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気候的に天恵の少い高冷地は其の特殊土壌黒ボクと相まって甚だ生産に乏しい事がうなづけるが蒜山原地域の田畑率は田71.4%で昭和24年度に於ける主要作物作付率を耕地面積の階層から見れば次のとおりである。
層 | 5反以下 | 5月10日 | 10月15日 | 15 − 20 | 20 以 上 | 平 均 |
穀類 | 84.35 | 90.87 | 88.27 | 92.53 | 90.49 | 89.4 |
野菜 | 4.61 | 2.65 | 2.09 | 1.25 | 1.3 | 2.44 |
煙草 | 8.78 | 5.24 | 7.88 | 4.21 | 6.91 | 6.51 |
其の他 | 2.26 | 1.24 | 1.76 | 2.01 | 1.3 | 1.65 |
この地域の作付体系は穀類を主軸として,それに煙草の商品作物が配されている。煙草は現金収入の対象作物として各階層に於て家内労力の限度において作付けられている。各階層について見ると,五反歩以下の階層では食糧確保と現金収入確保に追われ相当の労力の現金化が計られている。5−10反の階層は穀類と煙草の生産に主力が注がれ耕地も労力も肥料も尽く両者の高度生産に向けられている。10−15反の階層では作物選択の余裕を生じ稍々落着いた作付率を保っている。15−20反,20反以上の階層に及べば穀類は其の大部分が商品化され其の生産に追われ,煙草作付は家内労力の限度内において現金収入の途となっている。
愈々蒜山原地域に酪農導入による現金収入の途が確認された段階にもなれば必然的に煙草作は飼料作物に転換するであろう。而して飼料自給度の向上への願望は草地の集約利用−開墾−畑地増反に方向づけられることは必然で,この地域の広大な原野の活用こそこの地域開発の生命線である。現段階の様に穀類,煙草の両立のもとにあって飼料作物の導入され易いのは10−15反の階層であって水田面積の多い階層にあっては酪農は煙草におけると同様ある限度があるものと考えられる。この様に蒜山原地域の酪農導入は必然的に作付作物の変遷ばかりでなく土地確保の様層の変化を要求し,農法においても北海道農法に近い変遷を招来することによって其の真価は益々発揮されるものと思料される。
交通機関に恵まれない輸送に相当の経費を要するこの北辺の高冷地蒜山原地域にあって南部平坦地によく対抗せんためには高冷地の気候によく生育する飼料作物の増産と広大な原野の草資源の活用による生産コストの低減を極力発揮せしめて其の実を挙げねばならない。
先ず営農残渣の飼料化は勿論であるが最も重大なのは耕地に依存する飼料自給,ついで順次に原野の活用に向かわねばならない。因みに高冷地向の飼料作物を紹介すると共に将来の栽培の指針を概説しよう。
現在紫雲英のみがこの地域の水稲跡作唯一の作物であるが其の作付は水田面積の4.5%,76町歩に過ぎない。又之は全乾田の10%内外である。二川,中和村において乾田は40−50%であるが八束村,川上村では70−80%である。この様に相当の乾田を有しながら紫雲英の作付のあまり見ることの出来ないのは,川上村における調査によれば気候条件によるもの83%,排水不良によるもの17%,労力不足によるもの0%である。●において耐寒性紫雲英品種の導入の切実なものがある。此の地域で稍々気候的に恵まれている二川村に於て岐阜の大晩生の栽培によって千貫以上の収穫をあげ得ているが本春の如き融雪期の不順による滞雪の害(菌核病)によって収穫皆無を喫している。本春は各村とも皆無の惨状であった。岐阜の大晩生,愛知の中晩生で付柄の安定を期することは甚だ困難であるが飼料として活用せんためには多少収量において低下をまぬがれないが,作柄の安定した対寒性品種の導入こそ待望される次第である。一方栽培法も積雪,寒冷地栽培改善の要領に基づけば平均400−700貫の収穫は期待出来るものと考える。
