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コマギレ農法だといわれる日本農業を果して農家1戸当り純収入65万円(年間平均)というデンマーク農法に切換えうるか?去る12月9日岡山県の招きで来岡したデンマーク人,エミール・フェンガー氏は,「日本の山間未墾地に酪農を中心とした畑作経営をとり入れればある程度の効果が上る」と力説している。しかし気候,風土が異り,その上デンマークのように一人当り平均15町歩というような高度の経営が吾が国に於てすぐ成立つとは限らない。土地面積に限度があるからである。それではコマギレのように分割された1町歩内外の田畑をあくせく耕している日本農民はどうすれば生活が楽になるのか。これに答えるべく同氏が去る十二月十日岡山市吉備高校講堂で話した講演内容及び県議会議事堂における研究座談会内容から以下一歩前進主義の営農改善法を紹介する。
デンマークにおいては国民全体の約1%以下が牛を持っていないのみであり,家畜の大部分は乳牛がしめている。
土地面積425万町,人口425万人で1町当1人の割合である。内耕地面積は325万町,乳牛頭数325万頭で耕地面積1町当乳牛1頭の割合に飼養されている。豚425万頭,馬40万頭,農民1人当平均15町歩を耕作し,小さい経営では2−3町歩で,経営規模が小さくなればなる程,家畜の飼養頭数は増加している。
フェンガー氏は現在は日本に来ているので,家,家畜農機具つきで小作させているが,以前経営していた内容は次のとおりである。
農地面積は35町歩,その内低地の一部は永久放牧地としている。畑地は個々に区分して,エンバク・クローバー・ビート・ルタバカ・アルファルファー・バレイショを作付し年間の飼料を自給する。
乳牛は35頭,豚50頭,馬4頭,鶏100羽が飼養家畜である。労力はフ氏,同夫人に常雇1人である。
現在は35町を小作に出しているが,1町歩当300sの大麦の価値で小作させている。昨年は大麦100s当60クローネ(1クローネは邦貨52円)で3,000円−3,100円位であったが,今年(28年)は40クローネ(邦貨約2,100円)であるので,今年は小作料は昨年より安いわけである。
フ氏は毎日35頭の乳牛の搾乳と豚を飼うことが仕事であり,夫人は鶏100羽の管理と家庭菜園1町歩を管理するほかは畑の作業を手伝わず,家事に専念しているが,卵の収入は全部夫人のヘソクリとなる。
フ氏の平均年間純収入は65万円以上をあげているが,その粗収入この額の約3倍である。デンマークにおいては経営不振の農家は35万円位が年間純収入である。
義務教育(7才から14才まで)を終った子供には雇人なみのサラリーを支払っている。デンマークでは増反するということが全然ない。規模を大きくする場合は最初から家つき,土地つきで売買し経営規模を調節している。
なおフ氏の家は別図のとおりであるが,これはデンマークの古い中流家庭の家屋の型式である。
(図)フェンガー氏宅見取図
次に農作業であるが35町歩の畑は3日間で種蒔を終り,年間除草することなく,除草薬で枯死させている。種子は10pから11pの間隔の条まきに変えた。夜8時−12時頃までにクローバーの種子を馬で収穫するが,3町歩収穫するのに一夜で終る。
放牧地は永久放牧地で電気牧柵によって乳牛を放牧している。朝1時間で20頭の搾乳を搾乳器で終る。朝夕各2時間で搾乳は終る。乳牛の放牧のみで飼育した場合1日20s(約1斗1升)の牛乳を搾乳できた。
豚50頭は朝,昼,夕,各5分で飼付する。冬の間(約200日)は殆んど乳牛は舎飼いである。そして冬の飼料はビート・ルタバカ・アルファルファーの乾草,大麦及びエンバクの麦桿等で,飼料の与え方はまず濃厚飼料を与え,次でビート,水,サイレージ・ワラの順序で飼付する。日本のごとく混ぜて与えることはしない。35頭の飼付に大体3時間を要すが夕方も同じく3時間を必要とする。
牛乳は酪農組合の車により運ばれ,脱脂乳を還元する。
