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秋から冬にかけての養鶏管理

岡山種畜場 川崎 晃

 秋ともなり秋冷を覚える季節となると、天高く馬肥ゆる季節とて鶏も涼しくなり凌ぎ易くなって来たと思われるが、実は反面降雨日数,降雨量共に割に多く,温度,湿度も高い上に,昼夜の温度差も激しく,夏の暑さの影響と産み疲れのため,種々の病気に罹り易く,又生理的の換羽も始り,周到な注意を怠ると,思い掛けない大失敗をもたらすものである。しかし反対にこの時季に鶏の管理に良く注意して,適切合理的な飼料の給与,周到な管理を行って,病気の予防に努め,又換羽の対策を行い,羽数に応じて出来れば点燈飼育を行い,産卵率を低下させずに十分能力を発揮させて行くと,卵価の高い秋に予期以上の収入を得ることが出来るのである。
 更に秋の換羽も終り,揃って産卵を開始したと思うと寒気が日一日と加って来て防寒処置を要する時期となる。この時季に適切な防寒処置を行わないと病気に罹り易くなり,又寒さのためにエネルギーを奪われて産卵率が低下するものである。そこで秋から冬にかけての管理に関して特に注意すべき事項について申述べたいと思う。

一.一般的注意

 1.降雨に対する注意

 前述したように秋は降雨日数,降雨量共に割に多く,鶏は舎内に閉じ込められ勝であり,又一般の湿度が高いから健康を害し勝ちである。これに対しては鶏舎内を清潔乾燥に保ち,よく乾いた藁や干草を十分敷き,屑麦,碎米などを撒き運動を促進してやることが必要である。降雨の際は雨水の浸入しないように窓や出入口は出来るだけ閉ざすようにし,舎内を湿潤にせぬようにすることが必要である。但しこの場合換気不良とならぬように注意しないと反って病気の誘因となるものである。又鶏舎の周囲には雨水が停滞しないように予め排水溝を設けて排水し易いようにする。

 2.運動場の手入れ

 運動場の排水を容易に乾燥し易くしておくことが必要であって,これがためにはある程度の斜面を設け,又運動場の日蔭樹の徒長枝を切除し,適度に枝を間引きして陽光の透過をよくし,乾燥に努めると共に鶏の日光浴を十分出来るようにする。又農閑期を利用して運動場の土替を実施することは病気予防上必要なことである。

 3.防寒処置

 鶏には汗腺がないので暑さに弱く夏は抵抗力が劣り,産卵率も下る。これに反し寒さには比較的抵抗力があるものである。しかし前述したように適度の防寒処置は必要であって,特に隙間風(賊風)は完全に防ぐことは必要である。本県では北面の隙間をふさぎ,莚などの補助設備を施すことは必要である,余り防寒処置が厳重過ぎて,舎内を暗くして日当りを悪くしたり換気の度を失したりすることは却って害がある。冬は兎角鶏舎を密閉し勝ちになり,自然舎内の空気が汚れ易いので換気には十分注意を要する。換気ということは鶏舎内の空気と外気の新鮮な空気とを入れ換えることで,鶏舎に風を入れることではない。換気をよくするには鶏の体に直接寒気が当らぬ高さの所に適当な窓をつけることが理想であって,天気のよい日には出来るだけ開放して寒さに対する抵抗性を強くするようにすることが大切である。

 4.敷藁

 冬は運動不足に陥り易く脂肪が体内に蓄積されて産卵数が減退するものが出来るが,運動不足を防ぎ,且つ保温のために鶏舎内に稲藁などを堆積する「堆積敷藁法」が奨励されているが,これは敷藁を出来るだけ反覆反転し,鶏糞と敷藁を混合して湿度が高くならぬ内に1,2寸補って,古い敷藁と混ぜて厚さが7−10寸程になるまで補い,以後はその厚さを維持して行くようにする。開始後4,5週過ぎて湿気を帯びるようになると消石灰を1坪当り500匁−1貫を撒布する。この方法によると舎内を割に乾燥させ,病気を予防し,産卵率を或程度高め,鶏の発育を促進し得るといわれる。