尚排水極めて可良な乾田においてはヘアリーベッチの作付は其の耐寒性及び収量において紫雲英に勝るべく,又稍々湿田なる場合は耐寒,耐湿性のあるアルサイククローバーが挙げられる。水稲跡作の禾本科作物としてライ麦は耐寒性あるも耐湿性なく燕麦は耐湿性あっても耐寒性なく共に不適であるが,之等紫雲英以外のものについては早急に其の適応性が検討され実用化されねばならぬ。水稲跡作春播青刈については大麦,燕麦が挙げられる。
元来本邦に導入された飼料作物には寒冷地向きのもの多く概ねこの地域に適応するものであるが年降雨量2,000粍に達するので,又特に秋の収穫期に於ける多雨は考慮に入れられなければならない。此の地域に最も適応するものから挙げると次の如くである。
1.玉蜀黍,パールミレット
2.ルタバカ,飼料用カブラ,青刈●苔(レープ)
3.青刈ライムギ,青刈燕麦
4.ヘアリーベッチ,コモンベッチ
5.馬鈴薯,甘藷
6.青刈大豆,青刈カウピー(青刈豌豆)
7.ルーピン,ホワイトスイートクローバー
8.向日葵,菊芋
以上の外に高冷地の輸作体系で牧草畑を近い将来挿入する事を真剣に考慮されなければならない。之に赤クローバーオーチャードグラスを挙げる。
此の地域の玉蜀黍は元来緑食用として住民の愛着する作物であり,此の地方の訪問者によって名物に取上げられつつあるものであるが,従来畑の周囲作程度に過ぎず其の収実反収は1,2石程度であったが昭和27年八束村に収実用一代雑種玉蜀黍の導入されて以来収実目的に一代雑種が増反されるに至った。八束村において昭和27年度に三反歩に過ぎなかったものが昭和28年度には五町歩に飛躍し川上村において一町歩を見るに至った。
玉蜀黍栽培には厩肥を多量に必要とするのであるから厩肥生産,施用において水稲作,煙草作とそのにらみ合わせが必要となって来る。然し玉蜀黍は一般麦作,陸稲作より此の地域に安定した作物で適当な厩肥,金肥の施用によって増収の前途には明るいものがある。八束,川上村の聴取調査によれば昨年一代雑種で反当四石を挙げた者数人あるという。玉蜀黍の本場長野県では玉蜀黍の80%が此の一代雑種であって採種事業は全国の需要を賄っている。長野県では玉蜀黍は重要作物であって決して土地を荒す作物とは考えない。それは厩肥の生産……酪農と結ばれているからである。
此の地域の天与の気候を活して先ず収実栽培を行い子実は養鶏飼料として販売し其の茎葉をエンシレージにすれば酪農に好適な基礎飼料となり,一石二鳥の効果がある。将来県の高冷地試験地を中心に一代雑種の採種事業は可能な範囲にあるものと思料される。
この地域において真にデントコーンの青刈生産を計画するならば二度播は可能であって,5月初旬から8月初旬まで播種は可能で日毎の給与につれて収穫と播種を繰返すと良い。二度播ならば反当2,000貫の収穫は困難でない。一度播であれば反当1,500−2,000貫を狙ってエンシレージ用とするとよい。青刈ならばこの場合タンカル20貫,厩肥300貫,硫安1貫,熔成燐肥7貫と少量の加里質肥料を要求するが収実ならば塩加2貫か草木灰10貫を施用するとよい。この地域では開墾処女地でも厩肥600貫施用すれば煙草作も容易であるという。玉蜀黍はよく多肥に耐え甚だ増収性の作物で乳牛の基礎飼料として青刈を濃厚飼料として子実もよろしく施肥効果の顕著な作り易い作物である。
