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第4回岡山県肉牛共進会
岡山市で開催

 昭和28年畜産行事の棹尾を飾る第4回岡山県肉牛共進会は年末もおし迫った,昨年12月20日,21日の両日,県畜連並びに岡山畜産事業協同組合主催のもとに,岡山市家畜市場で開催された。
 出品牛については別記審査報告に詳細に説明されているが,特に今回においては,去勢牛の出品が13頭に及び,然もこれを別個の部で審査し,擬賞された点で,これは全国的に最初の試みであり将来,経済的な肉牛の生産を推進する上から非常に意義深いものであった。
 審査にあたっては,昨年同様斯界の権威である農林省中国農業試験場畜産部長石原博士を特別審査員として来県を願い,畜産課より惣津課長を審査長として蔵知,加本,宇野,渡辺各技師,改良課より佐々木,小野,両技師,県畜連の日笠,山本両技師出席のもとに実施された。
 数年来の暖冬異変で懸念されていた21日のせり売りも,大部分が片づき関係者を喜ばせた。出品牛のうち岡山屠場で屠殺された数頭のものの成績は,出品牛の測定成績を併せ参考までに別表に収録した。

肉牛審査標準

 体躯広く,深く,体積豊かで,長方形を呈し,均称宜しく,肉付きなめらかに厚く,適当に緊り,均等に附着し,皮膚柔軟,被毛繊細,骨細く,角蹄の質良好,肥育完成時における年令は牝は満3才−6才,牡は満2才−3才,えんは満2才−4才にして次の如き体重及び大きさをもつこと。

区   分 あ       ん
体重 525−635s (140−170貫) 525−656s (140−175貫)
体高 125−130p (4.13−4.30尺) 125−135p (4.15−4.45尺)
胸囲 200−225p (6.60−7.43尺) 197−218p (6.50−7.20尺)
周囲 15.5−17.0p (0.51−0.56尺) 18.0−20.0p (0.60−0.66尺)
項 目 説             明 配点
均称体積 体躯広く,深く,伸びよく,体上体下線平直で,長方形を呈し,頭・頸・体躯・四肢の釣合のよいもの 15
肥育程度 満肉にして下肋部及び乳房部(陰嚢)に脂肪の充分に廻っているもの,ただし過肥におちいっていないもの 15
肉及び脂肪の附着状態 肉付及び脂肪の附着は均等で,厚く,なめらかにして適当に緊り,とくに背腰と後躯の肉付のよいもの 15
皮膚 皮膚は柔軟で弾力にとみ,厚さ適度なもの 10
被毛 被毛は細く,柔らかく,密生したもの
角蹄 角はその色よく,質緻密で光沢があり,細く形のよいもの,蹄は良質で形のよいもの 7
肢と尾杖との骨の細いもの 8
頭頸部 頭部軽く,顔の長さと幅の中等なもの,額は緊りよく耳は中等大で眼の温和なもの,頬は豊かで,顎は強く,
口先の大きいもの,頸は厚く短く,肩への移行宜しく,胸垂の適度なもの
4
前躯 肩は緊密に附着し,き甲厚く,肉付きなめらかで,肩後のよく充実したもの,胸は広く,深く,胸前と肘後とは
よく充実し,胸底平らなもの
5
中躯 背腰は広く,平直で,肉付厚くなめらかなもの,肋はよく張り深く肉付はなめらかで厚いもの,腹はゆるくなく
下肋部のよく充実しているもの
13
後躯 十字部は平らで,腰角は突出せず,腰角間の広いもの,尻は広く,長く,平らで,尾枕のないもの腿は,上腿,
下腿とも厚く,よく充実したもの
8
合計 100

授賞目録

  1等賞

    農林省賞状(首位並第2位)
    岡山県賞状並賞金2,000円
    全国畜産販売農業協同組合連合会賞状
    日本畜産会賞状
    日本家畜商協会賞状並賞品(首位並第2位)
    第4回岡山県肉牛共進会賞状,額章並賞旗

出品番号 種 類 名   号 年令 出     品     者 体 重
8 黒毛和種 第三やすはな 6 児島郡興除村 小原 一男 146貫
6 かんだ 5  〃 藤田村 神田源四郎 145
45 藤田 6 上道郡財田村 藤田 隼夫 149
  2等賞

    岡山県賞状並賞金1,000円
    第4回岡山県肉牛共進会賞旗

出品番号 種 類 名   号 年令 出     品     者 体 重
20 黒毛和種 やまじ 5 倉敷市三田  山地 輝夫 159貫
7 第7あさひ 5 児島郡興除村 原田 常吉 149
36 あおえ 5 岡山市青江  山上  勲 149
18 しづ 4 倉敷市三田  林  耕平 158
34 くろづみ 5 岡山市青江  黒住 保太 167
37 なほ 5  〃 野田  中野  直 145
31 とよ 6 都窪郡吉備町 佐藤 豊太 165
54 小島 5 岡山市泉田  小島 文悟 182
52 5  〃 平井  森  正夫 133

