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午年を迎えて躍進する岡山畜産の目標

 歳月は流れ,今年も亦新春を迎えた。平々凡々と過して行く時の流れを省みて新らしい歳の指針とし,併せて今年の抱負を思うことは,吾々の新年の行事となって来た。反省が無ければ進歩はない。時が進むにつれて新らしい計画と,新らしい事業が行われて初めて業界は進歩するのである。10年1日の如く同じ事業を繰り返えすことは,むしろ退歩を意味するものである。畜産界もこの意味に於て今年の計画に対して大いに抱負を語りたい。


新設三蟠競馬場スタンド完成

回顧

 27年の本県畜産界の10大ニュースを掲げると。

一.岡山県酪農振興計画の樹立により乳牛1万頭の増殖目標が成立した。(併せて津山地区高度集約酪農計画の樹立)
二.岡山県中国酪農講習所を津山市に設立し,その開所式を挙行す。
三.岡山競馬を三蟠に移転新設す。
四.第16回中国連合畜産共進会と第1回全国和牛共進会を広島市に於て開催総理大臣賞を獲得す。
五.鶏の産卵能力現場検定の実施。
六.緬山羊の登録実施。
七.N乳業の創業と原料乳の争奪戦を開始し原料乳価は遂に全国最高となる。
八.家畜共済の一元化実施。
九.岡山種畜場買収を保安隊より申入れる。
十.山陽酪農で内地産最高価格50万円の乳用種牡牛を北海道より導入す。

 斯く歩んで来た27年の歩みの中には,更に今年に引続いて行われるものが多い。特に酪農の振興については知事はその五大政策の一つとしてこれを取り上げ,明るい農村の建設に努力しているので,今年は更に一段と発展することが期待される。

抱負

 畜産の歩みは牛のそれの如く遅々として大きな変化は望み得られないとしても矢張り一歩々々,大地を踏みしめて行くものでありたいと願うのは自分一人ではない。詳細な計画と抱負については係担当者が後段に執筆しているので省略するが,今年こそ思い切り畜産を伸ばしたいと願うのである。考えてみれば実行したい問題は山ほどある。犢の生産検査の問題,販路拡張の問題,高度集約酪農の問題,中家畜対策,孵卵場整備の問題,牧野改良の問題,有畜農家創設事業の問題,人工授精機構整備の問題,家畜保健衛生所整備の問題,各種団体の整備の問題,種畜場問題,競馬場問題等々,一つ一つが大きな課題となって浮び上って来る。どの問題も一つとして忽せに出来ないものばかりである。こつこつと一つ一つの問題と取組んで実現に邁進したいものであると希っている。
 MSA問題は畜産界にも大きく響くことであろう。他人の問題として安閑としている間に,気のついた時は自家の家事にならない様特に注意したいものである。
 天災地変は毎年各地で繰り返され,その度に年々大きな被害を生じ,耕種農業に依存する農家はますます弱体化して来る。家畜なければ農業なしとの言葉をもう一度思い出して,真の有畜営農の姿に立ち返りたいものである。農家の生きる道は経営の合理化しかない,経営の再診断を行い,健全農家を建設するために,畜産の持つ弾力性と安全性を活用されんことを望む。
 何はともあれ,吾々畜産人は今年も一歩前進するために,大きな希望を抱いてこの歳を迎えたのである。午歳は馬に因んで大いに活動したい。技術陣営の持つ蔭の力は何馬力か判らないが,団結した時には100馬力にも1,000馬力にもなり得るのである。今年こそは底力を出して畜産界のために働きたいものである。

乳牛

 誰かが「乳牛は乳を生産する機械だ」と定義づけた如くに,昭和28年の乳牛と酪農は機械の能率をあげるために,365日雨の日も風の日も乳牛を増殖して牛乳を増産することに終始努力したのであるがその実績が雑事処理に忙殺されてしまった。
 昭和29年は活動を好む午(馬)の歳であるので乳牛も酪農も駿馬にちなみよく調教協議してファン(酪農家)に満足を与えるようなレース(奨励指導)を行いたくハリキッて新春を迎えた。今年こそ酪農化促進運動を展開して常に知事が強調している科学に立脚した楽しい豊かな農村を建設せねばならない。将来の日本農業には酪農経営が最も有利であると考えるので,農業経営に乳牛を取入れ食生活を有機的に結合し地力を維持増進しつつ,土地の集約利用,労働力の合理的配分をはかり農業の綜合生産力を高める様に経営の合理化を指導して国家再建に且つ又農業安定に努めねばならない。
 新しい酪農建設の樹立にあたり昨年度の足跡を2,3記録してみると次のとおりである。

一.酪農振興計画

 過去50年の本県酪農の歴史と現在の乳牛動向,立地の条件を考慮して酪農振興5ヵ年計画を樹立した。この増殖計画の最終目標頭数は1万頭,牛乳生産量14万5,000石,搾乳牛1頭当り年間泌乳量25石で,産乳の完全利用を図るため既存の製酪向上と都市附近の市乳消費地域を中心とした乳牛の分布密度増殖に主力を注いだ。
 大体津山製酪工場を中心として地域内に5,000頭,岡山市及び南部製酪工場を中心とした地域内に5,000頭の増殖を計画した。
 種類は素よりホルスタイン種又は同系種で経済的能力の伸縮自在な優良なものを選んだ。
県内で移動をしたものは300頭内外であるが有畜農家創設事業によって県外から購入したもの180頭と自己資金或は単位農協の特別融資援助をうけて購入したもの120頭を合計すると600頭の多きに上る。有畜農家創設事業による購入斡旋は殆んど酪農協会の松田主事の手によって行われた。又北部地帯より一層の酪農意欲が発生したので関係者を動員して実地調査を行い更に地区高度集約酪農振興計画を樹立作成して農林省に対し指定方を猛陳情運動を展開したのである。地元においては関係者一丸となって期成同盟会を結成して朗報を鶴首待望している。何ずれ近々には朗報が来ることであろう。この時こそ本県酪農が飛躍する吉祥の日である。

二.牛乳取引状況

 今まで県下の市乳処理所は100ヵ所,製酪工場は4工場であったが昨春大日本乳業株式会社の創業により5工場となり南部においては夏期の気候異変による牛乳減産に反し市乳消費の激増が加わって牛乳の争奪戦が到る処で展開されたのである。
 統制も措置も制約もない牛乳界には自由な立場において日本一高い原料乳価格で取引され,南部酪農家は今こそ搾れ搾れ売れよ売れよで投機。商業の酪農が現出したのである。この時に出来た新語と副産物を集めると次のものがある。
 振り売牛乳。商業酪農。移動酪農。薬用牛乳パンパン酪農。牛乳問屋。牛乳ブローカー等
何と言っても地の利を占めた酪農家(搾乳農家)にとっては牛乳が高価に販売され有利な年であったことだろう。迷惑したものは市乳消費者(大衆)で次ぎが市乳処理業者と東奔西走した製酪工場だったであろう。
 牛乳生産者は牛乳の社会性をよく認識して常によい牛乳を誰れよりも安く多く生産して大衆牛乳を供給して社会より愛されて欲しいものである。
 大量消費組の工場側においても良心的に紳士になって永久に取引の出来る感情を伴わない公正適正な取引をして共存共栄をモットーに本県酪農の健全な発達に寄与して欲しいものである。