玉蜀黍は一度刈の作物で二度刈には不適当であるがぶんけつ力,再生力旺盛で高冷地向きの作物にパールミレットがある。これは高冷地試験地で試作されたが将来性のある夏作禾本科であるので附記する。
此の地域の秋作大根はよく出来る。特に焼畑のものがすばらしい。乳牛は冬期間摂水量が少いので稍々もすれば泌乳量に影響する。そこで十字科の多汁質作物は乳牛飼養上且つ畑輪作上絶対的必要な作物である。
アカザ科の飼料用ビートは多雨のため此の地域には不適であるがルタバカ(スエーデンカブラ)飼料用カブラ,青刈苔(レープ)は此の地域に絶好な作物である。ルタバカの播種適期は8月上中旬で飼料用カブラは8月中ならばルタバカに多少晩れてもよい。レープは直播がよく9月中ならばよい。収穫はカブラはあまり降霜のないうちがよく,ルタバカは降霜は差支えなく降雪期までに収穫するとよい。レープは積雪下に耐え,春4月苔,開花始め頃の収穫が適当である。この様に播種期から収穫期までの幅をうまく考慮に入れると畑の輪作上,又労力配分上必要な課題となる。収実麦類の跡作焼畑の第一年作にはルタバカが好適で煙草跡作には飼料用カブラ,青刈苔が好適である。之等は煙草跡作で2,000−2,500貫の収穫は容易である。
ライ麦は耐酸,耐寒,耐乾燥,耐瘠薄性が強いが耐湿性はないので専らこの地域の畑作,特定開墾地に大栽培がみられる。開墾地では反収一石程度である。他の麦類が不適であるから重要な食糧作物になっているが将来は地力の増強によって小麦,大麦に替るべきであって,ライ小麦の試作も必要と考えられる。
飼料用としては収実はこの地域ではあらゆる観点から不利であるのでライムギは飼料用には青刈が好適で其の耐寒性と其の施肥の効果から,青刈性の発揮が望まれる。8月中下旬播であれば11月中に一番刈,5月上旬に二番刈が可能であるが此の地域においては三度刈も不可能ではない。燕麦は元来春播性であるから耐寒性は弱いが耐酸,耐湿,耐瘠薄性が強い。この地域にあっては秋播はあまり早く行わないように耐寒耐雪性に弱い事を考慮に入れて徒長せしめないようにしなければならない。燕麦はこの地域では乾燥の害がない限り四季播が可能である。秋播は10月中旬,春播は4月下旬が適当である。又これ等禾本科のみの単播より荳科との混播は家畜の栄養上価値あるものである。
いずれも蔓性越年一年生荳科である。荳科であるから耐酸性,耐湿性がないが,ヘアリーベッチの方が耐寒性,耐瘠薄性が強く,ヘアリーはライムギにコモンベッチは燕麦との混播に適する。分枝性はヘアリーが強く立昇はコモンベッチの方が早い。ヘアリーベッチの耐瘠薄性のこの地域の草地に挿入して好適であろう。尚土地改良とワラビの抑圧に好適であることが阿哲郡千屋村の牧野改良によって経験されている。又草地では採種が容易である。
両者は等しく根菜の澱粉作物であるが,馬鈴薯は寒冷地の作物であり,甘藷は暖地の作物である。現在の甘藷栽培技術では藷の400−600貫蔓の300−400貫は容易で安定した作柄で藷蔓,屑藷利用上好適な作物であるが此の地域では一年一作で他作物との間混作を許さない不利がある。馬鈴薯は梅雨期の湿潤のため疫病の発生甚だしいが現在梅雨明けて掘取り300貫前後の成績を挙げている。将来対疫病性品種の導入と栽培法の改善によって作柄の安定と収量の向上は期される。馬鈴薯は甘藷より生育短く,青刈麦類,多汁質飼料作物との三毛作が可能である。
大豆は此の地域の主要穀類であるが反収は一石前後である。其の屑大豆,豆稈の飼料利用は行われているが,将来濃厚飼料支出を圧縮せんためには栄養価の高い荳科の青刈を必要とする。冬作麦類の青刈に呼応して此等の青刈は一年二毛を可能とする。カウピーは大豆より青刈収量は劣るが生育期間の短い利点がある。之等は又収実玉蜀黍の間作として好適である。反収は青刈大豆600−800貫,青刈カウピー400−600貫は期待出来る。
