月 上 旬 9 月 中 旬 |
580貫 | 〃 |