三.乳牛共進会

 10月7日より10日までの4日間広島市において開催された第16回中国連合畜産共進会に県下の代表牛5頭を出品した。出品の選抜は日頃の奨励規格のものを系統的に集め出品の容易と酪農経済の見地から泌乳中のものは除去して乾涸期のものと未経産のものにしたのである。審査は農林省鳥取種畜牧場荻野場長と日本ホルスタイン登録協会の桝田博士によって極めて厳正に取り行われた。
 兵庫県と広島県からは昭和26年の3月神奈川県平塚市において開催され全日本ホルスタイン種牛共進会に出品した経歴のあるもの3頭をわざわざ出品し,過去と現在の推移を追想さす機会を与えて戴いたことは何よりも興味を感じたのである。幸か不幸か本県のものは何れも2等と3等であったので中国地区の乳牛のレベルが未だ前途遼遠であると言うことが窺われ,共進会と言うよりは研究展示会的雰囲気分があった。
 第9回岡山県畜産共進会(綜合畜産共進会)が高梁町に於て開催され,乳牛の出品は極めて少数であったが最近の酪農意欲から酪農宣伝と心得て得意満々で参加したのである。
 出品者の顔振れは従来と変らなかったが質がよくなっていたことは愉快であった。
 この外郡,市,町,村部落方々で数多く開催されたことは酪農,乳牛祭で効果があったが少々登録に促らわれすぎたり牛つくり的な嫌が散見されるのであくまで経営に合致する経済的な乳牛を選賞造成するように取り扱われたいことを痛感した。尚共進会においての成績序列に感情をもって折角の和かな気分を破損することなく静観養心今後の乳牛作出と酪農培養に一層精進の程を切望する。

四.その他

 種牡牛施策,飼料対策,経営指導,酪農講習所の設置,酪農青年研究会,講習講話会等行ったがこれらは先ず先ず平年並であった。
 本年は昨年と同様な既定方針に随い指導奨励して明朗な酪農たらしめるのであるが,過去の実績と最近の現況将来の見透し等冷静に綜合判断して,採長補短,飽くまで立地の条件に適応し,そして将来永遠に悔なき不動の健全酪農を建設すべく努力したい。
 地域別にその大要を述べると次の通りである。

作州地区
 津山市にある岡山県北部酪農業協同組合が自営している津山製酪工場を中心とした作北1市5郡の酪農を推進して多年積寒暗黒の地帯に閉じ籠っている零細農家を救済するため挙県全力をもって津山地区高度集約酪農地として指定をうけるべくこれに主力を注ぐものであるが地元関係者において一層強力な団結意欲をもって目的達成に精進ありたい。この地区振興のためには次のような対策を考えている。
(1)乳牛の導入,増殖せんとする地帯は牛乳の集出荷,技術指導等の能率化をはかるため,現在乳牛を飼育している地帯,或は自町村に酪農の指導者,経験者のある地帯を睨み合わせ立地の条件に適合したものより優先導入して乳牛の飼育密度を図る。
(2)導入に要する資金は国有貸付,有畜農家創設事業による資金の融資と利子補給北酪及び単位農協の融資を考えているようであるが,自己資金を活用して自力で着手して欲しいものである。
(3)導入する乳牛の種類は県の奨励品種であるホルスタイン種又は同系種である。
 規格は育成牛又は妊牛であるが何よりも健康で長期飼養に耐える経済的有利なものを選定し,役利用を兼備するものとする。
(4)導入の斡旋は導入後の指導関係があるので北酪を中心とした地区内の最寄畜産関係団体をして行わしめる。
 悪らつなる家畜商の斡旋は極めて防止する。
(5)技術指導は県,講習所,家畜保健衛生所,改良普及所,組合,畜連等凡ゆる畜産関係の技術指導者の協力を得て適切に行う。
 殊に後進地の指導に重点を置く。
(6)種付は中国酪農講習所に精鋭な優秀種雄牛を繁用して精液の払下,人工授精を行う。人工授精は常に技術指導を行って受胎率の向上を図る。
(7)酪農小組合を結成させて部落活動を促進さす。幹部には青年層を養成し婦人間に酪農意欲を注入する。
(8)小設備にて施行できる研究会,座談会,伝習会,批評会を開催して酪農知識の向上につとめる。
(9)農閑期を利用して先進地(模範的な酪農地帯)を引率見学補導して見聞を博める。
(10)牛乳の消費宣伝を行うと共に自家利用を図る。
(11)厩肥の完全利用法を指導する。
県南地区
 県南部は本県酪農発祥の地帯で50年以上の歴史を有し,酪農の表裏は誰れよりもよく認識しているのであるが日本農業の慣習に促われて経営は旧態依然一進一退で酪農が飛躍しない現状である。なぜ南部の酪農の醍醐味を知りながらもっともっと酪農を普及し,乳牛を活用して行かないのかと不思議で耐えられない。
 日々生産される牛乳は4大製酪工場へ日本一高価な原料乳価格で買われて,その上都市の市乳需要は日毎に増して消費者はよい牛乳を要求し,日夜渇望している現状である。
 製酪工場が現在の設備でも一日の処理能力は1,000石以上可能であるが,それが僅かに現在の生産量は100石でその内市乳用に向けられるので実に少量である。昨春来引続き牛乳の争奪戦が見苦しい程展開されているのも牛乳が足らないからである。今年こそ牛乳を増産して工場側を満足させ,感情を伴う無駄な競争(大型トラックに2,3本の牛乳輸送缶を積んで飛び廻ること)をやめて酪農地帯を培養して酪農家と共に共存共栄の実を挙げることに精進して欲しいのである。
 工場間の軋轢のとばっちりを県や酪農家相互間に持ち込まれては不幸此の上ないことである。兎に角今後の南部酪農は立地条件に目覚めて悔なき発展の基礎を確立して行かねば又歴史をくりかえさねばならない運命にある。
 地勢的に分類すれば水田,畑作,山岳,河川敷,都市近郊等で自ら経営の在り方も異るが帰する処は経営の合理化である。
 振興対策としては次の通りである。
(1)中心指導者を把握して活発なる意欲を昂揚して酪農の普及に努めたい。
 中心指導者を(つとめて)青年層に需める。
(2)立地条件を勘案して乳牛の飼育密度をたかめる,ことに工場及び都市附近或は市乳供給地帯の牛乳の増産に努めたい。
(3)都市の搾乳専業者が最近乳牛を愛護し日々の飼養管理も改善されて来たが未だ産犢の高成を顧みない嫌いがあるので,犢の育成についても注意を施したい。
(4)乳牛の増殖改良を種雄牛や登録のみに負わして飼養管理が粗漏である嫌いもあるので,経済的,能率的な乳牛を改良増殖,作出するとともに乳牛の飼養年限を延長して資源を愛護させる。
(5)酪農家即酪農家庭を建設するためには乳牛に親しみを持たすことが第一であるので,家族に楽しみを分つと共に児童に乳牛を展示して酪農と乳製品の知識を注入する。

 以上大要を記述して本県酪農の概説とする。(松尾技師)

和牛

 昭和28年は和牛改良史上特筆すべき第1回全国和牛共進会開催の年でありしかも関係者各位の1年近い努力と御協力により総理大臣賞獲得という本県畜産史上空前の成果を記録し得た記念すべき年であった。
 昭和29年の新春を迎え,輝かしい過去の実績を顧みて徒らに自画自賛することなく絶ゆみない改良への努力を払わなければならないことを痛感する。数的には戦前戦後を通じて最高の11万5,000頭を擁し年間3万余頭の生産犢を見る現状において,この改良を促進させ,しかも之等を如何に利用し消流するかが当面の問題であるが特に本年の抱負として取り上げたい点は次のとおりである。

一.種畜対策
(殊に種牡牛の育成について)

