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県共進会余話

◎天高く馬肥ゆるの候,秋は言うまでもなく畜産のシーズンである。例年この好季をねらって各地で畜産の共進会が開かれる。そしていつものこと乍ら最後の幕を飾るのが県の畜産共進会である。昨年までは家畜別に行われていたものが今年は綜合して仲良く和牛,乳牛,馬,豚,めん羊,山羊,鶏を一堂に集めて県下初に予定した程の家畜は出なかったがまず大成功と言えよう。成功の裏には主催者側のなみなみならぬ労苦と出品者の心からなる協力があった事は申すまでもない。それに加え地元の力こぶの入れようも並たいていではない。

◎池田氏夫妻をまねいて共進会の人出は地元商工会の調査によれば,ざっと10万と言われている。県共始まって以来の人出であり,備北4郡はもちろん北は真庭,南は小田,浅口,邑久の各郡をはじめ附近各地から貸切バスで,池田氏夫妻の歓迎と出品家畜の見物,協賛催しの参観に,人の波は共進会場を埋めつくした。
 参観者の1老婆が4才位の孫を背負い,夫妻の乗用車徐行の際,孫の顔を車中に入れて曰く,「よくおぼえておくんだよ,この人が天皇様のお嬢さんだよ。忘れてはいけないよ。」と。涙を2すじ流しながら孫にきかせる姿,尊くも又おくゆかしかった。
 当日厚子夫人は身体の具合が悪かったにも拘らず6会場を熱心に参観され,足を傷められ乍らも展望台方谷林へ登ぼられた。会場全部を廻ることは少々無理な計画であったが少しも疲労を現わされなかった。
 なお厚子夫人は柿は好きだと言われ,高梁へ第1歩を入れられた際,案内した部屋に紅く色づいた柿が挿してあったのを懐しく眺められ,微笑んでいられたことをつけ加えておく。