年間平均した現金収入を得るには牛乳生産が最適である。役牛の役割も乳牛で間に合わせる。日本のような小さい経営面積では十分両立しうる。なによりも有利な点は日本の乳製品が国内需要をまかなうのにまだまだ供給不足の状態で伸びる余地があって,将来有利であると考える。デンマークでは牛乳の消費は国外に依存し,全輸出額の70%が農産物でそのうち3分の1がバターで占められるほど販路は海外市場に向けられているため頭打ち状態になっている。
酪農を盛んにするためには飼養と改良蕃殖に充分力をそそがなければならない。クローバー・エン麦・根菜類など充分なる量と質の粗飼料を作り,しぼった牛乳の集配をする協同組合制度の強化など解決すべきいろいろな問題が行手にたちふさがっているが,まず搾乳量の多い立派な乳牛を導入することが先決問題である。品種はホルスタインのほか搾乳量の多いものであればなんでも結構だが,とくに注意したい点は外ボウだけでなく乳の脂肪率の高いものを選び,また交配した父母牛の脂肪率を調べてみる必要がある。デンマークでは父母を調べて,むしろ子供を残すようにしている。
日本の米作は相当進んでいるが,畑作は将来相当改良の余地がまだ残されているのではないかと考えるが,家畜飼養問題については今後充分考えるべきで,酪農中心の畑地経営をうまくやってゆけば農家の収入は増える。それには畑の輪作をあみだす必要がある。同時に経営規模に合った農機具を入れて労力の節約を図ることが大切である。デンマークでは10万クローネ(約500万円)位の農機具を農家で持っているが,日本では決して大きなものを入れるべきではない。といって手労働的な農具を持っていてよいというのでもない。手労働的農具を解消する第一歩として草の生えないように深耕できるプラウ(犁),種まき兼用のカルチペーター(450クローネ,2万3,000円位),刃渡り90p位の大鎌(デンマークより入れると800円位,日本で作って1,000円位)をとり入れるべきだと考える。プラウやカルチペーターなどは共同利用組合といったサービス・ステーションをつくるのがよい。
種まき兼用のカルチペーターは馬1頭で反当15分位で種まきを終ることができる。これにより乳牛による役利用を行い,役畜として充分能力を出させることが出来ると考える。又大鎌を利用することにより1反当1時間で草を刈り取ることが出来る。
進んだ農法を身につけるためには新聞,農業雑誌などに常に目を通す習慣をつけなければならない。フェンガー氏が読む1年間の新聞代は邦貨に換算して2万6,000円だといっている。同氏のメモによるとデンマークで新聞を取っていない人の収入は8,000クローネ(1クローネは邦貨の52円)であるが,数種の新聞を読んでいる農民は1万6,800クローネとなっている。
この統計からみても教育の如何に必要であるかがわかる。
デンマークの青年は7−14才までの義務教育を終ったら,4,5,6年と個々の農家を歩いた後,国民高等学校,農学校に入るのが普通である。フェンガー氏の息子に例をとってみると,14才で義務教育を終り,1年毎に別々の農家へ4年間実地に学び,18才で6ヵ月間国民高等学校に学び,後イギリスの農学校へ9ヵ月学び,現在はアメリカの農家へ住み込んでいる。
デンマークにおいては教育(学問と実際)により,より多く学んだ農民の所得の方が大きく,これを婦人にとってみても同様で,1日1人平均180円の食費料が必要であるが,やりくりの下手な人は300円を要し,やりくりの上手な人は120円できりあげている。これを一生涯から計算すると大きな開きがある。
日本には未利用地が未だ相当残っているのに驚くが,これらヤブ・カン木等の未利用地も,まず最初に度々採草することにより4年位後に開墾すれば容易にクローバーも生えるようになる。
1951年夏,山形県の北部で1ヵ所1952年春,東北地方40ヵ所で,加里,燐酸を主体としてクローバーをまきつけて試験している。この内31ヵ所はすばらしい牧草地となったが,播種の適期が重要である。