いずれも土地改良作物でルーピンは耐酸性強く稍々酸性を好む作物でホワイトスイートクローバーは酸性を忌むが耐瘠薄性の作物である。いずれも根瘤菌の接種を必要とする。ルーピンはセラデラホワイトスイートクローバーはウマゴヤシ属と根瘤菌を同じくする。ルーピン及びホワイトスイートクローバーは此の地域では春播が好適であるが,後者は二年生となるから休閑地でないと不適である。又前者は普通有毒で緑肥用であるが,飼料用の甘味種がある。後者はフーマリンと呼ぶ香気があるが乾燥で容易に飛散する。又之は蜜源作物として有名である。阿哲郡千屋村の牧野改良に経験されつつある。
いずれも菊科の飼料作物として適作である。向日葵は青刈生産も大であるが家畜の嗜好性に乏しく,又粗剛になり易いのでエンシレージとして給与するに適する。菊芋はかつて開墾地作物として導入され果糖,ウイスキー原料として宣伝されたが家畜の飼料としてあまり利用されていない。其の青刈は乳牛に好適で根茎は豚の飼料によいというが,開墾地に於てすら雑草化の虞れがあるので一般に敬遠されている。今日の如く各種殺草剤の出現はこの撲滅も不可能でない。利用と除去法が確立すれば将来草地改良作物ともなり得るであろう。
蒜山原農法として将来変換をよぎなくされる過程として次の事が考えられる。
@プラウカルチベーター馬耕法の北海道農法
A混播技術による牧草畑の造成と輪換,真の畑作長期輪作の確立
B等高線,ストリップテレス農法の確立
C草地の改良,草地農法の確立
D機械力による酪農法への飛躍
農家の現在の和牛舎は住宅内の一部を区劃(8尺×9尺又は9尺×9尺)して舎内に放飼しているため,必要以上の広面積を占有し,保健衛生の適否及び飼養管理の利便が考慮されていないものが多い。牛舎の良否は日常の飼養管理のみならず,家畜の保健衛生上にも関係が深いので,これを改造して,使用し易く,しかも家畜が安心して起居出来る畜舎とすることが必要である。
現在の畜舎で共通的な不備の点をあげると次のとおりである。
一.採光不良(舎内が暗い)
二.換気不良(換気窓の設備がないため瓦斬悪臭が舎内に充満している)
三.畜舎床不良(尿溜壺がないため糞尿の分離がなく常に敷藁が汚染して非衛生的である)
四.出入口が不良(住宅の出入口と同一であって厩肥の搬出が困難であり搬出の都度附近が汚染する)
五.舎内への出入不良(畜舎の戸が固定していて簡単軽便に舎内に入ることが困難である)
六.畜舎の占有面積が広く使用勝手が悪く無駄な資材を使用しすぎている。
以上の如き欠点があるがこれらのものは一寸の改造により僅かの経費をもって酪農畜舎とすることが出来る。
新設の場合は住宅と離して乾燥した排水のよい夏は涼しく,冬は暖かい日当りのよい水利の便のよい処へ設けて,日々の作業の能率をあげることの出来るようにすることが必要である。
標準規格を示せば別紙のとおりである。
農家の厩肥の利用状況を見ると尿溜壺のない踏込み畜舎の中へ夏期は1週間冬は1ヶ月位更蓐を行わないで次ぎ次ぎに敷藁を切込み,汚染をまって取出し,野外に堆積しているため厩肥は日光の直射と風雨に晒されて肥効は著しく失われている。
従って毎日生産される厩肥の取扱いを完全にし,自給肥料の増産をはかることは酪農経営上重要な要素であるので堆肥舎を設けて厩肥の完全利用をはかると共に堆積した厩肥は風雨の侵入を防止して再三切替えを行い良質な肥効の大きい堆肥を生産せねばならない。
乳牛1頭が1ヵ年間に生産する厩肥の量は大体3,000貫であるので1頭当り4坪位の堆肥舎を設置する必要がある。