 和牛の改良を推進してゆく上に最も大きな注意と努力が払われているのは種牡牛の問題である。殊に近時技術の向上と当業者の認識によって人工授精が目覚しい発展を見せ,改良が大いに促進される段階に来たのであるが,ここで注意しなければならないことは種牡牛が真に本質的に優秀でなければならぬということである。即ち如何に体型は立派であってもその因る型(遺伝因子の組合せ)が優秀でなければ寧ろ改良は逆行することになる。登録改正後日尚浅く,個体の遺伝因子を把握することは当分困難な問題であるが少くとも種牡牛として育成しようとする牛は,その血統,並びに祖先,両親,兄姉等の蕃殖成績を綿密詳細に調査した上で選定されなければならない。こうして始めて種牡牛の真の価値が裏付けられるわけで,従来兎角体型偏重に陥り易かった選定育成の方途は早急に改める必要がある。要するに本質的に優秀な種牡牛を計画的に生産する方向に持って行きたい。

二.つる牛の造成

 昭和25年10月従来の登録視程を改正し全国的に不良遺伝因子を除去して子出しの関係を改良普及発達させてゆくため現行登録制度が確立して年と共に非常な進展をとげているが,改正の要点である因子型としての裏付けは,つる牛によって始めて解決する問題である。殊に長年月を要する困難な不良因子の淘汰と,前述した因子型の優秀な種牡牛を得る点からもこのつる牛造成は大きな意義をもつのである。しかしこの実施にあたっては特に近親蕃殖による危険と犠牲を伴う点から真に和牛改良に対する深い認識と関心を要する所である。
 現在阿哲郡竹の谷つる牛改良組合がこの困難な仕事と真剣に取り組んでいるが他の主要生産郡においても,過去の実跡を生かして各々特色ある地方の優良形質固定のため,このつる牛造成に対する関心と努力を深めていきたい。

三.生産検査について

 有畜農家創設事業開始以来仔牛の需要は急激に増加したが,こうした県内外の子牛の消流を円滑にし,且つ改良上最も重要な点である不良因子の出現の状況を精査して和牛の経済的価値を高め,農家の福祉を増進してゆく上から一貫した組織の下に生産の実態を把握することが必要でこの具体的実施計画について検討したい考えである。

四.利用販売について

 先ず販売部内については有畜農家創設事業による仔牛の移出頭数は年々増加し,成牛と合せて,県外移出頭数は2万頭に達しようとしているが,全国的に飼養頭数が増加している現状であり,従って,仔牛の品質その他について相当の要求も生じて来ることは必然で販路拡張,顧客誘致の点から特にこうした仔牛の資質発育或は市場の設備取引方法については他県に遜色がない様改善して行き度いと考えている。
 尚利用部門において役は主として技術指導が主体となるが,肉については今後一層の需要増加を見越すと同時に特に大衆的肉資源として重要な意義を持つ去勢牛の利用面を積極的な施策に移したいと思う。(渡辺技師)

馬及び競馬

馬産

 昭和28年の年も早くも暮れ,29年を迎えんとしている。「日日新又日新」というが年の始めは凡て新まり誰しもが今年こそはこうして見たいと夢を画くものである。
 さて29年は午年でさぞ馬も本年こそは幸ある年であれかしと大空に向っていななくであろう。馬産も本然の姿に還ったというか農業と結びついた役畜としてその役目を果している。昨今のように馬の価格が下落しても農馬としての飼養頭数は甚しい増減がない。
 社会情勢が安定し,トラック台数が急激に戦前の3倍近くに増加して来たので都市輓馬はこれに圧され激減して来た。しかし地勢の関係上馬を必要とする地帯は馬の持つ独特な機能と便利さはそうたやすくは捨てられない。
 厩肥と畜力の両面において馬の役目を果さなければならないし,将来とも馬に適した地方においてその地方の農業と結びついて行かねばならない。
 本県の馬については頭数の増加により農馬としての体型を整備してゆくことが肝要である。馬の改良目標は利口でおとなしく粗食に堪え,持久力のあるよく人に馴ついて飼養管理が容易であることで何もむやみに作業速力の早いことを要しない。
 この目標により

一.種牡馬の整備

 良い資質を備え,血統のよい改良目標に合致した体型のものを入れる。

二.基礎牝馬の充実

 これは28年で実現出来なかったので本年から北海道等の先進地より優良基礎牝馬を導入し目標の馬を充実したい。

三.種馬登録事業の強化
四.馬利用の指導

 競犂会,馬耕講習を開催し,馬利用の合理化を図り作業能率の増進を期する28年購買の軽種種牡馬の産駒ができるのでこれが品評会を開催し,育成指導を実施し,競走馬資源の充実発展に力を入れたい。
 昨年広島市で開催された中国連合畜産共進会において馬は惨敗を喫した。その原因は努力の足らなかった一言につきると思う。広島,鳥取両県は余りに躍進していた。これを良き手本として肝に銘じ今より心しなければならない。

競馬

 さて岡山競馬事業は県が承継して以来5年有余,この間公営競馬として大衆の信頼を得,草競馬から一歩一歩と脱却して近代競馬への歩みを踏んで来た。
 この5年間の改善向上は過去の面目を一新したといっても過言でなかろう。28年元の原尾島から風光明媚の地江並(三蟠)に新しく生誕,近代的施設をもってスタートした新設岡山競馬場をさらに完備したものにしなければならない。これからの事業として

一.第2スタンドの設置
二.場内の植樹
三.練習馬場の完成
四.隔離厩舎の設置
五.投票所,払戻所の連絡通路の設置
六.スターチングの増設

競馬民営移管の問題

 この問題は27年夏頃から台頭したのであるが,28年全国公営競馬協議会は,今日の社会情勢ならびに地方財政の現状に立って如何なる形の民営化も絶対反対の態度を明らかにして,全国的組織のもと積極的反対運動を展開してきたので一応は第13国会において競馬法の改正を阻止したのであるが,しかし農林省は競馬制度審議会を設け(殆んど国営関係者の民営論者の集合)競馬民営化の方向に持って行った感があった。即ち委員49名中公営競馬関係者は東京都及び姫路市の2名でこの意見の取りまとめは

一.国営競馬問題

 現行の国営競馬はできるだけ速かに民営に移すこととしその施行主体は全国1本の公共性の強い特殊法人(公益法人)とする。

二.公営競馬問題

 公営競馬は当分の間現在のままとし,その間民営移管について国営競馬制度改正の線に照し研究立案する。
 移管の時期は国営は29年4月1日公営は30年12月末のようであるが今日の段階において地方競馬は公営以外にはなく公営によって現在の健全競馬を確立したもので民営に移管しなければならない何物の理由もないはずである。
 過去5年の歩みを見れば明かであり今日飛躍的発展を遂げ公正明朗化したことは万人の等しく認める処でもある。
 29年こそ民営化絶対反対のため総けっ起の時であり本県として最大の問題である。
 以上の概略が29年馬に関しての主なる目標である。(花尾技師)

中家畜

めん羊

 本県のめん羊は資質,数的には全国水準以下であるが,県の補助政策と有畜農家創設事業により積極的に導入をはかるようになってからは増加の一途を辿り,先進県から毎年約1,000頭の種めん羊を導入して来たので現在の飼育頭数は約5,000頭である。