二.換羽

 俗に「とやにつく」といって,これまでの古い羽毛が抜けて新しい羽毛に換ることを換羽といい,老鶏並に寡産鶏は多産鶏に比べて早く,8月に始るものも少くない。この換羽は鶏にとって生理的に大きな変化が起るので,放って置くと衰弱して長い間産卵を休んでしまうので,飼養管理に十分注意することが必要である。
 換羽は鶏の個体によって著しく差があって,これを表示すると次のようになる。

時 期 早 期 換 羽
(8月に換羽に移るもの)
普 通 換 羽
(9月に換羽に移るもの)
遅 期 換 羽
(10月又はそれ以後に換羽に移るもの)
程  度 重度 普    通 軽度
期  間 期間が長い 普    通 短期間に終わる
部  位 全身的換羽 普    通 軽い換羽又は部分的換羽

 このように換羽の種類の間には互に相関的の関係があって,一般に早期に換羽を始める鶏は換羽の程度は重度であって,又期間が長期間に亘り寡産である。この反対のものは概ね多産鶏である。このように換羽によって多産鶏,寡産鶏の見分けが大体つくのであるから,換羽を利用して寡産鶏即ち駄鶏の淘汰をすることが出来る。しかしこれには例外もあり,又外界の感作も影響するものであるから,体型,体格その他の条件を併用することは必要である。
 次に換羽期の鶏の管理であるが,換羽の時は鶏は神経過敏になり食慾は減退し衰弱し易く,この時期に何か故障があれば案外に脆く斃れ易い。従って管理には十分注意して,1日も早く換羽を終えて産卵を始めさすように心掛けることが大切である。換羽に入って産卵を休むと,一般に餌を無駄食されているような気がして餌を減らしたり,餌の質を落したり,又忙しいとろくに餌も与えずに放って置くようになり勝である。このようにすると鶏は益々衰弱して換羽が長引き,それだけ産卵が遅れるようになる。であるからよく面倒を見てやり,換羽にかかったなら新羽毛の発生に多量の蛋白質が必要であり,又食慾が減退しているから穀類を増し,動物質飼料が不足しないように魚粉も良質のものを少くとも2割程度を与えるようにする。又脱脂乳などを用いると効果的である。なお練餌の中に葱,大蒜,蒜などを少しずつ混与することは鶏の食慾を旺盛にする効果がある。更に無機物も必要であるから青菜,カキ殻,腐植土なども十分与える必要がある。普通換羽鶏と遅期換羽鶏は点燈養鶏を行うことが有効で合理的な点燈法は換羽を遅らせ,卵の生産期間を延長することが出来,又換羽を完了してから体力の回復を早めて産卵を促進するのに有効であるとされている。

三.点燈飼育

 鶏の産卵と日照時間とは重要な関係があるのであって,秋から冬にかけて日照時間が短縮してくるので産卵が減って来る。そこで点燈をして日照時間を長くすると換羽を抑制して産卵を促進することが出来る。

 1.点燈の応用

 点燈の効果は開始後2週間目位から現われ始め3週間位で最高に適し3ヵ月目位まで持続し,その後次第に産卵は低下するものである。最も普通に応用されるものは淘汰前の産卵強制のために点燈することである。即ちその年限りで廃鶏とする予定の老鶏群(主として3年鶏)に対して,8,9月の換羽開始前から点燈を始め,最後の産卵を強制した鶏,師走の食鶏に一斉に廃鶏として売却する方法である。次に一般に応用されるのは普通の産卵鶏群に対する秋冬の産卵促進を目的とする点燈飼育である。この場合には,点燈を急に止めれば一時に換羽休産してしまうから,翌春日が長くなるまで点燈を連続し,極めて徐々に廃燈することが必要である。