粗飼料の摂取量は体重の10分の1であるが冬期間は青草の給与が困難であるので春から夏にかけて生産せられる野生草及び飼料作物を貯蔵して冬期の良質粗飼料を確保する必要があるので乳牛1頭につき1基(内容量990貫5尺×10尺)又は2基(内容570貫4,5尺×7尺)設置する必要がある。
乳牛1頭当りのエンシレージ1日給与量は4−5貫である。建設に要する資金は融資をうけるか又は個人の負担であるが型枠及びカッターは共有として作成又は購入し,詰込み作業は共同で行うべきであり尚建設詰込,給与等については実地指導をする必要がある。
乳牛の導入に当っては乳牛導入可能戸数(1)耕地面積と現有家畜数の比率(2)飼料圃(3)採草地の草資源及び利用状況(4)可動労力の配分(5)副業の有無等を考慮して導入計画を樹立し,導入は地区(部落)を指定して集団的に行い投機的導入はさけ無理な普及を行わない。
導入牛の具備すべき条件
一.品種の統一
二.年令の統一(生後10ヵ月以上より種付前後のもの)
三.経済的な牛(高能力のものはさけて健康にして飼養管理が容易であり粗食に耐え肢蹄強健,長期飼養可能なもの)
四.性質温順にして取扱の容易な牛(悪癖なく飼養者によく服従するもの)
五.乳牛としての美点を資質の中に保有している牛
(1)指導体制の確立
本地区を区域とする酪農関係団体の育成強化を図り,国,県及び県中央酪農団体との密接なる聯関の下に技術指導体制の確立を図る必要がある。
特に県の試験研究機関の活用を図る事は何より肝要である。
(2)中心指導者の養成及び酪農に関する知識の普及向上
部落活動の中心指導者を養成するため津山酪農講習所へ入所せしめて酪農経営並びに乳牛飼育,乳製品加工,其の他酪農に関する技術を修得せしめる。尚農閑期を利用して随時講習講話研究会を開催して一般酪農関係者の知識の向上に努める。
(3)婦人に対する技術指導
乳牛の飼養管理中搾乳,手入乳の取扱,処理等は繊細な婦女子の日課として有効なものであるのでこれ等の知識を会得せしめるため講習講話伝習会を開催して技術の錬磨をはかる要がある。
本地区の酪農の振興に資するため,川上,八束,中和,二川,湯原の5ヵ町村の農協を以って酪農組合を組織する。尚必要があれば酪農小組合の組織を育成する。
種雄牛の設置
優秀なる種雄牛を家畜保健衛生所に繋養して,人工授精及び精液の配布を行う。
人工授精師の配置
優秀なる人工授精師を配置して,人工授精を実施すると共に技術指導を行はしめる。
乳牛導入計画
6,000町歩に渉る蒜山原の広大なる採草地と放牧地の草生を改良することに依り乳牛の維持飼料は自給確保することが可能のみならず,畑作経営の改善(輪作)により生産飼料も一部確保出来るので極めて安価な生産費をもって牛乳を生産することが可能であるといえよう。
然しながら産乳の処理施設,資金,経験の有無,可動労力の配布,現有家畜との転換導入可能状況等を充分に考慮して乳牛の導入を実施することが必要である。
飼料資源その他から考えて将来2千頭の保有は可能と考えられるので昭和29年度を初年度とする5ヵ年計画を樹立してみると次のとおりである。
区 分 | 29 年 | 30 年 | 31 年 | 32 年 | 33 年 |
増殖目標 | 300 | 600 | 1,000 | 1,500 | 2,000 |
生産頭数 | − | 90 | 220 | 400 | 590 |
廃用斃死頭数 | − | 30 | 45 | 65 | 90 |
移入頭数 | 300 | 140 | 225 | 165 | − |
搾乳牛頭数 | − | 200 | 470 | 850 | 1,250 |
1頭当り年間搾乳頭数 | − | 15 | 16 | 17 | 1.8 |
日量牛乳生産量 | − | 8.2石 | 20.3 | 40.4 | 6.6 |