一.資質の改良

 終戦直後に畜産増殖5ヵ年計画を樹立し改良増殖をはかって来たが目標を突破したので,更めて昭和27年に畜産増殖10ヵ年計画を立直したところ,順調に増殖して来たが未だ資質は良好と言えないので,之が改良をはかるためには,先ず先進県から優良種雄めん羊を導入して集団的飼育地帯に貸付し,資質の改良をはかるとともに,昨年度から実施中のめん羊共同種付補助施設を更に強化して仔めん羊の生産率の向上をはかる。
 第二に津山畜産農場のめん羊施設の拡充をはかり優良基礎種めん羊を繁養して繁殖率を向上し,生産種めん羊の払下により資質の改良の基礎とすると共に,登録実施により県内生産された優良種雄めん羊の買上げにより生産意欲を昂揚し,併せて優良種雄めん羊の保留をはかり之を育成して種雄めん羊の貸付又は払下を実施する。

二.登録の実施

 本県におけるめん羊飼育頭数は近年急激に増加しその飼育頭数は約5,000頭を上廻る状態で更に有畜農家創設事業により年々種めん羊を導入され益々飼育数は増加する傾向にあるが,本県には未だ登録事業を実施していなかったため,27年12月5日日本緬羊登録協会岡山県支部を設立し,登録を実施する運びとなったので,各郡畜連(19ヵ所)に支所を設置すると同時に仔めん羊検査員を地方事務所,家畜保健衛生所,農業改良普及所,畜連等の指導機関へ委嘱して,登録の普及,徹底をはかりたい。
 なお,産仔登記,予備登録は夫々約200頭の予定である。

三.生産物利用

 仔めん羊,羊毛,肉等の処理をする場合に散在的に飼育していると,集荷,販売,加工等に困難であると共に,生産者に不利益であるから必ず集団的に飼育を奨励したい。
 又生産物の取引は団体を通じられたい。

四.共進会

 昨年10月広島市において開催された第16回中国連合畜産共進会における審査成績は審査報告のとおりであって残念ながら良好とは言えない結果であったことは申訳なく深く責任を感ずる次第である。
 中国連合畜産共進会は定期的に3ヵ年毎に開催されるのであるが,県畜産共進会は毎年開催されておるが,毎回和牛に主体をおき,他の家畜を含む綜合畜産共進会の開催は極めて少く,中国連合畜産共進会が開催される年でないと綜合畜産共進会が開催されないから本年からは県畜産共進会は綜合畜産共進会を開催するよう努力したい。
 又昭和30年は丁度羊の年に当り,他の家畜は全国的な共進会を開催済であるが,めん羊,山羊共に全国的な畜産共進会は未だ開催されなかったが,その後第1回全国めん羊,山羊共進会が開催される計画であるので本県からも出品して優秀な成績を納めたいものである。そこで本年から出品準備をし,熱心家の御奮起を期待してやまない。
 本年は特に登録の普及徹底をはかり,資質の向上をはかると共に農家経営にとけこんだめん羊飼育奨励をしたいので各位の絶大なる御支援を願いたい。

 昭和19年以来指定種豚場の制度を設けて養豚の改良増殖に努めて来たが豚は繁殖率が旺盛なため価格の変動も激しく豚の価格が高くなると従って無計画に飼育し,反面価格が下落すれば種豚まで売却する傾向があるので,昨年度制定の岡山県指定種豚場設置奨励要綱により従来指定した種豚場の価値のないものは整理し,再検討したい考えである。
 又各指定種豚場には必ず登記,登録を繁養し仔豚の生産計画を樹て一般農家に供給し得るよう種豚場として再出発したい。
 県下の豚の飼育頭数は現在約5,000頭であるが豚もめん羊,山羊と同様資質も良好とはいえないので,之が改良増殖をはかるためには先ず先進県から優良種豚を導入して,種畜場に繁養して繁殖育成し生産仔豚を配付すると共に養豚地帯の家畜保健衛生所に種雄豚を繁養して人工授精により改良増殖をはかりたい。
 豚を小数飼育しておる農家は種畜場,其の他適当な肉加工場において委託加工して必要時に還元を受けるようにしたい。
 更に進んで簡易肉加工により食生活の改善のため,或は飼育管理の改良のためあらゆる機会を捉えてこれら諸般の講習会を開催し養豚経営の有利性を再認識し農業経営の一環として堅実な発展を期したい。(小島技師)

山羊

 黒いものなら阿哲へおいでという歌がある。白いものならどこの郡へゆけばよいか……。残念ながら本県の山羊はそこまで改良が進んでいないことは事実である。然し近時農村は勿論のこと都市近郊から資質のよいものを希望せられるようになり,漸次改良への意欲が出てきたことは農業経営上からも保健の上からも極めてよい傾向であり,このチャンスを逸しないよう昭和29年度には大いに普及と改良を図り,過去2回の中国連合共進会においてどんな成績であったかを反省すると共にこの汚名を返上するべく努力をしなければならない昭和29年である。

一.農業経営と山羊の結びつき

 牛1頭に対して山羊10頭が匹敵するといわれて,その経済的な価値も低いものであると思われているが,山羊は大家畜のもっていない,よいところがあり,その良いところを充分認識して,これを利用することにより営農上の効果をあげることが必要である。次に2,3の項目をあげて営農上どんな利益があるか,又山羊飼育はどうあるべきかを述べてみる。

(一)山羊は自給面に強い家畜である

 大家畜のように大きな現金収入としてはないが,自家で毎日濃厚な,しかも新鮮な乳を利用することによって近時やかましくいわれている食生活の質の改善も安価にでき,農家の大きな資本ともいえる体の健康を維持強化することができる。農村では過労,脚気,胃腸病,血管病,虚弱児等が比較的に多く,この原因は重労働に加えて最も必要な蛋白質やビタミン,石灰等の欠乏した容積本位の食生活をしているからであるといわれる。山羊乳は人乳や牛乳に比して多くの養分を含有し,脂肪は牛乳の脂肪球よりも小さく消化吸収がよく,乳の質からいって最良のものといえる。山羊乳や山羊肉を自家生産し自家利用することによって,間髪的に保健衛生費の節減や食生活の支出を防ぎ,言葉を換えれば収入がそれだけ増加したとも言えるのである。
 草から理想的な栄養素が安価に生産されることは農村にとって,こよないものである。次に昭和25,6年の岡山県農家1戸平均の家計費を表示して参考に供する。
 表1.家計費の内訳(統計調査事務所調)
 表2.飲食費の内訳(    〃    )

(表1)家計費の内訳(円)

  総  額 飲 食 費 住 居 費 被 服 費 教育修養
交際雑費
保  健
衛 生 費
冠婚葬祭
諸  費
光 熱 費 交  通
通 信 費
昭和25年度 99,210 30,841 14,314 20,070 16,117 7,202 5,159 3,342 2,165
昭和26年度 118,550 35,229 15,409 25,659 20,329 8,343 6,635 4,489 2,457

(表2)飲食費の内訳(円)

  総   額 主   食 副      食 調味料油脂 嗜 好 品
植 物 性 動 物 性
昭和25年度 30,841 2,359 1,378 10,534 4,665 11,905
昭和26年度 35,229 1,578 1,784 12,336 6,097 13,432
(二)零細営農には理想的な家畜である

 (一)に述べたような性格をもつ家畜であるから,小農経営には最適な家畜であり,3,4反の農家では余程条件がよくないと大家畜を飼育することが困難であるが,このような農家又は地域では緬山羊を飼育せられることが合理的であり,中農以上においても農業経営上中家畜は欠くことのできないものである。山羊の改良が進み良い仔が生産されるようになれば牝山羊で5,6,000円位には売却でき,又余剰乳が相当量集荷ができ立地的に恵まれておれば処理販売も将来可能性がある。いずれにしても山羊は自給ということが本態であり,営農上必要な家畜で特に,山間部の営農には是非飼育を奨励するべきである。