1951年の収量は2万飼料単位(1s大麦の飼料的価値を1飼料単位)つまり約4倍量の生産があがった。1951年の1ヵ所は現在は開墾し,来年はバレイショ・デントコーンを半々に植えて見たい。
200万町歩の日本における未利用地の大部分は割合簡単に改良し,将来開墾できるのではないかと考える。酪農経営によってこれら未利用地は改良され,多くの家畜によって改善されなければならない。
家畜を飼養する場合,まず第一に考えるべきは管理の点である。飼養と改良は特に考えるべきである。改良蕃殖の大きな目的は親よりも子供を一歩一歩良くして行くことである。ということはまず一番よいものを優秀な種牡と交配することにより良いものが得られる。乳牛のよいものは第一に乳量の検定である。この点は外貌よりもまず考えるべきである。
日本における家畜の共進会は外貌1点ばりであるが,これは改良蕃殖上おかしなことである。又種牡牛が少い点もある。もち論種牡がどれだけの能力があるかは,母親を見,後代検定も必要であるが,これについては若干の年月を必要とする。今日家畜人口授精が盛んになって来たが,これは手段であって改良ではない。なんといってもまず第一によい種牡牛を求めることである。
デンマークに於ける種畜場の検定を説明しますと,まず14ヵ月位で種付を行い,その後4年間は蕃殖に使わずに前に産んだ母牛の脂肪率が高くなっていれば,そのまま牛を残し,降っておれば肉牛として淘汰する。又産れた仔牛は能力の判るまでは売らずに,親牛の能力の悪いものから売るようにしている。日本の種畜場においては若い種牡を淘汰している点がデンマークと異っている。
私は血統,祖先の能力を調べてから買うようにしている。1年−1年半位経過すると外貌がどの程度のびたか調べ,祖先の能力を見る必要がある。
酪農農民が第一になさねばならないことは必要な量と質をもった牛の飼料を生産することである。これらのために飼料価値について尺度を一定しておいた方がよいと思う。
スカンジナビアの飼料単位(F・U)について第1表に最も主要な飼料の飼料単位当り重量及び蛋白量を掲げる。
(第一表)スカンジナビア飼料単位
飼 料 名 | 飼料単位 当り重量(kg) |
飼料単位 当り蛋白量(g) |
大麦 | 1.00 | 63 |
燕麦 | 1.20 | 83 |
大豆 | 0.75 | 230 |
ふすま | 1.25 | 141 |
米ぬか | 1.00 | 60 |
全乳 | 3.00 | 93 |
脱脂乳 | 6.00 | 192 |
大豆油粕 | 0.80 | 310 |
菜種油粕 | 1.10 | 300 |
乾 草(開花前刈取り) | 2.20 | 120 |
大麦稈 | 4.00 | 16 |
ビート(乾物量11.8%のもの) | 9.50 | 38 |
か ぶ( 〃 8.9%のもの) | 12.50 | 49 |
馬鈴薯( 〃 24.0%のもの) | 4.25 | 37 |
甘藷 | 3.00 | 15 |
青刈ライ麦 | 6.00 | 108 |
青刈玉蜀黍 | 8.00 | 39 |
青刈玉蜀黍サイレージ | 6.50 | 38 |
クローバ・禾本科草(若いもの) | 5.50 | 142 |
〃 (開 花 期) | 5.50 | 89 |
レッド・クローバー(若いもの) | 8.00 | 137 |
〃 (開花最盛期) | 6.00 | 90 |
アルファルファ(開花期) | 8.50 | 166 |
オーチャードグラス(若いもの) | 7.00 | 142 |
〃 (開 花 期) | 9.00 | 126 |
デンマークの飼養法によると,維持飼料は次の様に計算される。即ち
体重/200+1.5=維持飼料単位 つまり
体重500s(130貫)の牝牛に対しては4飼料単位となり,更に体重100sの増減について0.5飼料単位を増減する。
蛋白必要量の計算は次のとおりである。
体重/2=可消化純蛋白量(g)つまり
体重500sに対しては可消化純蛋白量250gとなる。
4%の牛乳1sは54gの蛋白を含むが,その生産のためには牛にこれよりも若干多くやらねばならない。何故ならば一部分は体内で失われるからである。