審査報告

 今回の共進会は本邦従来の肉牛共進会の類例を破りまして牝の部と去勢牛の部とを別個の区分とし別々に審査し且つ擬賞しました。
 この理由について一言申上げておきます。生産仔牛の半数を占める牡牛を有効に利用するには之を去勢して肥育することが最も望ましいと考えるのであります。欧米では肥育去勢牛の肉が牛肉の主体を占めておりますが,本邦においては去勢牡の肥育が普及しておらず従って上等の去勢肉牛が市場へ出ておりません。必然の結果として去勢牛の肉は牡の肉と殆んど差のない価格で取引される結果を招いているのであります。
 上の点を打破して栄養価にとみ低廉美味な肉を国民大衆に提供するにはどうしても去勢牛の肥育を普及させよい去勢牛を作り出す様にすることが大切であります。
 処が従来の肉牛共進会では牝の肉牛のみの出品でありまして稀に去勢牛の出品される共進会があっても,それを牝と同一区において審査する為に何時も去勢牛は最下位に擬賞されるという憂き目を見て来ています。この様では去勢牛の肥育を普及発達させることは到底望めないのであります。
 上の様な点を篤と勘案の末本共進会では前述の様に牝牛と去勢牛とを別個の部類で審査することにしたのであります。
 今回の出品は牝40,去勢13,計53頭でありまして全部本県産であります。品種は褐毛和種1頭を除き他は全部黒毛和種であります。
 出品を郡別にしますと,倉敷20,岡山14,児島7,都窪5,赤磐3,御津2,和気,上道各1となっています。
 審査は昨年12月中国和牛協会で研究決定し,農林省がその採用方を奨めている肉牛審査標準によって行いました。
 次に出品の概評を申上げます。
先ず牝牛について申しますと,肥育程度が昨年よりも進み且つ揃って来ております。即ち前回は出品の半数が140貫に満たない肥育未熟の牛でしたが今回のは140貫未満のものは出品の1/3に減じています。又今回の上位数頭は体型,資質,肥育状態共に前回の上位の牛に比して数頭優れております。昨年その内の不足を指摘されました背腰も大いに改善されて来ています。
 これらの点を改良されましたことは出品者各位の御努力と指導者の適切な指導によるものと考え深く敬意を表します。
 しかしその反面におきまして今後なお若干の改善を要する点もあります。
 先ず大きさの点について過大,粗野の牛が可なりみられ殊に135pを越す超大貫物さえ見られました。資質について申しますと,角,皮膚は,良好ですが,今少し被毛と骨緊がよいものを選びたいものです。
 体型の点では今一息,背,胸及び下腿の充実を望みます。肥育程度においては出品の約1/3を占める肥育未熟のものをせめて140貫程度に迄肥育したいものであります。
次に去勢牛の出品について申しますと
 被毛と皮膚とが揃ってよい点は,今後良質の去勢牛の生産の可能性を示唆して非常に喜ぶべきだと思いますが,今回は最初の試みでもある関係もあって,出品がかなり不揃です。
即ち体高過大のもの,胴詰りのもの,幅と深みに不足するもの,後躯の形状不良のもの等が見られます。又肥育程度が概して不充分でしてこの点上位2,3頭程度迄の肥育が望ましいと思います。
 肉牛審査標準に示されている去勢牛の大きさは,体高125−135p,体重140−175貫ですが今回の去勢牛の平均は体高に於ては135.4pで標準の最大値に達しているに拘らず体重においては平均146.2貫で標準の最小値に近い重さに過ぎません,如何に肥育不充分かが窺われましょう。
 今後当地方で去勢牛の肥育を発達させることは非常に好ましいことですが,その為には,一定の規格に従って肥育程度と牛の大きさを揃えることが当地方の去勢牛の声価を高める上に肝要と考えます。
 とは言え去勢牛の肥育は漸く緒についたばかりでありますにも拘らず,今回程度の成果を収めましたことは,非常に慶ぶべきことであります。今後一層この方面に御研究を願いまして経済的な肉牛の生産に御努力下さいます様希う次第であります。
 以上審査の結果,牝牛の部において1等賞2点,2等賞7点,3等賞14点,去勢牛の部において,1等賞1点,2等賞2点,3等賞4点を擬賞しました。