(三)婦女子と畜産

 農村の青年は農村はつまらないものであると思っている,とよく聞かされるのであるが,これは経済的に乏しいということが,大きな原因になっていることは事実であると思われるが,一面には農村生活に青年の望む明るい文化的な要素に欠けていることも,その素因となっているようである。一例であるが,農村の祭や正月の料理を見ると,毎年毎回何百年前からの料理や方法で繰返されている。その反面には,青年の眼や頭は毎日進歩している,これでは青年は満足しないのは当然である。こんな面は農村生活には数多くあるが特に食生活は旧い因習が根強く潜在していることと,農村婦人の重労働が一つの原因となって,家庭生活に対する時間をもたないということである。このために研究も工夫もしないから依然として変化のない不合理な食生活がくりかえされるのである。食生活は文化のバロメーターとまでいわれている。この食生活を解決するのには婦人の重労働問題を解決しなければならない。即ち婦人の職場は軽い労働で家庭生活に密接した場所で然も女性本来の性能にかなった職場でなければならない。この意味から家畜の飼養管理程適したところはないと考えられる。
 幼畜の育成や毎日の飼付又は搾乳等婦女子に適したものばかりである。緻密な感覚と熱心な態度は畜産を延ばす上に極めて大切なものである。然も畜産物は今後ますます農村生活のよき糧となる上からは尚さら婦女子と家畜は密接な関係をもつことであろう。従来一般農家の婦女子は家畜の飼付をしておられるのであるが,畜産の知識や技術がないため充分な成果をあげることができなかったが,これからは家畜からより多くの生産をあげ,加工利用は勿論のこと販売に至るまで婦女子によって工夫研究せられなければならない。農村の生活改善は生産から消費利用まで一貫したものであることが肝要である。畜産と婦人との関連性が軌道にのれば直接間接に文化農村をつくるもとになり,酒の流れる農村もやがては文化の香り高い乳の流れる里となることであろう。

二.山羊の改良

 本県の山羊飼育については後進地であり,その形質においては未だ先進地には及ばない点が多く,今後改良に力を入れなければならないのである。同じ1頭を飼育しても形質の劣ったものを飼うよりは優れているものの方が経済的であり,産乳量も多く飼育価値が高いことになるから,今後次の点に重点をおき改良の目標とする。

(一)岡山県山羊改良目標

イ.体積の豊かなものであること。
 (飼育管理の方法が拙劣であること,優透な系統が少ないこと,発育の悪い当才羊に種付をするため標準の発育をしないこと等)

○成牝羊の発育目標
 体高2尺3寸以上(70p以上)
 体長2尺4寸以上(73p以上)
 胸囲約2尺6寸以上(約80p以上)
 当才種付は体重10貫以上(約38s以上)

ロ.後躯のよいものであること。
 (乳器のよいもの特に乳房の附着のよいもの。尻の傾斜の少ないもの。尻巾,尻長の長いもの。)
ハ.質のよいものであること
 (はだのゆとりがあり柔軟で色の濁っていないもの。毛は粗毛,長毛でないもの。骨は細過ぎず骨しまりのよいもの。)
ニ.泌乳期の長いものであること。
 (年間乳量の多いもので最高乳量が多くても泌乳期が短いものはよくない。)

○産乳目標
 泌乳期250日以上,年産乳量1石5斗以上

(二)山羊改良増殖実施対策

イ.改良組合的な指導対象となる下部組織を造成し,これに重点をおき指導普及する。
ロ.飼育管理の知識技術の普及
 講話会,研究会の開催は勿論のこと畜産共進会においても大家畜のみでなく,中家畜等を入れ綜合的な生産から利用までの展示をなすこと。
ハ.優良種山羊導入と県内産仔山羊育成配置。
ニ.生産物の加工利用普及と生産物の販売斡旋。
 仔牡山羊又は廃羊の肉利用と販売斡旋。
 優良産仔の販売斡旋。
 保健所と連絡の上在宅施療患者(結核)の山羊乳利用普及,簡易屠場の設置奨励。
 学校又は部落等の団体を指定し山羊乳利用普及を図る。
ホ.畜産技術員の中家畜研究会開催。
ヘ.山羊登録事業の強力な推進。
ト.種畜場の中家畜確保と育成払下事業強化並加工利用研究施設拡充。
 以上の諸事項により改良増殖は勿論のこと,利用や販売に至るまで普及徹底を図るのであるが,実施にあたっては事業団体である郡畜連,農協はもとより普及所,家畜保健衛生所,地方事務所,種畜場,保健所等の熱心なる協力によらなければならないのである。

三.山羊の登録事業

 本県においては美作地区が津山畜産農場を中心として登録事業を実施せられていたのであるが,近時各地の有識者間に登録実施の声が高くなり県下を一本にした登録協会を設置する運びとなり,昨年7月1日に日本ザーネン種登録協会岡山県支部を設立し,事務所を県畜産課におき,各郡畜連を支所として県下一円に登録事業を実施する運びとなったのであるが既に昨年末から登録検査も実施している。
 山羊登録は開放式の登録で改良の基礎になる材料と考えられるものは基礎山羊として登記し累進的に予備登録,本登録,高等登録にするのであって,郡畜連(支所)においては基礎登記と産仔登記を行い予備登録以上は支部において実施するのである。基礎登記する山羊の検査は登録審査標準によることは勿論であるが,特に岡山県の改良目標にどこか叶ったものであることが望ましいのである。余り基礎登記の検査をゆるくすると,改良が遅れることになり,又余り強くふるい過ぎると登録事業の普及が遅れることとなるので,この点特に留意して実施することが肝要である。改良は登録より,登録は飼育者の認識からというが,一般山羊登録には認識がなく,無感心であるから山羊登録の意義を周知せしめるよう啓蒙宣伝することが第一に肝要なことである。これには熱心家を中心としたクラブ組織的なものをつくり,これを対象として漸次拡大普及する。又毎年行事として実施せられる畜産共進会等には山羊を出陳せしめて一般の認識を高めることが必要である。
 昭和29年は岡山県山羊の基礎を確立せしめる年であるので各支所におかれては下の事項を留意せられ,早急に計画実施せられるよう準備願いたい。

 ○用紙,器具の整備
 ○台帳整備(基礎,産仔,予備等)
 ○基礎登記として登記の可能山羊は洩れなく登記せられたい。
 ○報告を要する事項は期限内に報告願いたい。
 ○郡の実情に応じて登録実施計画を立案せられ支部へ連絡願いたい。
 ○昭和29年度の県外導入計画があれば頭数,県名,時期等連絡願いたい。
 ○山羊に関する講習講話会等の計画があれば参考のため連絡願いたい。

(上原技師)

養鶏

一.昭和28年の足跡

 新春を迎え本年こそはと一応力み返って見るが過去1ヵ年の行跡を顧みたときにその抱負の幾何かも達成できない哀れさで誠に汗顔の至りである。
 過去1ヵ年の足跡を振返って見ると昭和28年の抱負として養鶏共同事業の重要性と種鶏業者及び孵化業者の一体化による鶏種改良の推進を強調し,県として養鶏振興の基本的課題ともいえる種鶏の確保改良に専念することを約束した。
 幸い養鶏共同事業面において県養鶏連が発足以来,食鶏共同処理販売を手始めとして鶏卵及び飼料の共同販売購入事業が漸く軌道に乗り28年々末を転機として愈々発展的段階に立到ったことは業界のため同慶に堪えない。種鶏の確保改良について昭和28年度より新規事業として産卵能力現場検定を開始したが当業者の積極的な熱意と協力により初年度にも拘らず参加人員59名,検定羽数4,400羽の多きを算え,好調なスタートを切り,集合検定においては兵庫種畜牧場で本県の橋田種鶏場が中国四国の最高成績を獲得し岡山種畜場では300卵以上のものが26羽も輩出し盛況を極めた。
 又昨年の10月より開始された種鶏検査は申請件数1,100件,羽数18万羽で従来にない大規模なもので,恐らく最低15万羽の種鶏は確保の見込で種卵需給事情は好転するものと期待される。