 2.点燈の方法

 (1)夕方点燈法
 夕方引続いて点燈する方法であって,これは消燈の際俄かに舎内が暗くなるため,鶏が棲木に上る事が出来なくて鶏のためにはよくないが,親子電球でも使って10分か15分薄明にして鶏が棲木に上ってから消燈するようにする。この方法は管理者にとっては楽である。
 (2)早期点燈法
 夜明前に点燈して夜明と共に消燈する方法で,鶏の習慣上最も自然的である,しかし管理者にとっては仲々苦痛な方法である。この方法は点燈のスイッチを目覚時計に接続して,自働点燈が出来る装置にするか,或は寝室にコードを引込んで寝室からスイッチを入れるようにするとよい。
 (3)終夜点燈法
 日没から夜明まで徹宵点燈する方法で,手数を要せずしかも点燈の結果が最も著しく,短時間の強制産卵には適するが,終夜点燈すれば過労のため産み疲れや衰弱を来す。だからこの方法はその年限りで廃鶏処分してもよいものに利用すべきである。
 (4)点燈の照明度及び時間
 点燈する時の照明の度合は,最初は小さく段々大きくして行くようにすることが必要である。電燈の強さは鶏舎面積5坪について40ワットの割に点ずるのが標準である。広い鶏舎では少数の強力な電球を使用するよりも,右の標準により電球の数を増加すれば鶏はよく活動しよく食餌する。鶏は自身の影又は器物の影など暗い所があると驚くから,陰影をなくするように電燈を配置し,棲木,鶏舎の隅々まで照らすことが必要である。
 点燈時間は終夜点燈を除く外,通常の場合採卵用成鶏では昼間との活動時間の合計が12−13時間となるように定めるのを標準とする。いずれの場合も点燈開始時は時間を短かくし,1週間内外を費して漸次所定の時間に達することが必要である。一旦所定の点燈時間に達した後は,徒らに短縮又は延長は避け,又廃止する場合も急に中止することなく数日前から徐々に短縮して廃止する。

 3.点燈中の飼養管理

 (1)点燈飼育は産卵強制であるから飼料配合を合理的にし,特に蛋白質,無機物,ビタミンの不足のないようにし,又飼料の急変を避けるようにする。
 (2)点燈,消燈時間は厳守し,又不規則にならぬようにし,給餌時間を規則的にするようにする。
 (3)点燈中は冬期の保温に十分注意し,敷藁を十分に入れ撒餌を行い運動を促進する。

四.疾病

 1.感冒とループ

 鶏の感冒は必ずしも寒い時だけに起るものでなく,夏でも冬でも起るものであり,その原因となるものは鶏舎内の換気不良と戝風(隙間風)の侵入が主なものである。例えば寒い頃に南面通風自在の鶏舎で鶏を飼うと,舎内は外気に等しい程温度が下るが,空気が清浄であるため特に隙間風がない限り鶏は健康である。これに反して一見よい鶏舎でも,最も大切な換気装置の不全な鶏舎で密閉し過ぎると,舎内の空気の新陳代謝が困難になるので,舎内に入るとムッとして息詰るような不安な状態になっているが,これは鶏にとっては極めて悪い環境で,わざわざ感冒の発生を助長しているようなものである。
 病鶏は鼻汁を出し,それが段々と粘稠度を増して来て鼻息が困難となり,喉をゴロゴロと鳴らし,又,涙を出すようになる。
 応急処置としては,病鶏を直ちに隔離し,500倍の過マンガン酸加里液などで洗浄し,同群の健康鶏に対しては1,500倍の過マンガン酸加里液を飲水代用に用いる。