告辞

 本日茲に第4回岡山県肉牛共進会の審査を終了し褒賞授与式を挙行せられるに当り,所懐の一端を述べる機会を得ましたことは,私の喜びとする所であります。
 御承知のとおり我国の農業は,あらゆる面から自給自足の体制を強く要望されているのでありますが,特に食糧事情の点から畜産物資源の増産と品質の改善については,その利用が増大するにつれて重要性を加えて来ました。
 中でも和牛は,農業経営には不可分関係があるのみでなく,食肉の資源としても最も重要な地位を占めるものでありますが,幸に本県は,北部は生産地帯,南部は利用と肥育の地帯として古くから名声を博しており,特に講和後は以前に勝り肥育事業も逐年盛んになっていることは,御同慶に存じます。
 将来食生活の向上と共にこうした事情は益々発展して行くと思いますが,一面には生産費の低下についても研究され,安価で国民大衆の栄養食として親しまれるようにすることが望ましいので,広く知識を求め深い経験を積まれると共に基本的な技術を修得されることは,極めて必要なことであると信じます。こうした意味におきまして本共進会は,これ又極めて有意義であると思うのでありますから審査成績に鑑み今後一層研究され本県の畜産のため御努力を御願いする者であります。
 最後に本共進会の開催にあたり御尽力下さいました方々に対して深甚なる感謝の意を表する次第であります。
 昭和28年12月31日
   岡山県知事 三木行治

(別表1)出品家畜測定成績表

番号 性 別 出品郡市別 年令 測    定    成    績 等  級
( )内は
席次
価  格
体  高 体  重 胸  囲 管  囲
                  千円
1 御津郡 4 123 115.5 190 16.5
2 6 132.2 156 197.5 16.4 107
3 赤磐郡 4 123.2 125 191 16.5 92
4 児島郡 4 134.4 162 207 17.5 3(1) 131
5 6 133 164 213 17.3 3(2) 134
6 5 126 145 210 16.2 1(2) 141
7 5 131 149 207 16 2(2) 127
8 6 129 146 210 16 1(1) 最高 167
9 倉敷市 6 126 143 202 17.5 110
10 4 123.4 137 195 17 106
11 4 126 128 195 17 3(11) 114
12 6 133.6 163 209 17.5 3(3) 146
13 6 132 147 205 16.2 3(10) 128
14 6 129 145 195.5 17.5 116
15 6 137.6 171 224 18.2 153
16 6 124.4 138 204 16.5 3(4) 135
17 6 123.4 140 193 17.3 3(13) 118
18 4 133 158 216 17 2(4) 151
19 倉敷市 6 126 146 204 17 120
20 5 130.2 159 208 16.5 2(1) 155
21 6 127.2 141 197.5 16.4 3(14) 125
22 6 129.5 162 210.5 17.2 3(9) 143
23 6 125.2 154 212 17 137
25 6 128.3 153 200 17.2 3(12) 137
26 3 127 131 190 17.4 109
27 6 130 142 190 16 100
28 6 127.4 138 199 16.6 113
29 都窪郡 5 131.8 138 204 17.2 3(8) 118
30 4 130.6 134 196 16 3(5) 110
31 6 134.4 165 211 17.7 2(7) 153
32 6 131 152 202 17.3 3(6) 121
34 岡山市 5 132.6 167 212 18 2(5) 156
35 6 124.4 121 193 15 92
36 5 121 149 201 16.5 2(3) 130
37 5 131 145 206 16.5 2(6) 133
38 6 125 117 185 15.2 92
39 6 124 127 187 16.9 88
40 6 135.4 168 213 18.2 149
41 6 125.6 132 203.4 15.7 122
42 4 130.2 143 200.7 16.9 3(7) 113
43 去勢牛 赤磐郡 4 134.4 141 195 19.5 3(3) 100
44 4 132.8 125 190 18.4 71
45 上道郡 6 134.2 149 207 19 1(1) 115
46 児島郡 4 136.2 145 197 17.7 93
47 4 132.4 135 191 18 87
48 倉敷市 6 137.2 159 200.2 17.6 3(1) 111
49 都窪郡 5 133.8 139 195 18.7 95
50 岡山市 5 133.2 129 188 18 80
51 4 144 176 219 19.5 3(4) 131
52 5 132 133 174 18.5 2(2) 100
53 4 134 142 198 18.8 3(2)
54 5 138 182 221 20.2 2(1) 151
55 和気郡 6 138.4 145 200 19.5 90

(別表2)と肉成績表

出品
番号
性 別 入賞等級 せり価格 生体重 枝肉量 歩留% 肉     質 枝単価
さしの状 態 脂 肪 の 状 態
      千円      
6 1(1) 141 145 87.2 60.1 極上 白 柔軟 162
45 去勢牛 1(1) 115 149 86.4 58 稍黄色を呈す 133
20 2(1) 155 159 98.3 61.8    〃 158
31 2(7) 153 165 98.6 59.7 155
4 3(1) 131 162 90.5 55.2 稍黄色 柔軟 145
5 3(2) 134 164 99.9 60.9 黄色強し 緊りあり 134
21 3(14) 125 141 80.4 54.1 中下 稍黄 155
9 等外 110 143 82 57.3 白良 134

(別表3)昭和27年28年の平均差

  性  別 出品頭数 測 定 平 均 値 体重140貫に充たない(肥育
不充分)ものの頭数(全頭数の%)
体  高 体  重
昭和27年 44 126.2 142.9 21(50%)
去勢牛 3 133.8 146.3 1(33%)
昭和28年 40 128.7 145.4 12(30%)
去勢牛 13 135.4 146.2 5(38%)