二.新年度の抱負

 さて新年度の構想であるが最近の農林統計が示すように全国的に飼育羽数が増加し戦前の領域に迫っている。従って生産物の市場出廻量は急増し消費市場側の品質に対する吟味は益々深刻となり銘柄による価格差は愈々格差を大きくする傾向が予想される。
 本県産の鶏卵は戦後出荷系統機関の混乱により所謂備中鶏卵の既往の名声を覆し二流品として市場側で取扱われていることは甚だ遺憾である。
 これは根本的に出荷系統機関の濫立を整備し共同出荷体制を講ずることが先決であるが,鶏卵の品質及び荷造規格を統一して検査制度を確立することが,他の農産物の検査制度による品質改善の実績等からして最も効果的であると思われるので関係機関の協力を得て適切な行政措置を講じたい。
 鶏種の改良対策としては昭和28年度に引続き産卵能力現場検査の拡充強化に努めると共に組織的な蕃殖機構を整備して優良血液の浸透を期することとしたい。
 孵化事業対策としては近年孵化場の濫立による種卵争奪の傾向や衛生的見地から考慮して孵化場登録制度の問題を検討したい。
 要するに本年度の抱負としては生産物消流対策としての鶏卵検査制度の問題,鶏種改良対策としての産卵能力現場検定の拡充強化,孵化場対策としての孵化場登録制度の問題,この3件の解決を新年度における養鶏関係者の命題として鋭意邁進したいと思う。(小郷技師)

家畜衛生

 常識的なことであるが人の衛生は予防医学に最も力を尽くすことは当然である。
 殊に家畜は経済動物である関係と若し仮りに伝染病等の発生をみるときは防疫上に完璧を期することは困難な場合もあるので勢いまんえんを防止する為に思い切った処置を講ずることを考えていなければならない。
 そこで先ず予防第一主義の方策をとることが肝要な行政措置と言えよう。
 こうした意味で伝染病の検査は一段と厳密に洩れなく実施して万全を計っていきたいと考えている。
 本年重点的に実施しようとする事業とその目的及び方法についてその概略を記する。

一.検査

一.結核病検査

 搾乳牛並びに種雄牛に対して県北部は4月,5月に県南部は10月以降に該当全牛に対して実施する。乳牛の購入には必ず証明手帳を有しているもので健康であることを確認する必要がある。

二.ひな白痢

 県指定種鶏場希望の種鶏に対して従来通り県下の陽性率を1%以内になる様な目標の下に実施したい。10月初旬より一斉に白痢検査を実施し,7%以上の種鶏場に対しては再検査を実施する。

三.伝染性貧血

 競馬開催の都度競走馬に対しては全面的に有効期間(3ヵ月)のないものを実施する。

四.トリコモナス病

 種畜検査の際種畜及び候補種畜並びに蕃殖地帯の一斉検査を行い,陽性家畜に対しては移動禁止を命ずるとともに家畜保健衛生所において治療を施し完全に本病を駆逐したい方針である。

五.プルセラ病

 種畜検査の成績を勘案して常在地帯と認められる地域の一般牛に対して実施する。

六.寄生虫

 家畜寄生虫特にめん羊,山羊の肝蛭は割合等閑視されているのでその被害を一般に啓蒙すると共に家畜保健衛生所単位に一斉検査をなし家畜寄生虫に対し認識を深め駆虫を施して家畜の健康と経済性を高めてゆきたい。

二.予防注射

一.豚コレラ

 昭和26年浅口郡及び岡山市に発生をみ,昭和27年に於いては吉備郡において発生し現在なお県下に病毒が常在していると思われるので2月から3月及び6月に県下全豚に対してワクチン予防注射を実施する。

二.気腫疽

 本病は暫く発生をみなかったが昭和27年阿哲郡に発生をみ,今尚県北部には常在しているので7月8月上旬に亘って予防注射を実施する。

三.流行性脳炎

 人の日本脳炎と病毒は同型でその感染も人畜共通で最近馬以外に豚,牛等が本病におかされている現状であるが本県としては馬の生産地帯及び北海道,東北地方より移入される地帯の馬に対して予防注射(2回連続)を実施する。

三.家畜衛生試験所の充実

 県下全般の病性鑑定及び最近増加している繁殖障碍等の病因の探求を行い適切なる治療指針をあたえる。又疫学的調査資材を整理して防疫の基礎体系を作る。

四.家畜衛生技術講習会の実施

 家畜防疫員の再教育と最近技術の伝習を目的として各種の伝習会を実施する。(石井技師)

牧野

 狭い国土に8,000余万の人口を擁して,経済再建のため,苦難の途を歩みつつあるわが国にとっては,食糧の自給,人口収容力の拡大に併せて国民体位の向上は目下の緊要課題である。
 従って米麦食糧の増産に加えて,国民食生活の改善に応える動物蛋白の飛躍的増産を期さなければならない。
 ところがわが国主穀農業の生産も画期的変化がないかぎり,ほぼその限界に到達していると思われる。
 特に近年のように,風水冷害による米麦の減産は,営農の安定を欠き,且つ社会経済に大きな不安を招いている姿に想いを致せば,国土の約1割に及ぶ尨大な草地が極めて生産性の低い姿で取り残されておる現状であって,これら天然の災害に影響を受けることの比較的少ない草地の生産性を昂め,家畜の腹を通して生産費の安価な動物蛋白食糧の増産によって食生活の改善を図る必要に迫られている。
 これら厖大な草地の草資源の培養等は従来全く等閑視されており,日本農業の盲点となっていたが,昭和25年に牧野法が制定され昭和27年度より,ようやく改良の施策が講じられるようになって来たが,これは草資源開発の一端であって,今後もっと強力に押し進めていただきたい。
 一方においては,昭和27年の夏札幌市において開催された全国知事会議に岩手県より草地農業振興に関する提案が上程され決議されて以来関係県において一応の草地農業振興臨時措置法要綱案が作製され,全国28都道県の参加を得て昭和28年11月10日東京において,創立総会が開催され強力に推進することになった。
 又国においても,昭和28年度より高度集約酪農振興に関する措置が講ぜられ,又近く酪農振興法が提案される運びとなっているやに聞き及んでいる。
 これらのことは,いずれも基盤を草地の開発,利用の高度化による畜産振興の革新的体制の確立のためであって,斯様な方向に向って前進をしつつあることは洵に御同慶に堪えない。今後一層畜産発展の基盤をなす草地の改良に国の強力な施策を期待すると共に多年踏襲して来た日本農業に革新を加え安定性のある豊かな農村を築くことが終局の目的である。
 以上申し上げたように,重要施策の一翼をなしている,草資源造成事業が昭和28年度において,どのように計画し行われつつあるか,又新年度において,どのような考えをもっているかについてその概要を述べて各位の御了解と御協力を得て希望の実施に向って努力したい。

一.牧野の認可及び指示状況

 昭和28年11月末までに,管理牧野の認可並びに保護牧野指示状況は別表の通りである。

(別表)管理牧野認可状況(自昭28.1 至昭28.2)

認  可
町 村 名
団 地 数 面          積 摘     要
放 牧 地 採 草 地 放牧採算
兼 用 地
 
二川村 2 53 53 追加分
八束村 1 37.75 37.75  〃
奥津村 4 55.8 55.8  
大井町 1 36.7 36.7  
8 146.55 36.7 183.25  
累計 71 6,769.24 2,296.35 92.11 9,157.68  
落合町 2 39.72 39.72 認可手続中
総社町 1 20 20   〃  (高梁川河川敷)