 2.ジフテリー

 これは気温及び湿度の変化の激しい時季に発生し易く,通風採光の悪い鶏舎で多発する傾向があり,飼養失宜による体の抵抗性の減退並に寄生虫による栄養障害などは本病に罹り易い素因を与える。
 感染後1週間前後で発病し,通常慢性経過をとり,急激な死を招くことは少く,発病後は栄養不良となり痩削して斃死する。
 本病の症状は複雑であって,普通,眼,鼻腔,口腔,咽喉,次いで気管,食道,腸其の他の内蔵を冒されるのである。病鶏は元気沈衰し,冠は萎縮又は変色し,羽毛は光沢を失い,食慾は減退し,他鶏と離れて佇立し翼下の羽毛は鼻汁で汚れている。鼻腔を冒されたものは初期粘稠液を漏しているが,次第に黄白色濃厚となり鼻腔を閉ぐようになる。口腔内を冒されたものは初期粘膜が紅潮し,粘稠渡を満しているが,次第に口腔の粘膜,上顎溝,舌根部に灰白色の斑点が現われ,漸次増して淡黄色チーズ様の義膜を生じて来る。その義膜が咽喉頭部に出来ると嚥下困難となり,喉頭部気管入口に出来ると呼吸困難となり窒息死することがある。義膜は分解して一種独特の不快な臭気を放つようになる。眼に来ると初期はカタール性炎を起し水様の涙を流し,それが進むと眼瞼内に灰白色のチーズ様の滲出物が溜り,これを早く摘出しないと全眼炎を起し失明するに至る。
 予防治療法としては,本病は感冒が誘因となるので感冒に罹らぬように注意を要する。即ち鶏舎の換気,採光,乾燥をよくし特に隙間風を防ぐようにする。本病毒は患部滲出物に含まれているのであるから,1羽でも病鶏を発見すれば直ちに隔離して,鶏舎,器具など鶏に接するものは厳重に消毒することが必要である。
 病鶏は500倍の過マンガン酸加里液に頭部をつけてよく洗ってやり,口腔の義膜はピンセットで除き,ヨードチンキを塗布する。注射薬としては初期にペニシリン・ゴルフォン剤が効果がある。なお羽数がまとまれば共同購入などにより予防液,血精の注射をすれば効果がある。

 3.鶏痘

 この病気は蚊の媒介により伝染するから,梅雨期から秋にかけて発生する。斃死率は低いが,これから産卵を始めようとする若鶏或は発育中の若雛に発生することが多く,発育は阻害され産卵は遅れ,殊にジフテリーと併発した時は斃死率も高くなる。
 病状は主として無毛部の肉冠,肉髯,嘴の基部,眼瞼の周縁などに大小不同の腫物が発生し,最初は水疱か又は疣状の隆起を生ずる。これが次第に周囲に拡って疣状の腫物で被われるようになる。しかしこの患部も段々と乾いて黒渇色の「カサブタ」となり自然に落ちる。しかしこの間産卵を殆ど中止し,又雛は発育を中止し被害は大である。
 予防治療法としては蚊の駆除と鶏痘予防液の接種である。蚊の駆除は人畜ともに必要なことであるから,共同して計画的に実施すれば完全な駆除が出来る。又予防接種は蚊の多い所では是非必要であって,予防液を共同購入してでも実施する必要がある。なお接種時期は発生期前約1ヵ月に実施することが大切である。病鶏に対してはクレオリン軟膏(クレオリン3,ワセリン100混和)を1日1−2回患部に塗布する。本病は姑息的な一羽々々の治療は中々困難であり,又伝染も早いから予防に重点を置くことが大切である。

 4.蛔虫症

 秋冬に特に多発するというものではないが,寄生率が高く,割に等閑視されがちでありながら,他の病気の誘因となり易いから特に述べる。
 病鶏は羽毛は光沢を失い,運動は不活溌となり,肉冠は萎縮し,元気なく食慾の割に体重減少し,成鶏は産卵を休み,雛は栄養不良となり下痢を起し衰弱し衰弱死に至る。幸いに死を免れても栄養障害を起し,発育が極度に遅延しその被害は甚大である。
 予防治療法としては蛔虫卵は消毒薬に対する抵抗力は極めて強く,クレゾール石鹸液では殆ど死滅しないが,乾燥には弱いから運動場はよく乾燥さし,表面土を年3回位入れ替えるとよい。又熱には弱いから育雛器その他は熱湯消毒が効果がある。鶏の緑餌に鶏糞を使用することは避けるべきであるが,止むを得ぬ時は十分な日光乾燥後か,十分醗酵さした後に使用すべきである。駆虫薬は種々あるが,サントニンは高価で使用し難く,比較的安く効果のあるものはヘルミノツク,フエノゾールなどのフエノチアジンを主剤としたものであろう。投薬時の注意は投薬前必ず絶食することである。