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人工妊娠とデンマークの畜産

 去る7月20日県会議事堂で農業技術研究所家畜部の西川博士の欧州事情についての講演会が開催され,その席上,人工妊娠について説明があった。これは優秀な雌家畜から多くの優秀な子畜を生産する方法で,この場合人工妊娠が必要となってくる。牛は1代に12万個位の卵子を生産することができ,1発情期に50個も60個もの卵子を或種の操作により排卵させることができ,これに精子を入れることにより多くの授精卵が出来る。この授精卵をゴム管を子宮内へ入れて取りだし,これを他の雌牛の子宮内へ移植しようとする。これがつまり人工妊娠の方法である。欧州においては今しきりにこの方法が研究されている。
 この人工妊娠を実験的に兎で授精卵10個を子宮内へ移植して8個が子兎として生れた。又5個入れて3個が子兎になった。
 そこで授精卵を取り出した後の保存の方法であるが,現在研究されているものでは40時間位保存されている。現在のところ今日,明日に実用にはならないが将来卵の移植が出来るようになる時期が来ないとは限らない。
 現段階においては牛の場合,子宮頸をとおして授精卵を子宮内に入れることについては成功していない。つまり開腹して輸卵管を結んで注入している。
 なお西川博士がデンマークのコペンハーゲンで行われた畜産学会に出席し,その際ヨーロッパ各地を3ヵ月にわたって視察されたが,氏の話で参考になる点があるので追記する。
 ヨーロッパの各地における農業経営のあり方は日本と根本的に異り,畜産を主体とした農業経営が即ち農業である。つまり畜産は農業であり,農業は畜産である。畜産のともなわない農業はヨーロッパにおいては考えられない。平坦地農業はデンマークであり,山地農業はスイスであり,対象的である。
 デンマークにおける農家は小農が10町以下,中農が20町以下で全農家の約98%が小農,中農を占めている。大農は60−100町位である。農家生活の程度は豊かで高い。作男は1ヵ月に3−4万円の収入を得,大学教授は10−20万円の給料をうけている。生活必需品は日本よりむしろ安い位であり,税金についてみても1−1.5割位である。デンマークが敗戦後60−70年でどうしてこのように立ちあがったかという点に注意すべきである。この国は気候のため麦類は駄目であり,このため畜産を主体として農業経営の立てなおしを図った。デンマークは盛夏でも霜が来て作物に悪かったが,植林により,霜も降らなくなり気候も変ってよくなった。この地帯はヒース地帯であったが,草生の改良により現在は立派な草生に変っている。(ヒース地帯とは禾本科の1尺位の草地)
 デンマークの輸出総額の70%は畜産品であり,主なものは牛,バター,チーズ,ハム,ベーコン等である。
 次に土地の状況を見ると国土は423万町歩で,その75%の320万町歩が農地である。農地320万町歩の内訳は次のとおりである。

 穀類    130万町歩
 (家畜用飼料 105万町歩)
 (食糧    25万町歩)
 牧草転作地  75万町歩
 永久牧草地  45万町歩
 根菜野菜   70万町歩
   計    320万町歩

 このほかに55万屯家畜用穀類を輸入している。
 人口は428万人,牛330万頭(内50%が搾乳牛),馬50万頭で1人当大家畜数は約0.9頭である。
 雑草は誰でも,誰の土地でも取り除いている。そして一寸の土地でも草を生産するように心掛けている。良質の乾燥が生産され,夏の間に3回位草を刈り取っている。夏は雨が降らないため灌水している。
 牛の飼料は95%が草でまかなわれ,濃厚飼料は5%程度である。又牛は乳を取った後は肉となるように肥している。人工授精は雄1頭で1,500頭−2,000頭に種付し,多いのは2,500頭を受けもっている。