(表)保護牧野指示状況(自昭28.1 至昭28.2)

指示(予定)
牧 野 名
牧 野
所 在
町村名
面             積 摘     要
総   面   積 指 示(予定)面 積
放牧地 採草地 放牧地 採草地
         
大庭牧野 川東村 70 70 70 70 昭和28年度指示予定牧野
余野下牧野 美和村 10 10 10 10      〃
樫西牧野 45 45 45 45      〃
3 55 70 125 55 70 125  
累計 13 443.75 276.54 720.29 307 191 498  

二.補助金の交付

 補助金交付の対象となる牧野は,牧野法に基いて,牧野管理規程を設定し認可になった牧野と,保護牧野として指示を受けた牧野の内から昭和27年度より補助金が交付されている。
 補助金の交付は,牧野の基礎条件の整備に要する当初の事業に対して交付され,爾後の維持管理は牧野の経営によって生ずる収益をもってあて,改良の成果をあげることになっている。

三.改良事業について

 昭和27年度は土壌改良と飼肥料木の植栽事業に限られていたが,28年度よりは畜産10ヵ年計画に同調して,28年度を初年度として実施することになり,改良事業も牧野種別によって次のように牧野の状況に応じて事業項目が異っている。

1.高度集約牧野

 牧草を導入して最も性能の高い牧野を造成するのが目的であって,この牧野としての条件は
イ.経済性の高い牧野であること,従って乳牛の飼養に供する牧野であること。
ロ.牧草を栽培するので,維持管理の周到を期する要があるため,利用部落から半径2q以内にあること。
ハ.牧草導入のため開墾(起工作業)又は改耕(牧草の更新)をするため土壌侵触の防止を考慮し傾斜17度以内であること。
ニ.牧草の生育が,技術的,経済的に可能であること。
 なお高度集約牧野は牧野と河川敷とに区分され,28年度においては,各々20町歩宛改良する計画である。
 又改良事業は次のようになっている。
イ.牧野の場合
 障害物除去,起土,炭カル施肥,燐酸施肥,牧草導入,隔障物設置,牧道設置
ロ.河川敷の場合
 炭カル施肥,燐酸施肥,牧草導入

2.改良牧野

 優良草の増殖を図ることが目的であって,条件は
イ.放牧採草の慣行があって,地方畜産振興上不可欠の牧野であること。
ロ.利用部落から半径6q以内であること。
ハ.労資の投下に対して,経済的効果の期待できる牧野であること。
 28年度において,668町歩に対して障害物除去,炭カル施肥,飼肥料木植栽,牧道設置等の事業を行う計画である。

3.保護牧野

 保護牧野として,改良保全の指示をした牧野であって,20年度において100町歩に対し炭カル施肥,飼肥料木植栽事業を行う予定である。
 なお改良計画樹立にあたっては,牧野面積の広狭によって,次のように順次完成することを目途として行う方針である。
牧野の場合
 1団地面積  10町−100町 3ヶ年
   〃   101町−300町 4ヶ年
   〃   300町以上   5ヶ年
河川敷の場合
 1団地面積  1町− 5町 2ヶ年
   〃   5.1町− 10町 3ヶ年
   〃   101町以上   4ヶ年

四.新年度の計画

 28年度より一層強力に且つ,県の酪農振興計画に合致せしめて行く必要があるので,主として美作地帯の牧野改良に重点を置いて行く考えである。
 特に高度集約牧野の造成箇所の増加を図るため,適地の調査を行い,適地に対しては管理規程の設定を推進する。
 次に河川敷利用牧野は,高梁川下流の乳牛飼養地帯に設定したい。
 一般和牛地帯の牧野改良は,28年度と同様の方針で進みたい。
 保護牧野の改良については,大体,28年度と同様の計画で行きたい,又保護牧野として改良保全の措置が完了した牧野に対しては,より一層の改良成果をあげ,牧野の効率的利用を図るため,第2段階の措置として管理規程の設定を指導し,改良牧野として進めて行きたい。(多田技師)

家畜共済

 昭和4年に家畜保険が誕生して20年。昭和22年農業共済として改正され従来は,家畜の死亡と廃用のみが共済の対象となっていたものが昭和22年よりは,死亡廃用,疾病傷害,生産共済の3種となり農家が不慮の災害によって受ける損害の殆んどが共済される即ち家畜の社会補償制度は大いに進歩したのである。
 しかしながらこの長い間には事務的な問題或は取扱いのことについても色々と世人の批評もあったが,少なくとも此の間につくした関係者の努力は無駄ではなかった。いよいよ家畜共済も仕上の期に達して来た様な感じがする。
 そこでこの事業に携わる者は,共済の機構から見ても一人の不正な行為のために万人に遺憾を及ぼすことは,社会制度の中にあってはそうであるが殊にこの共済事業については,痛感させられるのであって,どこまでも厳正公平でなくてならないのであり,一つの事故の解決についても,その結果が第三者が考えてもそれは当然のことであると納得ゆくことでなければならないので,この間に人為的な,道徳的な危険が起ることは許されないことである。
 昭和28年10月から一部に実施されている家畜共済の一元化と言うことは,従来の死亡廃用共済と疾病傷害共済が一緒にされたのであるが結論としては,この新らしい死廃病傷共済に加入した家畜は,不幸にして死亡,廃用又は病気になった場合も加入した共済金は,勿論,治療費に対する共済金も支払われるのである。
 このような共済制度は,ここ2年は,試験的に実施されるので実施する組合は農林大臣の指定が必要となるのであるが現在岡山県においては41組合が実施の指定を受けており,取あえずその組合は昨年12月から出発している訳である。
 従来は,死亡廃用共済の掛金の内には一部の国庫負担金があったが疾病傷害共済の掛金には無く全部農家負担であったのが一元化された死廃病傷共済の掛金の中には,その病傷部分の掛金の内にも一部国庫の補償金があるので加入者にとっては良い条件になる。その他事務的に相当複雑な点があり又疾病部分も2段階に別れているが本稿においては,一元化の解説は,止めて別稿にし,いよいよ完成されつつある家畜共済の一元化は,昭和30年からは全県下に実施されるがその暁は,広範囲な補償制度となる。
 現在加入頭数は,死亡廃用共済で約5万頭,疾病傷害共済で約6,000頭で,これが全部死廃病傷共済に加入すれば,約5万頭でその内疾病の発生を20%としても1万頭,診療を受ける1件の診療費800円として800万円の共済金が支払われると共に1万通の診断書等が往復することになるので,事務的に繁雑になる訳である。将来加入が促進されるなれば県下の診療に当っては,一応共済組合が関心を持つ事になるのでこの点今の共済団体より充実した者にしなければならない。又内容については死廃共済の方は,従来通りで廃用の点にしても相当厳重に行われているし又死亡とか廃用と言うことになると公衆の関係からも人為的な危険は大してないと考えられるが,疾病の部分の共済については,ややもすれば厚い診療がされ勝になることは,国民健康保険組合の関係でも良く言われることで従来の疾病率は,11%であったがこれがこうした点から引上ることは,充分考えられるし又お互に注意しなければならない。それで28年及び29年の2ヵ年の間には,これ等の点が充分研究されると共に手落ちのない基礎を作っておかなければならない。それには次の様な点が挙げられると思う。
一.県下の獣医師(診療団体を含む)と充分な協議して診療費の調整を図る。
二.無獣医地帯と見なされる様な地域には家畜共済の事業として診療所を設置して疾病の診療に万全な機構を作る。
三.共済金の支払に当って敏速に処理出来るように事務の簡易化と機構の整備を実施する。
上のようなことは,家畜の共済として殊更に取上げるのは一寸おかしいので,従来も整備して置かなければならない問題であるがこのことが充分でないため本年においては,これを強く取上げて処理しなければならないのである。最早や,全国の多数の県で実施されており或県の如きは,数十ヵ所の診療所を整備している。そこでこの3点の問題であるが,診療費調整の点は,県下においてもまずまずで開業者,保健衛生所,共済団体畜産団体等の徴収の基礎となる,点数表又治療基準もばらばらでありよく似た病気の診療費にについても2−3倍,はげしいものになると7−8倍も異なるものが伺われる状態であっては,診療費の給付を行う共済としてもなるべく歩調を合わせないと困る問題で出来れば,診療関係者をもって審議会を作ってこの間の調整を図ることは,重大施策になる。
 又診療所の設置であるが折角診療給付を行うにしても無獣医地帯であったり,余り遠い処に診療施設があるのでは,困るので(県内にも相当こんな処が有る訳で)この地帯には,是非共診療所の機関を造る事が必要なことは,言うまでもない。一元化を全県下に実施したときは,20−30ヶ所の診療所を必要とするのではないかと考えられる。
 ともあれ従来から見れば家畜に健康保険が人と同じように出来ることになったので上の二つの問題は,大きな問題であると考え,これを近い将来において整備するのには畜産農民及び関係者の絶大な御協力をお願いする次第である。
 最後に農業災害補償は,世間の取締法でも又規則でなく特に家畜共済については,強制加入でもないのでどこまで農家の家畜を不慮の災害から救うことを目的とし,なお加入されることは,これらの災害補償の契約も行なったことになる。そこで共済事務に従事する者は,給付(支払)についても他人に迷惑のかからないように厳正でしかも,敏速に処理されること,事故について道徳的危険は,さけなければならないと共にその判定に当っても感情は,禁物であると,考えるのである。
 診療費の調整,診療所の設置の問題にしても,公正な,しかも円滑な契約の履行が行われることを目的とするので家畜共済の完成と共に共済団体の任務も重大な分岐路に立ったと考え本年は,こうした基礎の充実を図ることが目標であり努力しなければならない。(宇野技師)

