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巻頭言

作州の酪農振興について

惣津律士

 農林省が昭和29年度海外輸入のジャージー種に依る集約酪農地域の内,1ヵ所を岡山県津山西北地帯に指定される事になった事は既に新聞紙上で各位御承知の通りであり,躍進途上にある本県酪農界に取って何よりの力強い推進力である事は県民挙げて認むる所であって,昨今の話題は上に集中している観がある。
 全国各地からの猛烈なる要求にも拘わらず,畜産局が断固として早期に賢明なる裁決をせられた事に対しては県は万腔の敬意と感謝を捧げるものであって,之が実現に対して,知事を中核として県議会,関係市町村,団体が超党派的に努力した丈けに,その喜びはけだし想像外に大きいものを感ずるのである。
 由来作州は酪農と山林と地下資源の開発に依ってその将来性を期待し得る地帯であり,就中酪農は各種立地条件よりして極めて有望視される関係上,本県に於てはこれを契機として,作州地帯に昭和29年度を基調とした酪農振興5ヵ年計画を樹立し,本地帯をジャージー地区とホルスタイン地区の2つに分けて,5ヵ年後に前区に1,800頭,後区に4,500頭の乳牛を増殖普及せしめ,日量180石の産乳を期待する事となった。
 ジャージー種に依る集約酪農地域には昭和29年度及び30年度を通じ合計600頭が導入されるが,その導入町村及び部落は本省係官の現地調査を待たなければ決定されない。けだしジャージー地区は現在まで乳牛飼育に未経験である為め,相当の受入体制と確固たる決意を以って出発しなければ,折角の本省の好意に反し,本県はもとより日本酪農史上に一代汚点を印する結果となる懸念なしと言えない。従って本地区の農家はジャージー種飼育家としてのプライドを持ち,本種の特性を充分に把握し,前号で私が特に強調した酪農道に徹し,健全なる酪農経営の樹立に献身すべき責任を有するものである。
 単なる乳牛頭数の増加は酪農振興の尺度にはならない。そして乳牛飼育が農家の副業であってはならない。健全なる精神の酪農家と,優秀なる乳牛と愛すべき土地の三者が一体となって輝かしい酪農が生れるのである。
 今こそ作州の酪農家及び酪農家たらんとする人々は真剣に研鑚し奮起して戴き度いものである。