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自給飼料生産に成果

久宗立体農業研究所

 姫新線坪井駅から徒歩で西へ約30分(又は津山から勝山行バス,岩屋停留所下車,所要時間45分)岩屋バス停留所の直ぐ北側に久宗立体農業研究所がある。ここの所長,久宗壮氏は立体農業の研究に20年間の経験を積まれた,山岳地の資源化により,有畜農業を合理的に経営されている篤学者である。
 久宗氏の理想は如何にして家畜の全飼料を自給化する力であり,全家畜の飼料を只にすることを理想として日夜研究されている。
 以下去る11月17日,同研究所を巡り,つぶさに見た現況をお知らせする。

経営の大要

一.水田   3反4畝,裏作には小麦とレンゲ
二.畑    2反6畝
 計     6反
三.家畜
   乳牛  2頭
   豚   2頭
   めん羊 4頭
   山羊  1頭
   鶏   165羽
   このほかアンゴラ兎4,蜜蜂4群,鯉,ドジョウ池,ウナギ池等あり。
四.宅地利用
 約300坪の宅地に菓子クルミ・ペカン・カキ・クリ・ヒックス・マルベリー・ポポー・ブドウ・イチヂク・ビワ・アケビ・ザクロ・ビックリグミなどの果樹類庭園樹下にはシイタケ・ヒラタケ榾木・バタリー鶏舎2棟がある。


(写真)めん羊の放牧

五.山林利用
 約5町歩(大部分は松・雑木・ヒノキ・スギの植林地)
 クリ園   7反
六.施設
 サイロ   3基(直径5尺,深さ10尺)
 肥溜    2基(10石入)
 灰焼場   1棟
 堆肥舎   1棟
七.家族(実動人員のみ)
 経営主   45才 換算能力 1人
 妻     45才 〃    0.3人
 母     76才 〃    0.3人
 研究生   二人 〃    2人
 計             3.6人
八.収入の比率
 家畜類       60%
 シイタケ・ヒラタケ 20%
 種苗・種菌     10%
 果樹類その他    10%
九.経営の実践目標
 毎日楽をして,美味しいものを食べる。都会では見ることのできない豊かな生活をして,町の娘があこがれて来るような,物と心の豊かな農村生活をやりたい。これが久宗氏多年の夢である。

1羽飼い副業養鶏
=産卵は60%以上=

 庭を利用して鶏が飼われている。種類はロック・白レグ・ロックホーンで165羽,なかでもロックホーンが大半以上をしめている。2坪の5羽入りバタリー鶏舎で80羽を,3坪半の1羽バタリーで126羽収容できる鶏舎が完成し,本格的に鶏ととり組んでいる。飼料は大半自給飼料で,目下成鶏には毎月50羽分の飼料として次のとおり与えている。

 甘藷づる又はレンゲ 2貫匁
 甘藷        1貫500匁
 小麦        8合
 籾殻        2升
 生魚屑       650匁
 麦糠      2−3升

 麦糠以外のものは煮沸した後,麦糠を加えて撹拌,1日3回に分けて与える。
 このほか腐植土・小砂・カキガラ・食塩少量を与える。これだけの飼料で目下の平均は6−7割の産卵を突破していると言う。産卵を開始してから1羽飼いの鶏舎に移す。そして夕方の点燈により3月−4月の間に換羽させる。


1羽バタリー飼育鶏舎

鶏舎の設計

 鶏舎の建て方は南北に巾1間,長さ5間(5坪)のものを1棟として建て,柱は2寸5分角の1丈ものを用い,地上7尺,地下3尺に埋めこみ,地下に入る部分へはコールタールをぬる。両側の柱に沿うて巾1尺5寸,高さ6尺のバタリー鶏舎をつくり,3段に仕切り,箕の子や糞受板をつけることは普通のバタリーと同様である。箕の子を25度傾斜させ卵がころがりやすくする。箕の子は割竹では糞が完全に下に落ちないため,卵が汚れやすいので丸竹を用いる。丸竹と丸竹との間隔は8分とする。こうすると絶対に卵はよごれない。
 仕切は1尺,高さ1尺5寸5分,巾1尺,奥行1尺5寸のところに1羽入る。成鶏は廻転するのに如何にも窮屈そうだが,これで結構である。収容羽数は1間×5間の5坪で3段により両側で180羽収容できる。
 餌箱は中央通路へ中仕切りのない長いままのものを作る。中仕切りをすると隅のところで餌をかき出すが仕切をつけないとかき出さない。餌を与えるにも簡単である。
 給水は裏側にブリキ又は割竹のトイをつくり5間の長さにとおし,一端で注水できるようにする。防風雨よけ板は冬の防寒用の役割はせず,防寒設備は鶏の寝るところから5尺位間をおいて蔽いをする。
 糞受板は巾3尺,奥行1尺7寸位として3羽分の糞を一度にとれるようにする。

家畜の飼料は
=サイロ3基で=

 乳牛は2頭飼育されており,1頭は6月に子を産む予定である。豚2頭,山羊種雄1頭,めん羊4頭,これらの家畜はサイロ3基から生産されるエンシレージ・甘藷等で飼われ,5尺×10尺型,3基にはレンゲ3反,野草(シバ草),及び甘藷蔓1反分がつめこまれている。これだけのエンシレージで11月末から4月一杯の飼料は自給できる。めん羊は4年連続2仔を生産し,粗食と運動によるたまものだという。
 竹林を利用して1万5,000貫の原木にシイタケが植えられ,一朝に50貫を収穫するという。
 これらシイタケやヒラタケの榾木が腐埴土となるが,これは鶏にとって貴重な飼料となる。この中には抗生物質が相当含まれていると氏は言われている。
 果樹園の下にはオーチャード・ラジノクローバーがまかれ,又点々とマルベリー(西洋桑)が植えられている。このマルベリーは家畜の飼料として飼料木中一番収穫がよいそうである。
 山林は栗(支那栗が一番よい)の生産にあてられ,下草は家畜の敷草となる。最近山を3反開墾し,甘藷400貫を収穫,傾斜は30度−50度である。
 甘藷1,500貫,裏作麦により乳牛,鶏の飼料を自給することができる。
 栗は自生の台木に24年に接木したもの7反余りあるが,10年目位には1反50貫生産されるとして1万円(1貫200円)の収入になる。豚・めん羊・山羊は飼料を自給することにより年収10万円をあげることが出来る。
 稲は今年は出来は悪かったが,反収八俵以上は確実,裏作としてはエンバク・ナタネ・ヒラキ小麦を作る。移植麦としては万協1号(小麦)が反収10俵位できる。又苗代利用として大阪白菜を作ると1個が3貫位になり2月末から4月にかけて利用することができる。
 将来久宗氏は鶏を300羽,乳牛を3頭にし,飼料の自給を図り,豚・鶏肉の加工により食生活の改善を図る,自給自足を目的に日夜実践されている。
 最後に久宗氏の言葉を伝えこの稿を終る。“私は耕地6反と言う小農である。しかし,山野をも含めた立体農業の経営をしているので,種々妙味のある生活を営んでいる。しかもそれは,篤農技術によらない,誰れでも真似のできる手段である。ただ傾斜地,室閑地,山林に恵まれた山村特有なものだけである。立体農業を実践することにより,地力が増進し自給肥料中心で米と麦が,この作州の奥地でも反収平均10俵以上と言う夢想だにしなかった収穫が与えられるようになった。”


久宗氏と乳牛