有畜農家創設事業

 昭和27年度より有畜農家創設事業が国において計画実施せられ,本県においてもこれにより岡山県有畜農家創設要綱を作成し,本事業を実施して,昭和28年度においても各関係機関の熱心なる協力により,その9割は既に完了したのであるが,過去2年間のこの事業の実績から見て,この事業の在り方又は計画立案に今後注意を要する事項が散見せられるので,将来円滑なる発展を期するため特に留意願うべき2,3の事項を述べ参考に供する。

一.畜産の考え方

 従来農業の一分野である畜産の考え方が兎角不明瞭なものになっていて,畜産は狭義の耕種農業に附随したつけたり的なもので,極めて消極的な性格をもたされていたのである。家畜から利益がなくても糞尿だけでもとれればよい,といった甚だ弱い分野であったのであるが,今後の畜産は多角農業の一分野であって,その畜産分野からそれが交換経済的なものであろうと,自給経済的なものであるとにかかわらず,より多くの生産をあげる積極的な畜産でなければならない。例えば大家畜を役畜又は糞畜として飼っている場合とか,小家畜を小遣銭かせぎ的に飼っているだけでは有畜農家とはいわれない,ことに前者は家畜がくわとかかまと同じで殖産部門の一生産手段として飼養されているにすぎないから,広義には畜産をやっているといえるが,厳密には有畜農業を営んでいるとは言えない。有畜農業は主要な基礎飼料を自給飼料において家畜を飼い,その所産である畜産物を自家の経営や生活に有機的に結びつけ,地力を維持増進せしめ土地の集約的利用と労働の合理的な配分をはかり,その農業の総合的生産力を高めるように経営する畜産であるのが,本来の有畜農業の畜産で,畜産から生産がなくても米麦から収入があがれば,それでよいといった畜産は過去の畜産で,畜産自体も生産をあげ黒字にならなければならないのである。折角家畜の導入をしても従来の古い考え方で家畜を飼養せられることは有畜農業の充分な発展ができないと共に家畜導入の意義がなくなるのでこの点留意の上指導願いたいのである。

二.有畜農業創設計画と実施

 昭和29年度の本事業計画は客年末までに各町村において立案せられ地方事務所経由で県畜産課へ提出せられたのであるが,将来のために下の事項に特に留意願いたい。

(一)乳牛導入地の選定

 乳牛を本事業により導入せられる所においては現在10頭か20頭導入可能であっても,将来その土地に何頭位導入することが可能であるかを検討することが肝要である。即ち集団的な酪農地帯として可能か否かということである。将来50頭にもならないという所では集乳又は飼料その他対外的な問題が起きたとき等にも大きな損失を招き易く充分な発展が望まれないのである。第2には自給飼料の確保が将来頭数が増加しても確保する可能性があるかということも検討しなければならない。乳価の高い時のことのみ考えず,安くなった時のことを考慮して飼料対策の可否も研究する必要がある。次に他の産業との関連性も考えなければならない。煙草,果樹,養蚕その他の特作物等の関係で労力や土地利用の点で制約されることはないかということは,案外度外視されることが多く,このため延びるべき酪農も中途で挫折した事例があるので注意せられることが肝要である。

(二)有畜農家創設事業の対象農家

 現在本事業の融資対象家畜は乳牛,馬和牛緬羊になっているが,この事業の本来の意義からいって,家畜を有しない農家へ家畜導入を図るのが本旨である。実際においては多少なりとも家畜を飼養している農家が導入を希望し,無畜農家は比較的希望数が少ないのではないかと考えられる。これは一面からいえば借金をするのであるから,こうした結果となるのであろうが,然し小農経営はそれに応じた中家畜(特に羊,山羊)を導入し,小さいながらにも有畜営農をすることは極めて意義のあることで,今後これらの指導奨励をするべきである。山羊においては融資はないが,単協の熱意と努力によって農協資金で融資せられることは小農を発展せしめられる上に重要な施策であり,特に今後山間地帯の新しい営農の行き方でもある。従来3,4反の小農は兎角脱落し勝ちであったが,これらの農家に対する施策は今後特に研究し,自立せしめねばならないと考えられる。

(三)有畜農家創設事業担任者への願い

 本事業に対しては一般農家の熱意が感じられ極めてよろこばしい傾向であるが第一線の事務担任者はこの計画なり又は実施にあたって,熱心なる希望と現実の不良なる立地条件の間に板ばさみになられることがあると推察せられ,極めて立場上苦労せられることであるが,将来性のない,危険視される地域である場合はその将来を考えられ大乗的な見地から黒白を明白にせられ希望者に納得せしめられるよう配慮願いたい。無理に計画せられても中途において放棄する結果になることが多いから最初において各畜産関係機関の技術員と協議せられ,技術的に見て自信のもてる計画を樹立願いたい。
(四)有畜農家創設事業の事務処理について
 本事業は事務手続又は報告等が多く事務繁雑で期限まで報告が到着しなかったり,又予定された期末に事業が未完了である場合が過去において極めて多く,中金並びに県の事務処理上支障が多いばかりでなく,家畜導入が所定の期末に未完了である場合は本省において事業の打切りをせられるので,枠の返上を止むを得ずしなければならないのであるから,報告や事業はできる限り早や目に処理せられるように留意願いたい。(上原技師)