年間牛乳生産量 | − | 3,000石 | 7,520 | 14,790 | 22,500 |
初年度において計画した300頭は高度集約酪農の指定地として国からの貸付を計画したもので翌年度からはこれらのものの産仔の再貸付及び自己資金融資により導入するのである。
受入工場の設置
早急に受入工場を設置して集乳を行う必要がある。
集乳所の設置
牛乳の変敗防止,集出荷の利便と共同利用,経費の節減施設の完備をはかるため部落単位(日量産乳量2石を標準とする)に簡易集乳所を設置する。
集乳道路の整備
迅速なる輸送を必要とする牛乳の運搬に於ては道路の良否如何は乳質に著しい影響をもつものであるから常に道路の補修整備(巾員,拡張,凹凸,均整等)を完全にして輸送の完璧をはかる必要がある。
酪農器材(搾乳バケツ,輸送缶)手入具,飼料,飼料作物の種子等の購入については良品を安価に入荷すると共に共同の利便をはかるため,酪農関係団体をして斡旋せしめる。
乳牛の雄仔牛は育成しても労費と乳価で相殺せられ経済的価格が少いので生後直ちに屠殺して肉皮を利用することが有利である。そこで簡単屠場及び簡易肉処理所(加工場)を設置して蛋白資源の自給と経済的利得をはかり共同の利便と福利を増進することが必要である。
総体的に今回の調査によれば畜産経営には最適の地であり民意の高揚と適切なる指導と畜産物の処理を考慮することにより酪農の導入は可能であると考えられる。
酪農を導入するとすれば従来の営農法に唯単に乳牛を加えたのみでは健全なる酪農経営は望めないので,全面的に従来の経営形態を再検討して水田作,畑作等に於ても一部飼料作に転換し,更に牧野の改良等全面的に研究を要する。従って従来入殖開拓者に与えられた1戸3町5反の耕地も再考の要があると思考される。
高度集約牧野と改良牧野を適度に設置して地区に適した改良を行うことにより,高度に活用することが出来飼料の大半を自給すると共に放牧地による育成等も考慮することが出来る。
畜舎,堆肥舎,サイロ等に関しては標準を示し各農家個々につき更に実地の指導をなし,経費の節減に努めると共に出来得る限り現在のものを活用することに努め,サイロは共同型枠により共同設置を奨励し,カッター等も共同にし,設置することを奨励する必要がある。
技術指導,種畜対策,導入計画,集乳対策,資材,飼料等の共同購入等全面的に協同組合を活用し,組合を中心に総べての活動を行わしめる必要がある。更に酪農研究会,又は酪農小組合等を組織し末端の活動に便ならしめることが必要である。
資金対策を考慮し,出来得る限り融資の道を講ずると共に,必要なる自己資金の対策を検討する必要がある。
本事業は産業全般に影響する処が大であり,独り畜産課のみの事業として推進するよりか県に対策本部を設置し関係各部課の関係員の総力を集中して行うことが必要であるので早急に対策本部を設置すること。
根本問題は受入工場の設置如何にあるので万難を排して工場の誘置に努力しなければならない。
集乳所は交通の便,乳牛の分布状況等を考慮して凸版の通り設置するを適当と認む。
本地区は従来本県の主要馬産地であった処であるが,馬格が小さく育成技術等も関連して用途は農馬程度の域を出ず飼育管理の難点等より漸次飼育頭数を減じ代って和牛が飼育されて来たのであるが,今回の調査に依ればその農家収入順位は米,煙草に次ぎ第3位以下であって,地区の産業としてはこれに依存するものではなく,飼料資源の活用と2,3男の浮遊労力の活用を考える時はむしろ乳用牛に転換することが有利でありと考えられる。又耕作の部面に於ては一部馬と−和牛の活用が考えられるが,営農法の改善による畜力の活用を考えると和牛の占める分野は小さくなるので,漸次乳牛に転換することが有利であると考えられる。