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酪農の健実な発展
今年の願い

岡山県立中国酪農講習所 岡山県津山畜産農場
場長 馬渡 武彦

△元気な馬の囁きと共に昭和29年の新春は明けました。今年は午の年です。畜産の年です。この畜産の年に当り大いに頑張りたいと思います。

△津山畜産農場は生れてから今度で7回目の正月を迎えました。この間関係皆様の格別の御支援にあずかりまして本県畜産の改良の増殖のために微力を尽して参りましたが昨年8月から酪農振興のため中国酪農講習所という標札が今1枚かかりまして青年の酪農講習の仕事をやることになりました。このことについては一昨年以来皆様の御熱意によりまして財政不如意の中に県としても英断を下されて設置されました訳で昨年講堂及び寄宿舎も立派な新しいものを建てていただきまして感謝に堪えない次第であります。本年度は昨年5月から県内の講習生11名を入所させて講義に実習に全力を傾注して来ましたが本年度の講習生は真面目で熱心に勉強して呉れますので非常に喜んで居ります。これらの人々にはやがて卒業の上大いに酪農振興を推進して貰いたいと熱を入れているところであります。

△中国酪農講習所という名の示すが如く昭和29年度からは収容施設の整備に伴い本県のみならず中国各県から講習生を募集することになっております。定員は25名でありますが適当な人があれば多少は増加するかも知れません。大体において1月15日頃募集の公示を致しまして3月15日頃締切り3月下旬選考試験を行い4月上旬入所の運びとなりましょう。

△酪農に限らずこれからの産業は覇気に富む青年の燃上る力によって推進されるものと思います。本県の酪農は目下非常な勢で進展しつつありますのでこれの原動力となる当初の使命と責任は愈々重大となることを痛感致しまして本年は皆様の御鞭撻を仰いで一層努力致したい決意している次第であります。

△か様に考えますときに私が何時も念願しておりますことは一般に愛される酪農講習所であり畜産農場でありたいということであります。殊に酪農講習所が出来ましてからは一層左様にありたいと思って居ります。多数の講習生の人々が当所に来て勉強され又父兄の方々も吾子を立派な中堅青年として又酪農人としてその知識及び技術を体得させるために当初に来させて居られるものと思いますので私達職員としてはこれら父兄の方々の信頼に応えると共に終始変らぬ御支援をいただいている方々の御期待に副わねばならないと深く考えている訳であります。皆様から親まれる酪農講所であり畜産農場でありたい。そして相共に酪農や畜産の発展に努力したいと思います。幸い講堂も出来ましたので当所の講義のみならず酪農畜産その他に関する会議に講習にどしどし使用していただきたいと思います。そして多くの人々が当場に来られることによって畜産に親しまれ私達と共に畜産の研究をしていただくことになりますれば自ら畜産は発展することになると存じます。どうか本年は昨年に増して御越し下さいます様御願い致します。

△前にも申上げました如く本年度は宿泊炊事設備の関係上少数の講習生しか収容して居りませんが本年4月からは25〜30名を入所させる計画でありますが肝心の当所における酪農施設は未だ貧弱でこれ丈の講習生を収容して指導講習を行いますには極めて不充分であります。私はこの講習所においては乳用種牝牛(成牛)15頭を常時飼育しこれに種牡牛3〜4頭育成牛数頭を繁養したいことを強く念願致しております。そして講習生2〜3名に1頭宛乳牛を担当させて指導しつつ勉強させたいと考えて居ります。昨年の9月以降幸運と申しましょうか牝犢が次々と生れまして現在の乳牛舎では収容しきれず若干の室にはやむを得ず2頭宛入れている様な状態で明年度は是非乳牛舎を1棟建てていただかねばなりません。而してこの外牡牛舎,加工施設の充実等未だ色々御願い致さねばならないものがあります。何れも相当の経費を要することでありますので仲々困難と存じますが折角作っていただきました酪農講習所をして十分の成果を挙げさせるために必要な最少限度の施設は御配意いただきます様御願い致したいと存じます。

△美作地方が将来の酪農の好適地として政府の集約酪農経済圏の最も有力な指定候補地となっていることは御承知の通りでありますが未だ決定する迄に到って居りません。知事さん初め関係の皆様の非常な御努力で必ずや実現するものと私は信じて居ります。この指定が実現致しまして農家の酪農に対する熱意,広い土地に豊富な草資源,完備した私達の酪農工場,それに酪農講習所の四つが相組んで邁進致しますれば作州の酪農は洵に前途洋々たるものがあると存じます。

△新聞紙によりますれば政府は相当量の外国バターを輸入する計画を考えているとのことでありますが外国バターが日本に輸入されて国内産より安く売っても引合うのは御承知のことと存じます。自由競争の経済界において品が良くて値段の安いものが勝を占めるのは申すまでもないことで日本の酪農はも早や1県又は1国の酪農であってはいけません。世界の酪農界に伍しての酪農でなければ将来の発展は仲々困難なことと思います。か様に考えますと日本の酪農は農家においては経営を刷新して生産品の低減を図り,工場においては集乳量の増加を図ると共に合理的経営によって諸経費の低下に努め良い安い酪農製品を販売して一般の消費を拡めることが酪農発展の基本策であると存じます。

△知事さんは酪農の振興を県政の重要施策の一として採り上げられ非常な御熱意で御努力になって居られますので私達はこの御方針を体しまして酪農講習所が酪農技術普及の基地となり農家の方々が草を主飼料として安定した酪農経営を行い酪農工場が生産乳の不安なき処理に当りまして本当に名実共に明るい農村が実現する様努力致したいと存じます。(29.1.1.記)