牛乳生産に必要な蛋白量を決めるためにコペンハーゲンの農業研究所は1922年から1925年にかけて240頭の牝牛を用いて試験を行った。これらの試験の結果は第2表のとおりである。
(第2表)
牛 群 | 4%牛乳1s当り 給与可消化純蛋白量 (g) |
試験期間中の乳量減 (4%牛乳換算) (%) |
A | 51.6 | 26 |
B | 60 | 21 |
C | 75.1 | 25 |
牛乳1s当り蛋白60gの場合が産乳量の減少が最も少なかった。それより多くても少くても,減量は却って大になった。従って現在勧められている標準は60gである。
牛乳生産に必要な飼料単位は別の240頭の牝牛を用いて1922年から1926年にかけて研究された。その結果,乳脂率4%の牛乳1sの生産に対し,0.4飼料単位の給与がよろしい。それより少いと体重が減少し,逆に多い場合には体重が増加する。であるから乳量に必要なだけの資料を与え,それ以上の飼料を家畜に与えないようにする。
以上のほか,胎児の発育に若干の飼料が必要である。
以上述べたような飼料試験の結果,次のような飼料標準が勧められる。
即ち体重500sに対して維持飼料として可消化純蛋白300gを有する5飼料単位と,生産飼料として4%牛乳1s当り可消化純蛋白60gを含有する0.4飼料単位を与えればよい。
分娩後2−3日は,病気でないということがはっきりわかる迄は注意して飼養を行わなければならない。その後1乃至2週間は飼料の量を徐々にふやし,それを過ぎたら普通の飼養標準による。
(第3表)
乳脂率4%の 牛乳泌乳量(kg) |
飼料単位 | 蛋 白 量 (g) |
0s | 6 | 450 |
5 | 7 | 600 |
10(5升) | 8 | 850 |
15 | 10 | 1,150 |
20 | 12 | 1,450 |
25 | 14 | 1,750 |
30 | 16 | 2,050 |
第3表においては,乾乳中の牝牛に対する標準よりは若干ふやしてある。それは,分娩時迄に充分栄養をつけるためである。
10sの牛乳には250+500=750gの蛋白質が含まれていなければならない。
冬における1日1頭当の飼料給与の一例を示せば次のとおりである。
飼 料 名 | 給 与 量 (kg) |
飼 料 単 位 | 蛋 白 質 量 (g) |
ビート | 28 | 4 | 152 |
エンシレージ | 14 | 2 | 250 |
乾草 | 5 | 2 | 250 |
ワラ | 5 | 1 | 40 |
計 | 52 | 9 | 692 |
◎デンマークにおける325万頭の牛の内訳は次のとおりである。
デンマーク赤牛 70%
デンマーク黒白牛 20
ショートホーン 5
ジャージ 5
◎輸出状況
輸出の70%が農産物でしめている。
その内訳は3分1がバター,3分1がベーコン,3分1が農産物である。バターは国内全製品の80%を輸出している。輸入は油粕類10%以下である。
◎1人当年間畜産製品消費量
バター 8s
ベーコン 35s
◎改良組合は種類別に80年位の歴史をもっているが,これは原則としては分れている。又登録協会は種類別に分れ,黒白牛の乳脂率は4%が標準である。10月1日から翌年の9月30日までが酪農歴になっており,乳量は3,000sである。
デンマークから英国向バターは1ポンド150円である。1sのバターを作るにデンマークでは21s,日本では29sの牛乳を必要としている。
◎デンマークの雨量は650−670ミリ−であるが日本ではこの3−4倍である。この点からも日本は飼料作物を生産するのに適しており,アルファルファーが改良用に一番よいと思う。又6反の耕作地があれば,内3反を飼料圃とすれば乳牛2頭を飼育することができると考える。
デンマークの冬は6−7時間が昼で,夏は午後11時から午前3時までが夜である。夏の平均気温は摂氏18度,冬は零度から零下1度である。最低気温は零下13度である。